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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

ただ一言

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 ただ一言







 付き合い始めて3年。汐屋雪緒の彼、志波勝己は有名大学の野球部で、プロのスカウトからも一目置かれる大学生ナンバーワンスラッガーだ。

 雪緒は高校時代にバイトをしていた花屋に高校卒業と同時に就職した。

 お互い忙しく、恋人同士だというのに会えるのは月に一度くらい。

 寂しくないと言えば嘘になるが、そんなことを言って志波を困らせたくはなかった。

 自分さえ我慢すれば……そう思い、雪緒はいつも志波と別れる時は笑顔で手を振っていた。


「なんか元気ないやんか?」


 そう雪緒に言ったのは高校の時からの友人、西本はるひ。

 お互い卒業後は就職し、仕事帰りに食事に行ったりはるひの彼氏でもある針谷のライブを観に行ったりしている。

 今日も仕事が終わって一緒に食事をとっていた。

 先ほどから目の前の料理が一向に減らない雪緒を心配したはるひが、どうしたと首を傾げている。


「あ……ごめん、大丈夫」


 苦笑いをする雪緒に、はるひはため息を吐いた。


「あんたなあ。何でそんないっつも無理するん?」

「無理なんてしてないよ」

「嘘つきなや! うちには分かるんやで~。せやなあ。あんたは今、志波に会いたいって思っとった! せやろ?」


 持っていたフォークをくるくると回してビシッと雪緒に突きつけると、はるひは勢い良く皿の上の鶏肉を刺した。


「……はるひすごい」


 はるひには簡単に分かるんだなあと感心していると、パクリと肉をほおばったはるひが顔をしかめて怒る。


「ふぁいふぁいなあ。ほ~んあにかーいー彼女をふぉったらかひにするひゃあんて、おとおのかじゃかみにもおけん!」

「ーーーはるひ、何て言ってるか分かんないよ……」


 ゴクリと飲み込み、もう一度力を込めて言う。


「大体なあ、こ~んなに可愛い彼女をほったらかしにするなんて、男の風上にもおけん!」

「そんなこと……志波君も忙しいんだし、我が儘言えないもん」

「雪緒は我慢しすぎやねん! 会いたい時に会いたい~言うののどこが我が儘やの? うちなんて毎日メールで会いたいって言うてんで?」


 そのおかげで針谷から「あいつうぜー。毎日メールで会いたい会いたいって言うんだぜ? 俺だって忙しいっつーの! は~、マジでしつけーあいつ……別れようかな~なあ、雪緒どう思う?」と相談されただなんて口が裂けても言えない。

 困ったように笑っていると、雪緒の携帯にメールが届いた。


「あ、メールだ」


 見るとメールは志波からで、明後日試合があるから暇なら観に来いという内容だった。


「志波やんなんて?」


 次々料理を平らげながらはるひが尋ねた。


「うん、明後日試合があるから、暇だったらおいでって」

「明後日……あ~! うち仕事やんか~! 雪緒は?」

「お休み」

「良かったな! 久しぶりにゆっくり会えるんやない?」


 自分の事のように嬉しそうに言ってくれるはるひに、雪緒もつられて笑顔になる。


「うん、そうだね。もし時間があったらゆっくり会えるかも」

「大丈夫や! このはるひさんが志波にメールしといたるからな!」

「えっ? いや、大丈夫だよ……」


 針谷にしつこいと言わしめたメールを想像し、雪緒は冷や汗をかいた。













 広い球場に、観客は思ったより多く入っていた。

 大学野球を観に来る客はOBか家族かよほどの通以外にはあまりいない。あとは応援団くらいだ。

 それなのに今日は結構な人数が客席にいる。


 志波君、どこかな……


 雪緒は一塁側の内野席の前の方に席を取って、出てきた選手の中に志波の姿を探した。


「あ……」


 大きな背中が現れ、肩を回しながらグランドへと入って行く。


 志波君だーーー


 同じ外野の選手とキャッチボールをしながら小走りに守備位置に着く志波。

 どんどん相手との距離は遠くなり、それでも軽々と相手のグローブ目がけてボールを投げる。

 いつかプロ野球の試合を一緒に観に行った時に志波が言っていた。

 ランナー2塁でヒットが外野深くに飛んだら、どれだけ早く正確にホーム目がけて投げれるかでその後の試合が大きく変わる。1点取られるのと、無得点にするのと。俺は外野からノーバウンドでキャッチャーミットめがけてまっすぐに投げて、相手をアウトにしたいんだ。と。

 野球が好きな雪緒は、色んな外野の選手を思い出しながら聞いていた。

 外野を守るなら肩の強さは必須条件だ。志波ならなんの問題もないと言って笑ったのを今でも覚えている。

 プレイのかけ声が掛かり、試合が始まった。







 試合はなかなか動かず、9回の裏1-0で志波達の大学は負けていた。

 今日の試合、志波は全打席ヒットを打っているのだが、その前後が繋がっていなかった。

 一人ではホームラン以外で点は取れない。

 そのホームランさえ簡単に打てるものではないのだ。

 雪緒はネクストバッターズサークルで素振りをする志波をじっと見守っていた。

 ワンナウトランナー2塁。一打ヒットが出れば逆転サヨナラの場面で、志波の前の打者がスイングアウトの三振となり、ツーアウトランナー2塁。非常に緊迫した場面の中、応援の声も更に大きくなっていた。

 ふと志波がこちらを見た気がした。

 しかしすぐに視線を戻しぐいとバットを持って伸びをすると、志波は悠々とバッターボックスに入った。


 頑張って、志波君ーーー


 雪緒はぐっと両手に力を入れた。

 ピッチャーがセットポジションからクイックモーションで投げた。


 ッキーーーーン!!!!


 !?


 わああーーーーっっっ!!!


 周囲の歓声の中、雪緒は思わず立ち上がった。

 志波のバットに弾かれたボールはぐんぐん伸びて、バックスクリーンのスコアボードにぶつかった。


 サヨナラホームラン!


 まさに劇的だった。

 志波がホームへ戻って来ると、仲間が集まって手荒に出迎えた。

 改めて志波の凄さを感じ、雪緒は胸が熱くなる。どんどん遠い所へ行ってしまうようで、嬉しくもあるが寂しくもあった。

 試合終了の合図で全員が整列して礼をすると、志波がこちらへ向かって走ってきた。


「汐屋」

「志波君」


 いつまでたっても互いを名字で呼び合う2人。はるひにおかしいと何度も言われたが、今更名前で呼べなくて、そのままだ。


「着替えて来るから外で待ってろ」

「うん」


 たったそれだけの会話なのに、雪緒は幸せになる。

 どんなに遠くに行っても、会えなくても志波の声を聞くだけで落ち着く。
















 雪緒は球場の外の植え込みを眺めながら、ぼんやりと立っていた。


「遅くなった」


 後ろから声をかけられ、笑顔で振り向く。

 そこに立つ志波の顔に、たまらなく胸がドキドキする。

 恋人だと分かっていても、雪緒は志波に会う度に好きになっている気がした。

 志波はどう思っているのだろう。自分が志波を好きなように、志波も少しは自分の事を好きだと思ってくれているのだろうか?


「お疲れさま。すごかったね。逆転サヨナラホームラン!」

「ああ、お前のおかげだ」

「私?」

「あの時お前が必死な顔してるの見たら力がいい具合に抜けた。だからホームラン打てた」


 くくっと笑う志波に、雪緒は膨れる。


「あ~、酷い! ……私、そんなに変な顔してた?」


 そしてすぐに不安そうな顔をする雪緒の頭に手を乗せると、志波はよしよしと撫でた。


「違う。お前の顔見たら緊張がほぐれた」

「本当かな~?」

「本当だ」


 背の高い志波に一生懸命背伸びをして疑いの眼差しを送る。


「ま、いいや。そういうことにしておいてあげる。でも、チームの人たちと一緒に帰らなくてもいいの?」

「ああ、今日は別に帰るって言ってるから……」

「そう。良かった」


 志波は嬉しそうに自分に笑顔を向ける雪緒の手を取り、歩き出した。


「腹減ってないか?」

「大丈夫」

「どこか行きたい所はあるか?」

「ううん。別に」


 チラリと見ると、雪緒はまだ嬉しそうに笑っている。

 滅多に会えないだけに、たまに会った時くらい雪緒の好きな所に連れて行ってやりたいと思うのだが、どうも雪緒にはそういう欲がないらしい。

 もう少し我が儘を言ってくれた方がいいなどと、贅沢な悩みを心の中で呟く。

 滅多に会えないのにこうやって何事も無いように微笑む雪緒に、本当に自分の事を好きでいてくれているのだろうかと不安にもなる。

 しばらく歩いていると、小さな公園についた。

 自販機でジュースを買い、ベンチに座る。


「なあ」

「ねえ」


 同時に呼びかけ、2人して顔を見合わせる。


「あっ、何? 志波君」

「いや、お前が先に言ってくれ」

「え? でも……」

「いいから」


 志波に促され、雪緒は俯いて口を開いた。


「あ、あの、ね……こんな事聞いたらもしかしたら志波君すごく嫌かもしれないんだけど、あの、その……」

「ーーーどうした?」


 珍しく言いにくそうにしている雪緒に、志波が首を傾げる。


「あのね! えっと……し、志波君は、わた、私の事……すっ……好き?」

「は?」


 開いた口が塞がらなかった。

 一体何を今更言い出すのかと、志波はじっと雪緒を見つめる。

 そんな志波の様子に気付いた雪緒が、慌てて手を振った。


「ごっ! ごめんっ!! 忘れてっ! 今の無しっ!」


 無しになど出来ない。

 出来るはずがない。


「わっ!?」


 急に体の自由が効かなくなり、雪緒は驚いた。


「ーーー志波君?」


 志波は雪緒を抱きしめていた。

 ぎゅっと力強く抱きしめられ、雪緒は苦しさと恥ずかしさで顔が赤くなる。


「しっ、志波君。苦しいよ……」

「駄目だ」

「え?」

「離さない……」

「っ……」


 耳元で聞こえる志波の声に、雪緒は増々赤くなる。


「俺の気持ちがちゃんと分かるまで、お前の事離さない」

「志、波……君」


 ただ一言、


「……愛してる」


 その言葉が欲しかっただけ。


「ーーーわたしも……愛してる……」






                                END 







=あとがき=

書いてて寒かったよ…すみません。完全に趣味に走った話を書いてしまいました。。
でもうん、いいことにしてもいいですか?(笑)
久しぶりに志波書いたよ!! 志波はあんまり好きだとか愛してるって言わないタイプだと思うんですよねー。
だから、きっとヒロインも不安になるんじゃなかろーかと思った訳です。
ぶっきらぼうだけどストレートな言葉って胸に響く気がします。
中井ボイスで言われたいです。「愛してる」って・・・・・・・・
きゃあーーーーーーーっっっっっ!!!!




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