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希望という名の泥沼(前編)


現在、二日目の午後9時。第3回の放送から既に3時間が経過した。
薄暗かった空は、夜の闇が完全に覆い尽くしていた。
まるでこの殺し合いで生まれた、人の心に蠢く闇のように。
そんな中、湖に囲まれた小島に小さな灯が灯る。
この狂った世界に抗う戦士達が集う、光。
それは希望の光となりえるか、はたまた更なる闇への道標か。

……この僅か3時間の間に、ゲームの状況は劇的なまでに大きく変化していた。
それは、この小島においても例外ではなかった。
剣鉄也の急襲により周囲のビル街は破壊し尽くされ、一帯が焼け野原へと変化……
その中央では、力尽きていたはずの巨人が、精霊の力によって息を吹き返していた。
そして巨人を囲むように、戦士達の新たな力が集っていた。

ジョシュアの救出に成功したクォヴレー達は、その後リュウセイ達のもとに無事帰還。
生還は絶望的かとすら思われていたジョシュアを中心に、仲間達が集まる。
クォヴレー。トウマ。イキマ。リュウセイ。そして、そこにはセレーナとエルマの姿もあった。
「無事でよかったぜ、ジョシュア!」
「ああ、心配をかけた……」
「フン、馬鹿を言うな。貴様がその程度でくたばるとは思ってはおらんわ」
「素直じゃないわねぇ。今さら悪人キャラやっても、多分もう説得力ないわよ?」
「ハハ……違いない」
それぞれが、ジョシュアの無事と再会を喜び合う。
それはこの殺伐とした世界の中での、束の間の安らぎ。
「エルマ……だったな。ジョシュアの傷の具合はどうだ?」
ジョシュアの具合を診るエルマに、クォヴレーが尋ねた。
「神経系の麻痺がまだ後を引いてますね……
 ロボットを動かすだけなら、かろうじて可能ですが……」
「激しい動き……戦闘行為は無理、ということか」
「それに、後遺症が何かしら残る、という可能性もあります」
「……そうか」
エルマの診断、それはこの状況においてはある意味戦力外通告に等しい。
「すまない、この大事な時に……」
「そう言うなよ。あの襲撃でこの程度の怪我で済んだだけでもよかったぜ」
事実、手加減を加えられていたとはいえ、あれだけの激しい電撃を受けこの程度で済んだのは奇跡ともいえた。
いや、あの襲撃で結局誰一人として死者が出なかったこと自体が、このゲームとしては奇跡的というべきだろう。

「それにしても、みんながジョシュア君を連れ帰ってきた時は驚いたわよ」
ほんの少し前、ガンダムが謎の2機のロボットに抱えられて戻ってきた。
その片方の機体は、その前に島を通過したのを目撃した時に、危険視すらしていたのだが。
もう一体の赤いロボットから、クォヴレー達の声でアーバレストに通信が入ってきた時は、彼女は我が耳を疑った。
「ブライガー、って言ったわね……」
赤い巨人を見上げながら、セレーナは答えた。
ブライガーの変形機構を聞かされ、どこまでも非常識な話だと呆れすら浮かぶ……が。
「ま、ただの車が巨大化して飛行艇になったんだし。
 それがさらに巨大化してロボットに変形しても、不思議じゃないわよねぇ」
「いや、あんた何か感覚が麻痺してないか……?」
即座にトウマによる突っ込みが入った。
しかし先のメガデウスの復活といい、立て続けにこうも非常識なことが起これば、それも無理はない……かもしれない。
「にしても、思わぬ所に戦力が隠れていたものね。主催者の悪意すら見え隠れするっていうか」
「全くだ」
セレーナの言葉に、クォヴレーはやや不愉快気に同意する。
あの出来事も、結局は全てユーゼスの手の上の茶番だと考えると、不快になるのも無理はない。
「そして、ジャイアントロボ……か」
セレーナはもう一機のロボットに目を移す。
見るからに強大なパワーを秘めていそうな特機。大した損傷もなく、今後の戦いで心強い戦力となってくれることだろう。
だが、それは素直に仲間になってくれれば、の話である。
問題は……あれを動かしていた少年だ。
「……あの子、リョウト・ヒカワ……と言ってたわね」
仲間達の輪から外れ離れた場所で、リョウトは一人、ぼんやりと海の方角を眺めていた。
その瞳は虚ろで、まさに心ここにあらずといった感じだった。
「ああ……さっきも言ったけど、あの敵……剣鉄也と戦う時、助けてくれたんだ」
「……そう」
彼はこの島に来てから一言も発せず、トウマに誘われても輪の中にも入ってくる様子を見せない。
「……気になるか、あの小僧」
「まあ、ね……」
声をかけてきたイキマに、セレーナは素っ気無く答える。
二人の脳裏には、この島を横切った時の少年の姿が焼きついていた。
忘れられるものではない。彼の瞳に灯っていた、危険な光を。
(あの子が……リオちゃんの言ってた、リョウト君……か)
セレーナに追い詰められ錯乱していたリオが、助けを求めていた男の名前。
それは彼で間違いないだろう。彼ら二人がただの仲間以上の関係であろうことも、想像はついていた。
リオが死んだ今、彼の心境は如何なるものか……

「よ、よう」
その声に、リョウトが振り返る。そこには、リュウセイの姿があった。
仲間との再会だというのに、やはりリョウトには何の感慨も沸かない。
むしろ……リュウセイの明るい性格は、今の彼には目障りですらあった。
「クォヴレー達を助けてくれたんだってな?ありがとよ」
コミュニケーションをとる気分でもない。適当に流すつもりだった。
しかし、リョウトは彼の言葉に違和感を感じた。
「えーと……リョウト、だっけ?あんた、あのジャイアントロボってのを操縦してるんだろ?」
……妙に他人行儀だ。まるでリョウトのことを知らないかのように。いや、まるでではない……
「あ、俺、リュウセイ・ダテってんだ。よろしくな!」
どうやら、彼は本当にリョウトと面識がないらしい。
(何を言っているんだ、リュウセイは……?)
思い返せば、ラトゥーニと話した時も、会話に噛み合わない部分が多かった。
疑問が頭を擡げてくる。ふざけているようにも思えない。彼は本物のリュウセイなのか?一体――
「あ……ところでさ、頼みがあるんだけど」
頼み。もし本物のリュウセイなら、次に出てくるであろう言葉は……
「よかったらあのジャイアントロボ、写真撮ってもいいか!?」
(……やっぱり)

「お……おいリュウセイ……何を言っているんだ?」
「だって見ろよ!ブライガーにジャイアントロボ、スーパーロボットが2機も揃ってんだぜ!!
 これが燃えずにいられるかってんだ!!」
目を輝かせてバカ騒ぎを始めるリュウセイ。
この瞬間、リョウトは彼が間違いなく本物のリュウセイであると確信した。
「……マニアか、お前……」
「お、おい、誰かカメラ!カメラ持ってないか!?」
「やかましい。あとでエルマにでも撮ってもらえ」
一人で興奮するリュウセイを、イキマはこめかみを押さえながら半ば投げやりにあしらう。
そんな光景を見て、クォヴレー達はイキマやセレーナと同じ感想を抱いた。
(……大丈夫なんだろうな、こいつ……)
微妙に張り詰めていた場の空気が一気に脱力する。
だがリョウトは終始、それを冷めた目で見ていた。
(いつものことだし。……まあ、どうでもいいか)
リュウセイのことに対する興味はすぐに失せた。
今の彼にとってはリュウセイのことなど、どうでもいい存在に過ぎないのだから。

ここで説明しておく。リョウトとリュウセイ、彼らの意識の食い違いは「並行世界」の存在から生じたものである。
リョウトのいた世界は、DC戦争やL5戦役が勃発し、終息を迎えた直後の世界。
彼はその世界で戦艦ハガネの部隊に所属。部隊の中には、その世界におけるリュウセイも存在していた。
一方リュウセイは、バルマー戦役や封印戦争、終焉の銀河での戦いが起きた世界の人間である。
彼はαナンバーズと呼ばれる部隊の一員だった。
その部隊には……リョウトはいない。ついでに言えば、トウマ、クォヴレー、セレーナもだ。
他の並行世界ならともかく……少なくとも、ここにいるリュウセイのいたαナンバーズには、彼らの姿はなかった。
だから、リュウセイはリョウトのことを知らない。ひいてはハガネやヒリュウ改の仲間のことも。
リュウセイがラトゥーニの死に何の反応もしなかったのは、こうした事情があってのことだった。

「まあ、写真はこのゲームを潰してからゆっくり撮ればいいさ。
 そのためにも、皆で生きて帰らなきゃな」
「!……ああ、そうだな」
ひとしきり騒いだ後、ジョシュアは咳払いを一つして話を切り替える。
「それでイキマ、これからどうする?」
「いろいろ情報も得られた。それに、面子も増えた以上……
 ここらでもう一度情報をまとめ、今後の方針を決定すべきだと思うが」
「そうだな……ブライシンクロンのタイムリミットを考えれば、早いうちに次の行動に移りたいところだ」
イキマの言葉にクォヴレーが同意し、続いて他のメンバーも頷いた。
「なら、決まりだな」
そう言って、ジョシュアは麻痺の残る身体を押して起き上がる。
「ジョシュア、まだ横になっていたほうが……」
「いや、いつまでも寝ているわけにもいかない。
 それに、自分の出来ることから始める……そうだろ?」
そう言われて、リュウセイは放送直後のことを思い出した。
「……ジョシュア、その……あの時はすまねぇ」
笑いかけるジョシュアに、ばつが悪そうにリュウセイが謝る。
考えてもみれば、ジョシュアに逆ギレして、殴られて諭されて、それっきりだった。
「あの時……ああ、気にするな。もう吹っ切れたんだろう?」
「ああ……もう自分を見失って、一人で抱え込んだりしない。俺には仲間がいる。それに……」
メガデウスを見上げながら、リュウセイは言った。
「教官も、な」
「……そうだな」
リュウセイの言葉は、自分自身に対する決意の表れでもあった。
「……どうやら、丸く収まったようだな」
そんなリュウセイを見ながら、クォヴレーが呟く。
「貴様も、な」
「……?」
突然自分に向けられた、イキマのその言葉に、意味がわからず困惑するクォヴレー。
その表情は、放送直後の余裕の感じられなかった姿に比べ、幾分落ち着いていた。
「お前も、一人じゃないってことだよ」
「??」
その疑問を察してか、トウマがクォヴレーの肩を叩く。
そしてそんな彼らを、一歩離れたような視点から、セレーナは見守っていた。

仲間、か―――

チーム・ジェルバの……かつての仲間達のことが思い出される。
……“かつて?”
そこに来て初めて、いつしかジェルバの仲間が、自分にとって過去形となっていることに気付く。
……馬鹿な。自分にとって仲間と呼べる存在は、ジェルバの皆だけだったはずだ。
ジェルバとしての自分の任務はまだ続いている。ずっとそう思ってきた。今だってそうだ――
任務を、復讐を果たす時まで、修羅にでも何でもなってみせる。
そんな想いを胸に、私はユーゼスの誘いに乗り……ゲームに乗った相手限定とはいえ、二人の参加者を殺害した。
しかし、三人目を仕留められぬままタイムリミットを迎えた時。
せっかく見つけた手掛かりを掴み損ねたと言うのに、僅かに心に生まれた安堵。
どうして、そんなものが生まれたのだろう。
そして、私はゲームを潰すことを決意した。
何故?ユーゼスの非道な行いが許せないから?だったら自分のしてきたことは何?
違う、ただユーゼスを直接問い詰め仇の情報を聞き出すためだ。ゲームを潰すのはそのための手段に過ぎない……
とはいえ、潰すにしても一人で出来ることは限られている。だから信頼できる仲間を探そうとした。
このゲームで出逢った、イングラムのような――
…………
じゃあ、その信頼できる仲間って?
自分にとって信頼できる仲間は、ジェルバの皆だけ。
ならば、あの時私は何を探そうとしていた?
結局、チーム・ジェルバの復讐ための、利用対象でしかないのか?イングラムも、リュウセイも。
……そう、そのはず。陳腐な仲間意識など、私には必要ない。
だったら……仲間って、何?
…………
本当の仲間は、隣で泣いたり、笑ったり出来る相手のことを言うものだ、と思う。
その定義で考えるなら、目の前の少年達は……一人少年じゃない人もいるけど……きっと本当の意味での仲間だろう。

なら、私のしていることは?

……やめ。この辺にしとくか。深みに嵌ってもしょうがない。第一、私のキャラじゃないしね。

セレーナは、生まれた迷いを心の奥底にしまい込んだ。

(……ん?)
ふと、自分や彼らへの視線を感じ、セレーナは振り返った。

仲間、か―――

……馬鹿馬鹿しい。
リョウトは心の中で、唾を吐き捨てる。

ここはやはり、ハガネやヒリュウ改と同じ空気だ。リュウセイもいる分、尚のことそう思わせる。
かつて彼を救ったその暖かさ、明るさ、そして気遣いが、僕の神経を逆撫でする。
だってここには、リオがいないから。彼女はもう、戻ってくることがないから。
そんなことも知らず、はしゃぐ彼らが不愉快でしょうがなかった。
リオはもういないのに、お前達が笑うんじゃない――

「…………!?」
その時、振り返ったセレーナと、ちょうど目が合った。
それは、ほんの一瞬。
しかし……彼女と目を合わせて、リョウトは何かを感じ取った。

どこか影のある瞳。この人も、僕と同じだ。復讐に身を窶した人間。
……でも、この人は……

(あの子……)
「セレーナさん、どうしたんですか?」
「ん……何でもないわ。で、作戦会議を始めるのね」
エルマの声に我に返って、セレーナはいつも通りの明るい口調で返す。
「それじゃ、エルマは引き続き修理のほうよろしく」
「ええ!?ボクだけ仲間はずれですか!?」
いきなりの言葉に、エルマは不服そうな声をあげる。
そんな二人に、メガデウスを見上げながら、イキマがフォローを入れた。
「まあ、今こいつを修理できるのはお前しかいないからな。
 それに、少しでも早く次の行動に移りたい現状……早くこいつにも満足に動けるようになってもらいたいところだ」
「そうですね……わかりました」
「素直で結構。ま、あとでゆっくり説明してあげるわよ」
エルマは修理作業を再開すべく、メガデウスのコクピットへと向かっていった。
「リョウト、君の情報も聞かせてもらいたい。参加してくれないか」
「……ええ」
ここで初めて、リョウトは輪の中に入っていった。
情報を得るため、そして彼らを自分の……いや、リオのために利用するため。
リョウトにとって、彼らにそれ以上の存在価値はなかった。



「では、もう一度情報を整理するぞ」
ジョシュアが切り出すと共に、セレーナはメモ用紙を取り出し、一同の前に差し出した。
『首輪や通信機を通じて盗聴されている可能性があるわ。
 ユーゼスに知られるとまずいような話は、筆談で行うべきね』
一同は無言で頷いた。
(それだけ、とも限らないけどね……でも今はこれ以上を心配しても仕方ないか)
どこにどんな細工が施されているかわからない。警戒はし過ぎることはなかった。
しかしさすがのセレーナも、自分の相棒がユーゼスの目や耳となっていることなど、夢にも思わない。
……幸い、エルマは作業中により作戦会議不参加であるため、エルマを通じての情報は遮断された。
もしここでエルマも会議に参加していれば、彼のカメラを通じてユーゼスに情報は筒抜けとなり、
こんな筆談など無意味となっていただろう。
そんな偶然になど誰も気付くことなく、情報交換は行われた。


『まずは、あの巨人のデータにあった、空間操作装置の情報だ』
空間操作装置。対主催の抵抗を行うための大きな情報。
イキマがその内容を紙に書いて説明する。
この会場にある光の壁。そしてそれと同じ技術を使用していると思われる、ヘルモーズの空間移動能力とバリア。
ユーゼスが空間操作の技術を持っていることは間違いない。
イングラムの推測によると、その空間を操作するための基点となる装置が、この会場のどこかにあるらしい。
『それじゃ、そいつを破壊すれば、ヘルモーズを丸裸にできるんだな!?』
『多分あの光の壁だって消せるはずだ。もしかすると、ゲームからの脱出も……!』
『落ち着け。あくまで可能性があるという話だ。
 仮にそうだとしても、首輪の爆弾がある以上、今は手出しは出来まい』
この悪夢の中で見つかった、一筋の希望。その存在に息巻くリュウセイとトウマに、イキマは釘を刺した。
忘れてはならない、装着された首輪。この抑止力が、思い切った反逆行動を阻む。
……ついでに、少し落ち着いて、字はわかるように綺麗に書け……とも突っ込んでおく。
『イキマ、装置のある場所はわからないのか』
『ああ。イングラムはD-3とE-7にあると推測していたようだ』
クォヴレーは地図を広げ、その二つの場所を確認した。
(最初に指定された禁止エリアだな。一番簡単で手っ取り早い守り方、ってことか)
装置の発見・破壊を防ぐべく、その地域を禁止エリアに指定する。
それだけで、参加者は誰も装置に手出しすることはできない。
参加者はその場所に踏み込むことすら不可能となるののだから。
(でも、本当にそれだけかしら……?)
セレーナは装置の隠し方に疑問を抱いていた。
確かに、そうなれば装置に手出しできるものはなくなるだろう。だがそれは指定された後の話だ。
ゲームが始まってから最初の放送がかかり、その二つが禁止エリアに指定されるまで6時間あった。
装置の形状にもよるだろうが、それまでの間に発見される、あるいは破壊される可能性も十分あるはずだ。
そうした可能性をユーゼスが見逃すとは思えない。
「それと……気になる情報があった」
セレーナの疑問を他所に、イキマは次の情報の説明を開始した。
空間操作装置の他にもう一つあった、イングラムの遺した情報。
イキマは、そちらの情報はユーゼスに知れた所で問題はないと判断し、口を開いた。
それは、C-7にあったという、謎の地下通路。その奥にあった、蒼い粒子の舞う渦。
その渦に触れたことで、メガデウスは一瞬にしてこの小島までワープしたという。
「地下道……蒼い渦……?」
その二つのキーワードに、リュウセイが反応する。
「どうしたリュウセイ?」
「同じだ……俺の時と、全く……」
ゲーム開始時、最初にいた地下室で謎の隠し通路を発見したリュウセイ。
その地下通路を、2時間近い間探索した。……いや、実際には迷っていただけなのだが。
迷い迷って奥まで進むと、「旅の扉 経過3時間」などと書かれた蒼い渦があった。
それに触れるとその中に吸い込まれ……気付けばG-1の地に立っていた。
イングラムの体験と酷似した状況――
「そんで教官と再会したんだったな。そういえば、時間も3時間ほど経過していたっけ」
「リュウセイ、それはどこにあった?」
ジョシュアの質問に、リュウセイは開始直後の状況を記憶から探り出す。
「えーと……確か、地下道の入り口は……
 俺が最初にいたC-4の……どっかの建物の地下駐車場みたいなとこだったな」
言うや否や、ジョシュアは地図の座標を確認する。
建物の地下の駐車場ということは、どこかの街の中だろうか。そしてC-4における、小さな街のエリア……
リュウセイのスタート地点、そして地下道の入り口の特定は容易だろう。
「旅の扉、ねぇ……どっかのゲームじゃあるまいし」
「しかし、もしかするとまだ他にもこの蒼い渦があるかもしれないな」
それぞれが推測をめぐらす中、ジョシュアはリュウセイの言った位置に注目していた。
(C-4地点……街の位置的にも、さっき言ってたD-3とは目と鼻の先だ……)
これは偶然だろうか?それを確かめるべく、ジョシュアはさらにリュウセイに問いかける。
「他に気付いたことはなかったか?何でもいい、思い出してくれ」
「そ、そうは言われてもよ……えーと……」
リュウセイは、あの地下通路で迷っていた時の、おぼろげな記憶を掘り返す―――
―――そこは地下街のような場所だった気もする。通路はフェアリオンがギリギリ通れるくらいの大きさだった。
あの時はわけのわからぬまま迷っていたが、今思えばあの地下通路はかなり入り組んでいて、広かった。
そんな視界が真っ暗な中を進みながら、十字路に差し掛かった。
右に進んだ。ウルトラマンがどうとかいう落書きがあった。怪しかったんですぐ引き返した。
左に進んだ。鷹の壁画とショッカー万歳とかいう落書きがあった。胡散臭くてすぐ引き返した。
あれ?よく確認しなかったけど、どちらの道もまだ先があったような……?
そんで、今度は真っ直ぐ進むと、蒼い渦を見つけて……

「……リュウセイ君、その地下通路の中でどれくらいの距離を移動した?」
「え?よく覚えてねぇけど……2時間近く、かなり歩いてた気がするな」
「中で、現在地の座標の確認は?」
「すまねぇ、わけわかんないまま闇雲に進んでたからな……」
「……そう」
「……どういうことだ?」
セレーナの質問の真の意図を理解できないリュウセイに、ジョシュアは紙に書いてそれを説明した。
『つまりその地下通路から、D-3へと足を踏み入れた可能性はないか……ということだ』
D-3の位置はC-4の入り口のすぐ北東。地下通路が広がっていれば、その可能性は十分にあるだろう。
『そう。もっと言うなら、D-3に地下がある可能性、ってことね。
 そして……空間操作装置も、地下に隠されてるかもしれないってわけ』
(そ、そうか……!)
地下ならば、普通ならばまず発見されることはない。
よほどの規模でもない限り、戦闘に巻き込まれて破壊されるということもないだろう。
その上で、その地域を禁止エリアにすれば、守りは完璧だ。
「……なるほど。イキマ、イングラムの探索していた、C-7の地下通路について、他に情報は?」
「こちらの地下通路は、どうやらC-7から東に向いて伸びていたらしい。
 渦があった場所は、D-7だったようだな。他に道が分岐していたかどうかはわからんが」
(……その先には、E-7があるな)
二つの謎の地下通路。
そしてその先に通じるは、それぞれ最初に禁止エリア指定された場所。
その場所は、空間操作装置の所在地候補。
まだ推測の域を出ていないが……この二つの場所、匂う。

「調べてみる必要があるだろうな」
クォヴレーは言った。そしてそれに付け加えるように、続きを紙に書く。
『もっとも、首輪を外さないことには、禁止エリア部分の調査は不可能だがな』
結局はそこに辿り着いてしまう。
何よりも急務なのは、この枷を外すことだった。でなければ、仮に装置を見つけたところで次の行動に移れない。
『誰か、この首輪を外せる奴はいないのかよ?』
トウマの質問に、全員が首を振る。というより、そんなことが出来るくらいなら最初からやっている。
セレーナもエルマに解析させたことがあったが、不可能だった。
お前は?という表情で、トウマはリョウトのほうを見る。
リョウトは先程からずっと黙って座ったままだったが、その問いにペンを取る。
『少しならわかるかもしれないけど、実際に調べてみないことには何ともいえない』
リョウトは技術者の卵である。ヒュッケバインMk3の開発にも関わっていた。
元々機械いじりが趣味だったこともあって、ある程度の知識は備わっていた。
『まあ、肝心の解析するための首輪もないし、今の俺達にはどうにもできないな』
まさか、このメンバーの中の誰かをモルモットにするなど……ここにいる者達は許さないだろう。
……実は、そのために使えそうな首輪なら、ジャイアントロボの中に一つあったりするのだが……
それを知るのはリョウトのみ。彼もそれを喋るつもりはなかった。

『一応、当てならあるわ』
セレーナが切り出した。
「それじゃ、次は私の情報ね……上手くやれば味方になってくれるかもしれない、二人組がいるわ」
彼女の当て……味方となってくれるであろう人物の情報。
漆黒の悪魔のようなマシンに襲われていた、白銀の戦闘機と白いバイクに乗った二人組だ。
「俺以外にもバイクなんて支給されてた奴がいたのかよ……」
「傍受した通信の会話からすると、G-6基地に向かっていたみたいね」
ぼやくトウマを他所に、セレーナは言いながら、この情報の最も重要な部分を紙に書く。
『それに、その二人……どうやら首輪の解析を進めているらしい。
 会話を聞いた限りだと、既にある程度まで解析は進んでいるようね』
解析を続けるべく設備の整った基地に向かったのであろう、ということは予測がついた。
なお、その片方は博士と呼ばれていたという。首輪解析のための知識を持っていてもおかしくない。
(博士、か……)
イキマは思い返す。このゲームの参加者の中で、自分の知る「博士」と呼ばれる人物……いや、厳密には人間ではないのだが。
司馬遷次郎。彼の名が参加者名簿に存在し、さらに現在に至るまで死亡者として放送で呼ばれていないこと。
……アレがどうやってこのゲームに参加しているのかだとか、そもそもアレは元々死んでいるのではないかだとか、
他愛もない疑問はいろいろあるのだが……もしこの男が参加して、今なお健在だとすれば。
(首輪を解析している博士とは、奴のことかも知れんな……)
「どうした、イキマ?」
「いや、何でもない。ともかく、その者達と接触してみる価値はありそうだな」
旧敵といえど、今となっては争い合うつもりはない。だが……
――接触してどうする?手を組む……そんなことができるのか?この俺に。
心の中で、自分に問いかける。
その答えを出す前に、話題は次に移る。

「その二人組もそうだが、彼らを襲っていたという黒い機体も気になるな」
「ああ。そいつに殺されてなきゃいいんだけど」
「……それについても、話しておいたほうがいいわね」
そう言うと、セレーナは黒い機体に関する知る限りの情報を話す。
ファーストコンタクトは昨日の深夜。C-4で黒い機体の襲撃を受けたセレーナは、これを撃破。
しかし本日早朝、その二人組を追う黒い機体が、D-4にて再度発見された。
「どういうことだ?そいつは倒したんだろ?」
「ええ、交戦した時にコクピットを吹き飛ばした。私が戦った時のあれのパイロットは、確かに死んだはずよ。
 新たに別の参加者が乗り込んだと考えるのが自然ね」
パイロットの死亡を確認したわけではない。
だが、12時のヘルモーズからの通信で、ユーゼスの言葉を信じるなら、それは間違いない。
ちなみに……セレーナはユーゼスと接触していたことは伏せているが。
「なら、機体の損傷については?コクピットを吹き飛ばしたんだろう?」
「何ともいえないけど、何らかの手段であの機体は再生したか……あるいは機体そのものの特性かもしれない」
「機体が再生、だと……?」
セレーナの推測の中に出てきたフレーズに、クォヴレーが反応する。
同時に、無表情のリョウトの眉が、ピクリと動いた。
「まさか……あいつと同じ力を……?」
つい先程の信じられないような出来事が、トウマの記憶に蘇る。
「?どうかした?」
「その機体の再生能力ってのに、思い当たることがあるんだ」
「ああ、奴と……さっきここを襲った、あの敵と関係がある」

クォヴレーは話し始めた。剣鉄也とガイキング……つい先程襲撃してきた、敵の正体を。
一同の脳裏に、あの時の悪夢のような光景が過ぎった。
戦力不足もあったとはいえ、たった一機の、満身創痍の敵にものの見事に手玉に取られてしまった。
今こうして無事でいられるのは、ブライガーやジャイアントロボといった、度重なる奇跡的要素あってのことである。
彼の戦闘力は計り知れない。それは、ここにいる者達が身をもって知っていた。
「あのボロボロの機体で、あれだけの奇襲をやってのけた……あいつの戦闘センスは半端じゃないわ。まさに、プロの仕事って奴ね」
加えて、ファーストコンタクトの際に感じた凄まじいプレッシャー……セレーナは肌に冷や汗が滲むのを感じた。
「それだけでも十分危険だが……ここで重要なのは、奴が見せた再生能力だ」
クォヴレーは説明を続ける。あの襲撃の後のジョシュア救出時の出来事を。
ブライガーで確実に止めを刺したはずだったガイキング。
そこに、突如謎の巨大な、怪物のようなガンダムらしきモノが出現。
それが大破したガイキングと同化する。すると、見る間にガイキングを再生された。
「冗談だろ……」
その顛末に、リュウセイは呆然と呟いた。何かの冗談だと思いたい。
満身創痍の機体ですら驚異的な力を見せ付けたあの男が、機体共々再生されたなどと。
「で、でもそんな能力があるなら、どうしてもっと早く再生しなかったんだ?」
「直前に現れた謎のガンダム……あれが何か関係していると見るのが妥当だろうな」
「……なるほど。私の遭遇した黒い機体も、同じ手段で再生した可能性がある……ってわけね」
リュウセイの疑問に、クォヴレーはその時の状況から推測する。そこをさらにセレーナが続けた。
「となると問題は、その突然現れたというガンダムは一体何なのか、だ。
 あの戦いの後、周囲を警戒してはみたが、ガンダムの影も形もなかった。
 ガンダムが出現した場所の地面も調べたが……その痕跡は極めて不自然だった」
「不自然?」
「何もない……そうだ、まるで何もない空間から突然現れたようにも見受けられた」
「何もない空間から、突然……?」
クォヴレーの説明から、ジョシュアは先程聞いた蒼い渦の情報を思い出す。
これでは、渦に巻き込まれて別の場所に飛ばされた直後のリュウセイやイングラムと同じだ。
そして彼は、自分の推測を紙に書き出し、一同の前に出す。
『そのガンダムも……空間操作装置と、何らかの関係があるのかもしれない』

さすがに、ゲッター線の力で空間を飛び越えてきました……などとは、今の彼らにはわかるはずもなかった。

「リョウト、お前は何か知らないのか?あいつを追ってたみたいんだけど」
「別に。ただ以前の戦闘の時乱入してきて、無差別に何人もの人を殺していたのを見ただけです」
トウマに対するリョウトの回答は、相変わらずの淡々とした口調だった。
だが、剣鉄也の話題になってから、リョウトの虚ろな瞳に微かに憎悪の光が灯ったことを、セレーナは見逃さなかった。
「リョウト……もしかして、あいつに仲間を……?」
「どうだっていい、そんなこと」
リュウセイの、やや無神経な質問に投げやりに答える。
気まずくなる空気。それを逸らそうと、クォヴレーが話を続ける。
「あれが何かは不明だが……得体の知れないプレッシャーを感じた。上手くは言えないが……
 俺達の知らない所で、このゲーム全体を何かが覆い尽くそうとしているような気がする……」
「な、何かってなんだよ」
「さあ、な……
 とにかくさっきも言った通り、セレーナの言うマシンがこれと同じ力で再生した可能性はある。
 いずれにせよ、こいつらに関しては十分に警戒を強めるべきだろう……今俺達にわかるのはここまでだ」
強引にまとめへと持っていく。
だが話すべきことは全て話した。これ以上謎のガンダムについて議論をしても埒が明かない。


「剣鉄也に黒い悪魔、そして怪物ガンダムか……
 ここらで一度、他の参加者の情報も整理したほうがいいな」
このゲームに蠢く危険な存在の名が、立て続けに出てくる。
それらをまとめるべく、ジョシュアが切り出した。
「まず、マーダー、及び危険と思われる人物についてまとめよう。
 今出てきた剣鉄也と黒い機体以外に、みんなが警戒すべきだと判断した相手はいるか?」
各々がこれまでに遭遇した、あるいは人づてに聞いた、危険と思しき参加者が次々と挙げられる。
トウマを襲った赤い可変戦闘機。イキマの出会った、アルマナを殺したという銀の仮面の男。
ジョシュアとリュウセイの遭遇した、龍のようなマシン。
さらにリョウトの口から、惣流・アスカ・ラングレーという名のマーダーの情報も語られた。
パイロットの素性が不明なものも多い。そのうちの何人かは既に死亡してる可能性もある。
「俺達が遭遇したゼオラ・シュバイツァーは死亡が確認されているから除外だな。となると……」
イキマが名簿を指差しながら確認する。
「第3回放送の時点で生存が確定されている危険人物は、このアスカという女と……そして……」
「木原マサキ、だな……」
トウマとクォヴレーを襲った、蒼い機体のパイロット。
見た目はどこか気弱そうな、人を殺すとは思えないような青年。
仲間になると見せかけて、突然掌を返し攻撃してきた。
その内に危険な本性を隠し持っていることが見て取れた。
「なるほど、典型的な猫被りマーダー、ってわけね」
「けど、こうして手の内が知れた以上……その手は通用しないってもんだぜ」
「いや……そう一筋縄でいく相手でもなさそうだ」
リュウセイの楽観的思考をクォヴレーが止める。
マサキの襲撃の時、乱入してきたイングラム。その時の、マサキの彼への対応……
高い状況分析能力と冷静さを持ち、咄嗟の判断力にも優れる要注意人物だ。
「木原マサキ……かなりの危険人物のようだな。剣鉄也や黒い機体同様、十分警戒する必要があるな」

「それと、マーダーとは違うようだが、あと一人……不審な人物に遭遇した」
さらに続けて、クォヴレーが新たな参加者の話に切り替える。
「ああ、あの天使みたいな白いロボットに乗ってた、女の人か」
「天使みたいな、白い……?」
トウマの口から出た言葉に、セレーナは眉を動かす。
「セレーナ、知っているのか?」
「昼過ぎに……ちょうどこの島に来る前に遭遇したわ。
 多分、あんた達の言ってるロボットだと思う」
そして一呼吸置いて、呟く。
「……嫌な感じの奴だったわね、あいつ」
あの時通信機から聞こえた女の微かな嘲笑が、未だセレーナの耳から離れない。
「……ブライシンクロンの情報を俺達に教えてきたのは、その女だ。
 そして、俺の名前も知っていた……」
「なんだよそれ……一体何者なんだ、そいつは」
クォヴレーの言葉に、女に対するさらなる謎と疑惑が深まる。
だがそれは、いともあっさりと破られることとなった。
「ラミア・ラヴレス。多分、ユーゼスの回し者だと思うよ」
突然、リョウトがその口を開いた。
質問を受けない限りずっと沈黙を続けていた彼が自ら喋り、一同はやや戸惑いを見せる。
「リョウト……お前もあいつに?」
「あいつは乗る機体が破壊されてなくなった僕に、ロボを渡してきたんだ」
「ジャイアントロボを……?なんであいつがそんなのを?」
トウマが首を傾げる。以前会った時には、白い機体以外のマシンは見当たらなかった。
「……詳しい経緯はわからんが、その女がやろうとしていることは想像がつく」
考えた所でわかりはしないと判断し、イキマは再度女の目的のほうに話題を向けた。
「乗機のなくなった彼に新たな機体を渡し……
 ブライガーの真の機能を発動させる方法を、クォヴレーに伝えた。つまり……」
「ゲームを扇動している、ってことか」
セレーナの解説に、クォヴレーが続いた。そして、ジョシュアが最後にまとめる。
「ラミア・ラヴレス……主催者の犬、か。こちらも警戒したほうがよさそうだな」

「次は、こちらの味方となってくれそうな人物だ。さっきセレーナの言った二人組以外に、誰かいないか?」
要注意人物に比べると少ないものの、こちらも数人が挙げられた。
トウマ達からはヒイロ・ユイが。セレーナから、ガルド・ゴア・ボーマン。
リョウトからも、タシロ・タツミと副長の情報が得られた。
そして……マイ・コバヤシ。リュウセイと同じ、SRXチームの一員。
「マイの名前はまだ放送で呼ばれてねぇ。まだ生きてる……心細い思いしてなきゃいいけどな」
「わかった、俺達もその子を探そう……早く見つかるといいな」
「ああ……」

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最終更新:2007年06月17日 06:31