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An angel〜.3

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An angel's drop








 天地は何と言うか女の子慣れしている気がした。

 道を歩く時はさり気なく道路側に立ち、店に入る時はドアを開けて晶を先に入れてくれたし、カフェでメニューを決められずにいる晶に苛立つ事も無く、これが美味しかったとかこれはどうだったとか詳しく教えてくれた。

 他の男の人とデートをした事がないから比べようがないが、おそらく天地は満点に近いエスコートをしているのだと思われる。

 何だか不思議な感覚を心に持ちながら、それでも一緒にいて妙に緊張したり、帰りたくなったりすることはなかった。

 何やら観たい映画があると言われ、晶は着いて行った。

 映画館に来たのはいつ以来だろうか。

 家とは違って久しぶりの大スクリーンと大音響の迫力に、柄にも無く胸が躍った。

 内容はヒューマン映画で、不慮の事故で視力を失った少女と、病気で声を失った老人の出会いと別れを描いた感動物語だった。

 晶は滅多に映画やドラマを見て泣く事はないのだが、スタッフロールが終わっても涙が止まらなかった。


 ?


 すっと横からハンカチが差し出され、晶は驚いた。


「あ…すみません…」


 天地が潤んだ瞳で苦笑いをしている。

 すっかり天地の存在を忘れていた晶は、恥ずかしくなって頭を下げ、受け取ったハンカチで涙を拭った。


「ありがとうございます」


 しばらくして涙が収まると天地が立ち上がり、それに釣られて晶も立ち上がった。

 会場を出たエントランスのソファに天地に促されるまま座る。

 本当に落ち着くまで待ってくれてるようだ。

 そんな天地の何気ない小さな気配りに嬉しさを感じた。


「ハンカチ、ちょっと貸して?」

「え、でも」

「いいから」


 晶は言われるままにハンカチを返すと天地は晶の目の前に座った。


「あの、天地先輩??」

「ジッとして。全く晶ちゃんはしょーがないなぁ」


 握っていたハンカチを晶の目の方に押しやる。

 天地から次第に笑顔がこぼれ、優しく微笑みながら晶の涙を拭ってくれた。


「こんなに可愛くメイクして来てくれたんだから優しく拭き取らないと。そんなにゴシゴシきつく擦ったら全部取れちゃうよ。ホント晶ちゃんって僕の知ってる人に似てるよ」


 天地がとても穏やかな表情をしながら話すので、晶は天地にその知っている人が誰なのか、聞き返せなかった。

 天地にはどうやら大切な思い出があるらしい。

 晶は何故か、少しだけ複雑な気持ちになった。

 自分とその人を重ねられているのではないかと考える。

 だけど、晶はどうしてこんなに複雑な気持ちになるのか、よく分からなかった。


「ありがとうございます。もう、大丈夫ですから。ハンカチ洗ってからお返ししますね」


 晶がそう言うと、天地は何かに気が付いたように立ち上がった。


「いいよ、そんなの。でも映画、意外に面白かったね」


 ハンカチは晶の手に渡る事なく、天地のポケットに収まった。


「あ……」


 ふいをつかれた晶はハンカチを諦めた。

 天地の動きは見事の一言だ。


「見たいと思ってたんだけど、なかなか来られなくってね」

「はい、とっても良かったです。映画館に来たの久しぶりだったし、ストーリーもすごく感動的でした」

「そうだねー。僕も感動した。来て正解だったよ」


 にっこりと微笑む天地に、晶も嬉しくなった。

 誰かと同じモノを共有し共感するという事。

 こんな事が出来るのは人間だけだと本で読んだ事を思い出す。

 花を見て美しいと思い、苦しんでいる人を見ると同情心が湧く。

 これは神様の特質を反映して造られた人間独特の愛という感情。

 愛ーーー

 晶はどきりと胸が高鳴った。

 それが何に対してかは分からなかったが、すごく大事な事のように思えた。


「晶ちゃん、時間まだ大丈夫?」


 また一人で物思いにふけっていた晶は、天地の問いに反射的に答えた。


「あ、はい」

「じゃあさ、ちょっと買いたいものがあるからつき合ってくれない?」

「いいですよ」


 そうして二人は映画館を後にした。







 +++++++++






 天地に連れられてやって来たのは、はばたき市でも有名なケーキショップ「アナスタシア」だった。

 晶は今朝作って来たガトーショコラを一瞬見やり、どう切り出そうかと悩んでいた。


 どうしよう……あ、これなんてどうかな。私、ガトーショコラ作って来たんで、買わなくてもいいですよ。って言うとか……

 そんな風に言えば、まるで晶自身が作ったケーキの方がアナスタシアのケーキに勝るみたいに聞こえる。

 それとも……ケーキ屋さんに来るなら早く言って下さいよ、私作って来たのが無駄になるじゃないですか。って言うとか……

 そんな風に言えばまるでひねくれてるようにも感じ取られる。

 それともこんなのは? 自分で食べるんですか? それならお店の程美味しくないけど作ったんで食べて下さい。って言うのはどうだろう……

 こんな言葉なら差し支えなくていいだろうかと思う。

 あーでもないこーでもないとぐるぐる考えを巡らせていると、天地が女性店員と話す声が聞こえて来た。


「天地やないか、早速買いに来たな!」

「はい、こっちに出掛けるって言ったら何があっても絶対ゲットしてこいって言われて」

「あんたも食べたかったんやないの~?」

「もちろんですよ」


 関西弁で話す女の子と天地が親しげに話している。


「なあなあ、後ろの子、天地の彼女?」


 急に女の子に晶の話題を上げられ、晶は急に恥ずかしくなり背を背けてしまった。


「へへ、そう見えます?」

「なんや、ちゃうの? てっきり彼女やと思ったわ。あんたが女の子をこないなプライベートで連れてくるやなんて初めてやないの」

「もう、やめて下さいよー」


 後ろの子、彼女? という会話以降が良く聞こえなかったのだが、天地は晶の事を彼女と肯定も否定もしなかったようだ。

 そして素早く注文を済ませると、晶の方を振り返って笑いかけた。

 どんな顔をすればいいか分からず、晶は複雑そうな顔で天地を見た。


「お待たせ」

「いいえ」


 一体どんなケーキを買ったのだろうかとふと天地の手元を伺うと、


「今日アナスタシアの新作ケーキ発売日だったんだ。なんと皆が噂してたあの限定商品『たそがれモンブラン』なんだ。僕も姉ちゃん達もケーキ大好きでさ。お土産に買ったんだ」


 晶の視線に気付いたのか、天地がそう言って教えてくれた。


「そうなんですか」

「天地くーーん!!」


 どこからともなく聞こえて来た天地を呼ぶ声に、天地は顔を上げ周りを見回した。

 晶も同じように周りを見回す。

 すると二人の前方から女の子が4人、こちらに向かって手を振っているのが見えた。

 どんどんと笑顔で近づいて来る。


「やあ、皆で買い物?」


 天地は爽やかな笑顔で4人を迎えた。

 晶はその様子に違和感を覚えた。

 なぜだか晶と話している時とは全く表情や態度が違うのだ。


 まさか先輩、猫……かぶってる?


「天地君はなになに? もしかしてデート?」

「うっそマジ? 今度あたし達ともデートしてよ!」

「うん、もちろんいいよ」

「そう言えばさぁ、今年卒業した1コ上の先輩、あの人とは遊びに行ってないの? その先輩と天地くん、結構仲良かったよね」

「先輩は大学で忙しいみたいだし、今は全然会ってないよ」

「でもーあの先輩チョ~可愛かったよね~。生徒会執行部で頭も良かったし」

「文化祭でもミスコンで3年連続優勝したって聞いたよ?」


 会話に置いてきぼりにされている晶は、4人の天地の同級生と思われる女の子と天地を少し離れた場所から眺めていた。

 話し声をどこか遠くに聞きながら、晶はその一つ上の先輩というのが天地の好きな人なのだろうと思った。

 理由はよく分からないが、確信に近いものがあった。


「じゃあまた明日学校でねー!」


 5分程立ち話をして、4人は近くの店へと消えて行った。


「待たせてごめんね」

「いいえ……あの、私そろそろ失礼します」

「え? もう帰るの?」


 何となくだがこれ以上は天地と一緒にいたくはなかった。

 さっきまではただ複雑な気持ちだけだったが、今は胸の奥底が、チリチリと痛むようなそんな感じがする。


「今日は楽しかったです、ありがとうございました……あとこれ」


 ずっと渡すタイミングを逃していたガトーショコラの紙袋を天地に素早く渡し、ぺこりと頭を下げると天地の前から走るように逃げ去った。


「晶ちゃん! ちょっと待って!」


 天地のその声は空しくその場に響き渡っていた。








                   続く…





いやあ、優しく涙を拭いてくれる男。どうですか?(笑)
ティッシュ渡されるくらいならあるけど、ハンカチで拭いてもらったことなんてないぞー!
天地可愛い☆
ホント、えりさんが書かれると途端に男女が可愛くなります!


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