さらば獅子よ!水底に眠れ! ◆JxdRxpQZ3o
荒野を西に向かい、街を目指す二つの機体。
放送が流れているがレーベンは歩みを緩めるつもりは毛頭ない。
耳を傾けてはいるものの殆どは周りへの注意に意識が向いている。
ゴライオンは満身創痍、ジャイアントロボを所有しているとはいえ安心は出来ない。
補給をするまで、無駄なエネルギーを消費したくも無ければ、周りの参加者との接触も避けておきたい。
なによりエーデルが参加している可能性がある以上、彼女を見逃すことは絶対に出来ない。
『……ジャミル・ニート、ジュドー・アーシタ、タスク・シングウジ……』
「タスクだと!無様な!俺以外の者に殺されるなどとは!」
そのほとんどを流すように聞いていたレーベンが、初めて意識した内容はいつか再戦すると決めた男の名前。
『……テッカマンレイピア、テレサ・テスタロッサ、ジロン・アモス……』
「……まあいい。いつかは奴を殺した相手も捜し出し、俺の手で殺す」
しかし自分の殺した相手の名を気に留めることはない。
死亡者の発表が終わる。エーデルと関係があるであろうジ・エーデルの名が呼ばれなかったことに安堵した。
『最後に追加機体の位置を発表させてもらう……。C-5の北の橋に一つ。』
「C-5……だと?」
次に反応した内容は追加機体の発表だった。
徐にゴライオンを停止させると、付いてくるように命令していたジャイアントロボも動きを止めた。
レーダーに映る地図から
現在位置を確認する。B-4の南南東5時の位置といったところだ。
補給地点のある市街地のほうが位置的には近い。追加機体の元へは全速力で急げば30分程で着ける。
欲張って両方を得ようなどと思っても、行って戻ってなどしていれば機体は奪取されているか、他の参加者が待ち伏せしているか。
「補給を選ぶか、追加機体を選ぶか。……一種の賭けだな」
機体の補給。エネルギー、弾薬は回復し安全ではあるだろう。だがこれ以上の戦力増加にはならない。
追加機体の奪取。傷ついたゴライオンから新しい機体に乗り換えられる。
だが弾薬も尽き、剣は折れている。全速力で移動しエネルギー消費した機体で複数の参加者と出くわせば苦戦は必死。
そもそもゴライオンやジャイアントロボより、見劣りする機体であれば行く意味は無い。
そして悩んでいる時間も、又無い。
「賭け――運だめしか」
死んだ男が言っていたそんな言葉を思い出す。
「俺は
第一回放送を生き延び、奴は死んだ。・・・・・・ならば、運があるのはこの俺だ!着いて来い!ロボ!」
殆ど根拠など無いような自信でレーベンは追加機体を選び、C-5を目指す。
◇ ◇ ◇
上へ上へと昇り続ける禍々しい機体。
放送が終わっても搭乗者の碇シンジは、心此処にあらずといった表情で涙を流し続けている。
『シンジ。放送の内容はこちらで記録しておいたでござります』
「うん。ありがとう」
間抜けた口調だが優しく語りかける同乗者の言葉にも呆けた返事しか返さない。
『ノルマを達成しお前はジョーカーではなくなった。これからどうする?』
「これから……?今は何処に向かっているの?」
『宇宙だ。このまま行けばb-2辺りに出るだろう。だが大丈夫だ。使徒はエラ呼吸的なあれで活動できる』
W14のウィットにとんだジョークも泣かず飛ばずだ。
「……宇宙か……」
行った事はない。広くて大きくて生物なんてほとんど居ない。
煩わしい人間関係に頭を悩ませる必要も無い。
ここから逃げて、そこにずっと漂っていたい。
「でも駄目なんだ。僕は戦わなくちゃ……」
前を向いていく。そう決めた。あいつに殺された鉄也さんの意思を受け継ぐためにも。
「僕は強くて”正しい”人と一緒に戦って生きたい。一人じゃ無理だけど力を合わせたら……」
『強くて正しい人か。なら下を見ろ』
「……下?」
ゼルエルは上昇をやめ、地上へと目線を向けた。
会場全てを見渡せるわけではないが大地が眼下に広がる。なんだかミニチュアのそれのように思えてしまう。
『東の方角に機体が集まっている。第一回放送を乗り越えた猛者たちだ。
そしてあれだけの人数が集まれば混戦となるだろう。その中で生き残る者は充分強者と言える』
「確かに強い人たちが集まる場所だろうけど、でも駄目なんだ。
戦って傷ついて、その人たちは弱くなっちゃう。力の無い正義は無力だ。そんな人たちは必要ない」
『では逆に今は弱いかもしれないがこれから強くなる可能性のある参加者ならどうだ?』
「これから強くなる?」
『追加機体。会場に連れてこられた時に聞いているだろう。
戦いで機体が傷つき、弱くなった者が目指す。ここまで生き延びているならそれ相応の実力を持っているはずだ』
「じゃあ、鉄也さんは……鉄也さんはそれに乗り換えれば死ななくて良かったの?
強くなくなってしまった鉄也さんは、鉄也さんは、僕は鉄也さんを――」
地雷を踏んでしまった。うまく塞ぎこんだ彼を誘導したつもりではいたのだが。
剣鉄也の『死』を意外な形で悔やみ始めた。
W14はシンジが『手にかけたのは自分でも、殺したのはラカン』であると割り切っている。そう判断していた。
鉄也が死んでしまったのはラカンのせいである、と。
身勝手な理屈ではあるが、彼の中でロジックが完成していればW14にとってはそれでいい。
しかし彼は鉄也を『殺したのは自分だ』と認識しているような後悔の仕方を見せた。
なんにせよ、彼の心を閉じさせる訳にはいかない。だからロジックが整うように彼女はシンジに助言する。
『シンジ。おまえは間違ってなどいない。例え、間違っていたとしてもそれは二度と間違えないようにすればいい。
間違いなんて誰にでもあるさ。人間だもの』
「そうか。そうだよね。人間は間違える生き物だから」
『……それでいいんだ。シンジ。』(本当にそれでいいのかしら)
うまく彼のグラついた彼の精神を安定させることが出来た。と喜ぶべきだろう。
だが彼をこのまま、この不安定な状態にしておいて良いのだろうか。
彼の言う”強くて正しい人”はゆがんでいるように思える。
人造人間の思考にノイズが混じり始めていることにまだ彼女は気付かない。
「行こう。その場所へ」
『はいなー。出発進行ー!』
黒い流星が大地へと振る。
◇ ◇ ◇
レーベンの追加機体を手に入れるという選択。これは正解と言って良い。
素直に機体の補給を選んでいたら、B-4の街でそのまま敵対することになるだろう集団と出くわすことになったのだろう。
もしもテレサ・テスタロッサ達と出会い、戦闘をしていなければ
戦闘後に少しの間休みを取り、あの不味いレーションを口に含んでいなければ
エネルギーを浪費しないように空を行かず、大地を進んでいなければ
C-5に追加機体が設置されなければ、レーベンも今頃は死んでいたかもしれない。
そしてC-5周辺には放送前後、殆どの参加者が居なかった。
だからこそ、この地域に追加機体が設置された。とはいえる。
結果、レーベンは誰とも出会うことなくこのC-5北の橋の西口へと足を踏み入れたのである。
だがそんな事実を知らない彼は全速力を出していても周囲の警戒を怠ってはいなかった。
ジャイアントロボを先行させ、敵襲が無ければその後を付いて行く。
C-5に着いてからは尚のこととも言える状態だったかもしれない。
周りを念入りに確認し橋を渡る。水中では熱源反応で感知するレーダーの効き目は悪い。
追加機体を狙って現れる参加者を奇襲などということがあってもおかしくは無い。
だがそれも結局は杞憂で終わる。
ここまでは幸運が幸運を呼び、順調に事が運んでいる。
だが重要なのはこれからだ。追加機体がどれほどの能力を秘めているのか。
橋の中腹にそれはあった。
ゴライオンよりも少し低い程度の四角柱を積み上げたような機体。
残念ながら獅子の意匠は施されていないがゴライオンのそれよりも更にカラフルに彩られている。
未だ辺りを警戒しながらゴライオンからそれへと飛び移る。
ジャイアントロボは水中に待機させた。他の参加者にとってイレギュラーな要素はあった方が良い。
コクピットを見つけるのに一苦労しながらも、やっと見つけたその中へと入った。
シートに無造作に置かれたマニュアルを発見し、読み込む。
使えそうなものなら乗換え、そうでなければ破壊するだけだ。
「戦神の名を持つ機体か。」
――ゴッドマーズ、それがこの巨神の名称。
ゴライオンと同じく複数の機体が合体してこの巨大なロボットとなる。元となるのはゴライオンよりも1体多い6体の巨神。
だが同じ複数機の合体機でもゴライオンと違う点がある。
ゴライオンは分離時の各機体を各1名の人員で動かすというのが本来の使い方だ。
対してゴッドマーズはその6機全てを自身の脳波でコントロールが可能なのである
これでジャイアントロボをプラスワンし、計7体の機体を同時展開可能になった。他者よりも大幅な戦力の増強が期待できる。
武装面はどうであろう。合体時に剣を必殺の武器として使用するのもゴライオンと同様だ。
しかし合体時にはゴライオンと比べ、あまりにも
その他の武装は少ない。
だがそれが決定的な戦力差とイコールで結び付けられるわけではない。
強いからこそ、その武装は最小限に抑えられていると見て問題ない。
それはギシン帝国軍の殆どの戦闘メカを一撃で倒してきた輝かしい戦歴からも伺える。
とはいえそこまでマニュアルには詳しく描写されているわけではないが。
とにかくこの機体は5人乗らなければ本来の力を発揮できないゴライオンの上位互換とも呼べる機体である。
まさしくレーベンが渇望したゴライオンよりも強力で、何者にも負けないだろう力がここにある。
しかしレーベンが気にしていることはまったく別のことであった。
「コアロボットの名は地母神の名とはな。良いだろう!
新しき地母神たるエーデル准将に仕える身であるこの俺が古き地母神を使役するのも!」
自身の敬愛する女性を思い、悦に浸っていた……。
「なんだ。この感覚は……」
ゴッドマーズを起動してから感じ取れるようになったソレ。
若干の頭痛を伴うが、殺し合いの会場を参加者の感情が漂っているのが解るのだ。
放送後ということもあるのだろう。悲しみ、怒り、恐れの感情が殊更多く感じた。
それらの感情に流され、押し潰されそうになるレーベンの精神。
「こんなものがなんだ!この程度か!お前たちの悲しみとは!怒りとは!恐れとは!この程度の感情で!
俺のエーデル准将への無垢なる想いが!燃え上がる感情が!!消されてたまるか!!!」
それをエーデルへの忠誠心によって、押しのけた。
しかし、まだ感じ取れる。歪な形をした心の持ち主がこちらに向かってきているのを。
だがこの感覚は妙だ。
(一人か?いや二つ、三つ分感じられるような気がする。)
ゴッドマーズの目の前におぞましい雰囲気を纏った異形の天使が降り立つ。
黒く、骸骨を模した様な顔を人間で言う胸の部分に取り付けている。背中には形容のし難い羽根が生えている。
生き物のようにも見えるが、レーベンはそれを『天使』だとそう錯覚した
「碇シンジと言います。こんな機体に乗っていますが殺し合いに乗るつもりなんてありません。
仲間を集めてこの殺し合いを行っている主催者を倒したいんです。お願いです!僕に協力してください」
まったく持って印象に残りそうも無い少年がモニター越しに話しかけてきた。
この少年があの歪んだ心を持った奴か?それならば全くたいした物である。
表情だけ見ればそんな様子は微塵も感じられない。演技力だけならば自分と同程度といったところだ。
だがだからこそ違和感を覚える。この子供はどうしてここまで普通に居られるのか、と。
「良いですよ。自分もこの殺し合いを止めたいと願う一人ですから。
ところであなたはエーデル・ベルナルという人物に心当たりはありますか?」
「え?そういう人に心当たりはありませんけど」
シンジが返答したと同時にゴッドマーズは空を、まるで光の速さで歩くようにゼルエルの元へと向かった
間髪いれずにゼルエルの横腹に拳を叩き込む。
ゴライオンよりも小さいながらも重量は1050tと重い。その体から打ち放たれるパンチ。
ギシン帝国の戦闘メカもこの一撃だけで倒されたものさえ居る。
だが、ゼルエルのATフィールドによってこの一撃は塞がれる。
「いきなり何をするんです!」
「知らぬのなら最早貴様は用済みだ!そのままこの場で千切れて消えろ!」
「くっ!嘘をついたんだ!あなたは!あなたは!お前は人を騙してまで殺し合いに生き残りたいのか!」
『レーベン・ゲネラールにゴッドマーズか。まずい奴に当たった。シンジ、ここは一時撤退を』
「黙ってて、ここは僕が蹴りをつける。鉄也さんの意思を受け継ぐためにも!」
『しかしだ。あのゴッドマーズはおそらく誰にでも本来のパイロット並に動かせるよう改造されているもの。
一人でどうこう出来る相手ではない』
「黙ってろって言っただろ!」
シンジがここまで殺気立って反抗を露にする態度は初めてだ。
病的なまでに仲間になる相手に強さを求め、攻撃手段に訴え出ている。
これではうまく行く話もうまくはいかない。なんとしてでも止めるべきだ。
しかしそんな自分の感情的な考えにW14は疑問を持つ。
(どういうことだ。私の思考は矛盾している……。
シンジが言うことをどんなことであれサポートし、遂行に導くのが私の役目。
そして状況を利用し、殺し合いに乗らせるように誘導するのが真の役目。
その結果、シンジが死のうが死にまいが私には関係がない。
だがこの子を殺し合いに乗らせるなんて、この子が死んでしまうなんて。この子……?私はいったい)
言い知れぬ不安がW14を襲う。
だが疑問に思う時点で、不安を覚える時点で、彼女にとってはそれはおかしいことなのだ。
彼女は物を考え、感情を持っているように見えて、その実フリをしているだけ。
状況によってプログラムされた指示通りに、他者に違和感を与えないように動いているだけだった。
だが彼女は今迷いを生じている。
「今の声は!貴様女を!女を乗せているのか!答えろぉぉぉぉぉおおおおおおっ!」
『しまった。相手が女を憎んでいることは知っていたはずなのに……』
レーベンに自分の存在を知られてしまった。つまりは相手の闘争本能に火をつけてしまったのだ。
いつもならばこんな失態など無いはずなのに。
ゴッドマーズの腕付け根を狙い、ゼルエルが両腕を伸ばす。接近戦を繰り広げる両者。
避ける間もなくゴッドマーズの両腕は、かつてEVA弐号機がそうなったように切断される。
「そんなものでこのゴッドマーズを傷つけられるか!行け!ウラヌス!タイタン!」
いや、ゴッドマーズが分離したのだ。そのまま二機のロボットに変形した両腕はゼルエルへと飛び掛る。
それぞれの胸から発射された冷凍光線と反重力光線。これだけではATフィールドは突き破れない
「俺を甘く見たことを後悔するが良い!ゴッドファイヤー!」
足りないのならば足せば良い。ゴッドマーズの胸部が逆三角形の光線を発射する。
三つの光線を一点集中させると、流石のゼルエルも後退し始める。
そして、遂にATフィールドを破った。
「くぅっ!」
衝撃に顔を顰める。だが使途の体には殆どダメージが無い。
「なんであなたみたいに強い人がこんな殺し合いに乗るんです!
これだけ強いなら僕と仲間になってシャドウミラーを倒すことだって出来るのに」
「仲間だと!そんな理屈が通るわけがあるかぁぁぁぁっ!ガキがっ!
俺が仕えるのはエーデル准将のみ!そして俺の仲間はシュラン唯一人だ!」
ぶちっと血管の切れたような音がした。
事実切れていた。レーベンの鼻からつぅと流れる血。
最初に感じた頭痛。それは今まで戦闘時に発生する脳内アドレナリンで抑えていた。
シンジの身勝手な言動に気を取られたためにそのアドレナリンが停止したのだろうか。
今までとはレベルの違う激痛が脳内を走る。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅおおおおおおおおおっ!」
レーベンは、獅子の雄叫びのような叫び声を挙げた。
なぜここまでの激痛が走るのかか。レーベンが理由を知るはずが無い。
それにはこのゴッドマーズの操縦法が関係している。この機体は脳波コントロールで動かしている。
本来の操縦者は明神タケル。彼以外の人間がこのゴッドマーズを動かすことを可能にした。
レモン率いる科学技術陣は、その他のこういった専用機体と同じように彼以外でも動かすことの出来るよう機体を改造した。
だがしかし明神タケルは宇宙人であり超能力者だ。
その特殊な脳波パターンを再現できない限り、動かすことは出来ても六神を自在に操ることや脅威の運動性能は再現不可能である。
似たような
支給機体にライディーンがいる。こちらも他者が動かせるように改造。
そして本来の力を発揮するには念動力者という特殊な能力者が必要だった。
この場合は念動力者とは似て非なる存在『ニュータイプ』に支給した。
しかし、ゴッドマーズは他者が動かせるようになっても基本装備は少なく単なる木偶の坊である。
超能力者でも無く、念動力者でも無く、ニュータイプでもない参加者でも動かせるようなシステムが必要だった。
実際の所、必要なかっただろう。外れ機体として出せば良かったのだ。それは科学技術陣の探究心の賜物か。
かくしてサイコミュ、T-Linkシステム等の技術、明神タケルや数多の超能力者と言われる人物の脳波パターンから解析が行われた。
何の特殊能力の無い人間の脳波でも、超能力者の脳波に近いパターンに増幅する特殊なサイコフレームがゴッドマーズに搭載された。
これによって、本来の性能を活かせる程にゴッドマーズを動かすことが可能になった。
他者の感情が少しずつ読み取れるようになったのも、気のせいではなかったわけだ。
しかし、メリットばかりではない。レーベンが感じた例の頭痛がそれだ。
システムは脳波を増幅させる変わりに多大な負担を脳自体に掛ける。
単純に動かすほどなら支障は無い。が同時に六神を動かすとなれば話は別だ。
長時間の使用は深刻なダメージとなって操縦者に返って来る。いわば、諸刃の剣。
しかも意地の悪いことにこのデメリットははマニュアルには掲載されておらず、機体データベースにしか記述されていない。
「ぐううう!戻れ!ウラヌス!タイタン!」
これ以上の戦闘は不利と判断し、両機を呼び戻す。戦域を離脱し始める。
「あなたを逃がことは出来ない!」
「ジャイアントロボ!奴を黙らせろ!」
水中に身を潜めていたジャイアントロボが出現した。
移動中に渡していた折れた十王剣をジャイアントロボがゼルエルの体に突き刺す。
これで突き破ったATフィールドが完全に閉じることを防ぐ。
赤い球体目掛けて、振り上げられる拳が唸りを挙げる。
ゼルエルは殴り飛ばされ、弧を描くように水面へと落ちていった。
(あの程度で死んでいるとは思えん。だがこの状態では深追いも危険か)
「撤退だ!ジャイアントロボ!」
二機の機体がその場を後にする。そして今までの相棒にレーベンは別れを告げた。
――さらばだ。五匹の獅子よ!今は水底に眠れ!
【一日目 14:45】
【レーベン・ゲネラール 搭乗機体:ゴッドマーズ(六神合体ゴッドマーズ)】
パイロット状況:疲労、頭痛、鼻血、戦化粧済み
機体状況:良好、特殊サイコフレーム装備、EN20%減
現在位置:C-4 上空(南)
第一行動方針:ヴァン、ヴィレッタ、イスペイル、少年(シンジ)は次こそ必ず殺す
第二行動方針:女、女、女、死ねええええええ!
第三行動方針:ジ・エーデル・ベルナルについての情報を集める
最終行動方針:エーデル准将と亡き友シュランの為戦う 】
※参戦時期:第59話 『黒の世界』にてシュラン死亡、レーベン生存状況から
【レーベン・ゲネラール 搭乗機体:ジャイアント・ロボ
機体状況:全武装の残弾0、全身の装甲に軽い損傷、EN40%減】
【備考1:特殊サイコフレームについて
NTや念動力者のような力が使用可能、六神を自由に操ることが可能
使いすぎると脳に大幅な負担がかかる
備考2:ゴライオンがC-5水中(橋)に放置されています】おらず、機体データベースにしか記述されていない。
◇ ◇ ◇
ゼルエルは間一髪の所で殻を展開させることによって、致命的なダメージを受けることはなかった。
シンジには衝撃によって今は気絶し、眠りについている。
W14もダメージは受けたが、気絶をするほどと言うわけではないようだ。
傍らに眠るシンジの様子を見つめる。シンジは先程の凶暴性など感じられないほどにすやすやとした顔で眠っている。
――愛おしい
この感情の原因はなんだ。W14は以前になにか原因となる物があったか思い出そうとする。
まず間違いなく鉄也の乗ったEVA初号機を食べて以降に発生したと言っていい。
『なんだ。簡単なことじゃないか……』
初号機に入れられていた魂を分割しゼルエルに注入されたのが自分だ。
そんな初号機を私は喰べた。分割されたはずの魂は一つになってここにある。
その魂の元になったのは碇ユイのものだ。目の前に居る少年の母親のものだ。
自分の中には『碇ユイ』の完全な魂がある。
この感情も、先ほどの戦いの最中で迷いを生じたのも、その魂から来ているのだろうか。
それならば碇シンジに感じるこれは母性愛のそれか。
だがおかしい。自分には『碇ユイ』の記憶や人格パターンなどは無い。
W15のように別の人間の人格パターンを移植すらされていない単なる抜け殻のはずなのに。
それほどまでに『魂』というものは強い影響を及ぼす物なのだろうか。
『おかしいわね。人造人間に自我なんて、母性なんて必要ないのに。
私はどちらの立場で生きていけばいいのかしら。……今のは言語機能の回復じゃないみたいね』
これも本来想定されていた少女の言語パターンとは違う。壮年の女性のそれだ。
少しずつ碇ユイが覚醒している。そんな自我の覚醒に人造人間である自分は畏怖や疑念を抱いている。
彼女は知らない。かつて自我の芽生えた人造人間が居た事を。
【一日目 14:45】
【碇シンジ 搭乗機体:第14使徒ゼルエル(新世紀エヴァンゲリオン)
パイロット状況:気絶中、精神的不安定(肯定されないと崩れそうになるほど危うい)
機体状況:ゼルエル(S2機関双絃共振励起型搭載)マゴロク・E・ソード、マジンガーブレード所持、胸部にダメージ。
W14 胸部にダメージ、碇ユイの自我の覚醒、人造人間としての抵抗、言語機能がお母さんぽく
現在位置:C-5 海中(北)
第一行動方針:強くて正しい、鉄也さんのような人を探して仲間にしてもらう(ただし、他人には多くを期待し過ぎない)
第二行動方針:悪人、足手まといな人は積極的に殺す
最終行動目標:自分の正しさを貫き、強くて正しい人たちと共にシャドウミラーを打倒する】
※カヲル殺害後から参戦です。
【W14(ゼルエルXX)について】
ゼルエルとの神経接続により、ゼルエルの受けたダメージはW14にもフィールドバックするようです。
S2機関を取り込んだ結果、碇ユイの魂が覚醒し始めました。
最終更新:2010年05月11日 22:12