作:小鳥遊
「やっぱり、こっちにも来ましたか……」
対空機関砲を装備したコトラのコクピットの中でに、常世知行の声が聞こえて、小鳥遊はゴクリとつばを飲み込んだ。
通信が響く前から、レーダーには敵を示す光点が点滅をしながら中心へと向かってきている。敵の対地部隊だ。
いつも戦闘に出るときと同じように、指先から手のひら、手首、肘、肩と、震えが全身に広がっていく。マトモな思考が残っている間にだけ現れる、死の恐怖。
震えは首筋から顎へと移り、歯の根がガチガチとぶつかる音だけが、耳に響く。
通信が響く前から、レーダーには敵を示す光点が点滅をしながら中心へと向かってきている。敵の対地部隊だ。
いつも戦闘に出るときと同じように、指先から手のひら、手首、肘、肩と、震えが全身に広がっていく。マトモな思考が残っている間にだけ現れる、死の恐怖。
震えは首筋から顎へと移り、歯の根がガチガチとぶつかる音だけが、耳に響く。
怖い、怖い、怖い、怖い。
今にも機体を反転させて、この場から逃げ出したい衝動に駆られるのを、自分の体をきつく抱いて必死で耐える。
今から逃げ出したところで間に合わないことも分かっていた。それでも、恐怖はぬぐえない。何もかもから逃げ出して、膝を抱えて目を閉じていたい、そんな誘惑に駆られてしまう。
それでも、そうすることはできなかった。
今にも機体を反転させて、この場から逃げ出したい衝動に駆られるのを、自分の体をきつく抱いて必死で耐える。
今から逃げ出したところで間に合わないことも分かっていた。それでも、恐怖はぬぐえない。何もかもから逃げ出して、膝を抱えて目を閉じていたい、そんな誘惑に駆られてしまう。
それでも、そうすることはできなかった。
「はあ……ここで負けたらサヨコさんまで巻き添え食らっちゃうなあ……ああ、まずいまずい……」
焦ったような早口で、それでもどことなく軽妙な、そんなゲドーの声が聞こえる。
脳裏に浮かぶ、自分勝手で理不尽で、でも快活でかわいらしい、そんな王猫の娘の姿。
それを起点として、様々な光景が浮かぶ。
藩王、王猫、摂政、同僚と友達、家族、知り合い、顔なじみ。
沢山の知っている人がいて、沢山の知らない人が自分たちの背後にいる。
そう思うと、いくら震えようと、怖かろうと、逃げ出すわけにはいかなかった。
脳裏に浮かぶ、自分勝手で理不尽で、でも快活でかわいらしい、そんな王猫の娘の姿。
それを起点として、様々な光景が浮かぶ。
藩王、王猫、摂政、同僚と友達、家族、知り合い、顔なじみ。
沢山の知っている人がいて、沢山の知らない人が自分たちの背後にいる。
そう思うと、いくら震えようと、怖かろうと、逃げ出すわけにはいかなかった。
「守りきりましょう。……絶対に」
静かな声でそう呟いたのは、霧原涼だった。それを聞くだけで震えが止まるような、そんな決意に溢れた声だった。
まだ10台も半ばの、自分と歳も変わらない友達の凛とした決意に、震えは殺された。
自分の体にまわした腕をゆっくりと解く。手は前に。操縦桿を握る。見るのは、ただ明日のみ。
まだ10台も半ばの、自分と歳も変わらない友達の凛とした決意に、震えは殺された。
自分の体にまわした腕をゆっくりと解く。手は前に。操縦桿を握る。見るのは、ただ明日のみ。
「うん、絶対に、守ろう」
小さな声、かすれて消えてしまいそうな声。恐怖に震えてしまうのを必死で隠す声。
それでも、小鳥遊は応えた。
敵は近く、明日を守るための戦いが始まる。
それでも、小鳥遊は応えた。
敵は近く、明日を守るための戦いが始まる。