紅ノ牙 ◆0cm..EdqyM
見渡す限り大小の岩山が広がる荒野、その茶色に染まった大地を異彩を放つように蒼く染まった
パーソナルトルーパー、ゲシュペンストMk―2・Sは走っていた。
ゲシュペンスト――シャープで力強いボディーでありながらその丸みを帯びた頭部からくる愛らし
さは芸術のデザインといっても過言はない。
だが、機体を動かす操縦者、紅エイジは中で芸術とは程遠い愚痴を一人延々とこぼし続けていた。
「あ~あ……なんだって人間同士の殺し合いなんかに巻き込まれてんだろう」
エイジはこの謎の殺し合いに巻き込まれる前までグランナイツの一員として外宇宙から現れた正体
不明の機械、ゼラバイアから日夜地球を守る生活を送っていた。
人間同士での殺し合いをした事のないエイジにとって、ワカメヘアーの男から突然押し付けられた
『みんなで殺し合いをしろ』という命令は当然ながら受け入れられるものではなかった。
「ほんと、災難だよな~。殺し合いなんてやってられねえっての」
今日何度目になるか分からない大きなため息をつく。
この会場に飛ばされてすぐの頃、機体操縦のマニュアルを読むと共にどうすればふざけた殺し合い
を止める事ができるかは考えた。だが自分の頭では話してダメなら力ずくで止める事しか浮かばない。
けれどもそれでは根本的な解決には結び付かない。
では、どうすればいいか━━
会場に大勢の人がいた事を思い出す。あれだけの数がいたのだ、誰か一人くらいは妙案が思い浮かぶはずだ。
エイジは彼らの知恵を信じて今の自分ができること、即ち仲間を沢山探す事にした。
こうして仲間を求めつつ10分ほど南西に走り続けたが、人っ子一人どころか生き物の気配一つすら
見当たらず、その結果が先程からの愚痴の繰り返しに至ったわけである。
「あー、もうどうなってんだ!アヤカや斗牙達が巻き込まれていないのはよかったけど、どうして
この辺りには誰もいないんだよ…って、あれは…?」
愚痴を言いながらも周囲を見回していたエイジは西の方角から一振りの刀を差した紅色の機体が
東の方へ向かっていくのをしっかりと捉える。
「おーい、あんた!参加者か~?」
エイジは機体を走らせるのを止め、スピーカーをオープンにしてゲシュペンストの両手を大きく振
り回す。相手もそれに気付いたのか東に向かうのを止めこちらの方に近寄ってくる。
「如何にも」
剣士風味の機体からは渋いトーンの声が返ってくる。
「俺は紅エイジ、エイジって言うんだ。あんたはなんていうんだ?」
どうやら話はできそうだと思い、エイジは気軽に自己紹介を続ける事にする。
「我が名はウォーダン……
ウォーダン・ユミル!メイガスを守る剣なり!!」
「へっ……?メイガスを……まもる……つるぎ?」
自己紹介をしよう……そう思った直後に突然発せられた謎の言葉にエイジは思わずすっ頓狂な声をあげてしまう。
しかし眼前の機体はそんなエイジの声を無視するかのように刀を抜きこちらへと突き出す。
「お互い名乗りは挙げた。では、いざ尋常に勝負参る!」
「…………はあっ!?」
先程の謎の言葉にまだ困惑していた相手の切り替えの早さと突然の宣言にますます混乱する。
「ちょっ……ちょっと待て!俺は殺し合いなんかする気ないんだ!!まずは話を――」
まだ人間同士の殺し合いをする心構えができていなかったエイジは慌てて機体の右手で拒絶のジェ
スチャーを取り、会話をしようと試みるが、言い終わる前にウォーダンは大声を挙げ遮ってくる。
「話など必要ない!貴様には戦う意志がなくとも我にはあり」
言い切るや否や紅の機体は刀を両手で携える。
どうにか止められないかとエイジはしばらく説得を重ねるがウォーダンは沈黙を続けたまま一歩も
動かない。どうやら全く聞く耳を持ちそうにない。
ならば腹を括るしかない。エイジは生き延びる為にウォーダンと戦う事を決断する。
「分かった、やってやるよ。ただし最初に言っておく。俺はかーなーり強い」
エイジのその言葉を待っていたかのようにウォーダンも返事を返す。
「ではいざ勝負!」
――かくしてエイジにとっては望まぬべき、ウォーダンにとっては望んだ戦いが幕を開ける。
最初に仕掛けたのは紅の機体の方であった。
両手で握った刀を正眼に構え疾風のような速度で突撃してくる。
(……速いっ!?グランカイザーとは比べ物にならない!だがこの距離なら!!)
ゲシュペンストを上空に跳躍させることで避ける。
(…こっちもネオ・プラズマカッターで対処だ。)
左腕に収納されたカッターを抜きとろうと一瞬目を離す。
だが紅の機体は空中で身動きが鈍くなったゲシュペンストの隙を見逃すことなく跳躍し、すかさず
距離を縮める。
その方向は左腕の収納ラックに手を伸ばした機体の右腕を正確に見定め、電光石火の勢いで刀を
振り降ろし、そして――切り裂く。
「しまっ…」
エイジが気付いた時には何もかも遅く、ゲシュペンストは右腕を失っていた。だが、敵機の勢いは
まだ衰えない。ゲシュペンストはそのまま体当たりを浴びせられて後方へ大きく弾き飛ばされていた。
(マズった……!右腕がなければ武装のほとんどが使えない……!片腕だけで戦えるのか?
それにあの機体の速さ、乗り手の技量、斬撃の威力……ゼラバイアとは全く比べ物にならねえ……)
油断――普段はグランカイザーを操縦しないエイジにとって戦闘における判断力の弱さこそが
最大の弱点であり、それがここぞという生死の境目において姿を見せた形であった。
「ちくしょうっ!スプリットミサイルだ!!」
自分のミスで右腕を失った事は痛い。しかし相手よりも体勢を立て直したのは僅かに速い。
ならば、その隙を突いて相手を崩すまでだ。
紅の機体目掛け発射したスプリットミサイルは全弾命中するかに見えたが――そこで目を疑うことが起きた。
「――切り払われている!?」
そう、ウォーダンはミサイルの方角に切っ先を向けると機動性を活かした回避と切り払いにより
一発も本体に被弾する事なくしのぎきったのだ。
(化け物かよっ。斗牙より強いんじゃねえのか?)
小言をこぼしながらもエイジはチャンスを伺う。これならどうだ?接近する相手に対し胸部から
必殺の一撃、メガ・ブラスターキャノンを放つ。
命中に成功。敵は大量の放射線を浴び後ろへと後退する。だが、対ビーム装甲にでも覆われている
のか損傷を受けた様子がない。
(装甲まで堅いのかよ…。全く厄介な相手だぜ)
舌打ちしながらもなんとか逆転の一手を考える。
「あいつの刀をなんとかしないと……」
敵の攻撃は全てあの刀から繰り出される。ならば刀を封じればゲシュペンストの装甲で五分五分に
持ち込めるかもしれない。そう考えて武装を見渡す。
今、残された攻撃手段はミサイルと胸部のキャノン。左腕による打撃。それに奥の手が一つ。
右腕一つ失っただけで随分頼りない。その上スプリットミサイルでは相手を捉えられない。メガ・
ブラスターキャノンは堅い装甲に阻まれて全く通用しなかった。左腕一本では止められないだろう。
「奥の手を叩き込むしかないのか……?」
しかし、あの技を当てるにしても刀によるリーチの差が厄介だ。
どうにかして刀を取っ払う手段を模索する。そして――
(一つだけ浮かんだぜ……。一か八かの賭けだがな。)
エイジは覚悟を決め接近してくるウォーダンに対し、スプリットミサイルを放つ。
ウォーダンは先程と同じようにミサイルを切り払いながら徐々にこちらへと迫ってくる。
(まだだ……。まだ焦るんじゃない……!)
心の中で言い聞かせ、ありったけのスプリットミサイルをとにかく発射し続ける。
やがてミサイルの雨が煙幕のように紅の機体を包み始め、周囲の景色は白いもやへと変わってゆく。
「今だっ!!」
ゲシュペンストはもやの中で切り払い続ける敵機を発見すると左腕を突き出し音速の勢いで駆ける。
しかしウォーダンはミサイルを全て切り払うと即座にレーダーの反応を頼りにゲシュペンストの
方へと向き直り、刀を振り上げ全てを両断する構えを見せる。
左腕を突き出して近付く蒼の機体に対して一閃する間合いを測る紅の機体。
戦場において長いようで短い時が流れる。
そして紅と蒼の機体が交錯したとほぼ同時に周辺の煙幕が晴れてゆき、視界が開けたウォーダンの
モニターには――刀の根元が突き出した左腕に食い込んだゲシュペンストの姿が映っていた。
ゲシュペンストの左腕の手先はグチャグチャに切り裂かれていたが根本で抑える事で力を込めても
なかなか先に進まないギリギリのところで食い止められていた。
刀の特性を理解した素晴らしい飛び込みといえるだろう。
先程のミサイルの弾幕も懐に飛び込み刀を抑える隙を作る為の作戦だったのか。
ウォーダンはエイジの作戦に感心するもこのまま一気に押し切ろうとする。
だが、エイジの作戦はこれだけでは終わらない。
「待っていたぜ、この瞬間を!!メガ・ブラスターキャノンッ!!」
胸部から発射口が開き、巨大な放射線が左腕を切り裂き続ける刀を狙う。
対ビーム装甲に覆われた両腕とは反対に刀は放射線の波に飲み込まれ遥か彼方へと弾き飛ばされる。
「貴様!我が剣を狙っていたのか!!」
「ああ、そうだぜ。本当は折ろうと思ったんだがな。」
ウォーダンの呼び掛けに対してエイジは憎たらしげに答える。
心臓に悪い賭けだったが上手く決まってよかった。相手の方を見つめる。
これでやっと刀が奪えた。ゲシュペンストの左腕は先程の交錯の影響か一切動かない。
だが奴にとどめを刺すチャンスは今しかない。
「はあああああっ!!」
エイジはゲシュペンストの残された全ての力を両足に回す。
相手は武装をなくし覚悟を決めたのかその場から動かない。
(なにが来ようともあとはこいつの装甲を信じるだけだ――)
ゲシュペンストを大空高くへ舞い上がる。敵を照準に捉え、ブースターを噴射。一気に加速する。
全てに決着をつけるべく右脚に全神経を集中させ、すさまじい速度で下降を始める。
「食らえっ!!」
これが――
「究極!」
俺の――
「ゲシュペンスト!」
一撃だ――
「キィィィック!!」
爆発と轟音が煌めき響き渡り、そこに立っていたのは――
――紅の機体、アストレイ レッドフレームであった
エイジの一撃はウォーダンには届かなかった。
レッドフレームはゲシュペンストが加速すると同時に腰のビームサーベルを抜き放ち、
リーチの差を活かして先に渾身の一撃を加えたのである。
死力を尽くしたゲシュペンストはレッドフレームのもう一つの剣に耐え切れず、
無残にも横薙ぎにされ爆発を起こす。
タナトスの呼び声は最後までエイジの耳元から離れることはなかった。
【紅エイジ 搭乗機体:ゲシュペンストMk―Ⅱ・S(スーパーロボット大戦OG2)
パイロット状況:死亡
機体状況:大破】
ゲシュペンストの大破を確認したウォーダンはガーベラ・ストレートを拾いに行く。
刃こぼれがないか見つめるが傷一つ見当たらない。素晴らしい刀だ。輝きを放つ銘刀を腰に差す。
そしてもう一度鉄屑となった青き幽霊の方に目をやる。
戦いは元の世界でゲシュペンストの動きを知り尽くした自分が圧倒的優位に立っていた。
そんな自分に対し、相手が両腕を失ってまで賭けたであろう策略は見事としか言い様がない。
「紅エイジ…いい勝負であった」
ウォーダンは好敵手との別れを告げ、残骸に背を向け機体を走らせる。
彼は走らなければならない。そう。彼には休む暇は許されないからだ。
マスターの一人、ヴィンデル・マウザーの命に従うロボットとして――
【ウォーダン・ユミル 搭乗機体:アストレイレッドフレーム(機動戦士ガンダムSEED ASTRAY)
パイロット状況:良好
機体状況:フライトユニット装備、ビームコート装備、損傷軽微、EN消費小
第一行動方針:ヴィンデルの命令に従う
第二行動方針:次の戦闘相手を求める
現在地:E-5
最終行動方針:ヴィンデルの命令に従い優勝を目指す
備考:ヴィンデルを主人と認識しています。】
【一日目 6:45】
| 登場キャラ |
NEXT |
| 紅エイジ |
|
| ウォーダン・ユミル |
055:世界~じぶん~ |
最終更新:2010年02月21日 17:38