獅子将軍   ◆Ujakh5O.Yc



レーベンはタスクとの戦いから逃げた後、海中を通り南下していた。
そしてC-4の河につながる地点で行き先を考えていた。
今のゴライオンは連戦続きでかなりのエネルギーを消耗している。

「最寄りの補給ポイントは……B-4の市街地だな」

ゴライオンはすでにかなり傷ついている。
特に両肩の破損が厳しく、左腕と右足の破損はまだ軽い。
レーザーマグナムとフットミサイルは問題なく使えそうだ。
そして十王剣もかなり傷ついていて無理をすれば折れてしまいそうだった。

「やはり、そろそろ新しい機体に乗り換えた方がいいかもしれんな……」

ルールでは放送のたびに新しい機体を一つ会場に追加すると言っていたが今はまだ放送には早すぎる。
やはり他の参加者から奪うのが一番確実だと判断した。
河を南下し、高い山に出たレーベンは、ここで少し休憩を取る事にした。
汗で薄まった戦化粧を整えながら、レーベンはこれからどうするかを考えた。


レーベンの一番の目的はジ・エーデル・ベルナルとの接触だ。
それが敬愛するエーデル准将なら全力で守り、すべての参加者を全滅させた後にレーベン自身も命を断ち、優勝の栄誉を捧げる。
万が一別人であった場合は地獄の苦しみを味あわせた上で地獄に叩き落とす。
その後はもちろん他の参加者を全滅させて、エーデル准将がいる世界に帰るのだ。

「だが、この場には俺をも手こずらせる奴らが数多い……さすがに血気に逸りすぎたかもしれん」

戦闘の疲労もあいまって、レーベンは少し落ち着いていた。
親友のシュラン・オペルが戦死した直後からレーベンは呼ばれた。
激怒していた勢いに任せて行動した結果レーベンはすでにかなりの人数に危険人物として知られてしまった。

「それもこれもあの女のせいだ……最初に出会ったのがあんな女でなければ!!」

レーベンが最初に出会った他の参加者は運が悪い事に女だった。
それだけではなく乗っていた機体も女の姿を模していたのだ。
重度の女性恐怖症を抱えているレーベンが冷静でいられるはずはなかった。
しかも乱入してきたヴァンという男に邪魔をされ、結局ルリは逃がしてしまった。
その後に雪原エリアでジュドーとディアッカと戦い、偶然見かけたヴァルシオーネにまたも我を忘れてしまった。
イスペイルという女ロボに乗っていた男を追っている内にアナベル・ガトーに邪魔をされた。
そしてヴィレッタという女、ヴィレッタの仲間であるタスク、乱入してきたシンと入り乱れての戦闘。
ルリ、ヴァン、ジュドー、ディアッカ、イスペイル、ガトー、ヴィレッタ、タスク、シンと数えてみればもう9人に、レーベンは名乗ってしまっているのだ。

「俺が知られる事などどうという事はないが、エーデル准将の身に危険が及ぶ事などあってはならない……!」

レーベンの目的がエーデル・ベルナルの捜索である以上、レーベンが危険人物となればその探し人のエーデルまでもそう見られてもおかしくはない。
危険と断定する事はなくても、警戒されるか、最悪の場合は一方的に攻撃を受けてしまうかもしれない。
別人ならそれでも構わないが本人だった場合は重大な失態だ。

「……参加者を減らすのもいいが、まずはジ・エーデル・ベルナルなる人物がエーデル准将であるかどうかを確定させるべきか。
ゴライオンの状態もよくない、しばし直接的な戦闘は避けるべきか……?」

確実に勝てる相手ならいいが、ヴァンという男の機体やタスク・シングウジのような強力な機体の相手は難しい。
出会ったらすぐに戦闘を仕掛けるのではなくまずは友好的なふりをして信用させ、機体を奪い取るのがいいだろう。
戦力的には誰かと組むのが一番効率的だが、レーベンにはまったくその気はなかった。

「シュラン、せめてここにお前がいてくれれば……いや、泣き言は言うまい。俺はお前とエーデル准将以外に気を許すつもりはないのだからな!」

シュランが死んだ今、レーベンにはもはや友はいないし、作る気もなかった。
考えをまとめ、休憩を取った後にレーベンはゴライオンを起動させ、山を降りて西へ向かいだした。




「む? これは……」

平原を西に横切り、市街地目指して飛んでいたゴライオンだが、その計器に一つの反応が出た。
すぐにその反応は見えてきた。
ゴライオンのほぼ半分ほどの大きさだろうか、がっちりした体格の装甲が厚そうなロボットだ。

「反応は一つ。接触してみるか?」

これが複数であればレーベンは迷わず逃げていたが、相手が一人であれば話は別だ。
情報交換を持ちかけその後に機体を奪うには絶好の相手である。
すぐにその機体は視界に映った。
それほど速くないスピードで街に向かって飛んでいる。
ゴライオンがかなりその機体に近づいたところで、やっとそのロボットは振り向いた。

(ここまで接近してやっと気付くとは、相当鈍い奴だ……な、何?)

振り向いたジャイアント・ロボの手には三人の人が乗っていた。
少年が一人、女が一人、少女が一人だ。
みんなまだ子供だったが、レーベンにとっては大した差はない。
年長の女が腕時計型コントローラーに向かって命令を出すとジャイアント・ロボはゴライオンを警戒するように武器を構えた。

(なるほど、ああやって操縦するならレーダーも何もないだろうな。スピードが遅かったのもあまり速すぎれば危険だからか)

ゴライオンをにらむ女に激怒しつつもジャイアント・ロボの操縦方法を一瞬で見抜いたレーベンはにやりと笑った。
見たところかなり強力そうな期待なので戦えば今のゴライオンでは危険かもしれない。
ただしそれは相手が普通の操縦方法だったらだ。
あれでは腕一本を常にパイロットをかばうために使わないといけない。
そして音声認識で機械がオートで動かすロボとパイロットが直接操縦するロボでは言うまでもなくゴライオンの方が反応が早い。

(音声で操縦するならこのゴライオンに乗りながらでも操縦できるかもしれん……いただくぞ、その機体!)

いつでも攻撃できるようにゴライオンの武装を準備しつつ、レーベンは通信を試みた。
通信装置などない相手だから都合のいい事に戦化粧をしているレーベンの映像を送る必要がない。
しかし声を出す前にふと考える。

(もし奴が誰かから俺の情報を得ていれば、エーデル准将の情報を得るどころではない……)

本名を出すのはまずい。
もしレーベンを知っているならの話だが、警戒している相手に情報を渡すバカはいないからだ。
情報を手に入れた後ならもはや殺すだけなので意味はないものの今は一時的に違う名前を名乗ったほうがいい。
怪しいとは思っていても別人が機体を乗り換えたという可能性は否定しきれないからだ。
レーベンは名簿に乗っていない名前を考え、シュランの名前を借りる事にした。

「こちらはシュラン・オペルです。戦う気はありません……応答していただけませんか?」

ジャイアント・ロボの手の上で、女が戸惑ったようになにか少年と会話するのが見える。
攻撃を仕掛けたい衝動を抑えながらレーベンは返答を待った。
この間に攻撃しないのだから好戦的ではないというアピールである。

(ええい、早く結論を出さんか……!これだから女は……!)

一分ほど待ったレーベンは、今にも引き金を引きそうだった。
だがその前に女から返答があった。

「テレサ・テスタロッサです。どういうご用でしょうか?」
「テレサさんですね。そちらの……ええと、子供が二人いるようですが?」
「ええ、私が保護しているんです。ついさっきの戦闘で機体を破壊されたので」

名前を聞こうとしたのだが、やはり警戒はされているらしい。

(ちっ、仲間の名前を教えるほど馬鹿ではないか。ここはあまりこだわらずにエーデル准将の情報を優先すべきだな。
どうせ殺してしまえば名前など意味はない。しかし女と会話するなど……!)

強烈な嫌悪感を押さえつけてレーベンは会話を続けた。
二つに分かれたZEUTHを仲違いさせたときを思い出してできるだけ穏便な口調を心掛けた。

「そうですか……そんな子供まで」

いかにも痛ましい声で言ったレーベンだが、やはりこれくらいではテッサは警戒を解かなかった。

「すみません、先を急ぐので……ご用がないのでしたら、これで失礼します」
「それなら私も同行しましょうか?失礼ですがその機体で、ご婦人と子供さんだけでは危険ですよ」
「いいえ、仲間がいますので大丈夫です。お気遣いなく」

(女あああああっ!せっかくこの俺が同行を申し出ているのに断るだと!?今すぐその体を八つ裂きに……!)

またカッと頭に血が昇るレーベンだが決定的な行動に移る寸前でなんとか自制できた。
情報を得る前に無理に押すべきではない。

「そうですか……ですが、この場には危険な人物が多い。私もすでに何度か好戦的な人物に襲われました。
お仲間と合流されるまで充分に気を付けてください」
「はい、では……」
「あっ、すみませんもう一つよろしいでしょうか?」

ジャイアント・ロボが街へと一歩下がったのを見て立ち去る気だと判断したレーベンはここらで切り上げようと思った。
やはりボロボロのゴライオンでは警戒されやすいようだ。

「あ、最後に一つ。ジ・エーデル・ベルナルという人物をご存じではないですか?」
「……いえ、知りませんね。では」
「そうですか……」

テッサはそう言ってジャイアント・ロボに命令し、街の方に向かって飛びあがった。
地上からジャイアント・ロボを見上げていたレーベンは、レーザーマグナムを発射しようとしてゴライオンの左腕を上げる。

「ならお前に用はない。死ねえ……何!?」

しかしレーザーマグナムを発射仕様とした時逆にジャイアント・ロボからミサイルが降ってきた。
レーベンは慌ててゴライオンに防御させるが爆発の衝撃に吹き飛んでしまう。

「ぐわっ!あ、あの女!この俺の行動を読んだだと!?」

ゴライオンを何とか立ち上がらせるが、レーベンが見た物はジャイアント・ロボではなく、雨のように降って来るミサイルとバズーカの弾だった。

「うおおおおおおおおお!!」

広範囲に広がった爆撃をゴライオンは必死に動きまわったり撃ち落としたりして防ぐ。
なんとかすべてやり過ごしたときジャイアント・ロボはすでにレーベンに背を向けて逃げ始めていた。

「ぐうう……あの女ああ!この俺に舐めた真似をしてただで済むと思うな!」

ゴライオンの全身をチェックし動けると判断したレーベンはすぐさまジャイアント・ロボを追うために動き出した。
レーベンが攻撃する前にジャイアント・ロボは動きだしていたので、やはりレーベンの悪評を知っていたらしい。
聞いた情報と名前が違うので疑ってはいたが、探し人のジ・エーデル・ベルナルの名前が一致したので攻撃に踏み切ったのかもしれない。
どちらにせよテッサに出し抜かれたレーベンの怒りのボルテージは既に振り切れていた。
戦闘を避けるという選択肢はこの時点でもう完全になかった。

「逃がすかぁぁぁぁああっ!」

手に生身の人間を乗せているため全力のスピードを出せないジャイアント・ロボ。
細かな岩などはあるがジャイアント・ロボが隠れるほどの遮蔽物はない平原である。
数分飛んだだけでゴライオンはすぐにジャイアント・ロボに追いついた。

「ファイヤァァァトルネエエエェェド!」

ゴライオンの右腕から発射されたファイヤートルネードをジャイアント・ロボは片腕を上げて防御した。
もう片方の腕に人間を乗せているのでその動きは遅い物だ。
ジャイアント・ロボから肩の大型ミサイルと胸の小型ミサイルが発射されゴライオンに迫る。

「そんなもので、この俺のエーデル准将への忠義の炎を消せるものかぁぁぁぁ!」

アイフラッシャー、レーザーマグナム、フットミサイルを発射して、ミサイルを迎撃するゴライオン。
その間にジャイアント・ロボはまたも背を向けて街の方向へ逃げていく。

「仲間がいると言っていたな……街に先行しているのか?ならば合流などさせん!」

再びジャイアント・ロボを追うゴライオン。
しかし、近付けばそのたびにミサイルの雨と、腹から打たれる射撃がレーベンの接近を妨害する。
しばらく追撃戦が続いたが、盛大に撃ち続けたためかゴライオンの残弾は残りわずかとなった。

「ええい、十王剣を使わざるを得んか!」

温存していた十王剣を出すゴライオン。
ジャイアント・ロボの固そうな装甲ならともかくミサイルを切り払うくらいならできる。
ダメージを覚悟して突っ込んだレーベンだが、なぜかジャイアント・ロボからのミサイルも少なくなっていたため苦労せずに凌ぐ事が出来た。
最後はパンチを仕掛けてきたジャイアント・ロボ。
余裕で避けたレーベンだが、そのパンチはレーベンに一つの事実を教えた。

「……そうか、奴ももう弾がないのか!」

基本的に攻撃はジャイアント・ロボ任せのテッサ達とは違い、ゴライオンはカイメラのエースであるレーベンが操っている。
当然その動きの良さは段違いで、ゴライオンはレーザーマグナム一発で多数のミサイルを迎撃したり砲撃を回避する事もあった。
その分ジャイアント・ロボの方が弾を消費するスピードは早くなって半分ほど残っていたジャイアント・ロボの残弾はすぐになくなってしまった。

「ならば!」

一気に近づいたゴライオンのキックを受け、ジャイアント・ロボが地上に墜落した。
地上に投げ出されるテッサとダイヤとイルイ。
ゴライオンは地上に降りると十王剣を構えた。

「はあ、はあ……手こずらせてくれたが、ここまでだ!」

レーベンもかなり消耗したが、これで勝負は決まったも同然だ。
まずはにっくき女からとテッサを刺し殺そうとしたら、その前にダイヤが飛び出て来て女二人を守るように両手を広げた。

「何のつもりだ、小僧!」
「テッサさんとイルイはやらせないぞ!」

地面に叩き付けられたときに怪我をして、ダイヤは頭から血を流していた。
テッサとイルイもダメージは大きく立ち上がれない。

「いい度胸だと褒めてやろう……しかし、生身でなにができる!」
「うわあああっ!」

ダイヤの目の前にレーベンは十王剣を振り下ろした。
衝撃で地面が爆発し、ダイヤは吹き飛ばされる。

「うう……ロボ、パンチだ……!」

ダイヤは叫んだが、コントローラーはテッサが身につけたままだ。
ジャイアント・ロボは反応しなかった。

「ろ、ロボ……動いてくれロボおおおっ!」
「見上げた勇気だ。女などに惑わされなければいい戦士になっただろう」

今度こそ動けなくなったダイヤを横目にして、レーベンは今度こそテッサとイルイにとどめを刺そうとした。
ゴライオンが十王剣を振りかぶる。

「だが、これで終わりだあああぁぁぁ!」

十王剣が二人の少女の命を奪うべく振り下ろされる。
だが、十王剣は甲高い音を立てて受け止められた。
ジャイアント・ロボの腕によって。

「な、何!?」
「ロボ?」

レーベンだけでなくダイヤも驚いた。
誰もジャイアント・ロボに命令していないのに、勝手に動いたのだ。

「な、何だこのパワーは!?」

さっきパンチを受けたときとは段違いのパワー。
ゴライオンの出力は600万馬力だが、ジャイアント・ロボの出力は108万馬力だ。
ゴライオンの方が単純に六倍強いはずなのに、今度吹き飛ばされたのはゴライオンの方だった。

ジャイアント・ロボの隠された機能、操縦者が危機に陥ったとき発動する、通常の50倍以上のパワーを発揮するオートガード機能だ。
現在の操縦者のテッサの危険に反応し、発動したのだ。
ジャイアント・ロボはそのままゴライオンに殴りかかる。

「くっ、だがそんな狙いで当たるものか!」

だがどれだけパワーが上がっても動きは単調だ。
歴戦のパイロットであるレーベンは易々とパンチを避ける。

「そこだ!」

ゴライオンが十王剣を振り回しジャイアント・ロボの装甲に突き刺さる。
しかしジャイアント・ロボの腕が十王剣を握り締めると、あっという間に十王剣は折れてしまった。

「十王剣を折っただと!?」

剣を失ったため、ゴライオンは一時後退した。
その隙にテッサは何とか気を取り戻した。

「だ、ダイヤ君……」
「テッサさん!」
「ダイヤ君、街まで走るんです!イルイちゃんを連れて、逃げてください……!」

ふらふらと立ち上がったテッサが、まだ倒れたままのダイヤに言う。
イルイは気絶したままだ。

「て、テッサさんはどうするんだよ!?」
「私が時間を稼ぎます。ドモンさんとシ―ブック君のところに……早く……!」
「テッサさん、それなら俺が!」
「駄目です。ダイヤ君は強くなってイルイちゃんを守るって言ったじゃないですか」
「でも!」
「頼みましたよ、ダイヤ君……行きなさいロボ!」

それ以上はダイヤに構わずジャイアント・ロボをテッサは走ってきたゴライオンへと突撃させた。

「うおおおおおおお!?」
「ロボ、そのまま破壊しなさい!」

ゴライオンの腰に組み付いたジャイアント・ロボは、腕で押さえつけて一気にゴライオンを破壊しようと締めつけた。
ギシギシと機体が軋む音がしてレーベンはこのままではゴライオンが破壊されると思い必死にゴライオンを抵抗させる。

「くっ、離れろ女あああああああああっ!」
「離れません!」

パワーでは敵わないと悟ったレーベンは、どうにか脱出しようと考える。
方法はすぐに見つかった。

「ぐうう……ならばこうだ!」

ゴライオンが左腕をジャイアント・ロボにではなく、その後ろで見守るダイヤ達に向けて伸ばした。

「えっ!?」
「貴様が離れないのならまとめて道連れにしてやる!」
「さ……させません!」

実はレーザーマグナムの弾は切れていたが、それはレーベンしか知らない。
撃ってくると思ってダイヤ達が危ないと思ったテッサが走り、ジャイアント・ロボの右足の緊急避難スペースに入った。
ダイヤも後を追おうとしたがイルイが起き出したのを見て出遅れてしまった。

「ロボ、全速前進です!」

そのままテッサの命令によって、ジャイアント・ロボはゴライオンごと猛スピードで飛びだした。
このままここで戦えば敵を倒せてもダイヤとイルイを巻き添えにしかねなかった。

「テッサさああああああああん!」

叫んだダイヤの声はすぐに聞こえなくなった。

「お、女ぁっ!」
「ダイヤ君とイルイちゃんは、私が守ります!」
「女のくせに生意気な!フットミサイルぅぅぅ!」

レーベンの予想とは少し違ってしまった。
ダイヤ達を助けるために盾になるかと思っていたのだ。
平原を東に向かってジャイアント・ロボと吹っ飛ばされながらも最後に取っておいたフットミサイルを撃ったゴライオンが飛ぶ。。
フットミサイルはジャイアント・ロボの足の間を通り抜けてダイヤ達の方に飛んでいってしまった。
後ろの方で爆発するが緊急避難スペースに入ったテッサには振り返って確認する余裕がなかった。

「く、離れないのなら……これだ、グランドファイヤー!」
「きゃああああ!」

十王剣もなくパワーでも敵わないゴライオンが取った方法は今までの戦闘で使い道のなかった武器だ。
足のライオンの顔から炎を噴き出させるグランドファイヤー。
火炎放射という性質上、装甲の厚いロボットにはそれほど効き目のないものである。
だが接触するほどの距離で長時間高温の炎を吹きつけられれば話は別だ。
ジャイアント・ロボの右足の緊急避難スペースは、緊急というだけあってそこで操縦するようにはできていない。
特別装甲が厚いというわけでもないので熱せられた装甲から内部に伝わる熱は相当のものだった。

「蒸し焼きにしてやる!」
「そ、その前にあなたを倒します!」

ゴライオンのレーダーに山が映った。
少し前にレーベンが身を休めた山だ。
この勢いで叩きつけられれば、ゴライオンといえども木っ端みじんだろう。

「女ぁぁああ……!この俺のエーデル准将への思いを、貴様ごときが凌駕できるものかああっ!」

逃げられないのならその前に勝つという、レーベンが選んだのはとてもシンプルな方法だった。
ゴライオンが山に叩きつけられるか、ジャイアント・ロボの中のテッサが焼け死ぬか。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!」




・・・ 

・・・・・・ 

・・・・・・・・・・・・ 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 


「……俺の……いや、俺のエーデル准将への忠誠心の、勝利だ」

C-4端の山の手前でレーベンは呟いた。
ゴライオンは無事だった。
山に叩きつけられる寸前にジャイアント・ロボの前進は止まった。
それは操縦者であるテッサが死んだということを意味していた。
ジャイアント・ロボの腕を外し、充分に時間を取って様子を見たが動く様子がない。
ゴライオンを降り、ジャイアント・ロボの右足の緊急避難スペースを開けたレーベン。
熱により開閉レバーは変形していたためゴライオンの指でこじ開けるととたんにすごい蒸気があふれでて来た。
その奥に倒れこんでいる人影を見つけた……全身に大やけどをしたテレサ・テスタロッサだ。
レーベンは用心深く腕の脈を取り、死亡を確認するとジャイアント・ロボのコントローラーを外した。
外にテッサの死体を放り出しレーベンはコントローラーを腕に着ける。

「ロボ、パンチだ。あの岩を砕け!」

レーベンの命令にジャイアント・ロボは答えた。
パンチが岩を粉砕する。

「先ほどのようなパワーはない……どうやら操縦者の危機に反応する緊急システムというわけか」

ついさっきまで戦っていたため、すでに武装はおおよそ把握している。
これは強力な戦力になる。
ゴライオンに乗りながら指示を下すだけで、ジャイアント・ロボはレーベンの意のままに動く。

「感謝するぞ、女!これほどの機体を俺に届けてくれた事をな!」

テッサにそう吐き捨ててレーベンはゴライオンへと戻る。
新しい機体を手に入れたのは良いが、ゴライオンとジャイアント・ロボはともにほぼ弾切れだ。

「さすがに少し疲れたな。俺も少し休まねばならん。今は補給を優先しよう。」

地図を睨んで次の目的地を探るレーベン。
その頭からはすでにテッサの名前や存在はきれいに忘れられていた。
レーベンが考えなければならないのは主エーデル・ベルナルかもしれない人物、ジ・エーデル・ベルナルだけだからだ。
その頃、ダイヤとイルイは街の近くにいた。
レーベンが最後に撃ったフットミサイルはダイヤとイルイのいた場所に向かって飛んできた。
ダイヤが何とかイルイをかばおうとしたら、イルイの身体が光ったのだ。
ダイヤが次に目を開けたとき、そこは平原ではなく街の近くだった。
わけがわからないダイヤだが、何となくさっきいた場所とはかなり離れてしまった事は理解した。

「イルイ、君がやったのか?」

とダイヤはイルイに聞いたのだが、イルイはひどく汗をかいていて気絶してしまった。
それはイルイの超能力の一つ、ワープ能力を使った疲労のためだった。

「イルイ……!とにかく、街で休ませなきゃ!ドモンさんたちがまだいればいいけど」

イルイを担ぐとダイヤは街に向かって進むが、途中で一度後ろを振り向いた。

「テッサさん……無事でいてくれよ」

さすがに生身ではジャイアント・ロボに追いつけないので、テッサが無事にこの街に来てくれる事を願ってダイヤは走り出した。



【レーベン・ゲネラール 搭乗機体:ゴライオン(百獣王ゴライオン)】
 パイロット状況:ブチギレ(戦化粧済み)、疲労
 機体状況1(ゴライオン):頭部半壊、両肩破損、左腕にひび、右足一部破損、動力低下、折れた十王剣、全武装の残弾0
 機体状況2(ジャイアント・ロボ):全武装の残弾0、全身の装甲に軽い損傷
 現在位置:C-4 山
 第一行動方針:ヴァン、タスク、ヴィレッタ、イスペイルは次こそ必ず殺す
 第二行動方針:女、女、女、死ねええええええ!
 第三行動方針:ジ・エーデル・ベルナルについての情報を集める
 最終行動方針:エーデル准将と亡き友シュランの為戦う
 備考:第59話 『黒の世界』にてシュラン死亡、レーベン生存状況からの参戦】


【ツワブキ・ダイヤ 搭乗機体:なし
 パイロット状態:良好
 機体状況:なし
 現在位置:B-4 街の近く
 第一行動指針:とりあえず街に向かい情報を集める。4~5時にはD-4に向かう。テッサを街で待つ。
 第二行動方針:仇をとる? ヴァンとドモンの言葉にたいしては……?
 第三行動方針:テッサ、イルイをもっと強くなって護る。もう誰も失いたくない
 最終行動方針:皆で帰る】


【イルイ(イルイ・ガンエデン) 搭乗機体:なし
 パイロット状態:ワープしたため気絶しました。
 機体状況:なし
 現在位置:B-4 街の近く
 第一行動指針:ダイヤ、テッサと一緒にいる
 最終行動方針:ゼンガーの元に帰りたい
 備考:第2次αゼンガールート終了後から参加】


【テレサ・テスタロッサ 死亡】

【一日目 13:30】



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081:不穏な予感 投下順 083:とある変態の大誤算
090:人形~にんげん 時系列順 084:人馬一体!

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066:儚くも永久のカナシ(後編) レーベン・ゲネラール 101:さらば獅子よ!水底に眠れ!
073:未来を繋げる為に、強く生きる為に ツワブキ・ダイヤ 095:求める強さは誰がために(前編)
019:未来を繋げる為に、強く生きる為に イルイ・ガンエデン 081:求める強さは誰がために(前編)
043:未来を繋げる為に、強く生きる為に テレサ・テスタロッサ

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最終更新:2010年04月16日 17:21