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イベント32 新人歓迎キャンペーン【戦勝パレード舞台裏】

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【戦勝パレード舞台裏】

作:那限逢真・三影(那限逢真) 絵:那限逢真・三影(PL:那限逢真)


「式典用のI=D造りましょう!」
 どこかの誰かがそう言った。
 それが(一部の)人々に悲劇をもたらした。
 最初に悲劇に巻き込まれたのは技族の面々であった。
 ……ぶっちゃけ、ほぼ全滅だったのである。

 ・「大車座(PL:大熊座)」:試験中
 ・「松林ぼたん(PL:白牡丹)」:試験中
 ・「霧原涼(PL:お涼)」:パレード準備中&I=D設計技能なし
 ・「那限逢真・三影(PL:那限逢真)」:辛うじて作業可能

――と言う状況下だった。
 これ以外のI=D設計に携わった事のある大族も全滅。
 結局、摂政が頑張るしかない状況であった。
 ……というか、摂政以外誰も“コトラ”を書いたことがなかった。


「式典用I=D!?」
 王都にある最大規模のI=D工場の一室にある会議室。
そこに集められた整備士たちは、一様に驚愕の顔を向ける。
「パレードまで、あと二日しかないじゃないですか!?」
「今から設計して開発するなんて無理ですよ!」
 整備士たちが悲鳴にも似た叫びを上げる。
「そう。だから、この方法で式典用機をでっち上げる」
 それに対して持ってきた資料をスクリーンに映す。
 映ったのは開発が進んでいるアメショーの改良型“コトラ”。
 そして、それの追加装備の設計図。
「これ……増加装甲ですか?」
「そうだ。アメショーに元々あった増加装甲システムを利用して式典用の装甲を作る」
「なるほど……増加装甲なら……いや、間に合わないか?」
「各工場で装甲か武器をそれぞれ一つ製作してもらえれば間にあう」
「機体は? 藩王の使ったアメショーは修理終わってませんよ?」
「コトラだって、試験用の一号機と二号機しか……」
「基本的に突っ立っているだけだから、細かい調整は出来ていなくても良い」
 整備士たちは手元に配られた同一の資料を熱心に読んで質問をする。
 それに逐一答えて指示を出す。
 そして、ある整備士が呟く。
「……なんで、マントつけているんです?」
「オレと瀧川がカッコイイと思ったから」


 ……そう。この増加装甲にはマントが含まれている。
 コトラに増加装甲をつけて式典用にする事にした後のことだ。
増加装甲の形状は国民にアンケートを取って決めた。
 結果として、変形機構を無視した西洋甲冑のような装甲になったわけだが……。
 たまたま博物館に来ていた瀧川が、この設計図を見て一言。

「マントつけた方がカッコイイじゃん?」

 それ以降はノリノリだった。
 瀧川と二人で管理人室兼執務室兼自室に篭って機体の設計で徹夜した。
「西洋風だからやっぱり槍とか剣だろ?」
「銃剣付き歩兵銃持たせるつもりだったんだけど?」
「マント着てるんだから変だろ。それ」
「! そうだ。確かトモエリバーの設計図が……」
「トモエリバー?」
「わんわん帝国のI=D。仕様書手に入れて設計図だけ作った……ってあった!」
「お。いいじゃん。これ! これ持たせようせ。これ」
 ――と言う感じで、あれよあれよと言う間に設計図が出来上がったのだった。
 ……多分に“歩兵支援”というコンセプトからずれてはいたが……。


 それから二日。
 整備士達は地獄のような突貫作業を潜り抜けて、一機のI=Dを完成させた。
 “コトラ式典仕様重装甲型”。
 そう銘打たれたI=Dは日の光の中、赤と黄の装甲を輝かせていた。
 手には100mm砲を仕込んだ槍。腰には銃剣。肩にはマント。
 予定通りの出来だった。……いや、予想以上の出来だった。
 予定では細部の調整までは考慮に入れられていなかったが、彼らはそれまでやり遂げた。
 まさに、技術大国を目指す芥辺境藩国の底力であった。

 コトラの足下に死屍累々と広がる、倒れた整備士たち。
それを視界の端に収めながら、ネウはコトラに呟く。
「タキシード間に合ってよかったね」
 コトラは心持ち誇らしそうにマントを風に揺らせる。
 パレードはもう始まっている。
 あと10分もすれば、コトラも一緒に街へ繰り出すことになるだろう。
「……あ。オーマさんだ」
 視界の端に、アウドムラ攻略戦に出撃した国民や猫士たちの行列が入る。
 ネウは逢真がアメショーのテストパイロットで出向した時に出会った整備士だった。
 コ・パイロットとして同乗し、I=D技術を学ぶために芥辺境藩国に来た猫士。
 藩王以下、一部の国民は「また誑しこんだんだ。絶対」と実しやかに噂している。

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 ネウは見えないと分かりながらもパタパタと手を振る。
 見えたのか、逢真がこっちに向かって手を振ったのを見て、ネウは赤くなった。

「うおおお! カッケ~!」
 唐突にネウは現実に引き戻される。
 ネウが視線を足下に移すと、瀧川がコトラを見上げて感激していた。
「なぁなぁ! これって動くのか?」
「うん。整備班長は『これならすぐにでも出撃できる』って言ってたよ」
「乗ってもいいよな?」
「じゃぁ、移動させる時にお願いします」
「お! 話わかるじゃん!」
 瀧川の台詞にネウは苦笑して返す。
「オーマさんが『瀧川なら絶対乗りたがるから、乗せてやれ』って言ってました」


 パレードの最中、王宮の玄関付近に待機されているコトラに視線を送る。
 足下には死屍累々と広がる倒れた整備士達。
 玄関口に白い物が見えた。きっと瀧川だ。
 視線を動かすと、こちらに向かってパタパタ手を振るネウがいた。
(突貫作業をした割には元気だなぁ)
 その光景を見て苦笑しつつ、ネウに軽く手を振る。
 そして、様々な思いを胸にパレードは進む。
 偽りの平和と虚ろな勝利を内包して……。


(筆者注:挿絵はイベント33提出イラストの背景の背景です)
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