オルドナ・ポセイダルの悪夢 ◆ZbL7QonnV.


――悪夢だ。
これは、悪夢に違いない。

「おのれ……このモンスターがッ……!」
焦燥に表情を歪めながら、サングラスの男性――
アマンダラ・カマンダラは熾烈な勢いで攻撃を繰り出し続けていた。
アマンダラに与えられた支給機体である、このディアブロ・オブ・マンデイと言う機体。
ヘビーメタルとは設計思想の段階から大きく異なるこの兵器は、極めて強大な戦闘力を有していた。
A級ヘビーメタル――それも“準オリジナル”と言える高性能機と比べても、決して見劣りする性能ではあるまい。
これと言った性能の穴や欠点も無く、操縦の方法も比較的習熟し易いシンプルなもの。
オリジナル・オージェのヘッドライナーである彼にとって、その機体は“大当たり”と言っても過言ではない機体であった。

アマンダラは本来、もう生きている事すら不思議なほどに高齢の人間だ。
オリジナル・オージェのバイオリレーションシステムにより若さを保っていなければ、老いさらばえて死ぬ運命にある。
そして、彼は現在バイオリレーションシステムとは切り離された状態にある。
だが、彼は生きている。

……ディアブロを含む“オリジナル7”のヨロイは、ただの戦闘兵器ではない。
囚人惑星であるエンドレス・イリュージョンの監視者に与えられた、不測の事態に対する備えだ。
オリジナル7のヨロイに登場する人間は、特殊な生体改造を施される事となる。
オリジナルのヨロイに定期的に乗り込み、G-ER流体を体内に取り込まなければ死ぬ肉体となってしまうのだ。
だが、そのデメリットを覆すほどに恩恵は大きい。
オリジナル7の搭乗者は決して老いる事が無く、悠久の時間を生き続ける事が出来るのだから。

その境遇は、アマンダラと非常に良く似ている。
バイオリレーションシステムによって永遠の若さを保ち続ける、アマンダラ――いや、真のオルドナ・ポセイダルと。

……生まれ付き強力な生体電流を有する人間であれば、改造無しでオリジナルのヨロイを操る事も可能ではある。
アマンダラに生体電流の素質は無い。
よって彼は意識が無い内に生体改造を施されて、この機体に乗せられる事となっていた。

まあ、その事自体はさほど不愉快な事でもない。
バイオリレーションの他にもう一つ、延命の手段が手に入ったと思えば良い事だ。
どちらか片方の恩恵を受け続けていれば、アマンダラ・カマンダラに老いが訪れる事は無い。
オリジナル・オージェに不測の事態が生じた時の備えとして、延命の手段が思いがけず手に入ったのは、喜ぶべき事ですらあった。

あのシャドウミラーとか言う連中は気に食わないが、この機体の報酬を払ってやるくらいは良いだろう。
破壊と殺戮がお望みならば、好きなだけ見せてくれる。

……もちろん、その後で隙を見計らい殺しはするが。

ともあれ、アマンダラはさしあたって殺し合いに乗る事にした。
どうせ、監視は付けられている。
まずは殺し合いに積極的な態度を印象付けて、シャドウミラーの連中を油断させておくとしよう。
この殺し合いに乗る気が無い人間も多く招かれている事は、あのロム・ストールとか言う男を見れば明らかだ。
こちらが何をしなくとも、脱出の方策を探ってくれる事だろう。
ならば自分は積極的に参加者を狩り、後は状況を見て動けば良い。
反逆の策が軌道に乗るようなら、それに乗ってシャドウミラーを討てば良い。
すべての策が見破られ、反乱分子が叩かれるようなら、殺し合いを続ければ良いだけの事だ。
どちらにせよ、今は不穏な動きを見せる時ではない。

そう判断を下したのは、決して間違ってはいなかったはずだ。
……そう、間違っていなかったはずなのだ。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ――――!!!」

ブンと大きく腕を振りかぶって、ディアブロは巨大戦斧を振り下ろす。
渾身の威力を込めた一撃は、大気を裂きながら標的に迫り――

「ふもっふ!」

両手で日本刀を構えた――
なんだかよくわけのわからないぷりちーなぬいぐるみに――
あっさりと受け止められていた――




―ーキング・オブ・ハート。
それは人類の歴史を影から見守り、過ちが起これば武力で正す“シャッフル同盟”に与えられし称号の一つ。
今は亡き恩師、東方不敗マスターアジアよりキング・オブ・ハートを受け継いだドモン・カッシュは、激しい怒りを感じていた。

「ふもっ! ふもふも! ふもっふ! ふも!」
(訳:殺し合いだと……!? ふざけるな! このような無意味な争いなど断じて認めん!
この俺、ドモン・カッシュがキング・オブ・ハートの名に賭けて止めてみせる!!)

このバトルロワイアルで彼に与えられた機体。
それは、一見すると遊園地のマスコットキャラクターのようではあった。
だが、そのマニュアルを読み進めていくと、その恐るべき性能にドモンは驚愕する事となる――



【ボン太くん強化型】
あの関東極道界を恐怖に震え上がらせたボン太くんが、パワーアップを遂げて帰って来た!
強化改造の監修には、かの有名なジャンク屋、ロウ・ギュール氏を抜擢!
コズミック・イラの卓越したバッテリー技術により、エネルギーの問題を一挙に解決!
パワーシリンダーによる筋力強化、ならびに発砲金属による軽量化と強度の両立に成功!
さらにはポン刀(ガーベラ・ストレート)を一振り付けて、極道チックなテイストをプラス!
これで君も、今日からふもふもランドのヒーローだ!
~なお、ボイスチェンジャーを切るとシステムがダウンしますので、お気を付け下さい~



そう、このぬいぐるみ――
見た目はファンシーなネズミ(いや、それともクマか……?)だが、実際は小型のモビルファイターのようなものだ。
流派東方不敗の力に充分応えてくれるだけの、非常に高い能力を有している。
そう判断したドモンは、ボン太くんスーツに身を包み――

「ふもっふ! ふも、ふもふ、もっふる、ふもー!」
(訳:貴様が何を考えて、この殺し合いに乗ったのかは知らん。だが、罪の無い人達を手に掛けると言うのならば容赦はせん!
このドモン・カッシュとボン太くんが、貴様と言う悪を砕いてくれる!)

そして無差別な攻撃を繰り返す、アマンダラ・カマンダラと出逢ったのであった――



「この……化け物がぁぁぁぁっ!!」
「ふも! ふももっふ、もふー!」
(訳:分身殺法! ゴッドシャドー!)

一度で倒す事が出来ないのであれば、繰り返し攻撃を行うまで。
そう判断したアマンダラは戦斧を連続でボン太くんに叩き付けようとするが、その時恐るべき事が起こった!
なんとボン太くんの身体が十近い数に分身して、ディアブロの斧を一斉に受け止めたのである!

「ば……馬鹿なっ!」
「もふ! ふーもふも、ふも!」
(訳:今度はこちらからいくぞ! 超級……覇王! 電影だぁぁぁぁんっ!!)

いや、そればかりではない!
分身を解いて一つに戻ったボン太くんの身体が物凄い勢いで回転を始め、空中高くに浮かび上がったではないか!
そしてボン太くんの巨大な顔が高速回転する渦の中心に現れ、ディアブロ・オブ・マンデイを睨み付ける!
そして猛烈な勢いで、ディアブロに向かって飛び出していった!

「くっ……! 間に合え、回避っ……!」

……間一髪。
かなり際どいタイミングで、アマンダラは超級覇王電影弾を回避する。
危なかった。
もし一瞬でも回避が遅れていたら、かなりのダメージを食らっていた事は想像に難くない。
だが、その一撃を避けた事は、アマンダラにとって好機であった。
今ならば……突撃を避けた事で距離が離れた今ならば、あの化け物から逃げ出す事も不可能ではない……!

「化け物が……! 今は退くが、いずれこの借りは返させてもらうぞ……!」
得体の知れない化け物の相手は、今は避けておくべきだ。
そう自分に言い聞かせて、アマンダラはボン太くんとは逆の方向に退却していく。
怒りと、屈辱と、得体の知れない存在に対する驚愕――
そういったものを、感じながら。



「……逃がしたか」
ボン太くんの被り物を脱ぎながら、ドモンは悔しげに呟いた。
鮮やかな撤退、と言うべきか。
ほんの僅かな隙を突いて素早く逃げ出した手並みは、いっそ賞賛すべきものさえあった。
どうにか退ける事は出来たが、あの機体も並大抵の性能ではない。
ガーベラ・ストレートを握り締めた手は、ジンジンと痺れを訴えていた。
流派東方不敗の使い手であり、剣術の心得があるドモンでなければ、一刀両断に叩き割られていた事だろう。

……実際、今の戦いはアマンダラにとって絶望的と言うほどのものではなかった。
あまりにも奇抜で意表を突くボン太くんの戦闘スタイルに、平常心を奪われていた事がマイナスに働いている。
心理的な動揺さえなければ、アマンダラも退却を選んでいたか疑わしかったかもしれない。
だが、ともあれ今は退かれている。
バトルロワイアルに肯定的な危険人物を取り逃がした事は、ドモンにとって悔やむべき事だった。

「憶えていろ、斧の機体……もしまた会う事があれば、今度こそ仕留めてくれる……!」
ガーベラ・ストレートを背中の鞘に収めて、ドモンはボン太くんを被り直す。

ふーも、ふもふも、ふもっふもー!
(訳:そう……キング・オブ・ハートの戦いはこれからだ!)




【ドモン・カッシュ 搭乗機体:ボン太くん(フルメタル・パニック? ふもっふ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好、超強化改造済み、ガーベラ・ストレート装備
 現在位置:A-3 陸地部分
 第一行動方針:斧の機体(ディアブロ・オブ・マンデイ)を倒す
 第二行動方針:他の参加者と協力して主催者妥当の手段を探す
 最終行動方針:シャドウミラーを討つ】

【アマンダラ・カマンダラ 搭乗機体:ディアブロ・オブ・マンデイ(ガン×ソード)
 パイロット状況:良好、生体改造済み
 機体状況:良好
 現在位置:A-3 陸地部分
 第一行動方針:ひとまずは積極的に殺し合いに乗る
 第二行動方針:状況を見て立ち回る
 最終行動方針:最終的に生き残る
 備考:ディアブロの力で老衰を免れています】

【一日目 6:45】


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ドモン・カッシュ 046:ガンダムファイト跡地にて
アマンダラ・カマンダラ 053:GUN×KICK

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最終更新:2010年02月21日 21:57