狩る者、狩られる者 死に行く者、生き抜く者
「ン…眠ってしまったのか」
サザビーのコックピット、アムロ・レイが目を覚ました、
「もっと、気をつけないとな…」
なれない機体とはいえ、オーバーヒートで機体が行動不能になるまで酷使し、さらに眠ってしまうとは。
もし誰か殺意を持った人間が近づいていたら…
湧き上がル恐怖を振り払う様に、すばやく機体のチェックを行う。
「機体の冷却状態は…良し、駆動系も良さそうだな」
どこにも異常はみあたらない、今すぐにでも動き出せるだろう。
「行くか…」
怖がっている暇はない、自分にはまだ帰れる場所が…帰りたい場所があるのだから。
「先ほど一緒に行動する事を許されたはずなのだが…」
ヴィンデル・マウザーが緊張の為、僅かに汗をたらしながら抗議をする、
「だからと言って、お前が信用できないのは確かだからな」
イサム・ダイソンはD-3の銃をジャスティスに突きつけながら、ごく当然とも言える答えを返す。
「とにかく、俺がどんな奴だったかだけでも教えてくんない?」
口調は相変わらず軽いが、それまでに無い真剣さでアクセルがヴィンデルに尋ねる。
ヴィンデルが彼らに敗れてからしばらくの間、とにかくアクセルの記憶の手がかりをつかもうと、
そのままの場所でヴィンデルを尋問することになった。
とはいえ辺りは平原、遠方からでもこちらを確認する事が容易な為(その逆も言えるので移動せずに
いるのだが)コックピットから降りるのは危険と判断し、ヴィンデルも含めて全員コックピットから
降りずにいた。
「まあ、待て。お前と会ったのはかなり前。しかも一緒にいたのは少しの間だけなので、思い出すのに時間が…」
嘘である。都合よくアクセルの記憶が戻って来る事保障など何処にも無いこの状況では、真実を話しても
なんら得する事は無いだろう。、
「さっきからずっとそう言ってるじゃねえか。ふざけてるのは、頭のワカメだけにしろよ」
(誰の頭がワカメだ!)
こうしてイサムの悪態に耐えつつも時間稼ぎをしているのには理由があっての事だ。
「まあまあ、そう怒りなさんなって」
そういうアクセルだが、明らかに焦りが見えている。この状況もそう長くは続きそうにも無い。
(おい、お前達!本当に大丈夫なんだろうな!)
「サクセンハイッコクヲアラソウ!」
「ツキハテ゛テイルカ?」
(わかった!わかったから少し静かにしてくれ、いや、静かにしてください!)
ハロが次々に騒ぎ出すのを必死で抑えるヴィンデル。
「ん?月が何だって?」
「い、いや月が綺麗だなと…ははは…」
言い訳をしながら、ヴィンデルは自分の運命がこの丸い悪魔に握れらている事を再確認し、いいようのない
悲しみというか無力感というか虚脱感?とにかくそんなものを感じて無性に泣きたくなった。
「アクセルさんの記憶、戻るといいね」
ヴィンデルが己の運命に軽く絶望している事など判ろうはずもなく、アクセル達から少し離れた場所で、
目の前に流れる川を見ながら、アキトは隣の戦闘機に乗る少女に話しかけた。
「そうですね」
ホシ・ルリが味も素っ気も無い態度で相槌を打つ。最も、ルリが見た目ほどはそう思っていない事を(最近に
なってやっと判別できるようになったのだが)アキトは感じていた。
「そういえばマサキ君、辺りを見回ってくるって言ってたけど大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないですか?あの人歳のわりにずっと落ち着いてますし」
「そうだよなぁ、ルリちゃんみたいだ」
「・・・」
「・・・ひょっとして怒った?」
「いえ、よく言われますから」
穏やかな、いまこの瞬間殺し合いをしている者がいる等信じられないほどの穏やかな一時。
だが信じようと信じまいと、今この地は戦場と化しているのだ。
そして彼はその事を、そして戦場と言う物がいかに厳しいかを痛いほどによく知っていた。
「あれは?」
目覚めて1時間ほど、今は川沿いを移動していたアムロが、アキト達より先に相手を確認できたのは、
偶然ではなく、一人戦場を進む為に神経を張り詰めていたからであった。
「MSと…あれはMA…いや戦闘機か?」
ミノフスキー粒子の為に、この距離では目視でしか確認できない為はっきりしないが、間違いなく2機居る
事はわかった。二体いて戦闘をしていないと言う事は協力しているのだろう。
あるいは話し合えば供に行動する事ができるかもしれない。
「だからって、状況が変わるわけじゃない」
一瞬浮かんだ考えを振り払う。この首輪が有る限り、一時仲間になったとしてもいずれは殺しあう事になる。
そして…アムロ・レイは仲間を撃つ自信など無かった。
「アキトさん、西から熱源」
「え?」
ルリが言った方向に視線を向けるのと、ビームが機体の横を通り過ぎるのはほぼ同時だった。
「さすがに遠すぎたか…」
有効射程から2倍は離れた位置からの狙撃。
当たると思ってはいない、相手が突然の攻撃に浮き足立てば良いぐらいの意識であった為、
すぐさまスラスターを全開にしている。
「チクショウ、仲間ができたと思ったらまた問答無用かよ!ルリちゃん急いで!」
「はい!」
急いでスカイグラスパーを離陸させようとするが、もともとパイロットではないルリは慣れぬ作業に
手間取ってしまう。
「うわ!?」
再びビームが機体の脇を掠める。
「なんとか、なんとかしないと…」
ルリが離陸しても、自分を含めて無事に逃げられるとは限らない。アクセル達は先ほどの攻撃で、こちらの
異常に気付いただろうが、こちらに駆けつけるまで僅かに時間がかかるだろう。
自分の機体はボロボロで、まともな遠距離武器は無い。頭部バルカンはこの距離では牽制にすらならない。
「そうだ!」
先ほど、改めてマニュアルを呼んだ時に気付いた装備を思い出す。
「少しの間だけでいいんだ!時間を稼いでくれ!」
急いで手に内蔵された装備を発射する。
「ガンダム!?」
目視で判別できる距離まで近づいたアムロが、その機体を見て思わず驚愕の声をあげてしまう。
損傷が激しいが間違いない。
ガンダム…自分の父親が開発した地球連邦のMSであり、自分を戦場へ誘った機体、数々の戦いを
供に潜り抜けた機体…そして、最後には捨て去らざるを得なかった機体。
良く見ればかなり形状が違うので、自分の乗った機体ではないことは分かる、
しかし様々な思いが脳裏をよぎってしまい、一瞬手が止まる。
己の目の前に居るのが未来の自分の機体であり、自分が今乗っているサザビーと、地球の運命を賭けて
戦う事になるとは、この時のアムロに分かるはずも無かった。
「…しっかりしろ!相手がガンダムだからってなんだ!」
そうだ、ここは戦場で、相手は敵なんだ!
だがその間に相手は行動を起こしていた。
「増えた?」
ガンダムがこちらに手を向けたと思った瞬間、画面上に無数のガンダムが表示される。
「ダミーバルーンか!」
サザビーにも同様の装備があることをマニュアルで知っていた為、すぐに状況を把握し、ビームライフルを
収束ではなく、拡散ビームを放つモードに切り替え、先ほどガンダムが立っていた場所に向けて放つ。
拡散したビームは3機のガンダムに突き刺さる、しかしそれは3体ともダミーだ。
このまま全てのダミーを破壊するまで撃ち続けるか?
「いや…この機体ならやれるはずだ」
「ルリちゃん、低く飛んで!」
「わかってます」
ダミーによるかく乱は成功したようだ、やっと離陸し始めたルリと供に、ダミーに隠れながらアクセル達の
元へと急ごうとした、その時。アキトは目の前に、赤い物が浮かんでいる事に気付く。
「なんだ、これ?」
思わず立ち止まるνガンダムに向けて、それは閃光を放った。
「どうした!?」
アキト達がいる方向から聞こえて来た轟音により、二人は一瞬ヴィンデルから注意をそらす。
そしてその瞬間をヴィンデルは見逃さなかった
「今だ!」
「ホロヒ゛ユクモノノタメニ!」
「アレハGファルコン!?」
ハロの叫びとともに、湖面から先ほどD-3のジャミングにより何処かに飛び去ったファトゥムが現れ、
アクセルに向って突撃する。
「な!?まだジャミングは解いてねぇぞ!?」
驚愕の声をあげるイサム、確かにジャミングは効いており、遠隔操作は不可能である。
そう、遠隔操作は…
「よくやったぞハロ!」
「ワカメ!ワカメ!ワカメ!」
「ワレ、キシュウニセイコウセリ!」
ファトゥムからの通信。そうヴィンデルはコックピットからさり気なく数匹のハロを脱出させ、ファトゥムを
探索させていた。そして首尾よく目的のものを見つけたハロはファトゥムを操り、指示通り川に潜み、
合図とともにアクセルに襲いかかったのであった。
「フハハハ!この私がそう簡単にやられるものか!」
「タ゛レノオカケ゛タ゛トオモッテヤカ゛ンタ゛!」
「ソンナオトナ、シュウセイシテヤル!」
「ヒィ!す、すいません!」
いまいち情けないが、そんなやり取りをしている間にもしっかりD-3にビームライフルを発射しているのは、
さすがと言えよう。
「野朗、調子に乗りやがって!」
イサムが反撃のために銃を構えたその瞬間。
「うぉぉぉぉぉ!!」
「アクセル、貴様ぁ!」
ファトゥムの攻撃によって崩れた体勢を、すばやく立て直したクロスボーンガンダムがジャスティスに
斬りかかる。かろうじて避けたジャスティスだが、ビームライフルを切断されてしまった。
「ここは俺に任せて、あんたはルリちゃんの所に!」
「…わかった!」
一瞬ためらうが、しかし確かにアキトとルリではまともな戦闘は無理なのは明らかだ。
「俺が戻ってくるまでに、きっちりぶちのめしとけよ!」
「りょ~かい!」
ビームサーベルで斬りあう二体を後ろにD-3はアキト達の下に急いだ。
「アキトさん!」
目の前で炎に包まれるνガンダムに向って必死に呼びかけるルリ、
「ル…ルリちゃ……逃…」
「アキトさん!?早く!早く脱出してください!」
だが、ルリの呼びかけに、アキトは二度と返事をする事は無かった…
「当たった…」
アムロは相手の思念を感知し、その思念に向けてファンネルを放ち、ピンポイントで狙い撃ちしたのだ。
本来ならファンネルを使い始めて間もないアムロにとって、非常に困難な事では有ったが、サザビーに
使用されている素材、サイコフレームの存在が、それを困難とさせなかった。だが、
「テンカワ…アキト…?」
サイコフレームの効果により、アムロは撃破したガンダムに乗っていたパイロットの思念を感知していた。
「女の子?」
そして理解する。そのパイロットが戦闘機のパイロットである少女を守ろうと必死だった事を。
「どうにも…どうにもならないじゃないか!」
思わず叫ぶ、そしてファンネルをもう一つの思念の方向へ飛ばし…
「クソ!」
慣れない力の使い方をした為か、サイコフレームにより敏感になった能力のせいか、悲しみにくれる少女の
思念までもが流れ込んでしまい、アムロはファンネルに最後の司令を与える事ができない。
ためらいの中、一瞬が数十秒にも感じる。
「…!?来る!」
アキト達が逃げようとした方向からの敵意により、現実に引き戻される。
回避行動を取りながらその方向を向くと、空を飛ぶMSがこちらに向って攻撃をしてくるのが見えた。
「まだ仲間がいたのか!?」
新たに現れたMSに向って銃を向けるアムロ。だが、まだ脳裏に二人の思念がこびりついている。
「チィ!」
一瞬の迷い、そしてその後アムロはサザビーのスラスター吹かせて、この場を離れた。
「ルリちゃん、大丈夫か!?ルリちゃん!おい、返事をしてくれ!」
「ダイソン・・・さん?」
その返事に、イサムはとりあえずは大丈夫だと判断する事にした。
「ルリちゃん…テンカワはどうした?」
聞かずに入られなかった。予想はつく、だが『もしも』と言う可能性を否定したくなかった。
「アキトさんが…アキトさんが…」
今まで、この異常ともいえる状態でも冷静さを失わなかった少女が、涙に声を震わせている。
そしてそれが、自分が望んだ『もしも』が否定された事を意味しているのは明白だった。
「テンカワ…許せねぇ!」
抑えられない怒り。先ほどの赤い機体が去っていった方向に向けて飛び立とうとする。
「ダイソンさん…アキト…さん…」
だが追いかけようとするイサムの耳にルリの声が届く。
「ルリちゃん…」
その鳴き声が胸に刺さる。
「すまない、ルリちゃん…テンカワの仇は絶対とってやるからな」
振り向きもせずに、イサムは赤い機体の追跡を始めた。
(俺が、俺がこいつをちゃんと扱えればこんな事には!)
D-3の能力を使いこなしていれば、もっと早く駆けつけることが出来たかも知れない。
テンカワ・アキトが死ぬ事はなかったかもしれない。
「仇は討つ!絶対にな!」
「さすがだアクセル!とても記憶を失っているとは思えんな!」
「やっぱりアンタは俺を知ってるのか!?」
ジャスティスとクロスボーン、時代を、次元を超えたガンダムの名を関する2体の機体は光の剣を用い
一進一退の攻防を繰り広げていた。
「ああ、その通りだ!だが今の貴様が私の言う事を聞くとも思えんのでな、ここで倒れてもらう!」
ジャスティスの袈裟懸けの一撃をかろうじて避けるX1、
「自分が誰かも分からないまま、死んでたまるか!」
体勢を崩したジャスティスに横薙ぎに斬りかかる。しかしファトゥムの突撃により、その攻撃は
ジャスティスにダメージを与える事はできなかった。
「もらった!」
ファトゥムの突撃で倒れたX1に振り向けられたビームサーベル、しかしアクセルは無理やりスラスターを
吹かせて強引に体勢を変え、その一撃をやりすごす。
「うまくよけたな、だが片腕を失って私に勝てるかな?」
かろうじて避けたものの、X1はビームザンバーを装備していた右腕の肘から下を切断されてしまった。
「さらばだアクセル!」
勝利を確信したその瞬間、ジャスティスのセンサーが上空の熱源を探知し警告音を上げる。
「何だと!?」
即座に回避動作を行う。一瞬後、ジャスティスが立っていた位置にレーザーが突き刺さった。そして、
「キサマハ・・・オレノ!」
「オサラハ゛テ゛コ゛サ゛イマス・・・」
それが、ファトゥムを操っていたハロ達からの最後の通信だった。
「ファトゥムが!」
レーザーの直撃を受け、爆発するファトゥム。
「大丈夫ですか、アクセルさん!?」
「マサキ!」
それを為したのは、木原マサキ駆るレイズナーが持つレーザードライフルの一撃だった。
「仲間か!?」
ファトゥムを失った今、二対一では分が悪い…
すばやく判断したヴィンデルは、頭部バルカンをレイズナーに放ち、東に向って逃走する。
「待て!お前にはまだ聞きたい事が!」
「待ってください、アクセルさん!他の人達は!?あっちの炎は一体!?」
追いかけようとするアクセルであったが、マサキの言葉で動きが止まる。
「そうだ!アキトとルリちゃんが!」
二人がいた方向をアクセルが見る、そこでは赤々と炎が燃え上がっているではないか。
「イサムが先に向った!マサキも早く行ってくれ!」
「アクセルさん!もしかして!」
その言葉が意味する事に気付くマサキ、
「ああ、俺はあいつを追う。すまないが後は頼んだ!」
そう言うや否や、地面に落ちたビームザンバーを残った左腕で拾い上げ、ヴィンデルが逃げ去った方向に
クロスボーンガンダムは飛び立った。
「アクセルさん!アクセルさん!…ええい、クソ!」
「人は分かり合えるか…」
サザビーのコックピットでアムロがつぶやく。
「けど、分かり合えたからって、幸せだとは限らないんだよな…」
そんな事はわかっていたはずだ。そうだ、良くわかっている。
あの時、あの少女を殺してしまったあの時。そうあの少女、
「ララァ…」
ララァ・スンを殺してしまったあの時に…
「見つけた!野朗、タダで済むと思うなよ!」
追跡を始めて30分程、禁止エリアのすぐ傍の廃墟の近くで、イサム・ダイソンのD-3のレーダーが
目指す標的を捕らえた。即座に強力なジャミングをかける。
通常の状態ならすぐに異変に気付くほどの強力なモノであるが、なんらかの方法により、常に電波のかく乱が
行われている現在の状態では、気づく事は無いはずだ。
「ちと情けねぇが、手段を選んでる場合じゃねぇからな…絶対に、仇を討ってやる!」
万一気付かれないように地上を進むD-3の中で、彼は決意を固めた。
「この感じ…さっきの敵意か…」
しかしアムロ・レイはその殺気を敏感に感じていた、先ほどの影響で、まだ能力が研ぎ澄まされている
状態にあったアムロにとって、強い殺意を放つD-3の思念を感じるのは容易なことだった。
「・・・」
一瞬、先ほどの二人の思念を思い出し目をつぶる。そして目が開いた時に、彼も決意を固めていた。
「どういう事だよこりゃ!?」
イサム・ダイソンがコックピットの中で悲鳴をあげる。
D-3のレーダーが、赤い機体から放たれた小型の兵器から、ビームが放たれている事を知らせていた。
まるでジャミング等効いていない様に、その兵器は自由自在に動いている。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!」
すでに地上にいては避けきれないと、空中に逃げている。しかしそれでも長くは持たない事は明らかだ。
「だったらよぉ!」
ならば一か八か、そう判断したイサムは赤い機体に向って突撃する。
(まったく、お前はもう少し考えてから行動しろといつも言ってるだろう)
「うっせぇ!」
一瞬親友の声が聞えた気がした。そして次の瞬間、D-3はリフターを射抜かれ廃墟に墜落した。
「やったか?」
空を飛ぶMSが廃墟に落ちていく、直撃はしなかったが飛行ユニットらしき物を破壊した。
「確認するか…」
いや、あちらの方向は禁止エリアだ。下手に探そうとしては危険だろう。
「そうさ、僕はまだ死ぬわけには…いや、僕はまだ死にたく無いんだ」
死ぬわけにはいかないのは、自分だけではない。だからと言って自分もまだ死にたくは無い。
生きる為だと言うのは、自分にとって言い訳に過ぎない事は分かっている、エゴだと言う事は十分承知だ。
「それでも僕は生きたいんだ…」
罪を背負おう、悪を背負おう、罰を受けると言うのなら罰を受けよう。
「それでも僕は、もう一度、一度で良い…帰りたい場所があるんだ…ごめんよ…ララァ…」
全てを背負って生きていこう。それが自分にできそうな、唯一の事なのだから…
「・・・」
D-3のコックピットの中、イサム・ダイソンは気を失っていた。
奇跡的にも、禁止エリアギリギリの場所に不時着したが、無理な体勢で着陸した為に、強く頭を
打ってしまったのだ。
彼が目覚めるのは、まだもう少し先の事である。
「どこだ!どこだヴィンデル!」
ヴィンデルの追跡を始めて1時間程、今だアクセルはヴィンデル・マウザーを発見できなかった。
「クソ…どうする、戻るか?」
仲間達の事が、特に無事かどうかも分からぬアキトとルリの事が気にかかってはいた。だが、
「いや、駄目だ!」
もしもヴィンデルが自分にもう一度会う前に、誰かと戦闘になり、そして死亡したら?
自分の記憶の手がかりは無くなってしまう。
しかし、彼が焦っているのにはもう一つの理由がある。
「もう少し、もう少しで何か思い出せそうなんだ!」
彼の記憶の扉は少しずつではあるが、開き始めていた。
(これでは首輪の回収は不可能か…)
破壊されたνガンダムを眺めながら、木原マサキは誰にも聞かれないようにつぶやいた。
(まだあの二人が戻ってこないと言う事は…今だ追跡を続けているか、それとも返り討ちに会ったか…)
半ば茫然自失となっていたルリから、なんとかイサム・ダイソンがテンカワ・アキトを撃破した相手を
追撃した事を聞きだしてから、一時間ほどが経っていた。
(さて、どうするか)
ルリは既にスカイグラスパーから降り、さきほどからずっとνガンダムの残骸を眺めている。
(戦闘になっても盾にしか使えんな…)
テンカワ・アキトが死んだ事についてはマサキ自身どうでも良かった。もとより戦力にはなりそうにも
無い機体状態だったのだ。むしろ足手まといが無くなったと考える方が、彼にとっては自然だった。
では目の前の少女は?
(情報処理能力は大したものだ、首輪の解析に役に立つかもしれん…だが)
「ルリちゃん…」
背後から木原マサキの心配そうな声が聞える。
「大丈夫…です」
自分ではいつもと同じように答えたつもりではあるが、声が上ずってしまった。
「大丈夫です」
もう一度言い直す、今度は何時も通りの調子だ。
「クヨクヨしてても、仕方ないですから…」
すぐ後ろまでマサキが近づいたのが解る。
「無理しなくても良いんだよ?」
「無理なんかしてま」
突如首を押さえられ、ルリはその言葉を最後まで言えなくなる。
「・・・!!」
必死になって暴れるが、非力な少女の力ではそれを振りほどく事はできなかった。
「すぐにアキトさんの所に送ってあげるからね?」
それがマサキの声だと判断する事もできなくなるほど意識が朦朧としていた。
(ア…キト…さ…ん…)
そしてそれからホシノ・ルリの全身から力が抜けるのに、それほど時間はかからなかった。
「ふむ、心臓も停止しているな」
木原マサキがルリの死亡を確認する。
「その能力は少々惜しい気もするが、しかしこのような機会がそう有るとは思えんからな」
ルリを殺した理由、それ自体は単純なものである。
首輪を解析する為には、誰かの首輪が必要であり、そしてその誰かがルリだった。
彼にとっては、ただそれだけの事である。
「これで良し」
ルリの死体をレイズナーのコックピットに運び込み、スカイグラスパーを破壊する。
こうしておけば、もし二人が生き残っており、ここに戻って来た後に合流する事があったとしても、
何とでも言い訳できるだろう。
「フン、あとは首輪を取り外して解析するだけか、ククク」
地図を広げ、解析する為の設備が有りそうな場所を探す。
「北西の病院か南東の基地か…」
しかし、アクセルは東、イサムは北に向った事を思い出す。
そのまま進み、二人に会えば、今このコックピットに転がるルリの死体に気付かれると少々ややこしい事に
なるだろう。もちろん、戦闘において二人に遅れを取るとは思えないが、それでも念を押すべきだ。
「まずは首輪を取り外すとするか」
南西の市街地に向けて飛び立つレイズナー、北西の地図に描かれるような大きな病院は無くとも、
そこそこの大きさの病院ぐらいあるだろう。たとえ病院が見つからなくとも、ノコギリの一つも見つければ、
少々骨は折れるだろうが首を切断する事ぐらいはできる。
「ククク、フハハハハハハハハハハハハ!!!!」
哄笑と供に、冥府の王は蒼き流星となって飛び去った。
【アクセル・アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
現在位置:F-5
パイロット状況:良好
機体状況:右腕の肘から下を切断されている
第一行動方針:ヴィンデルに記憶について聞く
最終行動方針:ゲームから脱出 】
【テンカワ・アキト 搭乗機体:νガンダム(逆襲のシャア)
パイロット状況:死亡
機体状況:大破】
【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:気絶中
機体状況:リフターが大破
現在位置:E-4(廃墟の中)
第一行動方針:テンカワ・アキトの仇を討つ
最終行動方針:ユーゼスをぶん殴る】
【ホシノ・ルリ 搭乗機体:スカイグラスパー(機動戦士ガンダムSEED)
パイロット状況:窒息死、死体は現在レイズナーのコックピットの中
機体状況:大破】
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:秋津マサトのような性格のふりをしている。絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:E-5から南西の市街地(D-8付近)に向けて移動中
第一行動方針:ルリから首輪を外す
第二行動方針:はずした首輪を解析する
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【アムロ・レイ 搭乗機体:サザビー(機動戦士ガンダム 逆襲のシャア)
パイロット状態:良好
機体状態:シールド、ファンネル3基破壊。装甲表面が一部融解
現在位置:E-4
第一行動方針:目立つ動きを取って敵を釣り出す(見つけたら先制攻撃)
最終行動方針:ゲームに乗る。生き残る】
しかしマサキは知らなかった。ルリを殺害した一部始終を目撃した者がすぐそばに居た事を。
「ほう…面白い事になって来たではないか…」
「オ、オラミテハイケナイモノヲミテシマッタタ゛!」
ジャスティスのコックピットの中でヴィンデル・マウザーは、心底愉快そうにつぶやいた。
一度は東に向けて逃走したものの、ファトゥムがなくなり機動性が低下した今の状態では、
すぐに追いつかれる事は明らかだった。
故にアクセルが追いつく前に川の中に潜み、それからそのまま逆の方向、西に向って進んだのだ。
そして、レイズナーとスカイグラスパーを確認したヴィンデルは、奇襲の機会をうかがっていた最中、
マサキの凶行を目撃する事になったのである。
「使えるな…」
「ワカメハミタ!」
先ほどの様子はすでにジャスティスに記録してある。いろいろと使い道は有るだろう。
「まずはこれを使ってアクセルを抱き込むか?いや…」
「15ノヨルサツシ゛ンシ゛ケン」
もともと速度は向こうが勝っていると判断したからこそ、このように川の中に潜んでいるのである。
「追いつくはずも無し…か」
「ヌスンタ゛ハ゛イクテ゛ハシリタ゛シタノハタ゛レ!?」
「・・・」
そろそろ、彼自身ハロに囲まれているという状況が、何も変わっていない事を思い出すだろう。
「…とりあえずこのまま西に向うか」
心身ともに疲れきった表情で、、ヴィンデル・マウザーは西に向って川底を歩みだした。
【ヴィンデル・マウザー ZGMF-X09A・ジャスティスwithハロ軍団(機動戦士ガンダムSEED)
パイロット状況:健康、めっちゃ脱力、ハロの下僕、しかし今回協力関係を結ぶ事ができた
機体状況:シールドを失う、ファトゥムを失う、ビームライフルを失う
さらにコクピット内がハロで埋め尽くされている
現在位置:E-5から西に向って逃走中
第一行動方針:……ハロを切実になんとかしたい
第二行動方針:ラミア・ラヴレスとの合流
最終行動方針:戦艦を入手する】
【初日 23:30】
最終更新:2008年05月30日 05:20