僕は僕、君はG7 ◆NHOSd4SLX6


「ダイッタァァァン! カァァァムヒアッ!」

 シーン……………………。

 いつもの通り叫んではみたものの、地響きや飛行音が続くことはなかった。
 見慣れぬコクピットの中で、ダイターン3のパイロット――破嵐万丈はごちる。

「ふぅ。わかっちゃいたが、やっぱり来ちゃくれないか。無敵の破嵐万丈といえど、これにはちょっぴり、まいったね」

 と、大して困ってもいない風に言う万丈。その表情は、余裕に満ちていた。
 異常な事態だからこその平常心。飄々とした態度の裏では、常に考察を練っているのが破嵐万丈という男だ。

「バトル・ロワイアル――争覇の宴ね。迷惑さで言えば、メガノイドとどっこいどっこいだなこりゃ」

 閉鎖されたコクピットの中で、万丈の軽口に相槌を打つ者はいない。
 拉致被害にあったのは万丈一人きりであり、この『争覇の宴』とやらには、彼の優秀なアシスタントはお呼ばれしていないようだった。

「大きさという面で見れば、ダイターンよりかは整備が楽そうだけど……できることならアシスタントが欲しいところだね」

 名簿に記載された人数は計七十。はたして何人がヴィンデルの口車に乗り、戦いに身を委ねてしまうだろうか。
 ある者は恐れが先行し、ある者は破壊欲が膨張し、ある者は戦士であるがために、闘争へと赴くのだろう。

「それはそれで結構。が、僕としては……ヴィンデルの手の平の上で、ってのが気に入らないな」

 ヴィンデル・マウザー。地球連邦軍特別任務実行部隊シャドウミラーの隊長を名乗ったあの男について考える。
 たかだか連邦軍程度、たかだか軍人程度が、こんな大掛かりな舞台を用意するというのもおかしな話。
 シャドウミラーという部隊がよほど特殊なのか、それともヴィンデルという男が異常なのか、謎は尽きない。
 わかっていることはただ一つ。討つべきはここにいる誰か、ではなく――あのヴィンデル・マウザーということだけだった。

「コクピットで考えてても埒があかないか。ここは行動あるのみ。与えられた相棒を動かしてみるとしますか」

 共にメガノイドと戦ってきたダイターン3が現れないとするならば、この場はこいつの力を借りるしかない。
 元々の搭乗者はよほど小柄だったのか、コクピットシートはダイターンのそれに比べても一回り小さい。
 多少の窮屈さを覚えつつも、万丈はマニュアル通りに操作を進めていく。
 発進準備が整ったとき、周囲に女性の声が響き渡った。


  『 毎度、お騒がせして申し訳ございません。
    ただいまより、トライダー発進いたします。
    危険ですから、白線の外までお下がりください 』


 アナウンスによる警告。続けて、操縦者である万丈もモニターで周囲の情景を窺う。
 住宅地になっているらしいその近辺には、人影の一つも確認できない。

「よぉし! 安全、確認!」

街中で巨大ロボットを出撃させるともなれば、周辺に住まう人々の迷惑は十分に考慮しなければならない。
 いやはやごもっともで、と万丈は独り言を漏らしつつ、住宅地の地下に収納されていたその機体を、地上へと発進させた。
 バーニアから炎が吹き上がり、空を滞空する。モニター越しの映像は、なかなかに絶景だった。

「ジャベリンにザンバー、それに変形機構と……おかしなことに、機体の特性はダイターンとそう変わらないみたいだね」

 万丈は各武装のチェックを進めつつ、周囲に他の機影がいないかどうかも確認する。
 主要武装はトライダー・ジャベリンやトライダー・セイバー。
 トライダー・ミサイルは『経費がかかるので無駄遣い厳禁!』と注意書きが記されていた。

「必殺技はバード・アタックか。やれやれ、必殺技までダイターンそっくりときたもんだ」

 カタログスペックは及第点。これ以上の評価は、実際に敵と戦ってみてからになるだろう。
 できることならば、初陣の相手はヴィンデルであってほしいと願うものだが。

「さぁて、景気づけといきますか! よろしく頼むよ、トライダーG7」

 そこで初めて、相棒の名を呼ぶ。
 破嵐万丈が操る機体の名は――竹尾ゼネラルカンパニーが誇る無敵ロボ・トライダーG7。
 人の顔を模した頭部が、やけにダイターン3と似ていた。

 万丈が操るトライダーG7は、胸元の鳥のマークを強調させ、躍動する。
 あたりに響き渡ったのは、破嵐万丈によるお得意の宣誓だった。


「世のため人のため、ヴィンデル・マウザーの野望を打ち砕くトライダーG7! この光鳥の輝きを恐れぬならば、かかってこい!」


 シーン……………………。


「……聞き手もいないのにはりきりすぎか。失敬失敬っ」



【破嵐万丈 搭乗機体:トライダーG7(無敵ロボ トライダーG7)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:A-5
 第一行動方針:アシスタントとして働いてくれそうな人間をスカウトする。
 第二行動方針:弱きを助け強きを挫く。ま、悪党がいたら成敗しときますかね。
 最終行動方針:ヴィンデル・マウザーの野望を打ち砕く。】

【一日目 6:20】


BACK NEXT
016:わりと忙しい艦長のバトルロワイアル 投下順 018:ゼロからの明日へ
002:Xと呼ばれたガンダム 時系列順 018:ゼロからの明日へ

登場キャラ NEXT
破嵐万丈 052:強さの在処、心の在処

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年01月17日 18:13