月が見ている。
世界を、星を終わらせる死の満月。
昼間だというのに空に浮き、こちらを見ているそれ。
鏡の中のバケモノに似ていると、東雲あづまは思った。

鏡の国のアリス症候群という奇病が存在する。
鏡、あるいはガラス、水面。
鏡面ならば何でもいい。
あべこべの世界が映るのなら、彼らはどこにでも鏡の国を見出してしまう。

鏡の中の自分が、現実とは違う風に動く。
映るはずのない、そこにないものが映り込む。
幻覚の怪物が手招きし、語りかけ、患者の心を侵していく。
東雲あづまもまた、そうした症状に日常的に苛まれてきた。

発症要因、メカニズム、一切不明。
患者の脳を調べても医学的な異常は一切なし。
そのあまりの奇怪さに、患者達は鏡の向こうに実在する何かを本当に知覚しているのではないかと唱えた医者もいる。

そして、これがただの精神病ではないというその推測は的を射ていた。
鏡面認識異常を抱えた患者達は、文字通り"アリス"なのだ。
ワンダーランドに入り込み、世界を滅ぼす鬼と戦うことの出来る戦士。
いわば、世界の希望。そう称されるべき存在こそ、あづまを始めとしたアリス達なのである。

しかし、あづまにとっては世界の命運などよりよっぽど優先すべき目的があった。
自分を殴り、叩き、犯し、唯一の友人すら奪い取った家族。
家族といっても、正式なものではない。
今はどこにいるとも分からないお母さんとはまるで似つかない、心底醜くて許し難い四人。

彼らを殺すことだけが、東雲あづまの目的だった。
ワンダーランドのある仕組みを利用することで、家族全員を殺す。
聖杯戦争に巻き込まれてしまうというアクシデントがあっても、大元の目的は何も変わっていない。
それだけ追い求めて此処まで来た彼女は、一般的な感性の持ち主から見れば、まさしく異常者に映ることだろう。

「ふあ」

欠伸を一つ、する。
朝の陽射しが眩しい。
いつも通りの飾り気のない服装で、あづまはある場所へと向かっていた。
学校、ではない。あづまはもう随分と長いこと、ほぼ不登校といっていい状態にある。

そもそも彼女は幼稚なのだ。
実年齢よりも、その精神年齢は幾つか下。
小柄なことも相俟って、ある意味では見た目通りの性格ともいえる。

そんなあづまだから、学校のような集団生活を余儀なくされる場所とはそもそも相性が合わない。
よく言えばマイペース、悪く言えば自己中心的で社会性がない。
すれ違う人々は彼女に驚いたり、哀れんだりと様々な顔を見せたが、あづまにとって周りなど腐った南瓜に等しい。
自分と、文鳥ちゃんと、あとまあバーサーカー。あづまの世界はそれだけで、それ以上がほしいとも思わない。

『……どこへ行くのだ、マスター』
「きょーかい」 

行き先は、冬木教会。
言わずもがなその場所にいる人物は、昨夜初めて顔を見せた軍服のルーラーだ。
てっきりまたどこかへ散歩、ないしは索敵と言うものだとばかり思っていたバーサーカーはわずかな驚きの感情を抱く。
この猪突猛進な少女が、自ら進んでルーラーの下に向かおうとするなど考えもしなかったからだ。

『何をしに行くつもりだ?』
「しらべもの。ルーラーってすごいやつなんでしょ?」

鳥の死骸などという冒涜的な品物を懐に忍ばせながら、教会に向かおうとする姿のなんと異様なことだろう。
その足で悪魔崇拝のカルト教団に駆け込もうとしていると言われた方が、まだいくらか信憑性がある。
あづまは、何やらルーラーに訊きたいことがあるという。
もちろん聖杯戦争絡みの案件ではあるだろうが、ルーラーの言葉を仰がねばならないほどのこととなると限られてくる。

「セカイオニ殺しのちから。どのくらいまで使えるのか、わかんないから」

アリス。
ワンダーランドで戦う力を持つ者。
本来その"力"は現実世界には持ち出せないはずだったのだが、この世界ではそもそも現実ではないからか、その制約が存在しない。
これまでにも何度かマスター殺しに使ってきたし、それをバーサーカーも実際に見ている。

サーヴァントであるバーサーカーの目から見ても、異様な力だった。
武器を作り出して小さな体で跳ね回り、一刀両断していく姿は驚嘆に値した。
そして、あづまが力の使い方に難儀した様子を見せていたのも事実だ。
確かに聖杯戦争を取り仕切るルーラーなら、その辺りについても知恵を授けてくれるかもしれない。

自分の力がどれだけ出せるのか。
それを把握しておくことは極めて重要だ。
全力と流す部分の区別がつかない兵士など、戦場では真っ先に死んでいく。
戦う力を持ち、自分自身戦うことを望んでいるあづまだからこそ、その辺りは確かに重要なファクターといえた。

とはいえ、それを指摘するなら自分からだろうとバーサーカーは思っていた。
重ねて言うが、東雲あづまという少女は幼く、稚拙なのだ。
しかし今回のように、変なところであづまは利口なところを見せる。
自分の確と見据えた概念以外は見えない、そういう性質なのか。

「じゃま入るとだるい。バーサーカーはそのへんうろついてて」
『了解した。何かあれば、すぐに念話で呼べ』

バーサーカーは未だ、自分のマスターの人となりが分からない。
薄っすらと感じ取れてはいるものの、それだけだ。
善ではなく、悪でもない中庸の灰色。
かつての仲間達……アカメなら、タツミなら、ナジェンダなら、彼女にどう接したろうか。バーサーカーは、考える。

答えはそれぞれの性格によって変わってくるだろうが、共通しているのは一つだ。
彼らなら、決して虐げられる少女を見捨てはしない。
そしてバーサーカーも、この哀しいマスターに見切りを付けるつもりはさらさらなかった。
どれだけ救いようがなくとも、それを決めるのはたかがサーヴァントであるこの身ではない。

「(……俺は戦うだけだ。帝具として、サーヴァントとして)」

小さな足取りを後ろから追いながら、バーサーカーは己の指針を再確認する。
あくまでも此処は聖杯戦争。
通過点でしかなく、大事なのはこの先だ。
なら、自分が腐心すべきは生かすことである。

帝具として、サーヴァントとして、主を生かすために全力を尽くす。
人型帝具であるバーサーカー……スサノオにとっては慣れた趣向だ。
ならば、後はそれをなぞるのみ。
黙して守り、まっすぐに倒し、あづまを未来まで案内する。

教会の扉の向こうに消えていくマスターの姿を見届け、スサノオは霊体のまま移動、近場のマンションの屋上まで跳んだ。
此処ならば近付く気配の察知も、隠形の手段を持たないマスターの接近も瞬時に見抜くことが出来る。
正直、制裁を恐れずルーラーに攻撃を行うような馬鹿が居るとは思えないが――何も危険は物理的なものだけではない。
例えば使う力の情報がちょっと漏れただけでも、戦場では致命的である。

聖杯戦争は単純な武力のぶつけ合いに非ず。
その実情は相手の情報をかき集めて分析し、敵の弱みを洗い出して叩き潰す情報戦だ。
生前ナイトレイドの暗殺者として行動した経験のあるスサノオは、情報の大切さをよく知っている。
だからこそ彼は一切気を抜くことなく、いかなる形での危害も許さぬとばかりに神経を集中させるのだ。

何か来るのなら、看過はしない。
何も来ないなら、それでよし。
のどかな朝の空気の中、一人佇む見えざる狂戦士。
だが――彼を待っていた展開は、予想していたどれとも異なるものであった。

『――何』

体を翻す勢いで、教会の方へと視線を向ける。
次の瞬間、スサノオは凄まじい速度で教会へと駆け出していた。
彼が今感じ取ったのは戦闘の気配。
だが真に驚くべきなのは、それが発せられている場所だ。

スサノオのマスター、あづまが入っていった建造物。
ルーラーが待機している、この冬木市で最も安全な筈の施設。
即ち――冬木教会。他ならぬそこで、今まさに剣呑な戦いが始まったようなのである。
何が起きている。焦燥のスサノオの心を一言で表すならば、妥当な言葉は"理解不能"以外にない。

教会に近付く反応が感じ取れなかったということは、気配遮断スキルを持つアサシンでも潜り込んだのか?
そもそもルーラーは何をしている、よもやあの男は襲撃の一つも察知できない愚物だったのか?
契約のパスは生きている。つまり、あづまは死んでいない。では、こんな状況だというのにあづまは何故念話を送らない?
疑問の尽きないまま、スサノオは一刻も早くあづまを救い出すべく教会への道を急ぐ。

結論からいえば、教会で繰り広げられている事態は、スサノオが思い描いたどんな可能性とも異なっている。
サーヴァントはいないし、不届き者のマスターもいない。
どこかの誰かが向かわせた使い魔や宝具による召喚物が暴れているなんて話もない。
そもそも教会には――東雲あづまとルーラーと、管理NPCとされる少女以外には誰もいない。




「おや。何の――」

用か、とルーラーが言う前に扉が閉まり、東雲あづまは床面を蹴った。
何も握っていなかった小さな右の手のひらに、お手頃サイズの手斧が出現する。
そのままルーラーへと踏み込んで、その顔面を叩き割らんとあづまはそれを振り下ろした。
しかし手応えはない。あづまの斧はものの見事に空を切っていたからだ。

"すかっ"なんて間抜けな擬音が似合う空振り方だった。
ルーラーがあづまの暴挙に対し取った行動は、ただその場を一歩後ろに退いただけ。
彼の表情は実に涼しいもので、何の焦りも怒りも抱いてはいないように見える。
とはいえ流石に、少しは驚いたようだったが。

「ちっ」

舌打ち一つ。
斧を投げ捨て、また作り直す。
今度は身長ほどもあるハルバードを。
ぶおんと空を切る快音を立てながら、ルーラーの首へ。

「ふむ」

またしてもステップ一つで避けるルーラーに、あづまはなおも追い縋る。
その身のこなしは間違いなく、平和な日本に生まれた少女のものではなかった。
武道の達人顔負けの速度から振るわれる、乱暴だが馬鹿げた威力を秘めた一閃。
あづまの生み出す武器が神秘を宿している以上、当たればサーヴァントすら殺傷出来るだろう。

「投影魔術……とは似て非なるものらしいな。
 魔力を消費して神秘に変換し、自分の心象を特定の型に当て嵌めているのか」

珍しいものを見た、と感心したように漏らすルーラー。
その間もあづまは一瞬も手を休めることなく執拗な攻撃を続けている。
薙いで払って突いて切り伏せて切り上げて縦に横に右に左に斜めに、手を変え品を変え。
猛烈な勢いだが、その表情を見るに彼女的にはご不満な展開のようだ。

確かにあづまは、マスターとしては破格の力を持っている。
要は強い思いがあればそれに応えてくれる力なのだ、弱いわけがない。
おまけに武器だけでなくそれを扱うあづま自身の能力も、同様に強くなっている。
ただ積み重ねてきた技量だけは、アリスの力では誤魔化しが効かない。

世界鬼が相手なら、技量の強さはそこまで重要視されないのだ。
的が大きければ振れば当たるし、小さくても粘り強く食い付いていけばどうにかなる。
が、世界鬼より上等な頭脳とスペックを持つサーヴァント相手ではそうはいかない。
現にあづまは、ルーラーの圧倒的な技量を前に彼を傷つけるどころか、武器すら抜かせられずにいる。

「(こいつきらい! うざい!!)」

笑みを浮かべながら攻撃をかわすルーラーに、あづまは神経を逆撫でされたような気分になった。
今まで、あづまの周囲にはいなかったタイプの相手だ。
眉間に皺を寄せるあづまは攻撃の手は緩めないまま、更に攻めるべく戦斧を片手持ちにする。
そうして手空きになった左の手のひらに生み出すのは、右と全く同じ巨大戦斧だ。

数が倍になればそれだけ強い。
同じ動きを倍の武器でやれば敵は死ぬ。
簡単な理屈を大真面目に実行するのが、東雲あづまだ。
大きな力を持った子どもは一番怖いというが、まさに彼女はその"大きな力を持った子ども"だった。

それでもルーラーを捉えられない。
けれど、あづまは何も闇雲に攻撃しているわけではなかった。
ルーラーの動きは達人のものだが、時間さえかければまだ慣れられる。
慣れることが出来たなら、後は強引にぶち破ればいい。

150を少し超える回数斧をぶん回したところで、あづまは一旦後ろに下がる。
気は済んだのかな、とルーラーが言い終えるのも待たずに、新しく出した武器をぶん投げた。
もちろん当たらなかったが、避けた隙を突いてまた疾走、細切れにしてやる勢いで斧を振るう。
ルーラーは相変わらずだ。しかし変わらないままならいける。あづまは、叫んだ。


「とまほぉぉぉ――――――――っく!!!!」


トマホーク――元は北アメリカのインディアンが使っていたとされる斧。
手に持って使うことももちろん出来るが、本領は斧のイメージとは結び付かない投擲にある。
要は俗に言うところの投げ斧。
遠くにいる獲物も仕留められ、ものによってはブーメランのように使うことも出来る変わり種だ。

あづまがさっき投げたのはそれだった。
ルーラーに呆気なく避けられた二本の手斧はぐるぐる回転しながら、背後からその背中に飛んでいく。
それも知っているとばかりに避けてみせるルーラーだが、あくまで飛んできたトマホークが外れただけだ。
あづまの手元にある二本の斧は、依然振るわれない状態のままで残されている!

「ほう。悪くない手だ」

左右から豪速で襲ってくる斧は、流石のルーラーでも避けきれない。
此処で初めて、彼はその得物である剣の柄に手をかける。
火花が散るほどの速度で、ルーラーが抜き放った。
すると、どうだ。あづまの両刃を、抜刀動作だけで相殺してみせたではないか。

攻撃動作を終えたばかりということもあり、あづまの小さな体が押し返される。
力強く床を踏みしめることで踏み止まったあづまは両手の斧を捨て、今度は一振りの"馬鹿でかい"戦斧を出現させる。
防いでくるなら防御ごとかち割ってやる、と言わんばかりの強引な武器チョイス。
が、あづまがその威力を試す前に勝負は決しようとしていた。

「だが、これ以上は看過出来ないな。静粛にしたまえ」

パチン――ルーラーの指が鳴る。
それと同時に、あづまの体を見えない何かが真上から襲った。
すっかり攻撃に取りかかっていたあづまは、為す術もなく地面に叩き伏せられる。
かふっと肺の息を吐き出す音が教会の中に響いた。

「な、んだ、これっ。――はな、せ! この、くそメガネっ!!」
「そう暴れるものではない。それにどうやら迎えも来ているようだ」

暴れるあづまと、それを制するルーラー。
教会の鉄扉が開け放たれたのはまさにその時だった。
扉の向こうから現れる、サーヴァント。
東雲あづまのバーサーカー。真名、スサノオ。

彼は一も二もなくあづまに駆け寄ると、ルーラーを鋭く睥睨した。
それに対しルーラーは咎めるでもなく抜いた剣を収める。
彼はただ、応戦しただけだ。
あづま達がこれ以上続けようとしてでもこない限り、戦闘を続ける理由はない。

「……どういうことだ、これは。何故ルーラーの貴様が、俺のマスターと戦闘していた」
「誤解しないでもらいたいな。仕掛けてきたのはあくまで君のマスターだ、バーサーカー」
「なんだと?」

あづまの顔を思わず見るスサノオだが、彼女がそれを否定することはなかった。
沈黙は時に肯定を意味する。
ルーラーの言い分、あづまの様子、そして教会の中に何も外部からの仕掛けがない事実。
全ての要素が、加害者は東雲あづまであると語っている。

「何故だマスター。何故、ルーラーを攻撃した?」
「……さっきゆった」
「……まさか、お前は」

あづまは、調べものをしに教会に行くと言った。
しかし、ルーラーに話を聞きに行くとは言っていない。
此処でスサノオにもようやく事の真相が見えてくる。
なんということだと、唇を噛む他ない真実だったが。

あづまは嘘をついていない。
最初から彼女はルーラーと戦うつもりだった。
いや、正しくはそうではない。
あづまは元よりルーラーという手頃な"最強"を使って、此処での自分の限界を調べようとしていたのだ。

それを予想出来なかったスサノオを誰が責められるだろう。
どんなサーヴァントでも、まさか自分のマスターがそんな暴挙に出るなどとは思わない。
人間がサーヴァントに挑む時点でおかしいのに、あろうことかルーラー相手にそれをやるなんて。
聖杯戦争のなんたるかを理解している者の行動とは到底思えない、とんでもない自殺行為だ。

「目的はどうあれ、ルーラーへの反逆行為はペナルティの対象だ。
 この場合なら令呪一画の没収あたりが妥当だろうが……」

そう、ルーラーを攻撃しないのは単に強いからではない。
多くの場合、彼らはサーヴァントやそのマスターにペナルティを下す力を持っている。
反逆が成功したならともかく、失敗すれば後の聖杯戦争で大きなハンデを負うことになりかねない。
そして今回などは、もはや言い逃れのしようもなかった。

「まあ、魂胆は理解出来る。
 主従間で企てた襲撃でもなかったらしいのでな……今回は不問としておこう」

その言葉を聞き終えるのと、バーサーカーが動いたのは同時だった。
座り込んだままのあづまを抱き上げ、床面が陥没するほどの勢いで地面を蹴り、まさに脱兎のごとく逃走。
数秒とかからない一瞬の内に、荒々しすぎる訪問者達は教会を去っていった。
それを見届け、ルーラーは感心したような顔をしているからおかしなものだ。

彼にとって東雲あづまの暴挙は、怒りを覚えるたぐいのものではなかったらしい。
いや――むしろその逆のようですらある。
そんな彼を怪訝な目で見つめるのは、裏に隠れていた美遊・エーデルフェルト。
ルーラーですらない偽りの監督役を従える、表向きは管理用のNPCとなっている少女だ。

「……どうして処罰しなかったの?」
「何も情けをかけたわけではないさ。
 サーヴァントが手を出してくるようなら、容赦なくペナルティを与えていた」

そして、理由はそれだけではない。
そのことが美遊には分かっていたから、視線には少なからず責めるような色が混ざっている。
自分の力の底を試すため、一番分かりやすい実力者と見てルーラーである自分を実験台にする。
まさしく、光と意志の力を愛するこの男が好きそうな手合いだ。

共犯者からの揶揄するような視線とまともに相撲を取るでもなく、ルーラーは二人が出ていった扉を見つめる。
とんだ暴れ馬のマスターを掴まされたバーサーカーには同情するが、あの少女は"悪くない"。
魂が闇の方に偏っているのが残念でならないというほど、多くの資質と可能性を秘めた少女だった。
穴熊を決め込んでたまたま生き残れたわけではないのだと、あの戦いぶりを見れば一発でわかる。

「まずは一日目。存分に見せてくれたまえ、君達の輝きを」

時刻は午前8時を少し過ぎた頃だった。
聖杯戦争最後の三日間はまだ始まったばかり。
波乱と激闘で溢れ返るべき戦いのスタートとしては、上々の波乱だろう。
ギルベルトと美遊、二人の黒幕は緩やかな嵐の予兆を既に感じ取っていた。


【D-10/冬木教会/一日目 午前】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[令呪・聖鉄]:三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:管理NPC扱いのためそもそも必要ない
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を見守る
1:この男は……

【ルーラー/セイバー(ギルベルト・ハーヴェス)@シルヴァリオトリニティ】
[状態]:健康
[装備]:長剣
[道具]:なし
[所持金]:ルーラー扱いのためそもそも必要ない
[思考・状況]
基本:聖杯戦争の運営を行う
1:バーサーカー主従(東雲あづま&スサノオ)に期待
[備考]
※真名看破のスキルにより、バーサーカー(スサノオ)の真名を把握しました。




「危ないところだったんだ。理解しているのか、マスター」

スサノオは、あづまを抱えながら人通りのない道を疾走していた。
理由は当然、教会から少しでも離れるためだ。
ルーラーは自分達を不問に付すと言っていたが、戦いを嗅ぎ付けたハイエナがやって来ないとも限らない。
状況を立て直す意味でも一度退くべきだと、スサノオは判断した。

春になったとはいえまだ肌寒さの残る朝の空気。
それを切り裂きながら駆け抜けるバーサーカーとそのマスター。
曲がりなりにも狂戦士を名乗る者とは思えない冷静な口調で主を叱責する彼だったが、正直なところ暖簾に腕押しだった。

「だいじょうぶ、なんとなくわかったから」
「……そういう問題ではない。
 相手がルーラーだったことを抜きにしても、今後は二度とサーヴァントに挑むような真似はするな」

ルーラーとの一戦で、あづまは此処での自分の限界がある程度分かったようだった。
しかしスサノオにしてみればまるで安心は出来ない。
彼女が、必要とあらばサーヴァントだろうが殺そうとする思考の持ち主だと判明したからだ。

東雲あづまは殺意の塊だ。
聖杯という目的のためなら、あづまはいくらでも殺すだろう。
マスターでもサーヴァントでも関係なく、さっきのように殺しにかかる。
出来る出来ないではなく――やってしまう。それに取り組んでしまう。

「……あいつはやだ」
「? ルーラーのことか」

こく、とあづまは頷く。
あづまが他人を嫌いだということ自体まず珍しい。
彼女にとって他人とは無価値で、見るに値しないものであることがほとんどだからだ。
そのあづまが明確に好き嫌いを表明するということは、それすなわちよっぽどのことを意味している。

「……あいつ、ちょっとこわかった」

それが強さを指して言っているわけではないことに、スサノオは気付かない。
あづまは被虐待児として、他人の人格や抱える歪みに人より敏感だ。
戦っている間中、あづまは攻撃が当たらないことへの苛立ちに加えて、ルーラーへの微かな恐怖も感じていたのだ。
あの公明正大に見える、裁定者のサーヴァントに。

ルーラーの笑みにあづまは闇を見た。
どす黒く、痛くて苦しい暗さを見た。
自分が、ではない。
他人をそんな風にしてしまう気配を、あの男からは確かに感じたのだ。

――東雲あづまは復讐鬼だ。
自分を痛め付けた大嫌いな家族を殺すためなら、全ての敵を殺すまで止まらない。
しかしあづまは怪物(フリークス)ではあっても、無敵ではなかった。
彼女はただ人より負の思いが強いだけの、弱々しい少女に過ぎないのである。


【C-10/路地/一日目 午前】

【東雲あづま@世界鬼】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[令呪・聖鉄]:三画
[装備]:なし
[道具]:文鳥ちゃん(偽)
[所持金]:小銭が少しある程度
[思考・状況]
基本:マスター全員殺す
1:さっさと殺して帰りたい
2:ルーラーちょっとこわい
[備考]
※アリスとしての能力には以下の制限がかかっています
  • 複雑な機能を持つ武器、道具の製作は不可能。
  • 生命エネルギーの代わりに魔力が消費される。

【バーサーカー(スサノオ)@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本:願いはないが、サーヴァントとしてマスターを守る
1:あづまをサーヴァントとは戦わせないつもりだが……

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最終更新:2017年05月31日 21:29