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子どものような恋

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子どものような恋












 「あれ、姫条君?」


 目の前で驚く小波美奈子に、姫条はむすっとした表情で言った。


「美奈子、これから暇か?」


 ここは大学の校門前。

 姫条は彼女である美奈子を連絡せずに迎えにきていたのだが、美奈子と一緒に出てきた人物の顔を見て機嫌を損ねていた。


「え、うん。大丈夫だよ」

「美奈子……それじゃ、また明日な」

「あ、うんまたね! 珪君!」


 美奈子の横をすり抜けて、葉月珪が姫条を一瞥して去って行った。

 姫条はまだムカつきながら、美奈子にヘルメットを投げて寄越した。


「乗りや」

「うん!」


 笑顔で答える美奈子は、姫条のバイクの後ろにまたがった。

 それを確認して姫条もバイクに乗る。


「どこ行くの?」

「……俺の家」

「お腹空いてるの?」

「何でや?」

「いや、なんか機嫌悪そう?」


 姫条の機嫌が悪いのに気付いたらしい美奈子だが、原因は空腹と思っているようだ。


 俺はどんだけお子様やねん。


 と、心の中で突っ込むが、先ほどから葉月と一緒に歩いていた美奈子に嫉妬しているのだから、空腹で機嫌が悪いのと大差ない。


「ほな行くで。しっかり掴まっときや」

「はあい」


 今口を開くと余計なことを言いそうなので、姫条は美奈子が自分の腰を掴んだのを確認するとアクセルを回した。














 自宅に着いてから、姫条は無言でコーヒーを入れていた。

 不機嫌の原因は葉月だけではない。


「ねえ姫条君。今日晩ご飯、何か作ろうか?」


 これだ。

 この、姫条君という美奈子の呼ぶ呼び方にもムカついているのだ。

 高校の卒業式の日に姫条から告白してOKをもらい、付き合いはじめて2年。

 順調な交際を続けていたが、未だに美奈子は姫条の事を名前で呼んでくれない。


 葉月の事は珪って呼ぶのに、何でやねん……


 そこで姫条は気付いた。

 やっぱり葉月が原因だ。

 子どもみたいと言われるかもしれないが、それだけ姫条は美奈子に惚れている。

 男の嫉妬は醜いなどというが、関係ない。

 腹が立つものは仕方ないのだ。


「……なあ、美奈子ーーー」

「ん? なあに?」


 可愛らしく首を傾げる美奈子に、姫条は入りたてのコーヒーをカップに注いで手渡しながら尋ねた。


「お前、葉月の事好きなんちゃうんか?」

「ーーーは? え? 珪君? どうして?」


 言った後に少し後悔したが、もう後には引けない。

 きょとんと姫条を見上げる美奈子に、姫条はまたぎりぎりと胸がかきむしられる。

 美奈子の口から珪という単語が出る度、どんどんと深みにはまって行く。


「今日も一緒に帰っとったし、なんか仲良さそうやんか。高校の時もなにかと一緒におったみたいやし」


 ほかの聞き方があるはずなのに、どうしても刺のある言葉になってしまう。

 美奈子は訳が分からないといった顔で、じっと姫条を見つめていた。


「あいつのこと、もし好きなんやったら、無理して俺と付き合ってくれんでもええんやで?」

「……どうしてそんなこと言うの?」


 姫条は我に返った。

 美奈子の声が微かに震えている。


「あ、いやっ、ちゃう……」

「もしかして、誰か好きな人でも出来たの?」

「ーーーはあっ?」


 姫条は驚いた。

 美奈子の言った言葉に目が丸くなる。


「そんな遠回しな言い方しなくてもいいのに……そっか。だから今日なんか機嫌悪かったんだね」


 そう言って美奈子はコーヒーをテーブルに置くと立ち上がった。


「ごめんね。私そういうの鈍いから全然気付かなくって……」

「お、お前何言うてんねん!」


 慌てて美奈子の腕を掴む。


「他に好きな人が出来たから、別れて欲しいって事でしょ?」

「アホっ! んな訳あるか! ちゃう、俺が言いたいのは……ああ~~~~! もうっ!」


 がばっ! と美奈子を抱きしめると、姫条は何度もごめんと謝った。


「ちゃうねん! そうやないねん……俺、葉月と仲良うしとる美奈子見て嫉妬しててん……あいつの事は珪君って呼ぶのに、俺のことはいつまでたっても姫条君やしーーーせやからホンマは俺じゃなくて葉月の事が好きなんちゃうかって……」


 もやもやを吐き出した姫条は、少しだけスッキリした。

 なんという自己満足。

 そんな姫条の気持ちが伝わったのか、美奈子がぎゅっと姫条の背中に腕を回す。


「ーーー姫条君の、馬鹿……」


 小柄な美奈子の体は姫条の腕の中にすっぽりと収まる。

 女の子特有の柔らかな感触が、姫条の心を落ち着かせて行く。

 ああ、こんなにも美奈子は自分の近くにいるというのに、何を一人で勝手に落ち込んで美奈子にまで八つ当たりをして……

 大人になりきれない自分が情けなくなる。


「まどかって呼んで?」


 美奈子の髪にキスを落としながら言った。

 それに静かに美奈子は答える。


「……まどか」

「もう一回」

「まどか」

「うん」

「まどか…………の、ばかっ!!」


 ドンッ!


「わあっ!?」



 姫条は突然突き飛ばされ、反動でソファーに倒れた。

 驚いた顔のまま見上げると、美奈子が怒った顔で睨んでいる。


「す、すまんっ! 悪気はなかったんや! ただちょっとばっかり素直になれんかっただけやねん!」

「違うもんっ!」

「……は?」


 泣きそうな顔で怒る美奈子に、姫条は体を起こしてじっと足下を睨みつづける美奈子の手を遠慮がちに引いた。

 美奈子は引かれるまま姫条の隣りに座る。

 向かい合うように座ると、美奈子が姫条から視線を逸らしたまま言った。


「高校の時の事、覚えてないの?」

「高校の時? どういうことや?」

「ーーー前に私がなっちんの真似してまどか君って呼んだら、すっごい嫌そうな顔して『その呼び方勘弁して~な』って言ったじゃない」

「……あ」


 姫条は背筋が凍った。

 確か、まだ美奈子と仲良くなりはじめた頃、奈津実に「まどか」と呼ばれていたのを美奈子が聞いて、まどかと呼んだことがあった。

 まどかという名前が嫌いで人に名前で呼ばれるのを嫌がっていた姫条は、美奈子にやめてくれと言ったのだ。

 固まって何も言わない姫条に、美奈子はふうとため息を吐いた。


「だからずっとまどかって呼ぶの我慢して姫条君って呼んでたのに、それを珪君の事を持ち出して変なこと言い出すなんて信じられない……私、本当に別れようって遠回しに言われてるのかと思っ……」


 そこで美奈子はとうとう涙を零した。


「うわっ、泣かんといてや! 俺が悪かった。今回ばかりはほんまに全面的に俺が悪いっ! あ~もう、俺のアホっ!」


 急いで近くにあったティッシュを数枚引き抜いて美奈子に渡す。

 美奈子はそれを引ったくるように取ると、ちーんと鼻をかんだ。


「ぐすっーーー私が、まどか以外の男の人を好きになる訳ないじゃない……」


 姫条は一瞬言葉を失った。

 なんてストレートな言葉だろう。

 嫉妬して空回りしていた自分があまりにもちっぽけで、子どもで、くだらなく見える。

 こんなに美奈子の事が好きなのだと、改めて気付かされる。


「すまん……せやけど、その言葉。そっくりそのままお前に返すで?」

「まどか……」

「それから、関西人に馬鹿は禁物や。アホって言わな」

「ーーーまどかのアホ」


 まだ涙の止まらない美奈子の体を優しく抱きしめ、姫条は心に誓った。


 もう、二度と回りくどいことはしない。

 ずっと、大切にすると。





                          END





=あとがき=

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
なんだろう……なんか自分で書いててイラッとしました。
なんでだろう?(二度言う。笑)
というか、もしかして私ってば姫条のSSは初書きじゃない?すげー。
何年前からときメモやってるんだよ。ってぇ話しですよ。それに姫条好きなのに。

お題は「子どものような恋」で突発的に書いたんですが、嫉妬の仕方を子どもっぽくしてみたつもりです。
うん、あくまでつもり。。
そして関西弁はしつこいようですが偽物…以下略♪
管理人、ときメモやる時相手の名前呼ぶのあんまり変えないんですよね。
面倒というか、忘れるんでw
だから、姫条の事も「まどか」って呼んだことなかったんで、今回書けて少し満足です。
しかしまどかって名前素敵ですよね〜。もし子どもがいたら「まどか」とか「かおる」って名前付けたいっすw
それでは、また~



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