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act.17(明月院)

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streetpoint

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就職難民 黙って俺についてこい!










 どうしよう……私ったら勢い余って会社を飛び出してきたけど、バッグも何もかも、会社に置きっぱなしだ。これじゃ、会社に戻るしかない。


「でも。明月院さんには会えないよ……」

「水那!」

「?」


 カレンが必死の表情で息を切らせている。


「よかったぁ! 心配したんだからねっ!!」


 そう言ってわたしを抱きしめると、次ぎにコツンと頭を叩かれた。


「カレン、どうして?」

「明月院さんから連絡があったの。水那を泣かせてしまった、って。飛び出して行ったから一緒に探して欲しいって」

「―――明月院さんが?」


 ドキリとした。

 なんて失礼な事を言ってしまったのかしら……


「―――あ、カレンです。水那、見つかりました。―――ええ、すぐに戻ります」


 カレンは明月院さんに連絡をしたらしく、怒った顔で私の腕を掴んだ。


「ほら、帰って謝んなさい! 何があったか知らないけど、ケンカなんてしてたらいい曲出来ないでしょ!」

「でも! 私なんて素人が、勢いだけで選んでいい部署じゃないの! 明月院さんの邪魔ばっかりしてるし、さっきも……グロスのイメージをピアノで弾いてみろなんて言われて……きっと、明月院さんは私の事が邪魔なのよ。早くどっか行って欲しいから、そんな事言うのよ」

「バカ! 確かに明月院さんは人付き合いも悪いし、変わった人だし、冷たい感じだけど、気に入らないからって嫌がらせなんてする人じゃないわ! きっと何か意味があるのよ! ピアノなんてやったこともないあんたに、商品のイメージを音にしてみろだなんて、きっとあんたが何か持ってるって思ったからよ! 卑屈になるのもいい加減にしなさいっ!」

「カレン……」


 こんな風に怒ったカレンを見たのは久しぶりだ。高校生の時、私が親とケンカして家出をしてカレンに泣きついた時も、こうやって真剣に私の事を考えて叱ってくれた。

 そうか、明月院さんには明月院さんの何か考えがあるのかも知れない―――


「葉月」

「明月院さん!」


 カレンが私の背後へ目を向けた。私もゆっくりと振り返る。


「―――明月院さん。ごめんなさい、私……」

「カレンさん、ご迷惑かけました。―――仕事の途中だ、会社に戻るぞ」


 明月院さんはカレンに頭を下げると、私の腕を取って歩き出した。

 ちらりとカレンを振り返ると、嬉しそうに手を振っている。

 ありがとう、カレン。私、ちゃんと明月院さんと向き合うよ。
















 「あ、あのっ」

「俺は、あまり思っている事を言葉で表現するのが得意じゃない」


 私が言うより先に、明月院さんが話し出した。


「記憶に無いくらい幼い頃からずっとクラシックの世界にいた……親や先生の言う事を聞いて、言われた通りに演奏する。ピアノは好きだったが、そこに俺の意志はなかった」


 あ―――


「小学生の頃は神童だなんだともてはやされたが、大きくなって大きな大会に出るにつれ、俺なんかよりもっと上手い人間がいることを知った―――。自分では言葉にしたくなかった。俺は厳しい世界の競争に負けた」


 そんな……負けだだなんて―――

 でも、軽々しくそんなことないです! なんて言えない。だって、私にはクラシックの世界の事なんて、これっぽっちも分からないんだもの。


「親の事もあるから、一応音大だけは行った。けど、俺にはピアノに対する思いは残ってなかったから、クラシックの世界から足を洗った」

「―――違うと、思います……」

「……」


 ボソリと、私は気づかないうちに声を出していた。


「そ、その……私は音楽の事なんて全然分からないけど、明月院さんはピアノが好きだと思います」

「何故?」


 眉を寄せて、不快そうな顔をする明月院さん。

 でもここで負けちゃ駄目! だって、だって――――


「だって、明月院さんは今もピアノを弾いているじゃないですか! 真剣に仕事に取り組んで、あんなに素敵な演奏をして、曲も作って、それって、ピアノが好きじゃないと出来ないと思います!」

「―――」


 ちょっと、言い過ぎたかしら……? でも、本当にそう思ったんだもの!

 無言で私を見る明月院さんをぐっと力強く見返すと、ふっと明月院さんの表情が和らいだ……ように見えた。


「あんた、変な人」

「なっ……」


 変人に変人って言われた!!


「まあ、とりあえずサンキュ……」


 そう言って再び歩き出した明月院さんは、ずっと私の手を握ったままだった。






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