わりと忙しい艦長のバトルロワイアル ◆dw7agDeNYQ
全高 240メートル、重量 9800トン、燃料、アイス・セカンド、動力源、大型縮退炉×2、装甲材料、バスター合金、スペースチタニウム、推進機関、ブースター:肩部×4、背面部×2、バニシングモーター×2。
「ガンバスタ-……すごいマシンですね……」
ダイレクトモーション操縦席であるコクピットの中で、銀髪の幼い少女、テレサ・テスタロッサはコクピットに置かれていたマニュアルを見ながらそう呟いた。
テレサ・テスタロッサはウィスパードとして、その見かけに反してあまりにも多くの知識を持っている。そして、人型ロボット、ASに関しては彼女より多くの知識を持つ人間は世界中を探してもそれほど多くはないだろう。
しかし、このガンバスターというマシン、これはその彼女にとってまるで規格外のものであった。
「240メートルなんて巨体をどうやって維持しているのかしら?ラムダドライバは積んでいなさそうですし…」
テレサ・テスタロッサは以前、巨大ASベヘモスに襲われたこともある。その時、ベヘモスは自身の巨大さをラムダドライバという装置を利用して無理やりに成立させていた。
しかし、これは違う。恐らくは、作られている材料から自分の知っているものではないのだろう。マニュアルには、装甲材料、バスター合金、スペースチタニウムと書かれている。
どちらも聞いたことのない素材である。しかし、さらに異様なのはその動力源である。
「大型縮退炉、SF小説の中のものだけだと思っていたけど…」
縮退炉、重力半径を共有して回転する二つのマイクロブラックホールを常温で凍結し、そのむき出しになった特異点で見かけの半径との誤差を生じさせ、そのときに発生するエネルギーを取り出すものである。
それが二つ、つまりガンバスターはエネルギー源として、四つのブラックホールを持っていることになる。どう考えてもオーバースペック、常識外の機体である。
「だけど、おかしいわ。出力が低すぎる、もしかしてあの人たちが何か出力を低下させる仕掛けを後からつけたんじゃないかしら」
最初からこれくらいの出力を要求されて建造されたとは考えにくい。それが、マニュアルに載っていたスペック表を見てのテレサ・テスタロッサの感想であった。
そして、その予想は当たっていた。彼女は知らないことであるが、ガンバスターは主催者の手によって本来の十分の一程の出力に抑えられていた。
「でも、これはチャンスね。この『ストッパー』を外す事が出来ればあの人たちの技術体系も把握できる。それに、もしかしたらこれも・・・・・・」
テレサ・テスタロッサは軽く首輪に触れる。それは機械的な冷たさを持って、確かに自身の首に付けられていた。数分前のあの光景は今思い出しても寒気がする。
テレサ・テスタロッサは軍の指導者の一人である。
その立場上、人を殺すよう部下に命令したこともあったし、部下を失ったこともあった。しかし、それでも人が死ぬということは慣れるものではなかった。
もし自分がああなったら、自分の大切な人の命が失われるようなことになれば・・・・・・想像するだけで恐ろしかった。幸いなことに自分の知り合いはこの場に来ていないようであった。
しかし、それでもテレサ・テスタロッサは人が死ぬという状況を見て見ぬ振りできるような人間ではない。自分にはガンバスターという力がある。
そして今までの経験も、それはTDRの指揮官としての経験であり、相良軍曹により教えられたASの訓練の経験でもあった。そしてなにより、自分にはウィスパードとしての知識がある。
首輪をはずすという奇跡も起こせるという自信が彼女を恐怖から立ち上がらせる。
「まずは、道具の確保。首輪と機体を検証できる施設の確保。そして、戦いを止める。」
自身のやるべきことを確認する。そこには、年相応の恐怖する少女の姿はなかった。
よし、いくわよ。ガンバスター」
勢い込んで一歩踏み出す。しかし、彼女は今まで人型兵器の操縦の経験というものがほとんどない。
ましてや、自身が知っている兵器とはまったく操縦系統の違うガンバスターであることも不幸ではあった。200メートルを越える機体が足を滑らしたのだ。
「きゃああああああ」
その衝撃は『ずるべったーん』などというものではなく、まるで小惑星が落ちたかのような衝撃であった。振動はかなり広範囲に広がっただろう。巻き上がる粉塵は成層圏まで達したかもしれない。
「いたたたた、とりあえずは練習しないといけませんね」
コクピットの中で彼女は目を回しながらそう呟いた。気絶しなかっただけでも彼女は運がよかったのだろう。頭の上に乗っかったマニュアルを除けながら立ち上がる。彼女の動きにあわせてゆっくりと立ち上がる機体。そして、先ほどとは反対の足を踏み出した時、
「きゃあああああ」
本日二回目の土煙が上がった。
ちなみにではあるが、マニュアルにはこうも書かれていた。ガンバスターの操縦者には特別製のパイロットスーツがあり、それも支給すると。
もちろん彼女もそれを確認した。しかし、それを身に着けてはいなかった。理由は一つ、露出があまりにも大きく恥ずかしかったからである。
【テレサ・テスタロッサ 搭乗機体:ガンバスター(トップをねらえ)
パイロット状況:良好、全身に痛み
機体状況:良好、能力に大幅な制限
現在位置:F‐4
第1行動方針:機体に慣れる
第2行動方針:首輪をはずす
第3行動方針:機体を分析する
第4行動方針:争いを止める
最終行動方針:バトルロワイアルからの脱出】
最終更新:2010年01月17日 19:07