希望という名の泥沼(後編)
「情報はあらかた出揃ったようだな」
纏められた情報の羅列は、白いメモ用紙数枚を文字で埋め尽くしていた。
それらを整理しながら、クォヴレーの口から溜息が漏れた。
よくもまあ、これだけ集まったものだ……と。
首輪の解析。ヘルモーズのバリア無力化。ゲームを潰すための手段。そのために向かうべき場所。
ほんの数時間前までは、情報不足で反撃の手立てなど何一つ目処の立たない状況だったというのに。
情報だけではない、戦力的にもそうだ。ブライガー、アーバレスト、ジャイアントロボ、そしてメガデウス。
数時間前とは比較にならないほどに充実していた。
ここに来て、一気に反撃の目処が立った。……不自然とすら思えるほどに。
(出来すぎている……)
まるで、そう仕向けられているかのようだ。
これも、ユーゼスの思惑通りなのか?
結局、俺達はユーゼスの手の上で踊り続けているだけなのか……?
希望が見えてきた、と盛り上がるトウマとリュウセイ。しかし彼らほど、クォヴレーは楽観的にはいられなかった。
「……では、これらの情報をもとに、これから俺達が取るべき行動をまとめてみよう」
そう言って、ジョシュアは新しい用紙に今後の方針を書き出す。
- 空間操作装置を探し、破壊。所在地の候補は、D-3とE-7。
そこに通じていると思われる、C-4とC-7にある地下通路の調査。
- G-6基地に向かい、首輪解析の情報を得る。
- 剣鉄也、及び黒い機体のバックにあると思われる「何か」の真相の究明。
「とりあえず、G-6基地に行ったという二人組との接触が最優先だな」
イキマの言葉に頷く一同。何はなくとも、やはりこの首輪を外さなければ話にならない。
「じゃ、まずはG-6に向かうんだな」
「いや……ブライシンクロンのタイムリミットも考えれば、あまり時間はかけられない。
並行して、地下通路の特定や内部の調査もある程度行ったほうがいいかもしれん」
「なら、手分けして行動したほうがいいな」
そんなわけで……
クォヴレーの提案を受け、彼らはお約束の「チーム分割イベント」をすることとなった……
「では、G-6基地に向かい、セレーナの言っていた二人組と接触するメンバーと、
二つの地下通路を探索するメンバーに分かれよう」
ジョシュアが中心になって、メンバーの割り振りを決める。
「まず、クォヴレーはG-6基地に向かってくれ。
今ある機体の中では、おそらくブライガーが一番機動力が高い……空も飛べるしな」
「了解した」
「トウマは引き続きブライガーに乗ってくれ。やはりバイクだけでの行動は危険が伴う」
「ああ、わかった」
「……俺も行っていいか。その二人組について、少々確認したいことがある」
滞りなく進められるメンバー選抜、そこにイキマがG-6行きの希望を申し出た。
「確認したいこと?」
「ああ。その二人組の片方は、もしかすると俺の知っている人物かもしれん」
「それって、仲間なのか?だったら、来てくれれば話は早……」
「いや……」
僅かに言葉を濁らせ……イキマは口を開いた。
「司馬遷次郎……俺の世界において、敵対していた者だ」
重い表情で話すイキマに、一瞬場が静まる。
だが、その沈黙はすぐにセレーナの正論によって破られた。
「……それじゃ、逆に話がこじれる危険もあるんじゃないの?」
「かもしれん。だが、今という時だからこそ……俺は奴と話をしたい。
いや……違うな。ただ単に、俺は自分に対して、けじめをつけたいだけなのかもしれん」
そう語る彼の瞳には、どこか強い意志の色が確認できた。
彼にとってのけじめ、それは自身の心に決着をつけること。
邪魔台王国幹部としての自分と、この
反逆の牙の仲間の一人としての自分。
その板ばさみ状態から生まれ、彼の心の奥底に未だ残る、人間と手を組むことへの迷い。
だがもし、旧敵と手を取り合い互いの怨恨を拭うことが出来たなら……自分の中の、何かが変わるかもしれない。
そう信じて……
「……ジョシュア、クォヴレー。俺からも頼めるか?
知り合いなら、接触の時にも間違うこともないだろうしさ」
イキマのそんな意志を読み取ってか、トウマも一緒になって頼む。
別に、無理に拒む理由もない。クォヴレーは快く承諾した。
「わかった。なら、陸地まではブライガーで担いで行こう」
「……すまない、手間をかける」
「と、なると……
G-6基地には、クォヴレー、トウマ、イキマが向かってもらう」
「なら、地下通路の調査のメンバーは……ジョシュア、リュウセイ、セレーナの3人だな」
それぞれジョシュアとクォヴレーが話をまとめ……あと一人、未決定の者が残る。
「で、
リョウトだが……お前はどっちのグループに入る?」
ジョシュアがリョウトに問いかけた。
「……僕は……」
「リョウト選択」
「G-6基地に向かう」
「地下通路を探索する」
「…………」
沈黙。
「ん?どうした?迷っているのか?」
リョウトの表情は……相変わらずの無表情だが、どこか不服そうな印象を受けた。
いや、実際不服だった。
彼にとって、一番肝心な選択肢が提示されてないから。
「あいつは……剣鉄也はどうするんです」
今のリョウトにとっては、鉄也を殺すことが全てだった。それを放置するなどと……
「確かに、あの男は危険だ。できるだけ早いうちに奴もどうにかしたいところだが……
だが、奴がどこに逃げたかわからない以上、今は手の打ちようがない」
それはリョウトにもわかっていた。
どこにいるかもわからない者を当てもなく探すより、少しでも判明した部分から手を付けていくべきことは。
しかし、頭ではわかっても、心は納得しない。
「でも、あいつは一刻も早く殺さなきゃならないんだ」
ジョシュアに返したリョウトの言葉は、憎悪に満ちていた。
言葉だけでない。剣鉄也の話題になった途端、彼の瞳にも並々ならぬ憎悪の炎が宿っていた。
(こいつ……何という目をする……)
イキマの頭からは、不吉な予感が離れなかった。
やはりこの男、危険すぎるのではないか……?
「……あいつに殺されたのね。知り合いを……いや、
大切な人を」
セレーナは、彼のその瞳に怯むこともなく言った。
「……だから何です?あなたには関係ないことだ」
リョウトは、苛立ちを隠さず言い捨てる。
張り詰める、場の空気。
そこに、ジョシュアは諭すように、リョウトに言った。
「……リョウト、お前の気持ちはわからなくもないが……」
――わからなくもない?ふざけるな。お前などにわかってたまるか。
「憎しみに飲まれるな。飲み込まれたら……行き着く先は、破滅しかないぞ」
――他人事だから言えるんですよね。そういうのって。
でも、それだけの憎しみを抱かずにはいられない人間の気持ちが、あなたにわかるんですか?
「俺からは何も言えない。でも、復讐は復讐を生むだけでしかない……それだけは、覚えていてくれ」
――覚えるも何も、自分も前にそんな綺麗事を言ったような気がする。
その言った相手の彼女はやけにあっさりと割り切って、自分達の仲間になっていたけど……
「みんなも、だ。憎悪に、負の感情に取り込まれるな。それでは……ユーゼスの思うつぼだ」
あいにく僕はそんな簡単に割り切れない。僕の持つ負の感情は、その程度で割り切れるほど安くはない。
……でも。
「……わかりました」
リョウトはあっさりと引き下がった。
自分の我侭で、ゲームを止めようとする彼らを止めるつもりはない。
(復讐は復讐を生む、か……)
セレーナの頭の中でジョシュアの言葉が反芻される。
彼女は、それを覚悟の上で復讐鬼となる道を選んだ。
しかし、他人がそんな修羅道に堕ちる様を見るのは、何とも気分が悪い。
彼はまだ、自分ほど堕ちてはいない。まだ、取り返しはつくはず。やり直せるかもしれない。
……自分が他人に対してこんな心配をしようなどとは。
(全く、私もヤキが回ったようね)
セレーナは、心の中で自嘲気味に呟いた。
「じゃ、リョウトはG-6基地に一緒に来てくれ。
G-6基地は、場所が場所だけに目立つからな。恐らく一番、戦闘の起こる可能性が高い。
その時、ジャイアントロボは大きな戦力となるはずだ」
言いながら、クォヴレーは続きを紙に書く。
『何より、首輪解析が行われているなら、あんたの技術がそこで役立つと思う』
「……わかった」
リョウトは不服そうに呟いた。
これで、チームの組み分けは決定した。
続いて、再合流の時間と場所、
その他注意すべき事項など……
後は特に問題なく決定していった。
「さっき言ってた二人組のことは、エルマのカメラが捉えてるから確認するといいわ」
「ああ、すまない」
「それじゃ、出発の準備に取り掛かろうぜ!」
イキマ、トウマ、クォヴレーは立ち上がり、エルマが修理を続けるメガデウスへと向かっていった。
「リョウト、お前は行かないのか?」
「……僕は……」
リュウセイに一言呟くと、リョウトもまた立ち上がり……ジャイアントロボのほうへと向き直る。
「ロボの調子が悪いんだ。ちょっと見てくる」
「そうなのか?だったら俺も手伝って……」
「いや、構わない。
クォヴレー達の準備のほうが先に整ったなら……
すぐ追いつくから、先に行くように伝えといてください」
「え?あ、ああ……」
リュウセイの手助けを断ったリョウトは、言うだけ言ってロボのほうへと走っていってしまった。
「どうしたんだ?あいつ。ロボの調子、悪そうには思えなかったけどな」
「……さあ、ね」
リョウトの行動に、セレーナは不審なものを感じていた。
「……彼はああ言ってるけど、時間も惜しいし……私も一緒に手伝ってくるわ」
「……頼みます」
ジョシュアはセレーナの意図を読み取り、彼女に任せてみることにした。
セレーナは、リョウトを追っていった。あとには、ジョシュアとリュウセイだけが残る。
「どうなってんだ?」
「……とにかく、リョウトのことはセレーナさんに任せよう」
「これが、その時の写真です」
エルマのカメラが捉えた映像。
その写真を見ながら、トウマ達はこれから接触を試みる相手の確認をする。
「黒い機体に、白い戦闘機と……うわ、ほんとにバイクだぜ!
俺以外にもそんなの支給されてた奴いたんだな……」
呆れるトウマを横目に、エルマは説明を続ける。
「白い戦闘機はおそらく、YAM-008-02アルテリオン……
DCの恒星間航行計画・プロジェクトTDによって開発されたAMです」
「知っているのか?」
セレーナ達にとっては、後に同じ仲間として共に戦場を駆け抜けることになるはずの、アルテリオン。
だが、今ここにいるセレーナとエルマの時間軸は、この機体と接触する遥か前。
「ええ、データがボクの中に入っていますから」
だから、それ以上の関わりはなかった。
「とにかくこの、アルテリオンと白バイクのパイロットに接触すればいいんだろ?」
「この黒い機体にやられていないことを祈るばかりだな。……いくぞ」
トウマとイキマは出発準備に取り掛かろうとする。だが、クォヴレーだけは写真を凝視したまま動かない。
「行くぞ、クォヴレー……どうした?」
クォヴレーのその目は、写真の黒い機体を……
ディス・アストラナガンを見据えていた。
(なんだこの機体は……俺は……この機体を知っている……!?)
それは……かつての、彼の愛機。記憶のない今は、それを知る由もない。だが……
(この黒い機体……俺の記憶と何か関係があるのか……?)
頭の中の何かが引っかかる。何かが疼く。
この機体は何だ?ただのロボットではない……何故、俺にそれがわかる?
俺は何者だ……?
「おい、クォヴレー!」
「!!」
トウマの声が、クォヴレーの意識を現実に引き戻した。
「……どうした?またなんか様子がおかしいぞ?」
「いや……すまない、何でもない」
断ち切るように、クォヴレーも二人の後を追う。
今優先すべきは、G-6に向かうことだ。そう自分に言い聞かせて。
一人、ジャイアントロボに向けて足を進めるリョウト。
先程は表面上を取り繕っていたが……リョウトは、相変わらず苛立っていた。
この、居るだけでも不快になる空間に身を置いているのも、剣鉄也を倒すための力を得るためだった。
ゲーム脱出・ユーゼス打倒の情報を得る意味もあったが、彼にとって打倒剣鉄也は何より優先すべき事項だった。
先の戦闘以来……いや、B-1で目を覚ました時から、彼はずっと剣鉄也の存在を感知していた。
ドス黒い、悪意そのものと言ってもいい仇敵の存在。
そして、それをさらに包み込む大きな悪意。
悪意は、時間が経つごとに大きくなっていく。
特に21時を回った頃から、その傾向は極端に強くなっていた。
この会場のどこかで、何かが起きている。途方もなく危険な、何かが。
一刻も早く倒さなければ。剣鉄也と、その背後の悪意を。
だというのに、ここの連中は、あの男を無視して別の行動に走り始めた。
その上、戦力を分断するなどと……リョウトにしてみれば、当てが外れたと言える展開だった。
「こんなことしてる場合じゃないのに。早くあいつを殺さないと……」
彼らの言い分は、リョウト自身わかっていた。
ゲーム脱出を考えるこの集団、参加者を殺すよりも、ゲーム脱出を優先するのは当然。
そうでなくとも、それよりも優先して居場所もわからない剣鉄也を探すなど、判断としてありえない。
自分にとってもそうだ。ゲーム脱出は、いずれ自分とリオが元の世界に戻るために嫌でも必要となってくる。
そう、理性ではわかっている。でも、やはり我侭な心はそれで納得しない。
だから納得させるために、リョウトはこの反逆の牙を抜けようと考えていた。
剣鉄也を相手にしないなら、この集団に用はない。
しかし……このまま何もせず、一人で出て行くのも芸がない。この集団に自分への余計な疑いを植えつけるだけだ。
ここの連中との信頼関係などどうなろうが知ったことではないが、余計なリスクは負いたくない。
……せめて、そのリスクにあった何かを得たいところだった。
今の自分だけでは限界がある。元々この島に来たのは、力を得るためだ。
リョウトは、ただ感情に任せて行動しているわけではない。むしろ極めて冷静で、利己的であると言えた。
その冷静さから導き出した、彼の答えはこうだ。
ここにいる誰かを殺し、その殺した者の機体を強奪する。
自分はその機体に搭乗し、同時にその機体からジャイアントロボを遠隔操作する。
そう。このゲームで今まで誰も行わなかった、複数の機体の確保。
このやり方ならば、ジャイアントロボの遠隔操作システムも長所として生かせる。
2機の機体を駆使すれば、剣鉄也にも、それ以外の相手にも、そうそう遅れは取るまい。
だが、誰を殺す?どの機体を奪う?
既にブライガーとギャリィウィルは出発準備にかかっている。どうやらワルキューレも積み込んでいるようだ。
多分、こちらの機体にはもうチャンスはない。
となると残るは、地下通路探索組の3機。メガデウス、ガンダム試作2号機、アーバレストだ。
まずメガデウス……どうやらイングラムが乗っていた機体を、リュウセイが後を継いで乗るつもりらしい。
だが問題は、現在まだ修理に時間がかかりそうな上、元の損傷の激しさから修理が終わっても戦闘力は不完全なまま、ということか。
次にガンダム……核を持っているのは切り札となりえる。
ジョシュアも負傷中、満足に動けない状態。おそらく殺すだけなら一番簡単に違いない。
こちらの問題は、ガンダムの計器類がほぼ全滅に近い状態となっていることか。
最後に、アーバレスト……大した損傷もなく、詳細はわからないがどうやら特殊なシステムが搭載されているらしい。
小柄で運動性に長け、ここにある中で一番自分向きの機体。タイプが正反対のジャイアントロボと組ませるにもいい感じだ。
おそらく戦力としてなら自分にとって一番理想的な機体だろう。
だが、殺す相手が問題だ。セレーナは兵士として訓練されている。
空手経験があるとはいえ、基本的に素人同然の自分が彼女をまともに殺そうとしても、返り討ちは目に見えている。
どうする……?誘き寄せて一人になったところを、ロボで潰すか?そんな手に乗るだろうか?
ふと、こんなことなら、剣鉄也との戦闘直後に、あの3人を殺せばよかった……などと軽い後悔が過ぎったりもする。
その一方で、無関係の人間を殺すのは少なからず気が引けたりもした。
良心とか、そんな感傷によるものではない。剣鉄也と同じような真似をすることになる、という理由からだ。
でも、これは仕方がない。これは悪を倒すためだから。これは正義の行いだから。
彼は自分勝手な理屈で、いや正義で、その行いを正当化する。
彼の目に迷いはなかった。あるのは、狂った決意だけ。
ジャイアントロボの足元まで来て、彼は足を止める。
そして振り向くこともなく、言い放った。
「僕を追ってきて、どうするつもりなんです?セレーナさん」
「ご挨拶ねぇ。せっかく、ロボの整備を手伝ってあげようって言うのに」
数メートル離れた場所から、セレーナが軽口を叩く。
しばしの沈黙。
そして、セレーナが打って変わってシリアスな口調で、尋ねた。
「あなた……ここを出て行くつもりね」
「……僕にはやらなきゃならないことがありますから」
それが、剣鉄也の抹殺であることは明白だった。
「そんなに剣鉄也が憎い?」
「ええ。それはもう」
「リオちゃんを殺したから?」
「……知ってたんですね。リオのことも、僕のことも」
「……ちょっとだけね。リオちゃん、あなたの名前を呼んでたわ」
淡々と会話が紡がれる。
「で、止めるつもりですか?」
「別に、私にはそんな義理はない……と言いたいとこだけど。
今はあんたに抜けられてもらったら、いろいろと困るのよね」
「……」
「復讐に走る気持ちはわかるわ。
大切な人を殺された憎しみは、そう簡単に消せるもんじゃない」
まさか、自分がこんな諭すようなことを口走るとは。
自分が変わってきていることを、嫌でも自覚する。
だが、リョウトの口から発せられた言葉は……冷徹で、皮肉が込められていた。
「何が言いたいんです?同じように復讐に身を窶した、先輩としての助言ですか?」
「あんた……」
「能書きはいいんですよ。僕に自分と同じ道を歩んで欲しくない……とか思ってるわけですか?」
嘲るような刺々しい口調。
(何なの、この子……?)
「でも、僕は復讐のためにあいつを殺すんじゃない」
「なんですって……?」
「あいつは生きていちゃいけない。あいつが生きてちゃ、悲劇が繰り返される。
だから何より優先して殺さなきゃ。強いて言うなら……
正義のため……ですか」
セレーナは、その言葉で全てを悟った。
今の彼は、剣鉄也に匹敵するくらい危険であることに。
復讐鬼以上に、タチの悪い存在であることに。
これは……生半可な説得は通用しそうにない。
「……いい加減にしな。ガキの我侭にいつまでも付き合ってられるほど、こっちは暇じゃないんだよ……!」
ワルキューレの積み込みを終え、クォヴレー達のG-6出発の準備は整っていた。
「すまないな、無理言って」
「気にするな。バイクでも、何かの役には立つかもしれん。イキマ、そっちの準備は終わったか」
『ああ、いつでも出発できる』
「よし、それじゃ行くぞ」
ブライガーはギャリィウィルを抱え、いよいよ飛び立とうとしている。
その足元には、ジョシュアとリュウセイの姿があった。
「まだメガデウスの修復まで、時間がかかるってよ」
「そうか、ならジョシュア共々、今のうちに身体を休めとくといい」
ぼやくリュウセイに、クォヴレーが言う。
「……ところで、リョウトはどうしたんだ?」
「ああ、なんかジャイアントロボの調子がおかしいんだってさ。セレーナも一緒に見てる。
先に行っててくれって」
リュウセイの言葉に、胸騒ぎが起きる。
「……どうする?」
『……どうにも嫌な予感がする。あの小増、このまま放置していいものだろうか』
モニター越しに、イキマは険しい表情で言った。
彼もまた、セレーナ同様にリョウトを警戒していた。そして、クォヴレー自身も。
「考えすぎじゃないか?そりゃまあ、危なっかしいのは確かだけどさ……」
『あいつの目を見ただろう。剣鉄也とやらが絡むと、あれはどう転ぶかわからんぞ』
ここで話していても埒が明かないと判断し、クォヴレーは決断する。
「……先に行こう」
「いいのか?」
「セレーナが一緒に見ているんだろう?見た限り、リョウトは素人寄りの人間だ。
兵士として訓練されているセレーナが、遅れを取るとも思えない。
何かあっても止めてくれるだろう。彼女は……どこか、リョウトを気にかけていたようだからな」
「ふーん……ま、いいさ。俺は仲間を信じるよ」
トウマの言葉は、リョウトとセレーナ双方に向けられていた。
『ふん、お人好しどもが。まあいい、それなら早い所出発するぞ』
憎まれ口を叩くイキマ。だが、そんな彼らに自分が感化されていることも自覚していた。
「じゃ、俺達は先に行く」
「さっきも言ったが、合流時間は明日の午前5時!合流ポイントはE-5の橋だ!」
ジョシュアが叫んだ。
時間は、放送前にもう一度情報を交換したいために余裕を持って。
場所は、それぞれの目的地からほぼ同距離で、目印となるものがある場所を選んだ。
「みんな……死ぬなよ」
「お前達もな……必ず、生きてまた会おう」
再会を約束し……ブライガーはギャリィウィルを抱えたまま、北に向かって飛び立った。
海を超え、そのまま光の壁の中に消えていく……
その先に、希望の光があると信じて。
探す光は、既に消え去っていることも知らずに。
「それがあなたの本性、ってわけですか?」
それまでの口調から一転してドスの利いたセレーナの啖呵に、何一つ動じることなくリョウトは言い放つ。
「身勝手は承知の上ですよ。でも、僕にはあなた達に協力しなければならない義理はない」
淡々とリョウトは続けた。
「そして、僕にはあいつを殺さなきゃならない義務がある。
何よりも優先して。何を引き換えにしても」
「……自分の不幸に酔ってるんじゃないよ!」
セレーナとしては、事を荒立てたくはなかった。なんとか、説得するつもりだった。
だが、これでは……
「そうかもしれませんね。でも、あなたには言われたくない」
「!!」
「復讐のため、何も頼らず、何も信じず……自分の中で、孤独な戦士を演じている。
新しい仲間の絆からも、無意識のうちに目を背けて」
「な……!?」
自分の心を見透かしたような言葉に、セレーナは言葉を失った。
「さっきは随分と居心地が良さそうだったじゃないですか。
あの連中の中にいることで、復讐心が薄まってきてるんじゃないですか?」
何なのだ。この少年は、一体……!?
「そんな中途半端な人に、言われたくない」
止めなければ。何とか説得して。それが無理なら力ずくでも。何が何でもG-6に向かってもらう。
彼は危険すぎる。このまま放置させるわけにはいかない……
それでも、こちらの説得に応じないなら、最悪の場合は……
普段冷静な彼女としては、それはあまりに急ぎすぎた判断だった。
それは、自分の本心を見抜かれたが故の焦りが、心に生じていたのかもしれない。
牙を持つ戦士達は、果てない泥沼に足を踏み入れていく――
【反逆の牙組・共通思考】
○剣鉄也、木原マサキ、ディス・アストラナガン、ラミア・ラヴレスを特に警戒
○ガイキングの持つ力(DG細胞)が空間操作と関係があると推測
○ディス・アストラナガンがガイキングの力(DG細胞)と同種のものと推測
○剣鉄也らの背後の力(デビルガンダム)が空間操作装置と関係があると推測
○空間操作装置の存在を認識。D-3、E-7の地下に設置されていると推測
○C-4、C-7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測
○アルテリオン、スカーレットモビルのパイロットが首輪の解析を試みていることを認識
ただしパイロットの詳細については不明
○木原マサキの本性を認識
○ラミア・ラヴレスがジョーカーであることを認識
○再合流の予定時間は翌朝5時、場所はE-5橋付近
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好。リョウトの憎悪に対し危惧。
機体状況:良好
現在位置:F-8
第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているアルテリオン・スカーレットモビルのパイロットと接触
第二行動指針:ヒイロと合流、主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:なんとか記憶を取り戻したい(ディス・アストラナガンとの接触)
最終行動方針:ユーゼスを倒す
備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
備考2:ブライカノン使用不可
備考3:ブライシンクロンのタイムリミット、あと17~18時間前後】
【トウマ・カノウ 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好、怪我は手当て済み
機体状況:良好
現在位置:F-8
第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているアルテリオン・スカーレットモビルのパイロットと接触
第二行動指針:ヒイロと合流、及び主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:ユーゼスを倒す
備考1:副司令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持
備考2:ブライガーの操縦はクォヴレーに任せる
備考3:ワルキューレは現在ブライガーに搭載されている】
【イキマ 搭乗機体:ギャリィウィル(戦闘メカ ザブングル)
パイロット状況:戦闘でのダメージあり、応急手当済み。リョウトの憎悪に対し危惧。
機体状況:良好
現在位置:E-8
第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているアルテリオン・スカーレットモビルのパイロットと接触
第二行動方針:司馬遷次郎と和解し、己の心に決着をつける
第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:仲間と共に主催者を打倒する】
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
パイロット状態:健康
機体状態:再起動、装甲に無数の傷。左腕装甲を損傷、反応がやや鈍っている。
額から頬にかけて右目を横断する傷。右目からのアーク・ライン発射不可。
頭頂部クリスタル破損。クロム・バスター使用不可。
砲身欠損。ファイナルステージ使用不可。
コクピット部装甲破損。ミサイル残弾僅か。
サドン・インパクトは一発限り(腕が吹っ飛ぶ)
現在位置:E-2
第一行動方針:ビッグオーの修理完了を待つ
第二行動方針:C-4、C-7の地下通路の探索、空間操作装置の破壊
第三行動方針:マイ、及び主催者打倒のための仲間を探す
第四行動方針:戦闘している人間を探し、止める
最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)
備考1:フェアリオン・S、ノルス・レイの部品を使って修復中
備考2:主に作業をするのはエルマ
備考3:サドン・インパクトに名前を付けたがっている】
【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
パイロット状態:電撃によるダメージ。激しい操縦及び戦闘は不可能。
機体状況:装甲前面部に傷あり。損傷軽微。計器類損傷、レーダー・通信機など使用不能。
現在位置:E-2
第一行動方針:しばらく傷を癒す・ビッグオーの修理完了を待つ
第二行動方針:C-4、C-7の地下通路の探索、空間操作装置の破壊
最終行動方針:仲間と共に主催者打倒
備考:
バトルロワイアルの目的の一つ(負の感情収集)に勘付いた?】
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康。リョウトを危険視。
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:E-2
第一行動方針:リョウトをG-6基地へと向かわせる(説得に応じなかった場合は――?)
第二行動方針:C-4、C-7の地下通路の探索、空間操作装置の破壊
最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
備考2:エルマは現在ビッグオーの修理中】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
パイロット状態:感情欠落。リオ・鉄也に対する異常すぎる執着。冷静。
念動力の鋭敏化。牙組に対し不快感。
機体状況:弾薬を半分ほど消費
現在位置:E-2
第一行動方針:剣鉄也を殺す(手段・犠牲は一切問わない。障害は何であろうと躊躇なく排除)
第二行動方針:新たな機体を入手し、剣鉄也を探す
第三行動方針:ユーゼスを殺す
最終行動方針:リオを守る。「正義」のために行動
備考:ロボの右足の避難スペースに、リオの遺体が収納されている】
【二日目 21:30】
最終更新:2025年02月12日 03:11