誕生、ガンダムタッグ!


「……は? 今、何て?」
 テンカワ・アキトは思わず間抜け声を出していた。
「だから、名前以外は何一つ覚えてないんだな、これが。俗に言う記憶喪失。つまり悲劇の主人公。なんだな、これが」
 通信回線の向こう側には、陽気な印象の若い男。たった今、自分を打ち負かした“海賊”のパイロットである。
 アクセル・アルマー。アキトがこの男に惨敗したのは、今からほんの数分前の事である。
 突発的な遭遇により半ば恐慌状態に陥っていたアキトではあったが、
相手が自分を(少なくともすぐには)殺す気が無い事を知って、今では冷静さを取り戻していた。
「記憶喪失……って、本当なのか?」
「残念ながら本当の事なんだな、これが。いやまいったね、まったく」
「……その割には、なんだかやけに気楽な感じがするんだけどな」
「ジタバタしたって何か事態が好転するわけでもなし。だったら、前向きに生きていくのが一番! なんだな」
「はあ……」
「? どうした?」
「いや、なんか……気、抜けて……」
 ついさっきまで、決死の覚悟で挑もうとしていた機体。そのパイロットの明るさに中てられ、コクピットの中で脱力する。
 ……だが、それはアキトにとって良い方向に作用していた。
 元々がコック志望で、極限状態に耐性が無い彼の事である。
あのまま冷静な判断力を失っていれば、近い内に精神の均衡を欠いていたに違いない。
 そういった意味で、アクセルとの接触は僥倖であった。この、底抜けに陽気な男と出会えた事は。
「まあ、そういうわけなんで、もし俺の事を知ってるんだったら教えてもらいたいんだが……」
「……悪いけどさ。俺、あんたの事知らない」
「ありゃま、そりゃ残念」
 アキトの言葉に肩を落とすアクセル。だが、残念がる言葉とは裏腹に、その口調は明るい。

「あんまり気を落とさないんだな。ええっと……アクセル」
「まあ、元々が行き当たりばったり。もし運が良ければ、くらいの気持ちでいたわけだしな」
「……凄いな。俺がもしアクセルの立場だったら、そんな冷静じゃいられそうにないよ」
「いやいや、わからないもんだと思うけどね。
 むしろそういう事を言う人間ほど、記憶喪失になっても自分の事を気にしなかったり……」
「そういうものかな?」
「いや、断言はしないけどさ」
「なんだよ、それ……」
 アクセルの言葉に苦笑する。
 ……この男と一緒に居ると、ナデシコの仲間達を思い出した。
何と言うか、この明るさが似ているのだ。あの、懐かしい仲間達に。
「アクセルは、これからどうするつもりなんだ?」
「まあ……さしあたっては、記憶探しかな。俺を知ってる人間がいないか、探し続けてみるつもりだけど」
「こんな、殺し合いが続けられてる中で……?」
「うーん……まあ、その辺りは少し不安だが、たぶんなんとかなるだろう。
 このゲームに乗ってない人間も、それなりにいるんだろうし。たとえば、今の俺たちみたいに」
「けど……中には、本気で殺し合いを始めてる奴らもいるんだ! 俺だって、そいつにやられて……逃げるので精一杯だった……」
「なるほど、それで機体がボロボロだったわけか」
「…………」
 ……さて、どうするか。
 目の前で沈んでいる男を見ながら、アクセル・アルマーは思案する。
 このまま一人で記憶探しを続けるか、それともこのどうにも放ってはおけない人間と行動を共にするか。
 ……恐らくは記憶を失う以前のものであろう、冷徹な思考がアクセルに告げる。
 パイロットとしての技量は未熟、機体の状態も壊れかけ。この男に利用価値は無い、足手纏いになるだけだ、と。
 だが……。

「……まあ、一度話しちまったんだ。このまま見捨てるってのも、ちょっとどうかと思うしな」
「アクセル……?」
 アクセル・アルマーは選択した。かつての自分ではありえない、その答えを。
「さっきも言ったとおり、これから俺は記憶探しを続けるつもりだけど……」
 そこで一旦言葉を切って、アクセルはアキトの顔を真剣に見詰める。
「もし良かったら、俺と手を組むかい?」
「え……?」
「お互い、一人じゃやれる事も限られてくるわけだしな。
 それに、そっちの機体はボロボロだ。このままお別れしたんじゃあ、ちょっと後味悪いしな」
「い、いいのか……?」
「俺みたいなナイスガイは、たとえ相手が男でも嘘を吐いたりしないのさ」
「あ、ありがとう! 助かるよ……!」
「いやいや」
「ほんと……ほんと、どうしようかと思ってたんだ……俺一人で、こんな殺し合いで勝ち抜くなんてできそうにないし、
 それに……ルリちゃんも探さなくちゃいけないし……」
「……ルリちゃん?」
「ああ……知り合いの子なんだ……」
「なるほどねえ。その子の事を助けたいわけだ」
「……ああ、助けたい」
「それじゃ、方針は決まりだな。俺の記憶と一緒に、そのルリちゃんって子を探すとしようか」
 そう言って、アクセルはクロスボーンの左手をνに向けて差し出した。
「……?」
「友好の証といえば、昔っから握手と決まってるだろ?」
「あ…………」
 言われて、アキトもまた左手を差し出す。
 ――そう。ここに、仲間は誕生したのだ。

「……ああ、そうだ。そういえば、一つ聞くのを忘れてたんだが」
「忘れてたって……何を?」
「お前の名前、何て言うんだ?」
「……………………は?」
「いや、そういえば成り行きで話をする事にはなったが、まさかこうやって一緒に行動する事になるとは思ってなかったし。
 だったら名前なんか別にどうでもいいと思って聞かなかったんだが……」
「……………………テンカワ・アキト」
「そっか。それじゃ、アキト。改めてよろしく! なんだな♪」
「ああ……(ひょっとして……俺……少し、早まったかも……)」



【アクセル・アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
 パイロット状況:良好(会話中に疲労は回復)
 機体状況:損傷なし
 現在位置:G-5川の近く
 第一行動方針:記憶を探す
 第二行動方針:アキトの仲間探しに付き合う
 最終行動方針:ゲーム脱出、記憶を取り戻す】

【テンカワ・アキト 搭乗機体:νガンダム(逆襲のシャア)
 パイロット状況:軽い打撲程度(アクセルとの接触によって精神状態は回復)
 機体状況:全身ボロボロ、右腕無し、腰部分のフレーム多少歪む
 現在位置:G-5川の近く
 第一行動方針:アクセルの記憶探しを手伝う
 第二行動方針:ルリを探す
 最終行動方針:ゲームから脱出】

【初日 15:00】





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第48話「ツートーン遭遇 アクセル・アルマー 第85話「合流へ
第48話「ツートーン遭遇 テンカワ・アキト 第85話「合流へ


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最終更新:2008年05月29日 04:22