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イベント14 食糧増産命令【なぜか終わってみれば双海さん祭り】

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【なぜか終わってみれば双海さん祭】

作:歩露(PL:ほろ)


芥辺境藩国は砂漠と海の間にあります。

 砂漠には、あまり生き物は住めないので、基本的に食料不足になるのでは、と思われるでしょう。
そんなことはありません。砂漠にも、食べられるものはあるのです。
大切なのは、まず気合です。
                           芥辺境藩国、国民募集のお知らせより抜粋


オアシスの中、歩露はつぶやいた。
「この…木の実はどうだろう」
歩露は、赤い実を手に取ってみた。見た目は合格だった。
ああ、これは噛むと甘酸っぱくて、いい匂いがして、とても気持ちよくなれるんじゃないだろうか。
思わず口に運びそうになり…、双海環(ひょっとすると天使)に手をはたかれた。
「歩露君! それは駄目だよ! ちょー毒だよ!」
「な、なるほど、超毒ですか」
「ちょーだよ!」
彼女はなぜか、野生植物に詳しい。理由を聞いたら「吏族だからね!」と言われた。なんとなく納得してしまうのは、彼女の人徳だろうか。
はああ、とため息を一つついて、歩露はかばんを背負いなおし、再び一行と共に歩き始める。
まだ成果は上がっていない。

彼らは、食料増産のために、オアシスの探索をしていた。
なんでそんなに沢山いるのかー、と言いたくなるほどの食料を用意せよと、尚書省からお達しがあったためだ。
現在、各国はあわてて食料増産を行っている。

 芥辺境藩国もその例に漏れず、もっと早く言ってくれとぼやきながら、てんやわんやしている状態だ。
その一方策として、オアシスの未調査部分の探索が行われることになったのだった。
地図で言うと、王宮から橋を渡った向こう側である。
この区域は人手不足により、一応の橋をかけただけで、未調査だったのだ。

 何をするにも人手不足がついて回るのが、中小藩国の悲しさというやつかもしれない。
まあ、何か食べられるものが見つかればラッキー、ダメならダメで、未調査区域の探索が済むというわけである。
この仕事を任されたのは、歩露、双海環(多分天使)、そして、新国民の2人であった。

「でも、すごいオアシスですね…。オアシスって言うより、まるでジャングルみたい」
新国民の一人、松林ぼたんが、感嘆したように呟いた。
彼女は自分のトラックが壊れたために、この国で暮らすことになったらしい。
だが、特に出て行こうとする気配はない。

 こちらとしてはありがたい話であるが、ひょっとしたらトラック云々は仮の理由なのかも、とも言われている(実はオアシスの泉の女神なのではとか、そんな噂もある。流したのは筆者だ)。
「あのー。なんですか? オアシスの女神って」
わあ、後ろから覗いてはいけない。
「提出して、藩王に公式文書として掲示されてから見てくださいね」
「あ、はい。すいません。でも、何だか照れますね、文族の方に自分のことを書いていただけるって」
にこにことぼたんさんは言った。
歩露は、うわーそんなこと言われたらこっちも照れますってひー、とか思いながら慌てて笑って、
「いえいえ、そんなそんな。本当に大したことじゃないですから、ええ。間違いなく」
と言った。うん。やっぱり女神かもしれない。

ふう。さて、もう一人の新国民は、霧原 涼である。
彼はまだ少年でありながら、この国のために働いてくれる、若き技族だ。
大国ではなく、わざわざこの藩国に来てくれたのだった。どこかが琴線に触れたのかもしれない。
この国の、どのあたりを気に入ってくれたのだろうか。

はっ! ひょっとして自分の文章を…!?

「…あの、すいません。そういうわけでは…」
「…あ、うん。わかってる…。わかってるから。ちょっと書いてみただけ…。
 あ、後で掲示されてから見てね」
「はい…すいません」
ああ、いい子だなあ。この子には戦場に出てほしくはないな、と歩露は思った。
うん。子供を戦場に出さない。これを一つの目標としよう。

がさがさと、オアシスの奥へ奥へと、足を踏み入れていく一行。
気がつけば、もう半日程が経っていた。

 一行の表情も、疲労の色が濃くなってきていた(一人(柱)を除いて)。
「やっぱり大量の食べられる植物なんて、そうそう都合よく転がってはいませんねえ」
「そうですね…」
と、それを聞いた双海は、大丈夫だよ! と大きな声を出した。
「そんなことないよ、きっと何かみつかるよ?」
あきらめムードを笑顔で塗り替えつつ、元気に双海は先頭を行く。
それだけで、不思議と希望が沸いてくるのがありがたい。
こくこくと涼も頷いていた。みんなの顔に笑顔が戻っていた。

と、そのとき!
「ああーっ! こ、これは!」
双海が叫んだ!
「な、何!?」
歩露が身構えた!
そのとき、我々が目にしたものは!
「「(なぜ探検隊風?)」」

それは、赤い花、だった。
大量の蔓の上に、一輪だけ、ぽつんと咲いている。

「あれ、これだけ引いてみたのに、ただの花? なーんだ、脅かさないでくださいよ」
歩露が、ほっとした顔で、赤い花に顔を近づけた。
「あ、それダメ!」
双海は慌てて警告を飛ばすが、間に合わない。
え? という表情のまま、歩露は、鼻面を咬みつかれた。…花が咬むのお!?
続いて、葉の中に隠れていた大量の花が、蔓の先端に乗って飛び出してくる。

 こ、こんな凶暴な植物が我が国に自生していたとは!
「その花はテリオビって言って、世界的にも類のない、食動物植物なんだよ!」
「だ、大自然の神秘ですね…!」
「ほんとに大自然かなあ…? なんかの人為なんじゃ…?」
いや、冷静に評価観察感想してる場合じゃなくて!
全身をくまなく噛み付かれたり、絞められたりする歩露。
「い、痛い! た、助けてくださいー!」
「うん! こんなこともあろうかと!

 特殊植物災害対策用特殊戦闘仕様(中略)超強力支援兵装、通称枝切りはさみをもって来ているんだよ!」
「あの、歩露さんが、だんだん静かになってきているんですが…」
「あ、いけない! 今助けるよ!」
双海はとおーっと元気よく声を上げ、鋏を振り回し、花を断ち切り始めた。
「テリオビは花を全部切り落とせば、動かなくなるんだよ!」
手足のように鋏を振り回し、花を落とす。
背後から迫った花を華麗にかわし、振り向きもせずに蔓を断つ。
「す、すごい、双海さん…!」
「吏族だからねー!」
いやだから吏族ってそんなんだっけ? と思いながら歩露は解放され、気絶する。

三分後。花を落とされ尽くし、動かなくなったテリオビの前で、歩露は目をさました。

 座ったまま、よろよろと呟く。
「…結局、食料は見つかりませんでしたね…」
ああ、なんということだろう。体中をくまなく噛み付かれまくって、この結果。

 ちょっと、いやだいぶ泣きたくなる。
だが、双海さんはやはり元気だった!
「ふふふ、心配はいらないよ! テリオビは食べられるんだから!」
「うわ、やっぱり!?」
なんて安易な展開だ。
しかし、さすがにこの量じゃ足しにはならないのでは…。
「大丈夫だよ! テリオビは集団で自生する習性があって…! ほら来た!」
無数の蔓が、全方位で立ち上がった。
「「「な、なんだってー!」」」
「総員突撃! みんなのご飯を稼ぐんだよー!」
死闘が始まった。

宮廷・藩王遊戯(執務)室。摂政不在の中、代理をつとめているのは吏族、ゲドーである。
「先ほど報告がありました。オアシスの中で、大量の食用植物が見つかったそうです」
藩王は顔を輝かせた。
「すごいじゃないか! すばらしい戦果だよ、これは!」
「ええ、ですが…」
ゲドーは顔を曇らせた。
「どうしたんだい?」
「…まあ、百聞は一見にしかずとも言いますし」
ゲドーが合図を送ると、給仕役の白河 輝が、蓋を被せた皿を持って遊戯室に入ってきた。
机の上に、皿を置く。
「藩王、少し下がったほうがよろしいかと」
「…下がる?」
輝は、蓋を開け、後ろに飛び下がる。
きしゃー! 藩王の顔に、テリオビが飛び掛った。
「ナニコレー!? ちょ、痛いんだけど! …あ、なのに味はいい!?」
「ええ、火を通すと危険性は下がるのですが…。とても食べられたものではなくなってしまうのです」
「な、悩ましいなあ…」
ばたーん! ここで双海さん登場です!
「こんなこともあろうかと! 植物生体制御対策(中略)化学物質! 通称食塩を持ってきたよ!
 これを振り掛ければあら不思議! あっという間にテリオビはおとなしくなるのです!」
「お、おお! ちなみに、そういうことは先に教えてくれるとありがたいんだが!」

こうして、芥辺境藩国は一つの危機を乗り越えることができたという展開になると嬉しい!

「うん! 皆で頑張ったおかげだね!」
「ああ、つ、つかれました…」
「…ふうう」
「な、なぜ双海さん祭に?」

これからも、芥辺境藩国ヒロイン、双海環さんにご期待ください。

(と、勝手なことを言いつつ、続く)
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