北へ。


「これ、道路って言うより滑走路よね。何を考えて作ったんだか………てゆーか今更だけどココ、何処よ」
 アスカが呆れた声を上げた。東西に数キロはありそうな無駄に広い道路が南北に伸び、その先端は地平線へと
吸い込まれている。
「このスケールのデカさはアメリカか? 少なくとも日本じゃなさそうだな」
「ノゥプロブレム! ここが世界の何処であれ、正義の為に、レッツゴーだ!」
 竜馬とハッターは相変わらず気の抜けた事を言っている。


 話は一時間ほど前、朝の放送が流れたあたりまで遡る。
「くそ! ボスが死んだなんて!」
 竜馬は湧き上がる感情を抑えきれず、拳をコクピットの壁へ叩きつけた。対する相手は違えど平和の為に戦うと
誓い合った仲だった。さぞかし無念だったろう、そう思う反面、こんな所でのんびりとしていた自分に対する
憤りが、続けて壁を殴りつけさせた。
「我が友よ! 上官を失った事には、追悼の意を捧げる。しかし、そんな事をしても、事態は好転しない!」
 ハッターに言われ、振り上げた腕が止まる。拳がわなわなと怒りに震えている。既に皮は破け血が滲んでいる。
「何故……彼が死ななきゃならないんだ………正義に燃えていた彼が、何故!」
「アンタの上司が弱かったからに決まってんでしょ。殺し合いしてるんだから」
「!!!」
 アスカの身も蓋もない台詞に対して、竜馬が機体越しに睨み付ける。アスカも負けずに睨み返す。どうも
アスカもハッターも『ボス』を竜馬の上官という意味で受け取っているようだ。
「訂正しろ! 彼は弱くなんてない!」
「あんたバカ? 強けりゃ殺されないっての! そもそも元凶は、バカ仮面だって最初から分かってんだから、
 悲劇のヒーローぶって取り乱さないでよ」
 一見、正論のように聞こえるが実際は単なる揚げ足取りだ。何が気にいらないのか食って掛かっている。
「落ち着け、我が友よ! ガールも、そういう言い方は、ノーグッドだ!」
 これ以上険悪にならないようハッターが冷静に止めに入る。いつもなら熱くなっている所だが、先に竜馬が熱く
なってるので対照的に冷静になる他ない。一応、どちらの言いたい事も分かる事は分かるからだ。
「我が友よ! ガールの言う通り元凶はユーゼスだ! 悩む必要はない! 我々は、ヤツを倒すんだ!」
 友人の死を軽んじるわけではないが、悲しむばかりではいられないと竜馬をなだめる。

「すまない。少し取り乱したようだ」
「分かればいいんですよ。竜馬さん」
 多少の煮え切らなさはあるようだが、竜馬は冷静さを取り戻したようだ。アスカと言えば私が正しかったと
言わんばかりの態度で、ぶりっ子している。今更な感じだが本人はバレていないと思っているのかもしれない。
「ガールも、自分の恋人が無事だからと言って、他人を………」
「誰が誰の恋人だってのよ!! バカシンジはね! 薄情で、臆病で、主体性がなくて、情けなくて………」
 ハッターの言葉を遮り怒鳴りつける。余程、頭に来たのかシンジへの罵詈雑言が続いている。あまりの早口に
竜馬やハッターも毒気を抜かれてた。
「相当嫌っているみたいだが、なのに何故バカシンジ君を探すのだろう?」
「友よ! ガールの扱いは、不得意なようだな! ガールは『誰々を好きだろう』と指摘されれば、図星である
ほど『大っ嫌い』と赤面して、答えるのだ! あの罵詈雑言も、いわばバカシンジ君へのラヴ表現の一種!」
「そ、そういうものなのか?」
「そう! 例えるなら、ボーイが『好きなガールに意地悪してしまう』ラヴ表現と同じ!」
「おお、それなら何となく理解できるな」
 ビッと親指を立てて答えるハッターの自信たっぷりな解釈に竜馬は納得したようだ。
「ごちゃごちゃ寝言を言ってんじゃないわよ! あたしがバカシンジを好きだなわけないでしょ! 
 私はバカシンジを自分の手で殺したいのよ!」
 言い切ってしまってからアスカは『しまった』という表情になる。慌てて口を塞いだが、当然、操縦席の顔は
二人に見えない。ちょっとした沈黙。
「バカシンジ君を殺すって、どういう事だ………」
「…………」
 疑問に思った竜馬の問いかけに、アスカは答えない。
(ちっ、もう少し利用したかったけど、面倒な事になる前に不意打ちでコイツを叩いて……って今から
  変形したんじゃバレバレか。どうでも良いけど他人にバカシンジって言われると、なんかムカつく)
 つまらない事に多少腹を立てつつ、アスカが攻撃のタイミングを図る。再び沈黙が辺りを包む。
「ガール、そして友よ、すまない! 大きな思い違いをしていたようだ! 恋人同士ではなく、宿命のライバル
だったのだな! つまり『お前を倒すのは私だ、他の奴らには指一本触れさせない!』そういう事だろう!」
 またもビッと親指を立てたハッターが自信たっぷりに仲裁に入った。やはり、お笑い担当なのだろうか。


「惣流君、そうなのか?」
 竜馬も流石に今度は簡単には納得できないようだ。疑惑の眼差しで見ている。
「………もう恋人でもライバルでも好きな方でいいです(……こいつら、マジでウザイ)」
 気合を空回りさせられたアスカが呆れたように答えた。口調も猫かぶりに戻っている。ハッターの緊迫感の
なさに当初の怒りは消え失せていた。
「なるほど! 恋人同士かつ、ライバルだったのか! 友よ、やはりガールの扱いは難しいな!」
「あ、ああ………難しい………のか?」
 どうにも納得のいかない竜馬もオーバーアクションのハッターに押される感じだ。
(チーフも普段、こんな苦労をしていたのだろうか?)
 ハッターはようやく協調性を取り戻した(ように見える)二人を見つつ、仲裁役は柄じゃないなと思っていた。

「さて、おしゃべりは、ここまででだ! 我が友よ、埒が明かないから、当面の目的地を決めよう! リーダーとして
 ビシッと決めてくれ! ビシッと!」
 急にキリッとした声でハッターが切り出す。そういえば放送前から今後の進行方向が決まっていなかったのだ。
何処へ行ってもやる事は同じならば、適当に捜索するよりも目的地を決めて移動した方が動きやすい。
「俺が決めていいのか?」
「いいんじゃない? 一応、リーダーなんだからさ。誰か居そうな場所、選んでよね」
 竜馬へアスカが一応の部分を強調して答える。こんな森をダラダラ捜索するくらいなら、敵でも何でも遭遇で
きる場所が良い。正直な話、森には飽きていた。

 竜馬は地図を見ながら熟考した後、当面の目的地を決めた。
「じゃあ………ここだな。E-1にある小島だ」
 ハッターとアスカも自分の地図を見つめる。随分と遠いが目的地としては分かりやすい。
「廃墟のようだが近くまで道路も引かれているようだし、重要な施設だったの可能性もある。水に囲まれ、
 守りやすい地形は戦いにも向いているし………」
「要するに、誰かが待ち伏せしていそうってワケね! いいじゃん、そこで。ハイ決定ー!」
 竜馬の説明を遮りアスカが早々と決定を下す。怪しそうな場所へ行けば遭遇率も上がるだろう。実際に昨日の
G-6基地にはこの二人が居たのだから。
「ガール、自分一人で、勝手に決める事は、人としてどうかと思う! まあ、賛成なわけだが!」

 かくして西へと向かう事、一時間。長大な道路へと辿り着いたわけである。
「んじゃ、二人ともトランザーに乗ってよ。かっ飛ばせば1時間も掛かんないはずだから」
「……ダイテツジンが乗っても大丈夫なのか?」
「そんなの大丈夫に決まってるじゃない!」
 アスカに促されダイテツジンとアファームドがトレーラー部分の上に乗る。ダイテツジンの重さにビクとも
しないで加速を始める姿は流石スーパーロボットといえる。アスカも自分の機体の凄さを自慢できて意気揚々だ。
辺り一面が平地で、謎の粒子(ミノフスキー)で役に立たないレーダーよりも、目視の方が索敵範囲が広いという
状況下だから、高速で移動が可能だ。地上走行の方が飛行するよりも目立ちにくく、何より燃費が良い。
「意外と、ガッシリしてるな! 重戦車みたいで、ガールには、ピッタリだな!」
 ダイモスは重機としての性能も半端ではない。元々惑星開発用のロボットであり、その出力や堅牢さも開拓や
資源の牽引などに活用されるはずだったのだから、当然といえる。純粋な戦闘用ではない所はゲッターロボと
同様である。
「………ハッター、振り落とされたいわけ?」
 不敵な笑みを浮かべたアスカがトランザーをおもむろに加速させた。激しいGが襲い掛かる。ダイモス本来の
最大速度はマッハ7というデタラメなものであり、二機の重量を考慮しても十分にロケット並の加速を見せている。
実際、トランザー後部(ダイモス脚部)にはロケットブースターがあるわけだが、今は使用していない。
「こ、これは結構………ゲッター並か」
 急激なGに竜馬も戸惑いは隠せない。ゲッター1の最大飛行速度がマッハ2である事を考えるとデタラメさが
伺える。もっともアスカ本人にも当然Gが掛かるので、現在の速度はマッハ近くしか出していない。
「ガール! ひとつ重要な、クエスチョンが、浮かんだ!」
「あ~らなにかしら~? スリーサイズと~、年齢は~、秘密だからね~」
 トランザーにしがみ付くハッターが悲鳴に似た声に、アスカは意地悪く間延びした声で答えた。重戦車呼ばわりを
根に持っているようだ。
「ガール! カーライセンスは、車の免許は、持っているのか?!」
「え~、あたし~、まだ14歳だっから~、わっかんな~い!」
「ノォォォォォォ!」
 三人を乗せたトランザーが、何処までも続く道路を北へと駆け抜けて行った。



【流竜馬 搭乗機体:ダイテツジン(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好
 機体状況:良好
 現在位置:E-5(道路上を高速で北上中)
 第一行動方針:他の参加者との接触
 第二行動方針:剣鉄也の捜索
 最終行動方針:ゲームより脱出
 備考:アスカに多少の不信感】

【イッシー・ハッター 搭乗機体:アファームド・ザ・ハッター(電脳戦記バーチャロン)
 パイロット状態:良好
 機体状況:良好(SSテンガロンハットは使用不可、トンファーなし)
 現在位置:E-5(道路上を高速で北上中))
 第一行動方針:仲間を集める
 第二行動方針:チーフの捜索
 最終行動方針:ユーゼスを倒す
 備考:ロボット整備用のチェーンブロック、鉄骨(高硬度H鋼)2本を所持】

【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス) 
 パイロット状態:良好
 機体状況:良好
 現在位置:E-5(道路上を高速で北上中)
 第一行動方針:碇シンジの捜索
 第二行動指針:邪魔するものの排除
 最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す
 備考:竜馬&ハッターを信頼していない、かなりウザがっている】

【二日目 7:30】





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第147話「内と外の悪鬼 投下順 第149話「決意
第141話「白の世界、黒の現実 時系列順 第155話「終わらないレクイエム

前回 登場人物追跡 次回
第138話「リーダーは誰だ? 流竜馬 第162話「ASUKA TWO STRIKES!
第138話「リーダーは誰だ? イッシー・ハッター 第162話「ASUKA TWO STRIKES!
第138話「リーダーは誰だ? 惣流・アスカ・ラングレー 第162話「ASUKA TWO STRIKES!


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最終更新:2025年01月18日 02:42