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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

追憶.3

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追憶












 操は目を覚ました。浪人の一人の肩に担がれている状態で辺りの様子を伺うと、どうやら大きな船の甲板を歩いているようだ。


「……降ろして下さい」

「目ぇ覚ましたか」


 男に降ろされ、操は船の様子を確認する。貿易船らしいそこは、乗組員の誰もが浪人くずれのような連中ばかりで、まともな船でないことは一目で分かる。


「入れ」


 ドンと背中を押され、船内へ入る。薄暗い廊下を進み随分階段を下りると、船倉らしいカビ臭い部屋の中へと投げ入れられた。


「しばらくおとなしくしてろ」


 ガシャンと戸は閉ざされ鍵がかけられる。

 静かになると、操はゆっくり室内を見回した。窓はなく、入り口の扉ひとつしか出入りする場所はない。きっとこの船は海賊船だ。賊に追われる覚えは無いから、真選組か銀時に恨みを持つ連中だろうか。手を縛られた縄は堅かったが、抜けられない事はなさそうだ。とにかく早くここから脱出し、診療所の様子を見に行かねば。そう思い、操は縄を抜ける為に手首の関節を外そうと力を入れた。


 ゴキッ……


 と、そこで扉の向こうに複数の気配を感じ、息を潜めて動きを止める。

 ゆっくりと扉が開き、電灯の明かりが差し込むのと同時に入って来る人影。


こちらです」


 先ほど操を連れて来た浪人達の後ろから、派手な着物を着流し、片目に包帯を巻いた男が現れた。


「ーーー晋、助……?」


 操が驚いていると、その派手な着物を着た男がギロリと浪人を睨んだ。


「おい、てめぇら。誰が、操を傷付けろってった? 誰だ? 操の顔に傷を付けやがった野郎は?」

「すっ、すみません! 何としてでも連れて来いと聞いていたのでっ」

「だから、誰が傷を付けろって言ったかって聞いてんだ、ああん?」


 ゆっくりと刀を抜いた男に、操は慌てて立ち上がる。


「やめて、晋助!」

「操……痛い思いをさせてすまなかった。手違いでお前を怪我させちまった。お前に手荒なマネをするつもりはなかったんだ」


 男の名は高杉晋助。銀時や桂と共に、大戦に参加した攘夷志士の一人だ。

 幕府が開国して以来、過激派の攘夷浪士として幕府のブラックリストに載っている。子どもの頃から操達と同じ塾に通っていた幼なじみで、その頃から操を一途に想い続けていた。


「町の女の子が怪我をしたの、手当てしてもらえたか気になって……あと、診療所も。お願い、町へ戻らせて。すぐにここに戻って来るから」


 高杉は操の縄を解きながら首を横に振る。


「駄目だ。お前はオレと一緒に来い」

「晋助、どうして……」

「ここから逃げようなんて考えるな。いつでもお前の大切なものを壊すことが出来るって事を忘れるな、いいな?」


 少し強く高杉に腕を握られ、操は顔をしかめた。こんな再会はしたくなかった。自分の腕を掴んだままどんどんと歩いて行く高杉の後ろ姿を見、視線を掴まれた腕に移す。

 一体どうして?

 頭の中は疑問ばかりが飛び交う。








 しばらく歩き、階段を上りいくつか階上へ来た所で、見知った顔を見つけた。


「あなた……」


 操は思わず息を飲む。


「おや、どこかで嗅いだ匂いの女ですねぇ」


 以前、銀時と戦った盲目の男、人伐り似蔵だ。似蔵の隣りには裾の短い派手な着物の若い女も立ってこちらを睨んでいる。


「この女がーーー」


 若い女は敵意をむき出しに操に視線を当てつける。


「似蔵、たまこ。お前ら、間違っても操に手ぇ出すんじゃねえぞ」


 すごむ高杉に似蔵は肩をすくめ、たまこと呼ばれた女は悔しそうに目をつぶる。


「フフ、随分とその女にご執心なんですねぇ、何だか妬けますね」

「ふんっ、俺の部屋に誰も近づけるな。いいな?」

「はいっス……」








 2人と別れ、さらに奥の扉の中に入ると、そこは綺麗に整えられた客室だった。

 突然操は腕を放され、高杉に後ろから抱きしめられた。


「し、晋助……」

「ずっと、銀時と一緒にいるのか?」


 しばらくじっと動きを止め、ゆっくりと操は頷く。

 高杉は昔から操への気持ちを率直に伝えて来た。それは操にとって嬉しくもあり、戸惑いでもあった。想いの熱は幼い頃も、大義を掲げて参加した戦の時も、今この瞬間も変わらず燃え続けている。操に対する気持ちも、国を変革したいという気持ちと同じように。

 前に銀時が祭りの時に高杉に会ったと言っていた。源外をそそのかし、謀反を起こすよう誘導したのだ。何故そんなことをするのか操は理解出来ない。いや、気持ちは分からないでもないが、出来る事なら違う方法を選んで欲しいと思っている。

 抱きしめられた高杉の腕を放そうと手を添え、操は言葉を落とす。


「晋助、あなた何をするつもりなの?」

「聞かなくても分かってるだろ? そんな事より操、何故銀時なんだ?」


 背中を通して伝わる高杉の心音は、とても静かで落ち着いている。


「何故? それは、私が何故銀時を好きなのかって事?」

「他にないだろ? ガキの頃から俺はずっとお前が好きだと言ってるってのに、一度だってきちんと答えてくれた事はなかった。それはお前が銀時の事を好いているからだろ?」

「ーーー好きとか、そういうのじゃないわ。銀時は側にいるのが当たり前になりすぎて、離れるなんて考えた事なかった……ううん。考えないように銀時がさせてくれてる。私の事を守ってくれてるの……父上の代わりに」


 ふと、今朝方見た夢を思い出す。

 大好きだった養父。そして塾の仲間達。


「それを好きってんだろ? でも……あいつはお前に好きだとは言わない。違うか?」


 高杉の腕の中で、操は銀時の顔を思い浮かべる。


「銀時も私も、何も守れなかった事をずっと悔いてる……だから、お互いにお互いを守り続けると約束したの。それだけーーーねえ、晋助」

「ーーー何だ」

「もう、やめて……たくさんの人を傷付けて、本当に幕府をどうにかするつもりなの? あなたや小太郎の気持ちは分からないでもないわ。でも、また戦になったりしたら、私は……」


 そこまで言うと、高杉は操の体を反転させ自分と向き合わせた。


「こんな堕落した世の中、天人に支配された世の中に生きて、それこそ一体何になる? 桂達のやり方じゃいつまでたっても真の平和は訪れはしねぇ……甘っちょろい大義でこの国を変えようたぁ、いくらやっても無駄なだけだ。俺には俺のやり方がある。それには操、お前も必要だ」


 ぐいと腰を引き寄せられ、顎を持ち上げられた。


「お前が欲しい……」


 操はドキリとした。高杉の熱い眼差しに溶かされそうになる。吐息が互いの唇に振れ、微かに唇が重なりそうになった瞬間、扉が叩かれ高杉の名を呼ぶ声が聞こえた。


「高杉さんっ!」

「ちっ……なんだ?」

「例の件で、戻って来た連中がお話があると」

「ーーー分かった、すぐ行く」


 そこで操をじっと見つめ、その瞼に唇を寄せた。


「邪魔が入ったな……嫌がらないって事は、その先もいいって思っていいんだよな?」


 操は答えなかった。


「ふっ、まあいい。しばらくここで休んでろ。いいか、もう一度言うぞ。逃げ出そうなんて考えるな……お前は逃げないと分かってるから鍵はかけない。じゃあ、行って来る」


 そこで操の体を解放し、高杉は部屋を出て行った。それを見送り、部屋の奥にあるベッドに腰掛け操は天井を仰いだ。そして高杉が出て行った扉をじっと見つめて心の中で呟く。


 晋助、どうして私なの? ーーーううん、それより診療所の皆、大丈夫かしら? 真選組にお休みの連絡してないし、誰か怪我してないかしら? ーーーそうだ、晩ご飯の買い物も行けないから銀時達の晩ご飯の用意も出来ない。どうしよう。…………って、はあ……。何で私がこんなに心配しなきゃいけないの。せめて銀時がお嫁さんを見つけてくれれば私の苦労は半減しそうな気がする。でも銀時みたいな人にお嫁さんなんて来てくれるのかしら? 案外モテるけど、結婚ってなると別よね。料理上手で銀時のわがままに付き合ってくれる優しい人で、万事屋の仕事に理解があって、お金の管理がしっかり出来る結野アナみたいな美人? そんな人いるの? ていうか、もうそれってロボットじゃないと駄目なんじゃーーーって、何かもう、考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。


 駄目だ。考えていても仕方ないのに、やらなければいけない事が次々と頭の中に浮かんで来る。あげくの果てには銀時に嫁がいない所為で自分に全部負担がかかっているような気にまでなって来た。

 いや、実際はそうなのだが……

 逃げ出せばまた多くの人が傷付けられる。このままいつまで高杉と共にいなければいけないのか、操はパタリとベッドに倒れ込み目をつぶった。


 晋助ーーー


 先ほど高杉と密着した時、すごくドキドキした。キスをされた瞼にそっと触れ、次ぎに唇に触れる。男性にあれほど近づく事は、仕事を除き銀時以外にはない。しかも相手は自分の事をずっと好きだと言ってくれている男なのだ。もし、高杉を許し、ずっと高杉の側に自分がいたとしたら、考えを改めてくれるだろうか。そんな事を考える。


「ーーー私にそんな力はない……晋助は誰よりも自分を強く保とうとしてるもの」


 高杉だけではない。あの頃共に学んだ友人達は、それぞれの道をそれぞれの思いで歩いている。いつも何かに巻き込まれ、誰かを守る為に自分を犠牲にし続ける銀時。誰も守れなかったという事で自分に大きな枷を付け、引きづり続けながら生きる銀時。血だらけで戻って来るその姿を見る度に操の胸は張り裂けそうになる。しかしどんなに止めて欲しくても、操は言わない。たとえ言っても銀時はやめないだろうし、どうするかを決めるのは本人だ。

 何も守れなかったといつも口癖のように言うが、そんな事はない。皆が銀時に救われている。もちろん、操もだ。何も守れなかったのは操の方。父を、銀時を、仲間達を誰一人守る事が出来なかった。

 亡くなった父を今でも慕ってくれている銀時達。それぞれ形は違えど、父の意志をずっと胸に持ってくれているのは嬉しかった。

 あの頃に戻れるなら、幼いあの頃に戻りたい。

 目をつぶり、そのまま操は深い眠りへと落ちて行った。









                               続く…




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