機動戦艦ナデシコZ -The prince of tuxedo- ◆8Ab8CIePQg
「ウェイクアップ、ダン」
俺の号令に従い起動したのはオリジナルセブンの機体以上に鎧じみたヨロイ。
全体的にのっぺりとしていてスマートだったダンとは似ても似つかないトゲトゲしくデッパリも多いデザイン。
おまけに色までもが白と青のダンとは対照的に黒と赤ときている。
そのくせ手に持つ剣だけはダンの大太刀にそっくりだった。
当たり前だ。
俺が変形させたのだから。
よく分からない理屈だがこのヨロイの持つ剣のうち一本は形を変えれるそうだ。
眉唾ものだったが試しにやってみたらこの通りだ。
どうやらこのヨロイに使われているダイレクトなんちゃらシステムとやらはオリジナル用に改造された俺とはかなり相性がいいらしい。
俺の動きに合わせヨロイが動き、思ったように刀が変形する。
ダンだと思い込んで動かせば、ほぼ普段どおりに戦うこともできるだろう。
――それで、満足しろと?
冗談じゃねえ。
改造の副作用でダンがなければ遅くとも一週間後には死ぬ。
いやそれ以前にあのヨロイはダンは「女ぁ!これ以上、俺を怒らせたいか!!」ああん?
どこからか聞こえてきた見知らぬ男の声を追ってみれば、確かにそこには女がいた。
いや、女っぽいロボットがいたというべきか。
ついさっき別れたばっかのプリシラのヨロイも女性型だったが、あれはそれ以上だ。
しかも、あー、あいつだ、あいつ。亀を連れたあいつの年頃な姿だ。
なら、その女性型のヨロイをタコ殴りにしだしたやけにライオンっぽいヨロイの方がさっきの声の主か。
と、どうやら向こうも俺に気付いたらしい。
「なんだ貴様、邪魔をするのか!?」
女ヨロイに右手で剣を突きつけたまま、半身振り向き左手を突き出してくる。
よく見ればその五指には銃口らしき穴が開いている。
「ちがーう! だから、その撃たないでください」
本音だ。
俺は誰のために何をするか、自分で決めている。
見知らぬ誰かが襲われているからといって今の俺に守るべき理由はない。
襲っている方と戦う理由もだ。
声からしてこいつはあのカギ爪の男とは違う。
襲われている方も女だろうから論外だ。
それに男女のいざこざに他人がおいそれと口出ししていいもんじゃねえ。
「ふん、そうか。なら失せろ!」
「はい」
俺は両手を上げ、男に背を向けた。
幸い見つけるのが早かったおかげでライオンヨロイとの距離は元より十分離れている。
早々に立ち去れば射程外だろ。
男の方もそれを理解してか本当に手出しはしてこなかった。
どうもここ最近のパターンだと背を向けた途端に撃たれていたんだが。
これはあれか? ラッキーて奴か。
あん、ラッキー?
そういやなんかデジャビュを感じる光景じゃなくもねえなあ。
そういやあん時は俺はどうしたんだっけ?
俺の全てはエーデル准将に捧げる! この戦いも、この魂も!
ならば俺はこの殺し合いの場で何をすればいい?
決まっている!
皆殺しだ! 殺して殺して殺して、あの決戦の場へと帰るのだ!
待っていてください、エーデル准将!
このカイメラの獅子、レーベン・ゲネラールが一刻も早く邪魔者を片づけてあなた様を守りに馳せ参じます!
手始めにこの女の死をあなた様に!
「死ね、死ね、死ね、女あああああああ!」
そうだ、エーデル准将以外の女など俺の世界に存在してはならないのだ!
お前らなど、あの方の前ではゴミクズ以下だ、汚らわしい。
甘い顔をしてやったらころりと騙されつけあがる馬鹿だ。
何よりも女はすぐに裏切る。
だいたい何だ、その機体は?
女を模すなど気が狂っている。
思わず情報収集も忘れて襲いかかってしまったほどだ。
名簿にあったジ・エーデル・ベルナルという名前。
ヴィンデルとやらの表記ミスならこれはあの方そのものということだ。
すぐにでも駆けつけなければならない。
そうでないにしてもあの方の名前を汚すことは許されない。
偶然似た名前であるにしろ、あの方の名を騙っているにしろ――殺す。
殺す、殺す、殺す、殺す、ころおおおっす!
その為にも情報は得なければならなかった。
最初から本性を出して襲いかかる気はなかった。
なかったのにだ。
結果はどうだ?
俺は女が声をかけるよりも先にミサイルを撃ち込んだ。
今も繰り出す各種攻撃が止まらず情報を聞き出す気にもならない。
こんなはずではなかったのに!
それもこれも女のせいだ。
目の前の機体が女の姿をしていたせいだ!
「ファイヤアアアアートルネエエエエエエードッッッ!」
「っ!!」
それに比べて俺に支給された機体の勇姿はどうだ!
あのお方に賜ったカオス・レオーには劣るものの、五匹もの獅子を宿したこの巨体は俺が使うに相応しい。
本来は五人乗りのものを一人で扱えるように改造されたとのことで未だに少々扱いに手こずっているが問題はない。
何故ならそう、俺のエーデル様への愛は五人どころか一億人分すら上回るからだ!
この炎のように熱く燃え上がる俺の愛こそカイメラ隊の切りふっ!?
馬鹿な、炎の竜巻が見えない壁に遮られて!?
「フィールド展開。なんとか間に合いましたね」
そうか、そういうことか。
女、そんな腹立たしい機体に載っているだけでなく俺の准将への愛の炎を受けて平然としているか。
「女ぁ!これ以上、俺を怒らせたいか!!」
エネルギー系の攻撃では不利と判断し火炎放射を中止。
炎を吐き出すことの無くなった右腕を鉄拳となしそのまま叩き込む。
ゴライオンの腕は即ち獅子の頭部!
全てを砕く牙からなるゴライオンの爪がその程度のバリアで防ぎきれるものか!
「エネルギーフィールド出力最大!!」
無駄、無駄、無駄、無駄、無駄なんだよおおおっ!
四倍以上サイズ差を活かし頭上から拳の雨を降らせ続ける。
バリアでダメージを軽減出来ているとはいえ衝撃は相当なものだ。
徐々に気取った装甲がひしゃげていく。
もう一押しだ!
引きと打ち込みのタイミングを狙い両腕を合わせる。
するとたちまち現れる一本の剣。
これこそがこの俺の獅子の牙、十王剣!!
貴様が装備しているその身相応な貧相な剣とは違う王者の剣だ!
この剣を振りおろせば全てが終わる!
だというのにまたしても不測の事態が発生する。
「なんだ貴様、邪魔をするのか!?」
戦闘に伴う轟音を聞きつけてやってきたらしい鎧武者型の機動兵器を俺は睨みつける。
冷静さを欠いていたとはいえ危うく側面を晒しそうになったのはその機体から殺気も敵意も感じられなかったからか。
「ちがーう! だから、その撃たないでください」
いかつい顔の機体に反し、通信より聞こえてきた情けない声からして恐らくそんな度胸はないだろう。
武器を持たない両手を上げてへこへこしている姿が実に滑稽だった。
こんな男を戦化粧までしている今の俺が殺す価値は無い。
「ふん、そうか。なら失せろ!」
「はい」
戦場ですごすごと背を向ける鎧武者。
どうやら予想以上にとんだ馬鹿だったらしい。
亡き友シュランとは大違いだ!
見ているか、シュラン!
俺はお前の望んだように感情のままに生きているぞ!
エーデル准将への愛に燃え!
お前との友情を胸に!
女への憎悪を滾らせて!
「貴様らは屑だ! エーデル様以外の女など死んで当然だ!
だからここで塵へと還れえええええええ!」
俺は十王剣を全力で女ロボに向けて振り下ろした!
ここまで、ですか。
この悪趣味な催しを壊せなかった悔しさはあれど、私は自分でも嫌になるほど冷静に現状を受け入れていました。
最初に出会ったのが話も通じないかなりいっちゃった人だったのが運の尽き、でしょうか。
いえ、そもそも運の尽きというのならもっと前から私は不幸でした。
――今日から私とあなたでダブル不幸を呼ぶ女よ、ルリルリ。
あ、イズミさんは黙っていてください。
流石に今フリーズしちゃったらまずいので。
ですが本当についてないとしか言いようがありません。
義父母であるアキトさん、ユリカさんに続いてついに私まで誘拐されてしまいましたし。
私も色々と誘拐されかねない理由があったのでそこには驚きませんでしたが(許す気はさらさらないですが)。
護衛のサブロウタさんの無事は気になります。
とはいえさらった目的がまさか殺し合いをさせることとは。
シャドウミラーとやらは火星の後継者の残党とは無関係ですか。
彼らならまず間違いなく私を人体実験の材料として使うでしょうし。
それ以前に地球連邦軍という組織自体初耳です。
かくいう私も軍属で少佐ですが、所属しているのは地球“連合”宇宙軍ですし。
うっかりヴィンデルと名乗った人が言い間違えたのだとしても、シャドウミラーという特別任務実行部隊は間違いなく存在していませんでした。
火星の後継者の乱時に統合軍の方から多くの内通者が出たこともあり、連合軍の方の内情も調べ直しました。
間違いありません。
このような事態を起こせるだけの大組織が電脳上に全く情報を残していないはずがないのです。
もっとも砂漠に落とした指輪を探す並の精度を誇る私のシステムハッキング・掌握能力もこの機体では宝の持ち腐れですが。
XAM-007Gフェアリオン。
それが私が今身を預けている機体です。
外見は……なんというか王女様を思わせる縦ロールな女の子です。
かくいう私も実はお姫様だったりするのですが。
機体名といいこれは間違いなく私への当て付けですね。
ただ外見はともかくとして性能自体はかなりのものです。
実際支給されたのがこの機体でなければ私は初撃のミサイルで命を落としていたかもしれません。
エネルギーフィールド発生装置・ミサイルジャマー・ハイパージャマー。
機動力と運動力を底上げしつつも防御面にも隙はないエステバリスといったところでしょうか?
脳波コントロールシステムによりエステバリス同様イメージしただけで動かせるのも私にはありがたいです。
まあそれも使いこなせていればなのですが。
あの日のアキトさんみたいに上手くはいかないものですね。
何度か機動力を活かして逃げようと試みはしましたが襲撃者は山田さん並に煩い割には全く隙がなく敢え無く失敗。
遂には止めを待つだけの身になってしまいました。
そういえば山田さんの名前が名簿にはありましたが、珍しい名前でも無いですし単なる同姓同名でしょう。
「貴様らは屑だ! 女などゴミだ! エーデル様以外の女など死んで当然だ!
だからここで塵へと還れえええええええ!」
星の数ほど人がいて
星の数ほど出会いがあって
星の数ほどの想いがあって
そして……別れ……
今にも迫り来る凶刃を前にいつか口ずさんだ言葉を皮切りに今までの思い出が脳裏を過ぎります。
これが走馬灯というものでしょうか?
始まりはあの水の音で。
施設で過ごした伽藍堂の日々が挿入されて。
ネルガルに引き取られてからの特に面白みのない生活が駆けていって。
そして――
コマ送りのペースが一気に遅くなりました。
それはあのナデシコでの日々。
ユリカさんがVサインをして。
アキトさんがチキンライスを作ってくれて。
山田さんが名前を言い直して。
ジュンさんが報われなくて。
イネスさんが説明しだして。
オモイカネが暴走して。
アキトさんと止めにいって。
メグミさんがおかしな飲み物を作って。
リョーコさんも一緒になってキッチンを壊滅させて。
ヒカルさんが漫画を描いてて。
イズミさんが寒いギャグでみんなを凍らせて。
アキトさんと一緒にピースランドに降り立って。
ミナトさんがルリルリって私を呼んで。
ゴートさんがむっつりしていて。
プロスさんが胃薬を探していて。
ホウメイさんが見守っていてくれて。
館長コンテストに飛び入りして歌を歌って。
白鳥さんが真っ赤に照れていて。
ユキナさんが笑顔で走り回っていて。
アカツキさんが会長さんで。
エリナさんが一苦労していて。
我ながらなんだかアキトさんの比率が多いですね。
アキトさん……迎えに行けなくてごめんなさい。
今度はわたしが置いていく側になっちゃったみたいです。
最後に私が謝った思い出の中のアキトさんはいつの日か墓地であった黒尽くめの姿で。
その姿が突如転じて黒いタキシードを纏った見知らぬ男の人へとなりました。
「え?」
「あー、通信ってこれでいいのか? おいあんた、とっとと逃げろ」
呆然としていたのは何秒位のことだったでしょうか。
走馬灯の海に飲まれていた私はようやく現実に復帰しました。
「貴様ぁっ! 見捨てたのではなかったのか!」
「いやー、すいません。ついつい」
見れば後一寸でフェアリオンに到達していたはずの剣は横合いから伸びた――そう文字通り伸びた剣に絡め取られていました。
それをなしたのは確かにさっき私達に関わらないように去っていったはずの鎧武者でした。
しかもこの鎧武者、フェアリオンの僚機だったのかモニターに形式名称が表示されています。
――DGG-XAM1 Dynamic General Guardian
「ダイナミック・ゼネラル・ガーディ、アン?」
「ダン、だ。そして俺はヴァン。人呼んで」
ヴァンさんが伸ばしていた剣で十王剣を弾きながらテンガロンハットの片側にある輪に指を通して反対側に回して名乗ります。
「夜明けのヴァンだ!」
「ついつい、だと? 貴様、ふざけているのか!」
ふざけちゃなんかいない。
女を助けちまったのは本当についついだった。
けれどこの場に引返してきたのはついなんかじゃない。
どうしても聞き捨てならない言葉をこいつが言いやがったからだ。
「なああんた。本気で女を好きになったことないだろ?」
女はゴミだと、女は屑だとこいつは言いやがったのだ。
気に入らねえ。その考え方が何よりも気に入らねえ!
「好きだと? この俺のエーデル准将への想いは愛だああ!」
「そうかい。だったらそいつも大した女じゃねえってことだな」
俺は生まれた時から一人だった。
親が誰なのか、どうなったのか知らない。
食べることだけ考えていて、それには金と力さえあれば良かった。
世界は俺にとって単純にできていた。
その世界をあいつは、エレナは変えてくれた。
あいつにとって俺は単なる仕事仲間のはずだった。
だがあいつは俺に……優しくしてくれたんだ。手を握ってくれたんだ。
俺はそれまでの自分が非道く惨めに思えて。
あいつのことを好きになった。
あいつのおかげでガドヴェドのことも、いや、人間そのものも嫌いじゃなくなった。
エレナは、それくらいにいい女だったんだ!
「貴様、貴様、貴様あああ! 気高くも美しいエーデル准将を愚弄するかあああ!」
「ああ、するね! 人一人の女嫌いもなおせないような女なんざとは違う本物を知ってるんでな!」
女嫌いどころか人間嫌いをもふっとばしちまうようなそんな、そんな、俺の大好きな女だった!
それを、あいつは奪った!
カギ爪の男は、俺からエレナを、やっと見つけた俺の一番大切な人を奪った!
そしてあのもじゃもじゃ頭はエレナが俺に命がけで残してくれたダンを奪った!
死にゆく俺を助けるために、あいつは致命傷を負ったまま俺を改造しダンの生命維持装置に適合させてくれたんだ。
俺にじゃなく、自分に施していれば助かったかもしれないのに。
……俺は自分よりもエレナに生きていて欲しかったのだろうか?
違う。
俺は、俺はエレナと共に生きたかったんだ!
「許さんぞ、貴様っ!! 女と共に貴様も八つ裂きにしてくれる!」
許さない?
そうだ、俺は絶対に許さない。
俺からエレナを奪ったカギ爪の男を!
俺からエレナの残したダンまで奪おうとするもじゃもじゃ頭も!
エレナを死んで当然だと言ったこの男も!
「いいぜ、てめえら即効片づけて、カギ爪野郎をぶった斬る!!」
全部、全部、全部、この手で必ずぶち殺す!
【ヴァン 搭乗機体:ダイゼンガー(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:良好
機体状況:斬艦刀verダンの太刀、ガーディアンソード
現在位置:C-5 平原
第一行動方針:エレナの仇、カギ爪野郎をぶっ殺す!あん、未参加?知るかあ!
第二行動方針:ダンを取り戻す。もじゃもじゃ頭、死ねぇええぇえぇっ!
第三行動方針:ライオン野郎をとっとと片づける。
最終行動方針:エレナ……。カギ爪えええええええええええッ!
備考:斬艦刀を使い慣れたダンの太刀、ヴァンの蛮刀に変形できます。
十四話直後からの参戦です】
【ホシノルリ(劇場版) 搭乗機体:フェアリオンGシャイン王女機(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:良好
機体状況:アサルトブレード装備、中破、EN消費(中)、エネルギーフィールド発生装置負荷大
現在位置:C-5 平原
第一行動方針:この窮地を脱する
第二行動方針:自身のハッキング能力を活かせれる機体を見つけたい
最終行動方針:シャドウミラーを打倒する
備考:ヤマダ・ジロウ(ガイ)は同姓同名の別人だと思っています】
【レーベン・ゲネラール 搭乗機体:ゴライオン(百獣王ゴライオン)
パイロット状況:戦意高揚(戦化粧済み)
機体状況:十王剣なし(近くに落ちています)
現在位置:C-5 平原
第一行動方針:エーデル准将を愚弄した男を殺す
第二行動方針:女、女、女、死ねええええええ!
第三行動方針:ジ・エーデル・ベルナルについての情報を集める
最終行動方針:エーデル准将と亡き友シュランの為戦う
備考:第59話 『黒の世界』にてシュラン死亡、レーベン生存状況からの参戦】
【一日目 6:40】
最終更新:2013年12月07日 00:58