夕焼け空、狂気の闘将


『アラド・バランガ、アルマナ・ティクヴァー……』
聞こえてくる声を、うすらぼんやりと彼女は聞く。
彼女の機体が握り締めた刃には、細かな肉片が付着している。
その先端を、剥き出しになったエヴァ初号機の体に突き立てると、彼女は焦点の定まらない瞳でモニターを見つめ続ける。
男の声が響いてきたとき、ようやく彼女――惣流・アスカ・ラングレーは振り乱していた手を止めていた。
『……フェルナンド・アルバーグ、三輪防人』
羅列される死亡者名が耳に入ってくる。だが、そんなことはアスカにとってどうでもよかった。
もはや標的はいないのだ。誰が死のうが関係ない。

 殺す。
 誰であろうと殺す。全て殺しつくす。
 そうすればいずれ辿り着く。シンジを殺した人物に。
 そのために殺す。シンジを殺した奴を殺す。そいつを探し出すために殺す。
 ころすコロス殺す。

『以上、12名だ。……なかなかの結果じゃないか。その調子で、快適な殺し合いを楽しんでくれ』
死亡者は以上。その意味を理解するのに数秒かかった。そして、アスカははっとする。彼女の虚ろな瞳がゆっくりと光を帯びていく。
 希望の光などとはほど遠い、ギラついた光だ。
「ふふふっ……あはははは、ははははははははははっ……!」
コクピットの中、アスカは凄絶な哄笑を響かせる。それは狂気と、殺意と。そして、悦びが入り混じって響き渡る。
 まだ自分にはチャンスがある。この手で、碇シンジを殺すことができる。
 そう思うと、笑みが止まらなかった。

 勢いよくダイモシャフトを引き抜く。そのとき、放送が続いて聞こえてくる。
『続いては禁止エリアだ。今から二時間後、D-3とE-7は進入禁止となる。
 進入すると、君たちの首輪が起動するので注意することだな……』
アスカは現在地を確認する。近い禁止エリアは西。アスカはそこを避けて進路を考える。
 エヴァ初号機は大破していた。ということは、運よく脱出したというコトだ。
 機体を失った場合、シンジならどうするか。その答えを、アスカはすぐに出す。
「逃げるに決まってるわよ。臆病なバカシンジならね」
そう一人ごちると、地図を確認する。東に森が広がり、その中心に何か施設らしきものが記されている。
森にしろ施設にしろ、機体を隠すこともできそうだ。ならば、人間が単独で逃げるならもってこいのルートだろう。
「今度こそ、私がこの手で殺してあげる」
先ほどの戦闘で、エヴァ初号機を十分に嬲った。今度は生身のシンジを、直接いたぶることが出来る。
 そう考えるだけで愉悦が走る。シンジが恐怖に怯える姿をイメージするだけで、込み上げる笑いを抑えられない。
「待ってなさいよ、シンジ……」
浅黄色をした夕焼けの空へと、狂気を内包した闘将は飛び立った。



【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス) 
 現在位置:F-6(G-6へ移動中)
 第一行動方針:碇シンジの捜索
 最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す】

【初日 18:10】





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最終更新:2008年05月30日 04:25