希望の灯は消さない ◆8sC8I0OGaw


朝。
空は漆黒から青々とした色に変わり太陽が控え目にその顔を覗かせる。
まだ朧げなその陽光もやがて燦々と地上全体を照らすものになるだろう。
それは一日の始まりを実感できる指標。ある者には英気と活力を、またある者には虚脱と疲労を。
そしてある少年には言い知れぬ不快さを与えていた。
C-3。鬱蒼と木々が生い茂る森の外れ。
見通しが悪く周囲がほの暗い闇に包まれたそこにうらやかな木漏れ日が二つの存在を照らし出す。
コロニー『フロンティアⅣ』フロンティア総合学園工業学科に通う高校生シーブック・アノー。
そして彼の傍らで静かに佇む人型兵器オーバーマンキングゲイナー。丸みを帯びた華奢なシルエット。白と青を基調としたカラーリング。髪の毛ようなものを生やした頭部。
それはどこか本物の生き物のような雰囲気を醸し出していた。


喧騒のない静寂の世界に暖かな風が吹き抜ける。
草木が揺れ、柔わらかい感触がその少年の頬を優しく撫でた。
今だ夜の残滓が残る森林を背後に端正な顔立ちをした少年---シーブックは今現在何か行動をするわけでもなく、ただただ虚空を陰欝な表情で眺めていた。 その姿はさながら迷子になり途方にくれる子供そのもの。
でもそうなるのを誰が責めようか。
彼と同じ状況に立ったらきっと誰もが一度は思いこう言うだろう---

「夢でも見てるのか、僕は……」
それもとびっきりのたちの悪い夢--ー悪夢。




唐突の目覚め。見覚えのない場所。多くの知らない人、人、人。
一体何が起きたのか?
まるで訳がわからない。ひたすら疑問と困惑とがシーブックの頭を占める。
住んでいるコロニーが突然テロリストの襲撃に合い自分は妹のリィズや友達のセシリー達と避難しようとしていたはずだった。
その矢先に起きたこの異常事態。いや、元々の異常事態にさらなる異常事態が上塗りされたと言った方が正しいかもしれない。
とにかく目まぐるしく推移する非常識な状況に芯は多少強くともただの高校生であるシーブックの心中はもうパンク寸前だった。
しかし落ち着く暇もなくさらなる追い撃ちをかけるように驚愕の言葉の数々が彼の脳髄に直撃する。


バトルロワイアル---殺し合い。説明。そして強要。

既に理解の範疇を越えていた。


だが本当の悪夢はここからだった--


殺し合え……もし一方的にそう告げられれば人間どのような反応をとるか。
冗談?驚愕?憤怒?絶望?憎悪?恐怖?悲嘆?号泣?諦念?

その数多の選択をそれぞれが選んでいく中、ポンっという破裂音を発して吹き飛んでいく人の頭。後には見るも無惨に血溜まりに沈んでいく人間だったもの---


目を疑う衝撃……数瞬遅れてつんざく怒号と悲鳴。にも関わらず何事もなかったように続くどこまでも事務的な説明……


そして気が付けば見た事もない機体に乗りこの場所に飛ばされていた。
呆然自失とはこういう事を言うのだろう。
全く事態が呑み込めないでいるシーブックはひとまず落ち着こうと外の空気を求めてコックピットを出ようとして---
しかし出方がわからず何とはなしに視線をさまよわせていると、
ぽつんと置かれている食料と名簿に何かのビデオテープ、そして機体のマニュアルに気づく。
その中からマニュアルを手に取ると軽く流し読みする。
それだけでこの機体が未知の技術と自身の預かり知らないパーツで造られている事がわかった。

(同じ人型でも、僕の知っている物とはこうも違うのか。それに……いや、きっと気のせいだ……)

何とか手早く機体の構造だけは理解する事ができたシーブックは少し逡巡した後名簿に手を伸ばし脇に抱えると腹部に当たるチャックを開けて外に出た。


それから何かするわけでもなくただ時間だけが過ぎた……


夢。これは悪夢。そんなたちの悪いものを今も見ている。むしろ、そうでありたかった。そう願いたかった。
だけどその全てを冷えてきた頭が頑なに否定した。

わかりたくないだけでシーブック・アノーは無意識の内にわかってしまっていた。


今瞳に映る青空が、あの嘔吐を催す光景が、この無機質な首輪の感触が、
あまりにも普通で、あまりにも鮮明で、あまりにもリアルで、
これが最悪でくそったれの現実だと---

「……クソッ」

思わずらしくない悪態をついてしまうシーブック。 平和な世界で物騒事とは無縁の日常を謳歌しているはずだった。
その平穏が何の前触れもなく崩壊してまた新たな凄惨な現実が彼の目の前に提示される。
心も身体もまだ成熟段階の少年にとってそれはとても辛く苛酷なものだった。

「……セシリー……リィズ……父さん……みんな……」

無事に避難することはできたんだろうか?
不幸中の幸いかシーブックにとっての縁がある人物の名前は誰一人名簿には記されていなかった。
それでも彼の気は晴れることはない。現在もあの渦中の中で危機的状況に立たされて、すぐにでも助けを求めていないとも限らないのだから。
それなのに自分は近くにいてやることも守ってやることもできない……
そんな自身の不甲斐なさに苛立ちと憤りを感じながらも今は無事を祈り信じることしかシーブックにはできなかった。

……そしてそこで一旦思考のネジを締め直し意識をふたたび自身の置かれている状況に傾ける。


今だ現実味が薄く実感が湧かなくとも認識しなくてはならない。
『バトルロワイアル』殺し合い。つまり血で血を洗う命の奪い合い。
目的も理由も一切わからない。ただわかるのはその盤上の駒として否応なく巻き込まれたということ。
そしてそれを有無を言わせず強制できる圧倒的な力があのヴィンデルという男にあるということ。

「……」

日に照らされ不気味な光沢を放つ首輪にそっと手を当てるシーブック。
思い出すのはあの呪いのような光景。
この拘束具が絶対的な物であり自分達に反逆が許されないと認識させるためには十分なものだった。
……でもだからって言う通りに従って殺しをする?

確かに死にたくなんてあるわけないし、何よりシーブックには帰らなければいけない所があった。

……でもそのために最後の一人になるまで殺し合いをする?

恐怖が、不安が、諦観が絶望感があらゆる負の感情がシーブックの全身に絡みつく。……だがそれを吹き飛ばす純然たる怒りが心の底からせりあがってきた。

「ッ……受けいれられるわけないじゃないか、そんな事!」

そう、そんなものは守る戦いですらないただの無意味な殺戮だ。
殺すのも殺されるのも、ましてやそれを見過ごすということは心優しい少年であるシーブックにはできるわけがなかった。

「でも、どうする。…どうすりゃいい僕は!」

自分は少し機械に知識があるだけの普通の高校生なのだ。
感情ばかりが先行してこれからどうすればいいのか、何ができるのか、そういった明確なビジョンが何一つ浮かんでこなかった。
それでもシーブックは必死になって考える。考えて---

そんな時だった声が聞こえたのは。

「危険だぞ。周囲の警戒を怠り、立ち止まっていては」




木立を縫うようにしっかりとした足取りで歩を進める一人の男がいた。
青いコートに、顔には深い傷跡、そして特徴的なもみあげをしたその男の名はジャミル・ニートといった。
15年前、地球と人類を滅びしかけた大戦争の中その類い稀なる才能と他を寄せ付けない圧倒的な戦績により兵士からは英雄と呼ばれ、また自らが世界崩壊の銃爪を引いてしまったパイロットでもあった。その彼もこの凄惨な殺し合いに参加させられていた。

過去の過ち。トラウマ。新たな仲間達との旅。ある少年と少女との出会い。かつて恋した女性との再開と別れ。亡霊との邂逅。悲劇の被害者。旧敵。ある言葉に縛られた者達により始まった8度目となる大戦争。それを望み全てを滅ぼそうとしたある兄弟……そしてある一つの答え。
様々な事があった。その過程で男は成長し感化されついに求めていたものへと辿りつき過去を振り切った。
そうして男はようやく未来を歩き出す。最高のパートナーを得てやるべき事のために向かって尽力するために。……しかし今はその一切を隅に置き男には新たにやらなければいけない事ができてしまった。


数分前---


ジャミルは自身に支給された機体に若干の衝撃を受けつつも各チェックを程々に、ここに転送された直後から今までレーダーの範囲内にいる動きを見せない機影にどう対処すべきか思案していた。

(……相手は気付いていないのか? いや、だがこの距離……だとすれば、罠か?)

先程から接触しようとも逃げようともする気配も見せず、その場で停止したまま動こうとしない存在に百戦練磨のジャミルといえどいささかの困惑を禁じ得なかった。それにもう一つ気になる事があった。
運がいいのか彼に支給された物は機体だけではなかった。
それは首輪探知器。効果範囲は機体のレーダーよりさらに広範囲に及び文字通り首輪の位置を詳細に表示する機械だ。
その首輪を示す位置と機体の位置にほんの僅かな差異がある。
つまりパイロットが機体に搭乗していないのだ。

(誘っているにしてはあまりに無用心だな。……やはり明らさまが過ぎる……)

だとすれば……ジャミルの脳裏にティファのような力のない者達の姿が浮かぶ。

(もしそうなら、このまま接触すれば無用な誤解を生む可能性があるか。……用心に越したことはないが、確認はしておいて間違いはないだろう)

ジャミルはひとまず機体を手近な場所まで移動させると、淀みのない手つきで端末を操作しコックピットハッチを開けて地上に降りる。
そうして今だ動かない光点の地点に向かって歩きはじめた---


(やはり、動きはない…か)

歩きながら常に探知器の表示に気を配っているが今だ位置を示す表示に変化はない。
恐らく、この反応の主は今だ事態が呑み込めず途方にくれ周りが見えていない者か、術すらもたず恐怖に震えひたすらに助けを求めている者か、そのどちらかとジャミルは様々な判断材料から半ば確信していた。
だからこそそんな精神状態が不安定な者に対して機体での接触は余計な負荷をかけかねない。錯乱し予想もつかない行為に及ぶ危惧もある。
勿論そうでない可能性も十二分にある。故に確認といえど油断はできない。この状況下生身を晒すというのはそれこそ自殺行為にも等しいのだから。


やがてその地点が肉眼で確認できる辺りまで来たジャミルは木陰に半身を隠し鋭い視線で観察を行う。

まず視界に映ったのは支給日であろう人型兵器だった。MSとは違い生物をより意識した外見に見受けられた。それから視線を僅かに横にずらすと一人の少年が悲痛な表情で空を仰いで何かを呟いていた。
ここからではよく聞き取れないが、その表情からある程度は予測できる。

(……)

ちくりと胸を過ぎる痛み。ジャミルの顔に陰が射し込んだ。
あの会場には多くの少年少女がいた。その中には逞しく勇ましい者もいるかもしれない。だが人間全員がそうであるはずないのだ。
繊細で気弱で直前まで何事もなく平穏の日常の中にいた者が、この地獄の箱庭にいきなり放り込まれたとすればどうなるかそれは想像に難くない。
しかし頭で理解していても実際わからないものだ。 今視線の先で悲嘆に暮れている者を目にしないとこの胸の痛みが。
故に改めてジャミルは決意する。
殺し合いの根本的な歯車自体を止める事も大事だが尊く儚い命が理不尽に蹂躙されていくのもまたさせるわけにはいけない。
手が届かない命も、助けられない命もあるかもしれない。
でも、ジャミル・ニートは諦めない。懸命に前を見据え走り続けてきたあの少年のように。
これがそのまず第一歩だ。

(未来の灯りは消させはしないぞ、ヴィンデル・マウザー!)

そう胸に秘めジャミルは少年の元へ歩いていく。
その時だった。

「ッ……受けいれられるわけないじゃないか、そんな事!」

ピタっと止まる足。
少年の突然の大声にジャミルは目を細めた。

「でも、どうする。……どうすりゃいい僕は!」

ジャミルは少年のその必死の心からの訴えを聞いて一つ思い違いをしていた事を知った。やはり切り離せない焦りがあったからかもしれない。

(……なるほど)

ただ立ち止まっているわけではなかった。ただ怯えているわけではなかった。ただ待っているわけではなかった。少年もまた戦おうとしている。ただ踏み出せないだけ。
視線の先で何かを模索するようにひたすら考え込むその姿は、強敵に完膚なきまでに敗北を喫して大事な者を奪われてしまい道に迷ってしまったかつての少年の姿とどこかダブって見えた。
ならば大人である自分がすべき事はただ一つ。

(背中を押してやればいい。多少、強引にでも)

そしてジャミルは少年に声をかけた。




突然の声にシーブックはビクンと肩を跳ね上げた。 弾かれたように顔を上げるとそこには背の高い男が立っていた。
見知らない参加者との初めての接触に彼の心臓の鼓動は嫌でもテンポアップしていく。
加えて一瞬前まで思考に没頭していたのだ。思わず取り乱しそうになるシーブックだったがその動揺を必死に抑え口を開く。

「……あなたは?」
「私はジャミル・ニート。無論、殺し合いには乗っていない」
「……」

鷹のような鋭い視線に威圧感を感じながらシーブックは咄嗟に動けるように僅かに腰を落とし、半歩下がった。そして警戒の視線はそのままに男の言葉を吟味していく。

「信じられないか?」

殺し合いに乗っていない。つまりするつもりはないということ。もしその逆だった場合そんな人がわざわざ声をかけてくるだろうか?
事実、彼は殺し合いに積極的な人物には隙だらけの恰好の獲物であり問答無用で殺されても文句は言えない状態だった。
何より支給日で配られているであろう機体に降りてまで接触するメリットは殺し合いに乗った者には皆無に近い。
だからこそ説得力があった---

この異常の真っ只中にいるためか必要以上に疑り深くなってしまっている自分に心痛めながらシーブックは警戒を解いた。

「…いえ、信じます。何かすいません」

頭を下げるその姿はどこまでも心優しい普通の少年であった。
少なくともジャミルの目にはそう映った。だが確かに揺れる瞳の奥で熱い激情を秘めている事も見て取れた。

「いや、こちらこそ信用してくれた事を感謝する。--君の名前を教えてくれるか?」
「…あ…えっと、シーブックです。シーブック・アノーって言います」

忘れていたように慌てて答えるシーブック。
その表情にはいつもの彼らしい爽やかな色が戻りつつあった。
恐怖と不安の状況化で一人というのは何時だって心細いものである。
それが少し厳つい顔をした男であろうと気を許した者がいるといないとではまた安心感が違うだろう。
もっともそれだけでは彼の逆巻く心に完全な歯止めとはなりえない。
だからそのための一石をこれからジャミルは投じていく。

「そうか。…ではシーブック、君に一つ質問してもかまわないか?」
「…なんでしょう? 僕で答えられることなら答えますよ」

深く考えずシーブックはその質問を待った。

「では単刀直入に聞くが君はこのバトルロワイアル--殺し合いについてどう考える?」

--ドクン、と心臓が大きく脈打ったのを感じた。

「……どう…ですか?」 「難しく考えず君の思っているままの事を、素直に口にしてくれればいい」 「……」

一時的な安堵で隅に追いやられていた感情が再びシーブックの鎌首にもたげる。

「……許容とか納得以前の問題ですよ、こんな人の命を弄ぶようなこと……」

ジャミルから視線を外して顔を俯かせるシーブックの眉間に苦悩の皺が刻まれた。

(それがわかってても僕には……)

奥噛みするシーブックに ジャミルはさらに問い掛ける。

「では、どうする?君は」
「……どうするったって…どうにもできませんよ、僕には……」

無力感が空虚感がまるで叱責するように全身に絡み付きシーブックの心を締め上げていく。
僅かに視線を上げた先で深い奥底を見透かすような瞳が彼をじっと見据えていた。

「君はためしたのか?」 「……え?」

何を、と疑問をぶつけるようにシーブックは顔を上げた。

「悩む前に動いたのか?」
「…動く?……どう動けってんです?」

答えを懇願するように、深海の底からはい上がるようにシーブックの心は足掻きさ迷う。

だがジャミルはまだ救う手を伸ばさない。

「それは君が一番よくわかっているのではないか?」

分からない、全然わからない、僕は……虚空を泳ぐ視線。
泳いで……もがいて、また泳いで、その時視界の端に一つの存在を捉える。 そこに顔を向けると青い巨人が悠然と彼を見下ろしていた。
まるで彼を待ち焦がれているかのようにじっとそこに威風堂々と。
確かにいたのだ思いを具現化できる存在が。
知らない機体? 未知の機体? 普通の高校生? 何もできない?そんなもの関係ない。
機体を見つめ続けるシーブックの瞳にやがて熱が戻りはじめる。

(……そうだ。…僕はまだ何もしちゃいない)

勝手に決め付けて、やる前から諦めて---でも、

「でも、僕にやれる、やれるのか?」

見上げたジャミルにもまたその機体が彼を待っているように見えた。

「やってみる価値はあるだろう。君がそれを望むなら」

そしてジャミルは視線を再びシーブックに向ける。 澄み切った空気を吸い込み目一杯背中を押すための言葉を集束して肺から一息に解き放つ。

「君が願う道…そこに向かって何も考えずに走れ!シーブック・アノー!」
「…!?」

動かなくては何もはじまらない。思ってもためさなければ何も為せない。確かに踏み出す勇気はいるかもしれない。だがそこに強い力はいらない。

ジャミルの言葉が遥か前方を照らし彼の心の鬱積を奔流となって押し流す。

だが、だがまだ少し足らない。

「…僕のちっぽけの力でも繋がるんでしょうか。…この惨劇を止めるためのものに」
「…全てを一人で背負い込む必要はない。そのために私のような大人や仲間がいる」
「……仲間…ですか?」 「殺し合いを止めようとする勇気ある者は必ずいるはずだ。だから君は出来ることをしたらいい。私はそれを全力でフォローするだけだ」

たとえちっぽくともがむしゃらに前に進もうとする力強い心が思いと思いを繋ぎ未来を紡いでいく。
それをジャミルは知っている。

シーブックはジャミルの言葉を深く噛み締めるように目をつぶった。

--しばしの静寂。

いつの間にか巻き込まれた殺し合い。恐怖し絶望しでもそれ以上に憤怒した。
「…もう一度聞こう」

そんな事はしたくない、させたくない、そう思ったでも自分に何ができるんだと答えはでなかった。

「…君はどうする?」

いいや、最初から答えはあった。ただ進もうとしなかった。勝手に思い込んで逃げようとしていただけ。

「この殺し合いをどうする?」

そう、深く考える必要も悩む必要もなかった。
死んでからまた考えてもやり直しはきかない。後悔なんてしたくない。
自分でも何かできる力があると信じてただやるだけだ!

(……みんな、帰るのちょっと遅くなるけど、怒らないでくれよ?)

--心は決まった。

シーブックは決然と目を開く。
そしてただそこに思いの全てを凝縮して言った。

「させませんよ」

その強固な意思を称えた瞳を前にジャミルは微笑む。
もう余計な言葉は必要なかった。だからそれだけ呟く。

「そうか」

そしてすぐに意識をこれからの事に切り替える。
覚悟はしていたが随分と話し込んでしまっていた。 探知器の範囲内に今だ他の反応はないがいつ殺し合いに乗った危険人物が接近して来るとも限らない。
咄嗟の時のために早急に 機体を取りに戻っておいた方がいいだろう。
それまでに彼に少しでも機体に慣れてもらっておき再びここに戻った後情報交換を行い……そこからは彼次第だが。

(…シーブックの機体はMSとは違う。私でうまくアドバイス出来ればいいが…)

その事が少し歯痒くあったが同時に彼が必ずやれるとジャミルは信じていた。 だが時間は多少かかるだろう。またそれをただ待っているというのも悔しい事だができない。
そこまで考えてジャミルはひとまずこれからの事を彼に伝えた。だが--

「それなら、こいつで僕がジャミルさんをそこまで運びますよ。そっちの方が時間短縮になりますし」

あっけらかんと自身の機体に視線を向けたまま答えるシーブック。

「いや、しかし--」
「やってみせますよ。そのための決意はもう済ませました」

彼の心中を察したように被せられた力強い言葉にジャミルはここにきて初めて驚きの顔を浮かべる。
その有無を言わせない説得力のある表情はもう立派な大人のそれだった。

(…ガロードといい、ついつい会う少年には驚かされてしまうな…)

内心頭が下がる思いでジャミルは答える。

「では、頼めるか?」
「…ええ、じゃあ早速動きしょう」

二人は頷き合うと、ここにきてから今まで待ちぼうけを食らっていたキングゲイナーの元に歩み寄った。




「…そういえば、ジャミルさんに支給された機体も人の形を?」

ピクっと数瞬、ジャミルの眉の角度が上がった。加えて微かな胸の動悸を感じた。
何でもない質問にそんな反応をしてしまう自身に苦笑しながらジャミルは静かに頷いた。

「ああ、君のとは大分違いがあるが」

どこか遠い目をするジャミルにシーブックは不思議そうに首を傾ける。

「何と言ったかな--」

その名は点と点を繋ぎ一つの螺旋を描くもの。

ジャミル・ニートの世界では人類史上最悪の悲劇を産み落としそしてシーブック・アノーの世界では数々の畏怖と伝説と奇跡を紡いできたそれもまた断片の結晶の一つ。

その名は---


「クロスボーンガンダムX1」



【ジャミル・ニート 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーン・ガンダム)
 パイロット状況:良好  機体状況:不明
 現在位置:C-3
 基本行動方針:殺し合いを止めるために尽力する
 第一行動方針:シーブックに自分の機体の置いてある場所まで送ってもらう
第二行動方針:仲間と情報を集める
第三行動方針:力のない者は保護。あるいは道を示す。
最終行動方針:バトルロワイアルの主催者の打倒。 参戦時期:原作終了後※サングラスはしてません
備考1:首輪探知器を所持※詳細な効果範囲は後の書き手さんにお任せ。



【シーブック・アノー 搭乗機体:キングゲイナー(OVERMANキングゲイナー) パイロット状況:良好  機体状況:良好
 現在位置:C-3
 基本行動方針:殺し合いを止めるために自分のできることをする
第一行動方針:ジャミルさんを機体を置いてる場所まで送る
第二行動方針:仲間と情報を集める
最終行動方針:リィズやセシリー、みんなのところに帰る。
参戦時期:原作序盤※クロスボーンバンガードの襲撃から避難している時
備考1:オーバースキルはまだ使えません。
備考2:謎のビデオテープを所持。


【一日目 6:40】


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最終更新:2010年01月17日 19:06