場-tekiou-


 闇。全てを包み込む漆黒の衣。それは恐怖と安らぎ、相反する性質を内包する自然の抱擁。

 ゲームが始まってから約半日。はたして幾つの生命が、その輝きを奪われたのだろうか?
そこには永遠とも一瞬ともいえる激闘の末に、輝きを奪われた鋼鉄の巨人が大地に横たわっていた。 
奪いしは雷の巨人。奪われしは鉄の巨人。ここには奪う者と奪われる者しかいない。
 既に雷の巨人は何処へと去り後、辺りは穏やかな静寂を取り戻していた。静かな虫達の
歌声が平原を覆い尽くすかのように、倒れし鉄の巨人を葬送するかのように響いていた。
 それは現れた。愛らしい血まみれのぬいぐるみが、まるでずっとそこへ居たかのように。
ゆっくりと踏み潰された巨人の頭頂部へ歩み寄ると、半刻ほど前まで人であった欠片を引きずり
出しでもしたいのか、邪魔をする歪んだ鉄板を力ずくで引き剥がし始めた。
 そして淡く光る何かを見つけ、それを手に掴む。次の瞬間、それは起こった。

 鉄の巨人の眼に光が宿る。既に巨人に意思を与えるべき者は肉片と化しているはずだった。
それでも両眼から確固たる意思、胸に『魔』の輝きを放ち、魔神皇帝は再び立ち上がった。
己の拳ほどもないぬいぐるみの眼前で、巨人は両腕を挙げ、高らかに吼えると鋭い眼光を
投げかける。それには明らかなる殺意と、そして虚ろなる寂しさが宿っていた。
 ぬいぐるみは咆哮に答えるかのように、膨れ上がり弾け、異形の存在へと姿を変えていった。

「…ネブラか、面白い選択だ。だが、それでは魔人皇帝には勝てまい…」
 あらゆる状況に最も適した形態に転移する生命体ベターマン。しかしネブラへの変身は
ベターな選択ではない、とゲームをモニターしていたユーゼスは苦笑する。
 ベターマン・ネブラ。ネブラの実を食する事で変身する、ベターマンの汎用戦闘形態である。
その独特のフォルムを表現するのならば、怪鳥の様な頭部と長い首を持つ、細身の竜戦士とでも
言うところか。その大きさは6m弱、マジンカイザーの三分の一以下である。先立って変身した
最強戦闘形態フォルテに比べ、力不足なのは明白。飛行能力くらいしか優位点は見当たらない。
現にネブラはマジンカイザーに苦戦していた。高速飛行で撹乱するも必殺のサイコ・ヴォイスが
大きな効果を上げず、徐々に押され始めていた。元々ベターマンは対生物戦で真価を発揮する。
生態部品を含むEVAならともかく、鋼鉄の巨人相手には苦戦を間逃れない。 
「出し惜しみ…でございましょうか?」
 傍らのラミア・ラヴレスが口を挟んだ。ベターマンは変身にアニムスの実を必要とする。
その種類は様々であるが、ベターマン・ラミアはフォルテ、ネブラ、アクアの実を使用する。
数に限りがあるのだから、今後の為に出し惜しみするというのも考えられた。仮にユーゼスを
倒す事を考えているのなら、飛行できるネブラと最強戦闘形態のフォルテは残したいはずだ。
(ボン太相手にフォルテを使い、今更出し惜しみとは…。オルトスを見せないつもりか)
 フォルテ3個から特殊精製されるオルトスの実が持つ、不死身とすら言える再生進化の力は、
ユーゼスが解明したい物の一つであった。

 劣勢となったネブラは漆黒の闇を舞い上がり、退路を東へと取った。傷を負っているのか、
魔神の追撃を引き離せない。サイコ・ヴォイスで牽制しては、組み付かれる事を阻止している。
「意外としつこいですわね、マジンカイザー。何か妙な改造したのですか?」
 神にも悪魔にもなれる力を与える魔神。そして悪しき心の魔神を倒す為に生み出された皇帝。
しかしラミア・ラヴレスには、マジンカイザー自身が悪の心を持った様にしか見えなかった。
「別に何も。このゲームの為に私は完璧なるレプリカを用意したのだよ」
 手抜きレプリカ(ゼオライマーやダンガイオー等)製作の事実を因果地平の彼方にある棚へ
上げ、ユーゼスは平然と言ってのけた。確かに魔神皇帝に関しては完璧なレプリカと言えよう。
本来の皇帝が操縦者不在でも、その製造目的「悪の魔神打倒」を果たす為に自らの意思で戦う。
同様に、このゲームの為に生み出された悲しき皇帝は、自らの意志で「他の参加者の打倒」と
いう役目を果たしているだけだった。操縦者を失った今、それを止める術はない。
「あら、とうとう捕まっちゃったですわ」
 戦い始めの場所から東の海上、ついに魔神皇帝に組み付かれ苦しむネブラの姿があった。
「奴の選択はベターではなかった。それだけだ」
 魔神がネブラの首を力任せに握り潰した。

 ……いるよ……

 人知を超えたモノの闘いに決着が付いたかに見えた。
ネブラの首を潰し、翼を引き千切り、それでも満足しないのか、魔神は執拗に攻撃を続ける。
飛び散る肉片が波に飲まれ、海は変色していく。

 ……来るよ……

 ようやく満足したのか、トドメの爆炎を放とうとした瞬間、ネブラが黒く変質し崩れ落ちた。
陽光を浴びた吸血鬼が灰と化なるように。穏やかだった海も何時の間にか荒れ狂っている。

 ……あなたの後ろに……

 荒れ狂う波間に見え隠れする異形の影。高波が魔神を嘲笑うかのように視界を奪う。
影は標的を見失った魔神の無防備な背中を捉え、そのまま海中へと引きずり込んだ。

 ……ベターマン……

 まるで巨大なエイのような姿。鋭利な外殻を持つ水中戦闘形態ベターマン・アクア。
大半のロボと同じく、魔神もまた水中では真価を発揮出来ない。
海中の魔神は浮上しようともがくが、水の支配者たるアクアはそれを許さない。
その鋭利な体を繰り返し背後から叩きつけて行く。反撃に撃ち出される鉄拳もミサイルも
海中を時速千km以上で行動可能なアクアにとってはスローモーションでしかなかった。

 魔神は沈んでいった。深い深い光の届かぬ海の底へ。
ベターマン・ラミアは魔神の破壊を早々に諦め、翼を砕く事で深海へと封じ込めたのだった。

 アクアから分離したベターマン・ラミアは、母なる海に抱かれて浮遊していた。その瞳が
何を見つめているのか、誰も知らない。そして悪夢のようなゲーム初日が終わろうとしていた。



【ベターマン・ラミア 搭乗機体:ボン太君スーツ(フルメタルパニック!B・Dからルート)
 パイロット状態:消耗(実を食べれば直る。それ以外では休息が必要)
 機体状態:なし(ポン太君スーツはネブラへ変化の際に大破)
 現在位置:B-3の海面を仰向けで浮遊(休息中)
 第1行動方針:アルジャーノンが発症した者を滅ぼす
 第2行動方針:オルトスの実を生成する
 最終行動方針:カンケルを滅ぼす
 備考:フォルテの実 残り2個 アクアの実 残り1個 ネプラの実 残り2個】

【マジンカイザー(αシリーズ準拠)
 パイロット?状態:「魔」モード(対参加者攻撃)
 機体状態:パイルダー再生中、スクランダー完全破壊
 場所:A-3の深海(単独での脱出は困難)
 行動指針:モードに従う
 備考:操縦者が乗れば「Z」モードへ変更】

【初日 23:55】





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最終更新:2008年05月30日 05:30