Xと呼ばれたガンダム ◆ZbL7QonnV.


――果てしない憎しみを抱きながら、戦いに明け暮れるだけの日々は終わった。
そう、終わったのだ。
憎悪の侭に戦い続けた日々は、いまや遠い昔の事に思える。
まるで澱のように積み重なったキラ・ヤマトに対する憎悪は、まるで淡雪のように溶け消えてしまっていた。
それを為したのは、ひとりの少年。
かつてカナードと死闘を繰り広げ、そして彼を打ち倒した、カナードと同じく兵器として生れ落ちた――

「……プレア」
かつて命を賭して自分と戦い、命の輝きを自分に伝えた少年の名前をカナードは呟く。
不完全なクローンとして創り出され、短い寿命の中で命を輝かせていった“運命の子”――
彼と共に過ごした時間は決して長くはないが、それでも彼の存在は今もカナードの心に強く焼き付けられていた。
あの少年ならば、どうするのだろうか。
無関係な人間との殺し合いを強要される、このバトルロワイアルに巻き込まれてしまったならば。
たった一つしか無い、掛け替えの無い命を奪い合う――
そんな悪意に満ちた残酷なゲームに、もし彼が巻き込まれてしまったのならば。
きっと、彼は止めようとするのだろう。
自分の命を犠牲に晒す事になったとしても、決して恐れる事無く運命に立ち向かうのだろう。

それなら、かつての自分はどうだ?
完成されたスーパーコーディネイターである、キラ・ヤマトに対する憎悪で凝り固まっていた頃の自分であれば。
キラ・ヤマトを打倒する事で、自分こそが真のスーパーコーディネイターである事を証明しようとしていた、あの頃の自分であれば。
きっと、殺し合う事に疑問を持ちなどしなかったであろう。
むしろスーパーコーディネイターである自分の優秀性を示さんとして、積極的に殺し合いに乗っていたかもしれない。
敵も味方も関係無く、戦いに勝つ事こそが自分の存在意義だと信じて、この殺し合いに乗っていたのかもしれない。

「……X」
見慣れないモビルスーツのコックピットの中、カナードは自らに支給された機体の名前を呟く。

【GX-9900-DV ガンダムXディバイダー】

プレア・レヴェリーの乗機であるドレッドノートガンダム――
いや、Xアストレイと同じく、エックスの名前を関するガンダムタイプのモビルスーツ。
その操縦桿を強く握り締めながら、カナードは自らの心に沸き立つ激しい衝動を感じていた。
ああ、そうだ……これは“怒り”だ……。

「……いいだろう。
このオレに戦う事を望むのならば、望み通りに戦ってやる。
だが、戦う相手はオレに選ばせてもらうぞ……」
ギラ付く獣の眼差しで、カナードはモニター越しに彼方の空を睨み付けていた。
戦う事を拒む気は無い。
かつては軍人として、そして今は傭兵として、世界各地の戦場を渡り歩き続ける身の上だ。
自分が戦う為に作られた命である事も、自分は戦う事でしか生きられない人間である事も、カナード・パルスは受け入れている。
だが、だからといって無意味な殺し合いを受け入れる道理は存在しない。
命をゴミクズのように扱う、神気取りの言う事に従う義理など、どこにもありはしないのだ。
カナードは決して許さない。
まるで使い捨ての玩具のように、命を弄ぶ存在を認めない。
ならば、どうする。
プレア・レヴェリーの意志を受け取った人間として、カナード・パルスはどうすればいい?

「ああ、そうだ……! キサマら如きに、このオレが従ってやるものか!
憶えていろ……このオレを思い通りに出来ると思った事を、必ず後悔させてやる!!」
そうだ、決まっている。
カナード・パルスには戦う事しか出来ないし、戦い以外の方法を選ぶつもりも無い。
だが、奴等の言う事に従う気は無い。
だから、戦おう。
反逆の牙を研ぎ澄まし、このバトルロワイアルと言うデスゲームをぶち壊してやる……!

「X……お前も“X”の名を持つガンダムならば、オレの期待に応えてみせろ!
Xの名に恥じない力を、このオレに示してみせろ!!」
底知れない悪意に彩られた、邪悪な声を思い浮かべる。
あれこそがカナード・パルスの、そしてXの名を持つガンダムの討ち滅ぼすべき敵だ。

「戦うぞ、X! 敵は……あの黒い炎だ!」
Xと呼ばれるガンダムに深い縁を持つ戦士を乗せて、Xの名を持つガンダムは雄々しく飛び立つ。
その行く先に待ち受ける運命は、果たして……。



【カナード・パルス 搭乗機体:ガンダムXディバイダー(機動新世紀ガンダムX)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:E-6 陸地部分
 第1行動方針:主催者打倒の方法を探す
 最終行動方針:バトルロワイアルの主催者を徹底的に叩き潰す】

【一日目 6:20】


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最終更新:2010年02月21日 17:11