【前夜祭】
作:小鳥遊(PL:ワカ)
祭りは準備が一番忙しくて、楽しい。
それは戦勝パレードだろうとI=Dressであろうと、変わりない……と、思う、多分。
それは戦勝パレードだろうとI=Dressであろうと、変わりない……と、思う、多分。
貧乏貧乏と国外だけでなく国内からも言われ続けた城内が、その瞬間だけは全くの嘘になるようにと、その姿を変えていく。
小鳥遊は城内を所狭しと走り回る藩王はじめ重臣や整備員たちの邪魔にならないよう、できる限り人口密度の低いところを選んでその様子を眺めていた。
彼自身に与えられた仕事は特にない。
小鳥遊は城内を所狭しと走り回る藩王はじめ重臣や整備員たちの邪魔にならないよう、できる限り人口密度の低いところを選んでその様子を眺めていた。
彼自身に与えられた仕事は特にない。
時間が押し迫っているという事で、仕事を教えている余裕がないのだった。
ちょっとした小間使いなどの仕事を何度かこなして、それだけだ。
重厚な石張りの渡り廊下には目に痛いほどの真新しい絨毯が引かれ始め、ロール状の姿をいたるところにさらしている。
その脇に控えるようにして、見下ろす先の広間に一体のI=Dressが控えるように槍を構えて立っていた。
その体は一部に重厚な地金の色をさらしていたが、大部分は華やかな赤や黄色に彩られている。
この日のために、わざわざ摂政自らが儀礼用のI=Dressを設計したその機体が勇壮な槍を構える姿は、たしかにこの城に映えていた。
とはいっても、まだ作業は終わっていないのか、機体のあちらこちらで整備員達が怒鳴りなら作業を行っていた。
とはいっても、まだ作業は終わっていないのか、機体のあちらこちらで整備員達が怒鳴りなら作業を行っていた。
現在立つ位置からでは見ることはできないが、目が血走っていることは分かった。
油まみれで走る後ろ姿や、大声を出して連絡を取り合うその姿が、鬼気迫っている。
そしてそれは、機体の塗装作業の指揮をとる摂政那限逢真も、全体の指揮を執る藩王荒川真介も例外ではなかった。
そしてそれは、機体の塗装作業の指揮をとる摂政那限逢真も、全体の指揮を執る藩王荒川真介も例外ではなかった。
「逢真、機体の塗装はもう終わった!?」
「まだ7割方だ、あと30分くれ!」
「悪いけど、時間がない! 20分でやってくれ!」
「分かった!!」
「まだ7割方だ、あと30分くれ!」
「悪いけど、時間がない! 20分でやってくれ!」
「分かった!!」
歩露先輩から、二人が恋人だという噂を聞いてしまったからかもしれない。
こんな状況下でも、藩王は楽しそうに見えた。
こんな状況下でも、藩王は楽しそうに見えた。
まあ元々お祭り好きなだけなのかもしれないンスけど、などと心の中でさえ言い訳をする自分に、小鳥遊は苦笑した。
「だからー、カメラさんはあの辺に待機して、王様のキラキラをしっかり取ってねっ!で私はあの辺り、みんなの脇で邪魔にならないように紹介するから!それからそれから……!」
「双海さん、キラキラじゃ分からないですよ……」
「双海さん、キラキラじゃ分からないですよ……」
件の渡り廊下では涼先輩、双海先輩の二人が、テレビ局と放送の仕方やスタッフの位置についての会議を行っていた。
身振り手振りを交えて表現する双海先輩を、少し恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、けれど要所要所で的確に誤解を解いていく。
鬼気迫る雰囲気の城内で、そこだけが少し華やいだ雰囲気に見えるのは、そこに女性が集中しているからだろう。
この国には女性が少ないと嘆く先輩を、小鳥遊は何人か見た覚えがあった。小鳥遊自身としては、そんなに気にはしていない。そもそもこの男は、あまり女性に慣れていなかった。
それにしても、二人のもたらす華やかな雰囲気の境界辺りが、逆に怨念じみた熱気に覆われているのは気のせいだろうか。気のせいだろう。いや、気のせいに違いない。
廊下の手すりから身を乗り出すようにして全体の指揮を執っていた荒川王が、脇で忙しなくパレードの参加者に指示を出している大車座に声をかけた。
「旗の搬入は終わった?」
「一応は。今は当日の衣装の搬入のほうに猫を回してます」
「メイクは」
「ちゃんと藩王の指示通り、少女マンガみたいにキラキラする特殊メイクを手配してます」
「分かった、ありがとう。
……そう言えば、瀧川さんには連絡つけた?」
「あ」
「一応は。今は当日の衣装の搬入のほうに猫を回してます」
「メイクは」
「ちゃんと藩王の指示通り、少女マンガみたいにキラキラする特殊メイクを手配してます」
「分かった、ありがとう。
……そう言えば、瀧川さんには連絡つけた?」
「あ」
二人の動きが一瞬止まる。脇にいたゲドー先輩がそういやいたんだっけ、忘れてた、と呟くのが聞こえた。
まあ、あの人微妙に地味だから、と歩露先輩が苦笑しているのも、同じく。
憧れの人の意外な扱いの低さに、小鳥遊は心の中で泣いた。否定できない自分が悲しい。
ほんの一瞬だけ、この国に来て良かったんだろうか、と考えてしまったのは、無理からぬことだと思いたい。
まあ、あの人微妙に地味だから、と歩露先輩が苦笑しているのも、同じく。
憧れの人の意外な扱いの低さに、小鳥遊は心の中で泣いた。否定できない自分が悲しい。
ほんの一瞬だけ、この国に来て良かったんだろうか、と考えてしまったのは、無理からぬことだと思いたい。
まあそこは猫である。立ち直りは早かった。
瀧川さんの事は今後の仕事として頑張ろうと気を取り直しつつ、改めて当たりに目を配る。
瀧川さんの事は今後の仕事として頑張ろうと気を取り直しつつ、改めて当たりに目を配る。
どの猫も皆、全身を粘ついた汗で濡らしていた。
誰もが寝ていないのか、目を真っ赤にして走り回っていたし、整備員にいたってはI=Dressの油で服も肌も薄汚れていた。
藩王や摂政の声もだんだんとかすれてきている。
誰もが限界が近いのか、息が上がっていたし、どこか意識が朦朧としているような猫も何匹もいた。
それでも、誰も作業の手を止めようとはしなかった。
ロクに寝てもいないのに、働きづめでもう限界のはずなのに、それでも泥のような体を引きずって、誰もが休むことなく作業に望んでいる。
それでも、誰も作業の手を止めようとはしなかった。
ロクに寝てもいないのに、働きづめでもう限界のはずなのに、それでも泥のような体を引きずって、誰もが休むことなく作業に望んでいる。
――この国に来て、良かった。
心の底から、小鳥遊はそう思った。
そこにあるのは、遠い昔に置き忘れてきた何かだった。
瀧川の中に見つけて、惹かれていた何かだった。
それを、ようやく見つけた、そんな気がした。
大丈夫、まだ取り戻せるよと、誰かの声が聞こえた気がした。
そこにあるのは、遠い昔に置き忘れてきた何かだった。
瀧川の中に見つけて、惹かれていた何かだった。
それを、ようやく見つけた、そんな気がした。
大丈夫、まだ取り戻せるよと、誰かの声が聞こえた気がした。
そうだね、と、小鳥遊は頷いた。
頷いて、走り出した。
こんなにも幸せな状況で、こんな所で眺めているだけなんていうのは、もったいない。
頷いて、走り出した。
こんなにも幸せな状況で、こんな所で眺めているだけなんていうのは、もったいない。
夜はもうすぐ明ける。
昼になれば、きっと最高のパレードが始まるだろう。
昼になれば、きっと最高のパレードが始まるだろう。