チェンジ・ザ・ワールド☆
倦怠期? そうですね
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倦怠期? そうですね
「はあ~~~~」
ここは喫茶珊瑚礁。
そこそこ広い店内に客はそれなりに入っている。
そしてカウンターでケーキを皿に乗せてデコレーションをしている佐伯の目の前で、先ほどからずっとため息を吐いている男が一人。
「はあ~~~~」
いい加減客がその人物の正体に気付き始め、ざわざわとし出した。
赤い髪に耳にはいくつものピアス。サングラスをしてロックな服装をしたこの男、針谷幸之進は、実は結構名の売れたミュージシャンだ。CDもチャートで必ず上位に入るし、ドームツアーも毎年行なっている。
まあ、いわゆる有名人というやつだ。
いい加減にしてくれと思いながらも、それでも無下に出来ない佐伯は黙ってオーダーを持ってカウンターから出て行く。
「あの、あそこに座ってる人ってもしかしてハリーですか?」
目を輝かせながら佐伯に尋ねる女性客に、佐伯は作り笑いで答える。
「ええ、そうです」
「やっぱりっ!? うそー。もしかして常連さんとか?」
「いいえ、そういう訳では」
「サインとかお願いしたらまずいかなー?」
向かいの席に座る友達ときゃいきゃい言い出したので、佐伯が牽制する。
「今ちょっと機嫌悪いみたいなので、やめておいた方がいいと思いますよ」
「え~、そうなんですか?」
「確かにさっきからずっと頭かかえてるもんね」
「新曲のこととかで悩んでるのかな?」
「さあ、どうでしょうね」
曖昧な返事をして軽く会釈をしてまたカウンターに戻る。
相変わらず針谷はため息を吐いている。
うっとおしい。
佐伯がとうとうキレた。
が、店なので出来るだけ穏便に文句を言う。
猫かぶりは二十歳をとっくに過ぎても健在だ。
「針谷、いい加減にしてくれよ。商売の邪魔になるだろ?」
「うるせー。お前には俺様の気持ちなんてわからねーんだ」
「分かってたまるか」
「あいつの……あいつのあの冷た~い目で睨まれたことないだろっ?」
「……あってたまるか」
「それはもう、夜叉のようにつり上がった目で睨んで、一言言うんだぜ? 『あれ、ハリー。今日は帰って来たんだ?』ーーーって」
ひいい~~~~!!
と頭を抱えて体を震わせる。
針谷の恋人は二人の同級生で、高校卒業と同時に付き合い出した。
売れないバンドマンだった頃からずっとかいがいしく針谷の世話をして来た彼女。
それぞれ高校卒業後は違う道を歩いていたが、しっかりと愛は育んでいたらしく、去年結婚した。
付き合って5年。結婚して1年。
針谷が忙しくなったのは二人がまだ付き合っている時だったが、良く聞く売れたらポイ。にはならなかったらしい。
その彼女……もとい、奥さんが最近ものすごく冷たいらしく、針谷は頭を抱えていたのだ。
浮気をした訳でもないし、仕事が早く終わった時はなるべく早く帰るように心がけている。
それなのに……
「うううっ……」
また思い出したのだろう。針谷はとうとう伸びてしまった。
「いいから、お前ホントに邪魔なんだよ」
「佐伯、お前地が出てるぞ?」
「うるっさい。誰の所為だと思ってんだ!」
苛々が爆発しそうな佐伯に、店員が恐る恐るオーダーを伝えた。
「あ、あの。マスター……ブレンドコーヒーのおかわりお願いします」
「ーーーああ、すぐにいれるよ」
キッと針谷を睨みつけ、佐伯はお湯を沸かし始めた。
「何かやった覚えはねえんだけどな……」
呟く針谷に吐き捨てるように言う。
「その覚えがないのがいけないんじゃないのか?」
「どういうことだよ?」
「だから、あいつはお前に何かして欲しいんじゃないのかって言ってんだよ」
「はあ? 何かって何を?」
「それぐらい自分で考えろ」
「ひっでーな! 教えてくれたっていいだろ? ケチ!」
「子どもか、お前はっ!」
「うっせー! 馬鹿! 友達が悩んでんだから、ちっとは優しくしろよな!」
「……はあ~」
とうとう佐伯までため息だ。
「あのさあ。お前達って付き合ってどんぐらい?」
「え? え~っと、5年? あ、結婚してから入れたら6年?」
指折り数える針谷に、佐伯はまた小さくため息を吐く。
「そんだけ長いこといたら、大事なこと忘れたりするだろ」
「大事なこと?」
「このっ……」
「うわわっ! ちょっ、たんま!! 熱湯はやめろっ!」
頭の働かない針谷にムカついた佐伯が握っていたボコボコに沸騰したやかんを振り上げる。
それを必死に止めて、針谷が真っ青な顔で横に逃げた。
「マスター」
「あっ、ごめん」
店員に嗜められ、佐伯はすぐに我に返る。
ゆっくりとドリップされたコーヒーのいい香りが立ち上り、カップを店員に渡すと針谷を睨んだ。
「いいか。女ってのは、大事にされてるか不安になるもんなんだよ。だからお前が何もしないってのが嫌なんだ」
「どういうことだよ?」
「ーーーまだ分かんねーのか? この馬鹿。お前最近あいつに『好き』とか『愛してる』とかって言ってるか?」
佐伯の質問に顔を真っ赤にさせた針谷が慌てる。
「ばばば馬鹿野郎っ! そ、そんな恥ずかしいこと言えるかよっ!」
「だろうな……だから、たまにはそういう言葉を言ってやれって言ってんだ」
「え? ……いやっ、無理だっつーの! そんな恥ずかしいこと言えっかよ!?」
「それであいつの夜叉のような視線が無くなるならいいだろ?」
ピタリと動きを止め、佐伯の顔をじっと見つめる針谷。
「なんだよ?」
「ーーー本当にそれであいつの機嫌治るのかよ?」
「ものは試しだろ? 言うだけ言ってみればいいじゃないか」
「駄目だったら?」
ものすごく不安そうな顔で佐伯を見る針谷に、佐伯は吹き出しそうになるのを堪えるのに必死だった。
「まあ、その時は諦めろ」
「な、何を諦めるんだよっ!?」
「まあ、いろいろと」
「ばっ……お前、俺は真剣に悩んでんだぞっ!?」
「あ~、はいはい。言葉が駄目だったら、優しく抱きしめて『愛してる』って言ってみろよ」
「ーーーーーーー!?」
さらに真っ赤な顔になって口をぱくぱくさせる針谷に、佐伯はとうとう我慢しきれなくなって吹き出した。
「……っぷ!! ははははっ! お前自分の嫁なんだぞ? なんでそこで顔赤くするんだよ? マジ意味分かんねー!」
何年付き合ってんだよ!?
とさらに笑う佐伯に、店内の客が何事かと驚く。
針谷は顔を真っ赤にさせたまま、ムスッと口をへの字にすると言った。
「くっそー。お前今度のライブのMCで絶対ネタにしてやっから覚悟してろよ!」
「お~っと、いいのか? そんな事言って。お前がここに来て泣いてたこと、あいつに話すぞ?」
「ぐっ!? 誰が泣いただと! くっそ~っ! 覚えてろよっ!」
意地悪い顔で言った佐伯にそう吐き捨てると、針谷は店から走り去った。
「あ~。やっと邪魔な奴がいなくなった……ところで奥さん」
漸く笑いが治まった佐伯がカウンターの下に蹲る女性に、視線は向けないままで声を掛けた。
「ーーーはい」
小さく返事をしたその女性は申し訳なさそうに佐伯を見上げる。
「これでいいか?」
「ごめんね、変なこと頼んじゃって……」
「別にいいけどさ。なに、倦怠期? そんなのお前があいつに直接もっと言葉で言ってくれって頼めばいいじゃないか」
「そんな恥ずかしいこと言えないよ」
似たもの夫婦。
「夜叉みたいな目ってどんな目だよ?」
「あれはハリーが大げさに言い過ぎてるだけだもん」
「はあ……どうでもいいから、さっさと帰ってあいつといちゃいちゃしてろよな」
「ーーーそうですね」
女性は立ち上がると、もう一度ありがとうと頭を下げて勝手口から出て行った。
いっつもこんな役回りだな、俺……っていうか、店で爆笑したけど大丈夫か?
それ以来、珊瑚礁のイケメンバリスタは笑うと可愛いという噂が流れ、女性客が増々増えたのでした。
そして翌日、佐伯の携帯に針谷からの頭に来るほど惚気満載のメールが届いたのは言うまでもない。
END
あとがき
おおう、夫婦ですよ。針谷とヒロイン。
今回ヒロインの名前は出しませんでした。ってか、倦怠期シリーズ。
勝手に作ってみたんですけど、他のキャラでもまたやろうと思います。
いやあ、大事ですよ。恥ずかしくてもきちんと感謝の言葉は言わないとね♪
今回ヒロインの名前は出しませんでした。ってか、倦怠期シリーズ。
勝手に作ってみたんですけど、他のキャラでもまたやろうと思います。
いやあ、大事ですよ。恥ずかしくてもきちんと感謝の言葉は言わないとね♪
それでは、最後までお読みくださってありがとうございました。
お帰りの際は、窓を閉じてくださいv
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