とある変態の大誤算   ◆PfOe5YLrtI




「これはこれは……レモンちゃんも、随分と念入りに仕込んだもんだねぇ」
モニターに大きく映し出される『ERROR』の文字を前に、ジ・エーデルは感心したように息をついた。
資源衛星への道すがら、機体のOSを弄っていた彼だが、どこを触れても出てくるのはこの文字ばかり。
「さすがにぬいぐるみのボイスチェンジャーのように簡単には直せないか。ま、無理もないけどね」
ガンバスターの各所には大量の『ストッパー』が施され、性能の90%以上を制限することに成功していた。
調べたところ、その数実に百以上。
ご丁寧にその一つ一つに入念なプロテクトが施され、ダミープログラムも無数に散らばっている。
いかに並外れた頭脳を持つジ・エーデルといえど、この場ですぐに解除することは不可能だ。
だが、ガンバスターの持つ真の力を考慮すれば、これはむしろ妥当な処置であると言える。
2つの大型縮退炉から生まれるパワーは、その気になればこの会場ごと無に返しかねない。
制限がなければ、それこそこの機体だけでゲームが破綻してしまうだろう。
こんな物騒な代物を、わざわざ制限をかけてまでゲームに放り込む神経は理解に苦しむ所だが……
「ふふふ……いいよいいよ、この無駄な労力!楽しみ方ってのをわかってんじゃない」
……快楽第一の彼はこれを好意的に受け止めた。彼なりの解釈で、だが。

制限されているとはいえ、ガンバスターのパワーは強大だ。
単純に瞬間的な破壊力だけなら未だトップクラス。この状態でもコロニーすら容易に破壊できるだろう。
だが、コロニーを極力傷つけず動かすだけの出力を長時間維持することは、現状では不可能だった。
仕込まれたストッパーにより、途中でパワーダウンが発生してしまうからである。
こうなると、今のガンバスターの状態でコロニー落としを行うのは難しい。
となれば、このストッパーの解除を試みることが急務となるわけだが……
「ま、ストッパーがあるというなら、それはそれでよし……だ」
しかしジ・エーデルはあえてその手を選ばない。
仮に制限を解いたところで、それは彼の望む展開とはなりえないからである。
力を解放したガンバスターによる一方的な虐殺――状況にもよるが、そんな展開など面白くも何ともない。
ストッパーを外すにしても、コロニー落としに必要なパワーを出せるだけの最小限で十分。
「ルールは守んなきゃね。フリーダムなのもいいけど、それでゲームを壊しちゃ本末転倒だ」
彼はあくまで、このゲームに用意された物のみを活用することを選択する。
そのために向かう資源衛星。そしてその資材を利用して行うガンバスターの改造だ。
ストッパーの解除でも別に構わないが、それだと結局は元々の性能以上の強さは期待できない。
敷かれたレールを行くよりも、未知の可能性を模索したほうが面白いに決まっている。
だがルールに従うことは、主催者の敷いたレールの上を歩くことにならないのだろうか?
否……彼にとってはNOだ。
「ブライシンクロンで大きさが変わったりボソンジャンプで跳び回ったり腕が無限に伸びたり……
 そんなガンバスターがいてもいい。自由とはそういうことだ……なんてね!」
彼の台詞には半分冗談も混じっているが……要はそういうことである。
このゲームの中だけに限定して、主催者すら想定しない、度肝を抜かせる形を作り出す。
その果てに、主催者にとっての予定調和を根底からぶち壊す超展開を演出する。
今彼が企んでいるコロニー落としさえも、言ってみればその前座でしかないのだ。
コロニーが落ちようが失敗しようが、彼にとっては構わない。
正義の味方さん達の愉快な反応を堪能するのが、このコロニー落としの一番の目的である。
どうやってコロニー落としを阻止しに来るか。それを高見の見物で楽しむだけ。
要するに、この場が面白くなりさえすればいい。彼の行動原理は、ただそれだけなのだ。


このバトルロワイアルは、どこまでも彼好みのゲームだった。
それぞれの世界で、物語の主人公のように活躍してきた英雄が、ロボット達が一堂に集結し。
自分の命惜しさに殺し合う。正義のヒーロー達がただの人殺しに、ただの殺人兵器に変わる。
そしてそれらがまるでゴミのように破壊され、命を散らしていく。
その心を蝕まれ、貫いていたはずの正義やら信念やらを、無惨に崩壊させていく。
ある者は犬死し、ある者は道化と化し、ある者は恐怖と絶望に彩られ壊れていく。
その一方で、新たに生まれるクロスオーバー。出会うはずのなかった者達の邂逅、そこから生まれるドラマ。
さらに一歩踏み出し、本来ありえなかった、全く新しい道を歩みだす者達。
だけど、最後にはそれらも全て押し流してしまう、絶対的な死の波と、後に残る虚無感。

――ベリーベリー、ワンダフルワールド。まさにサイコーのエンターテイメントだ。
でも、まだまだ足りない。こんなもんじゃないだろう?本当のバトルロワイアルってのはさ。

「スクラップになったダイターンを見たら、彼はどんな反応するかなぁ?」
ゲーム開始以来、ろくに目も通していなかった参加者名簿に目を向ける。
その中の名前の一つ――『破嵐万丈』に着目する。
「ま、その程度でへこたれるタマとも思えないけど……実に興味深い。
 この殺し合いの中で、まるでメガノイドのように一途な彼がどんな行動を取るか。ねぇ?」
本人が聞けばブチ切れそうな台詞を、平然と笑いながら口にする。
視線をずらす。『ギリアム・イェーガー』の名があった。
「お決まりの台詞を言うだろうねぇ。あのいぶし銀さんは
 この世界は実験室のフラスコだ!(キリッ)なーんてね!カックイー!!」
並行世界を彷徨う宿命を持つ――そう自称して、悲劇のヒーローを気取る馬鹿な男だ。
「何でもゴ○ゴムの仕業にしちゃう誰かさんとどっこいだね!あ、そういや友達なんだっけ?
 実験?ただのお遊びでしょ?このゲームも、彼のいたフラスコもさ。
 こんなげーむにまじになっちゃってどうすんの?どうせならもっと真面目に遊んでよね!」
そう、ただの遊びだ。このバトルロワイアルも、彼にとっては。
延長線上ですらない。日常的とすら言っても過言ではない、単なる遊びの一つ。
今までも彼は、人の運命を歪め、狂わせ、その反応を見物しては楽しんできた。
ひいては世界そのものを、それも複数、滅茶苦茶に陵辱の限りを尽くしてきた。
それら全て、彼にとってはほんのお遊び。
バトルロワイアルも同じだ。むしろ規模は小さいくらいだ。
巻き込まれる側かどうかの違いなどあまりに些細。彼にとってはほんの日常でしかない。

「さーて、そうこうしてるうちに到着だ、っと」
モニターに映し出された資源衛星を見て、ジ・エーデルはほくそ笑んだ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


資源衛星ウルカヌス。
アフターコロニーと呼ばれた時代で、かつてこの無人プラントを巡って戦いが起きたことがある。
その戦いの後このプラントは破棄され、最後に4体のガンダムを乗せ太陽へと運ぶ役割を得た。
マリーメイアの反乱勃発の直前の話である。

「ほんとに何もないよ。やっつけ仕事にも程があるなぁ」
プラント内を一回りして、ジ・エーデルが不満げに口を開く。
既に破棄されたはずのその場所は、当然のようにプラントとしての機能を失っていた。
内部も荒れ果て、岩塊が宙に散乱しているのみ。
貨物運搬用のアームが数本、無造作に設置されているだけ。正常に作動するかどうかも怪しい。
その中に一つだけ、明らかに後付で設置された不自然な物体があった。
補給ポイントだ。装置には、機体のエネルギーを満たす以上の機能はなかった。
「ヴィンちゃんももうちょっと気を利かせてよね。プンプン!」
補給を行うガンバスターの中で、一人頬を膨らませるジ・エーデル。本気で怒っている様子ではない。
そうした設備など、別に最初から期待してはいなかった。どうせ、大したことはできはしないのだから。
そもそも修理や改造を行うとして、どうやって行うのか。
人手もなくたった一人で、この200メートルのガンバスターをどうしろというのだ。
仮に設備が充実していたにしても結局は同じことだ。
機体のメンテナンスや細かい調整などは行えても、直接手を加える修理や改造ともなれば話は別。
行うにしても、そこにどれだけの時間を要するのか。時間をかけたとして、満足のいく結果が得られるものだろうか。
それくらいなら、いっそストッパー解除の方向で動くほうが、まだ遥かに現実味がある。
いくら知識や才能に恵まれていようが、先立つものがなければ事は為せないのだ。

……通常であれば、だが。

「……なーんてね」

しかし――彼には、その通常を覆すだけの力がある。

「ボクにかかれば、別にそんなもの必要ないんだけどねー♪」

その口調からは危機感というものは微塵も感じられない。
ゲームが始まってから今に至るまで、その余裕は保たれたままだ。
常識から完全に逸脱した彼の思考を常識で考察するなど、此れ時間の無駄に他ならない。
しかしそれに連なる思考の、絶対なる根拠となるものは確かに存在する。

源理の力(オリジン・ロー)。またの名を――次元力。

全ての源にして原初となる力。
その全貌は、今なお解明されてはいない。
そして彼が手にする次元力も、その末端のごく一部でしかない。
だが、それでも。
その力を限定的とはいえ制御することに成功した彼は、このバトルロワイアルの理をも無視できる。
この舞台で課せられるあらゆる枷と制限を、全てスルーできる。

その最もわかりやすい一例として。



彼は、『死』を免除できる。



「ぷぷっ……」


彼の力は複数の次元に跨って、共通に発揮される。
その力を手にした彼は、複数の次元に跨って同じ存在として動くことができる。
当然、その中においては記憶も共有される。
それ故に、彼は並行世界の知識に詳しい。このゲームの参加者の大半の情報を、知識として持っている。
一方で、並行世界間の移動さえも、彼にとってはたやすいことだった。
これらを繋ぐと、導き出される意味は何か。

仮に彼を殺したところで、その意思が途絶えることは決してない。
その場に全く同じ身体と記憶を持つ、同じ存在が現れる。
ただ、それだけ。
これを、果たして『死』と呼べるのだろうか。
否とするなら――

彼は殺しても、絶対に死ぬことはない。
それは即ち、バトルロワイアルを構成する最大の枷を、問答無用で無効化できる。


「ギャーッハッハッハッハハハハハハ!!!
 イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!
 けひひっ、けひゃ、けひゃひゃひゃひゃァーッハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


聞く者全てに不快感を与えるであろう、下品な笑い声が響く。

彼自身の意志をもってでもない限り、決して脱落などありえない。
この力を駆使すれば、首輪解除どころか脱出すら容易。
ガンバスターのストッパーも労なく外せるし、魔改造も思うがまま。
この場に並行世界の自分とカオス・レムレースを呼び出すこともできる。ゲーム自体の破壊だって楽勝だ。

「何?文句あんの?何で?どうしていけないの?
 ダメだというならちゃんとその理由を論理立てて説明してよ!まあ聞く耳持たないけど!
 大体次元力は使っちゃいけませんなんて、どこにも書いてないじゃない!どうせ書いてても関係ないけどね~!」

ルールも取り決めも、彼にとっては意味を為さない。最初から守るつもりなどさらさらない。
え?さっきルールに従うと言ってなかったかって?馬鹿言っちゃいけません。
誰も「バトルロワイアルのルールに」従う、とは一言も言ってませんが何か?
彼が守るルールというのは、彼自身が快楽のために勝手に自分の中で取り決めた、自分だけの決め事。
その彼の中では次元力の使用は許されているんです。だから問題ナッシング!

「まあ何がどうであろうと、ボクはボクで好きにやらせてもらうけどね~♪
 これも源理の力のちょっとした応用だ。いくよー!レッゴーラヴリィ改造ターイム!」

パチン、と指を鳴らす。
その音と共に、彼の力が解放される。

ああ素敵。チートだとかそういう次元を超越した、まさに神の如き力。ていうか、むしろボクが神様?
インチキ?何それおいしいの?ゴミ同然の一般ピープルの言葉なんて最初から聞こえませんよーだ。
ほら、昔の人も言ったでしょう。この世で私に命令できるのは私だけなのです、と。
ボクはそれを言った昔の人の願望を体現してるだけさ。
源理の力をもってすれば造作もないことです。ククク、なーんてね!


――と。
彼は疑うことなく、そう『思い込んでいた』。







PiPiPiPiPiPiPiPiPiPi……



「……は?」
コックピットに、猛烈な勢いで電子音が鳴り響いた。
言うまでもない。その音の発信源は、嵌められた首輪から。
「ちょ……何それ!?ストップ、スト――」
慌てて、力の行使を中断する。


しかし、気付いた時には、手遅れ。





      パンッ




乾いた音が、コックピットに響いた。
赤いモノが、飛び散った。



【ジ・エーデル・ベルナル 呆然】


「……へ?」


赤い色の紙テープやら紙吹雪やらが散乱する。
まるで、クラッカーを鳴らした直後のような光景だった。

そのテープの中の一枚に、こんな文字が書かれてあった。


『ズルしちゃ ダーメ』


……。


首輪の電子音は、いつのまにか停止していた。








彼のインチキを封じる方法、それは実に簡単なことだった。

力を行使しようとすれば、その瞬間首輪が爆発する。
たったそれだけの、単純な枷。

「ぷっ……ははははははっ!!こりゃ一本取られたよ!」

幾度か試してみたが、結果は同じだ。
力を行使しようとすればその瞬間、首輪が物凄い勢いで点滅を開始する。
即座に止めなければ――首輪は今度こそ本当に爆発することだろう。
一回目の、首輪に仕込まれた脅し紛いのクラッカーなどではない。本物の爆弾が、だ。
力が発動されることなく、ジ・エーデルの首は飛び、彼は死亡者としてカウントされる。それで終わり。

「いやぁ、お見事お見事!源理の力を制限するなんて、すごいすごい!やるじゃん!
 まさかあのワカメちゃん達ごときに……いや、彼らだからこそ、と言うべきかな?」
並行世界間の移動を経験し、それを行うシステムXNに直接触れた彼らシャドウミラーならば、
次元力に何らかの手をつけた可能性は否定できない。
彼らなりの手段をもって、その行使を阻止する術を発見した可能性も。

如何なる手段で、次元力の封印を可能としたのか。
行使する次元力に反応して首輪の爆発へと導くのだろうか?だとしたら、どうやって感知している?
いやいや、あるいはもっと単純な仕掛けかもしれない。
例えば……次元力使用の際には、その特性上少なからず次元に歪みが生まれる。
そのほんの僅かな次元の歪みに反応して爆発するような仕掛けでも施されているのかもしれない。
シャドウミラーの元々持ちえる技術的にも、決して不可能な話ではなかった。
……これらはあくまでジ・エーデルの推測であり、現時点で真相を把握することは不可能だ。
この推論が誤りである可能性もあるし、そもそも力を封じる要因が本当に首輪であるのかさえも判断は難しい。
だが故人曰く「でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない」。まだ死んでないけど。

次元力は封じられている。それだけは紛れもない事実。

ただ、どういうわけかジエー・ベイベルの、そしてもう一つの彼の顔である黒のカリスマの姿にだけは、
問題なく変わることができた。ただし、変えられる姿はその二種類だけのようだが。
このゲームで混乱を促すために使用を許された、意図的な措置という可能性が高い。
いずれにせよ、次元力の封印により彼の信じる神(笑)のごとき絶対性とやらは容易く崩れ去った。
つまるところ、大ピンチである……はずだが。

「キタキタキター!!まさに非情のバトルロワイアル!その中で行われる理不尽な暴力!
 その暴力に晒されるボク……うはっ、想像しただけでもゾクゾクするよ!
 いいよいいよ、むしろ大歓迎!!ゲームの楽しみがまた増えたってもんだ!」

しかし根っからのドMである彼に隙はなかった。

「それはさておき……こうなった以上、計画を変えなきゃね」
興奮を抑えつつ、にやける表情を落ち着かせる。
次元力のほぼ全てが使用できない以上、ガンバスターの改造も不可能。
そうなると、現状ではガンバスターにコロニー落としを行わせるだけのパワーを与えられない。
「さーて、どうしたもんかな」
コロニー落としは否応なしに場の空気を盛り上げてくれることだろう。
きっちり宣言したことだし、なんとか実行に移したかった。
となれば、行うべきはガンバスターのストッパーの解除。
無理に全て解除する必要はない。必要最低限の力さえ発揮できる程度に外せれば十分。
それを、恐らく最も短時間で行えるであろう人物といえば――

電子の妖精『ホシノ・ルリ』に白羽の矢が立った。

「あの女の子に、大量殺戮の片棒を担がせるのもオツかもね……ふふふ」
どの時間軸から参加しているかはわからないが、彼女の持つ能力に変わりはないはずだ。
多少時間はかかるだろうが、彼女ならばこの手の込んだストッパーを解除することも不可能ではない。
「何より彼女は、ボクの欲望を満たしてくれそうだしね……ウヒヒヒッ」
そう言って舌なめずりを一つ。これ以上ないほど厭らしい笑みを浮かべる。
無表情系に見えて、彼女の心は繊細だ。
だからこそ、狂わせたい。歪めたい。壊したい。そのデリケートな心に陵辱の限りを尽くしたい。
というか、まずはお近づきになりたい。至近距離まで近づいて、クンカクンカと匂いを嗅ぎたい。
あの穢れなき白い肌を、可愛らしい耳裏の匂いを嗅ぎまくりたい。想像するだけでもなんという至福!
んでもってあの冷ややかな目で睨まれながら、「バカ」と決め台詞で罵られたい。
さすがに暴力的な行為には出てくれないだろうが、それを補って余りあるこのマニアックな要素の塊。
「ウヒョー!正直たまんない!待っててねルリルリ!ボクと出会うまで死なないでおくれよ~!」
……目的が摩り替わっている気がするが、気にするだけ無駄というものである。
「ま、別に死んだら死んだでいいけどね。その時はその時だ」
ホシノ・ルリとの接触が叶わなければ、もしくは自分同様彼女の力も制限されているのであれば……
どうということはない。彼自身の天才的な頭脳をもって、解除に取り組むだけである。
だが、どちらにしてもその作業を行うにはこの場所では無理。
どれだけ彼が天才であろうとも、力を封じられた以上、何も無しの状態で事は為せない。
もっとまともな設備の整った場所で腰を据えて取り組まねばならない。その場合は地上の基地施設が有力か。
「……いや、それくらいなら首輪を外すことを考えたほうが早いかな?
 だとしたら……ボクが手を下すより、正義の味方さん達に頑張ってもらったほうが面白いかもね。うぷぷっ」
今も彼らは安っぽい正義感のもとに、主催の反抗の策を練っていることだろう。
対主催活動の成果の全てを自分に掻っ攫われる瞬間、彼らはどんな絶望ぶりを見せてくれるだろうか。
「せいぜい頑張って頂戴!君達の正義のボランティアは、いや熱いバトルも熱血な燃え展開も、
 余す所なく全部、ボクの快楽に還元されるんだからさ!」

狂ったように捲くし立てる。これら全てを正気で口走っているのだから、たまったものではない。
この期に及んでも、彼は常に楽しむことを忘れなかった。
ストッパー解除にしても、首輪解除にしても、その際誰かを陥れ弄ぶことを念頭において考えていた。
例え力が封じられたにしても、その行動原理には一切のぶれがない。
それは力を封じられてなお常人を凌駕する、自らの能力を過信するが故の余裕、だろうか。
……否。

自身の次元力が行使不可能ということにこの段階で気付けたことは、彼にとって幸運であったと言えよう。
もし死を目前に控えるほどの修羅場や土壇場の真っ只中で発覚すれば、絶体絶命の逃げ場なしだったはずである。
力が制限されているという状態を念頭に置いて行動できるかどうか、その差は小さいものではない。
ただ……彼がこのことを理解しているかどうかというと、怪しい。

そもそも自らの力の封印という重要な事態に、今の今まで彼が気付かなかったのは理由はある。
現在に至るまで、そもそも使う必要がなかったのだ。
つまらないから。使ってしまえば、楽勝で終わってしまうに決まっているから。
このゲームを楽しむことが、彼の行動の大前提。時には縛りプレイも必要なのである。
ジエーの姿に問題なく変身できたことも理由の一つだった。
このことで、自分の次元力が健在であると、何の問題もないと誤解してしまった。
いや、それ以前に次元力が封じられている可能性自体、彼は想像すらしていなかっただろう。
常に他者を見下し弄び、自らの絶対性を信じて疑わない彼は。
このバトルロワイアル自体、いつもの遊びと何ら変わらないと考えている彼は。

その意識は、次元力使用不能という事態に置いても変わることはなかった。

「……ばっかじゃないの?あいつらごときに源理の力を、本気で制限できるわけないじゃん」
彼は自分自身に、絶対の自信を持ち続けていた。
「ま、いいけどね。首輪を爆発されちゃうのは避けたいからね、やっぱり」
彼が首輪の爆発を避けたがる理由はただ一つ。
「早期脱落はさすがに勘弁だ。できるだけ長く楽しみたいからね!」
ゲームが終わること。ただそれだけ。


彼の思考からは『自らの死』がすっぽりと抜け落ちていた。

殺せない。殺せるはずがない。
例え首輪が爆発し、その首を飛ばすことになろうと――自分が終わることはない。
そう信じて止まない。それが彼にとっては当たり前の認識。
それは恐らく、次元力の中に浸り続けていたが故に根付いたものか。

彼は『死』の意味を見失っていた。

……彼は気付いていない。
次元力が使えなくなったことが、何を意味しているのか。
それはここにいる彼が『ジ・エーデル・ベルナル』という存在から大きく逸脱したことになる。
次元力の行使が不可能である以上、殺されれば、彼は死ぬ。
少なくとも、このバトルロワイアルに参加しているジ・エーデル・ベルナルは、確実に滅ぶ。
そしてここでの彼の記憶は、誰の頭にも残ることなく消滅する。
他の世界の『ジ・エーデル・ベルナル』が察知することもない。
ここでの彼の記憶そのものが、『ジ・エーデル・ベルナル』から切り離されているのだから。

死は何も残さない。
他の誰かに何かを遺すことはあっても、死を迎える本人には決して何も残ることはない。

彼は次元力という名の麻薬に溺れそのルールから逃避し続けた。
その結果、いつしかそんな当たり前の自然の摂理すら見失ってしまっていたのかもしれない。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


補給を終えたガンバスターは、資源衛星を後にする。
コロニー落とし。少々遠回りをすることとなったが、それを実行することに変わりはない。
「いいさ、ちょっとくらい手間をかけたほうが、後で盛り上がるってもんだ」
ジ・エーデルはどこまでもポジティブシンキングだった。
急ぐことはない。情報が広まるにはまだ時間がかかるのだから。
宇宙に戻ってくる頃には、ちょうどいい頃合になっていることだろう。いい暇潰しにもなる。
いや……どうせなら直接自分の手で引っ掻き回したい。
火種は自分で蒔いたほうが、いざ燃え上がる時に楽しめるというものだ。
そして炎上する様子は、可能な限り間近で自分の目で楽しみたいという気分もあった。
「さーて、まずはどこへ向かおうかな?地上へ降りるのは確定として……
 その前にc-3コロニーに寄り道するのも手かな?落とすコロニーの下見もしておきたいしね」
ほとんど物見遊山の気分で地図を見る。どこまでも彼はマイペースだ。
だが、資源衛星に来る前とは決定的に違う点が一つ。
特に考えもなく気ままに動いていた時とは違う、明確な目的が生まれたこと。
……ガンバスターのストッパー、又は首輪の解除。

――首輪の解除。

彼はその行動を、行動方針の中に加えた。
参加者を縛る最大の枷、それを外すという行動。
それはバトルロワイアルにおける対主催の思考としては、言うなれば常識的行動の一つ。

彼はやはり気付いていない。
自分が常識の枠組みの中で動き出し始めていることに。
自分がゴミ屑のように思っている人間達と同じ土俵に立たされていることに。

自分が『踊らされる』側の人間に堕ちていることに。


【ジ・エーデル・ベルナル 支給機体:量産型ボン太くん(フルメタルパニックふもっふ)
 パイロット状況:スーパーハイテンション 背中と右手の甲に痣
 機体状況:良好 ボイスチェンジャーの不具合解消
 現在位置:宇宙 c-2 
 第一行動方針:c-3コロニーを経由して、地上の基地施設へ移動。またはルリとの接触。
 第二行動方針:コロニー落としの準備の進行。
          首輪解除、ガンバスターの改造またはストッパー解除、などなど。
 第三行動方針:情報を十分に広め、時期を見てコロニー落しを実行する
 第四行動方針:ちょっとやめてよね、人の頭の中を覗き見ようとするのは!
          ボクはそういう事をされるのが一番嫌いなんだよ、プンプン!
 最終行動方針:それは秘密だよ~ん!
 備考:何やら色々知っているようだが……?
    次元力はジエー・黒のカリスマへの変身以外の全てを封じられています】

【ジ・エーデル・ベルナル 搭乗機体:ガンバスター(トップをねらえ)
 機体状況:戦闘コクピット付近全損、管制コクピット良好、
       左脚にソウルゲインの右腕が刺さってる。能力に大幅な制限】

【一日目 12:30】


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最終更新:2010年04月13日 16:31