武人、武道家、その心
「まずは、皆が待ち望むこれまでの死亡者発表と行こうか・・・」
…アラド・バランガ
…アルマナ・ティクヴァー ・・・・・・
「・・・・・・そんな馬鹿な」
バランはうわごとの様に呟いた。
放送をバランが聞いたのは、アルマナを探すため彼は道路を移動していた時のことだった。
「・・・とする、精々聞き逃さん様にしたまえ」
淡々と放送が進み、ついに放送が終わった。
「そんな馬鹿なことがあってたまるか!あの姫が!あの姫が死んだなどということなど!
絶対にありえぬ!ユーゼス!貴様一体何を考えておるのだァ!!!」
足を止め、空に浮かぶヘルモーズに叫ぶバラン。当然答えは返ってこない。
それでもバランは叫び続ける。死んだということが心に入りこまないように。
決して信じないように。自分に暗示のように叫び続ける。いや、実際にそうなのだろう。
だが、その声もいつか止まる。そしてコクピットから漏れ出す嗚咽。
武人としての心得ゆえなのか、決して涙は見せないものの、
日ごろ彼からは絶対に聞けないであろう嗚咽と慙愧の念が聞こえてきた。
「く・・・・・・この、このバラン・ドバン一生の不覚・・・・・・!守らねばならぬ姫を守ることもできず・・・
一人生き恥をさらし・・・一体何が、何が武人だというのか・・・・・・」
禁止区域になる場所から北へ夜の道路を東方不敗は疾走していた。
彼は放送を聞き、このゲームに乗り、
殺人をおこなう者に静かに怒りを燃やすとともに、悲しき人の無常感を感じていた。
ゲームが始まって12時間が過ぎ、12人が死んだ。自分が倒した痴れ者を除けば11人。
あそこにいたものは大半が未来ある若者ばかりだった。
その命と未来があっさりと消えていく。
さらに、訳の分からぬこんなゲームに乗せられ、必死に生き残るために、
殺したくもない人を殺した者もまたいるだろうという2つのことに。
このゲームを作った仮面の男への怒りが込み上がってくる。
怒りで目を閉じ眉間にしわを寄せていたことに気付き、目を開き、
「―――ん?」
走っている道路の上に何かがいることに当方不敗は気付いた。
まだ遠くはっきりはしていないが、どこかで見たような気がしたため、
接近してみると、間違いなく彼がよく知るものだと分かった。
―――グランドガンダム―――彼が本来の世界で手下として使っていたデビルガンダム四天王の一角である。
しかし、遮蔽物などなくほぼ目の前だというのにまったく動かないグランドガンダム。
こんなところで寝ている、というのも考えがたいが―――
「!?何者だ!?」
あわてたように声とともにグランドガンダムが動き出す
「人に名を聞くときはまず自ら名乗るのが礼儀であろう!」
バックステップで距離をとり、東方不敗は言い返した。
「わが名はバラン・ドバン! 500年続くドバン家当主の武人であり姫をまも・・・く、」
そこでバランが言いよどむ。
「わが名はバラン・ドバン! 500年続くドバン家当主の武人である!
そちらこそ何者だ!何のためにこんなところにおるのだ!」
「わしは東方不敗!戦いに乗った痴れ者なら成敗してくれようと思っておったわ!
おぬしはどっちだ!答えてみせい!!」
その後しばらくの沈黙。そして、バランが重々しく口を開いた。
「東方(ひがしかた)に敗不(まけず)・・・おぬし名のある武人なのか?」
思ってもいない回答がそこで返ってきた。
「む?」
言葉の真意を考える東方不敗。が、その後の言葉はその予想を超えていた。
「もしそうであるならば、おぬしに武人として命を賭け戦いを申し込みたい!」
戦うべきは、ウラベや戦いに乗った者だけと思っていたが、こう申し込まれれば武道家として断るはずもない。
「堂々と名乗りを上げ戦いを申し込む、その意義はよし!ならばわしもそれに答えようぞ!」
「受けてもらったこと感謝する!いくぞぉ!」
「来ぉい!!」
グランドガンダムがこちらに腕を突き出し、突撃を開始する。
対して零影、それをかわし、カタナを引き抜き肩口に刃を切り込むものの、相手が大きいため深くは刺さらない。
その間にグランドガンダムは一度下がりカタナを引き剥がすのではなく、そのまま零影を殴りつけようとする。
急いで離れたところにさらに息つく暇を与えずグランドボンバーが発射された。
空中に飛び上がり、マキビシランチャーを素早くぶつけるが、
全く効いていないのか、グランドガンダムは零影の方に向き直り、
今度は4発連続でグランドボンバーを連発。そこでバランは目を見開いた。
驚くべきことに―――零影はグランドボンバーの弾の上に乗り、こちらに飛んだのだから。
先ほどから持っていたカタナを真っ直ぐ突き刺そうとする零影。
相手が回避運動をとることも考え、手裏剣もこっそり用意していたが・・・・
そのままカタナが突き刺さった。しかし同時にグランドガンダムの手が零影を挟み込むように迫る!
バランは全くかわそうとはせず、あえて受け、その直後のカウンターを待っていたのだ。
頭を下げ、ギリギリの位置で俺を避けるものの、バランスを崩し、零影は後退せざる終えなくなる。
それを見て、先ほどの4発などとは違い、数え切れぬほどの弾を連射するグランドガンダム
凄まじいまでの攻撃の連続。轟音が一帯に響き続ける。
(しかし、これは・・・・)
その戦い方に東方不敗は違和感のようなものを感じていた。
元々バランの戦い方は荒っぽいと言ってもおかしくはないだろう。しかし、これはどこかおかしい。
武道、それの基本は攻防一体。身を守るためにある。それなのにあまりにも防御と言う面が欠如している。
日頃のバランを知らぬものでも、一流の武道家である東方不敗は拳を交えそのことに気付き、東方不敗は何かを感じ取った。
一刻後・・・
零影を貫こうとグランドガンダムが腕を突き出し突撃するが、零影は後ろに飛び避ける。
距離があくすぐに向きなおし同時にグランドボンバーを連射するも、それも全てよける零影。
打つ、打つ、打つ、打つ、打つ、打つ。
よける、よける、よける、よける、よける、よける。
しばらくたってから、ずっと零影は反撃をせずよけ続けていた。
バランがついに叫ぶ。
「おぬし、なぜ仕掛けてこぬ!?攻撃せぬことには、わしは倒れんぞ!!」
「・・・・・・拳をぶつけ合えば人となりは大概わかる。確かに大した武人であろう。
しかし、おぬしの拳からは・・・・・・悲しみしか感じることができぬ」
「!!!」
核心ともいえる言葉を言われ、絶句するバラン。しかし、すぐバランもまた言葉を放つ。
「だから、わしを倒さぬというのか?甘いわ!おぬしは先ほど戦いに乗った痴れ者を倒すと言うたな!?
ならば来い!おぬしが戦わぬというのならほかの者を探すまで!そうなればわしはほかの者を殺してしまうかも知れぬぞ!」
そう叫ぶバラン。だが、声にはどこか悲しみが宿っていた。東方不敗も静かにそれで全てを察し、高らかに宣言した。
「ならばこちらも武道家として全力で挑むが礼儀であろう・・・!はぁぁぁぁあああ!!」
東方不敗が息を吐くにつれ東方不敗が、いや発光機能などないはずの零影までが金色に輝いた。
それを見てバランが満足そうにうなずく。
「ゆくぞ!」
零影が突然4つに分身し、グランドガンダムに高速で迫る。
ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
4発のグランドボンバーが今度は零影を捉える。しかし!
「―――なんと!?」
4つすべてが残像であった。通り抜けたあと薄まり消えていく残像。周囲を見回し―――
「流派!東方不敗が最終奥義!」
声により気付き、腕を組み防御をしながら振り返るが、鈍重なグランドガンダムが振り向ききったときには、
すでにそれは完成していた。
「石破ぁ!天驚拳!!!」
瞬間、昼間のように明るくなり、生命の温かみをたたえる閃光の塊がグランドガンダムを飲み込もうとし・・・・・
コクピットの中でバランが安らかな笑顔を作る。
そして閃光の中で陽炎(かげろう)のようになり消えていくバランとグランドガンダム。
東方不敗にはグランドガンダムが当たる直前防御の姿勢を解いたようにも見えた。
「・・・・・・・・・・・・」
無言で奥義により削れてしまった地面に降り、東方不敗は地面に文字を刻んだあと、静かに東方不敗は手を合わせて黙祷をささげる。
書かれている文字は、『武人 バラン・ドバンここに眠る』と記されている。
そして思う。死んでいった者達も、この武人バラン・ドバンも生きていれば、必ず輝く時があったであろうことを。
東方不敗は心に新たな固い決意をかためた。
そうそれは、ウルベを倒すだけでなく、もう死ぬ者も、遺された者もでないように必ずこの茶番を必ず終わらせると。
【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
パイロット状況:健康体
機体状況:良好
現在位置:E-6
第一行動方針:ゲームに乗った人間とウルベを倒す
最終行動方針:必ずユーゼスを倒す】
【バラン・ドバン 搭乗機体:獅王争覇グランドガンダム(Gガンダム)
パイロット状況:死亡
機体状況:文字通り消滅】
【初日 20:00】
最終更新:2008年05月30日 04:53