JOKER 7 ◆MeiOuuUxlY
何が起こったのか分からない。
少年の心中はそれだけで占められていた。
途切れ途切れの記憶の断片が脳内でぐるぐると回り続けるも、混乱の極みにある現状ではそれが思考の形を成すことはない。
見覚えのない場所。
そこに集められた見知らぬ大勢の人間。
たくましく軍人らしき精悍な雰囲気を纏った男の演説。
質問を投げかけた仮面の男。
赤く爆ぜたその頭部。
その後で名乗りを上げた勇敢なる人物は、ヴィンデルと名乗る男に跳びかかったと思えば消えていた。
何が起こった?
なぜここに自分が?
「僕は……」
「あら、可愛い子ね。人は見かけによらないとはよく言ったものだわ」
「……ッ!?」
床に手をついてうずくまるような姿勢で混乱した記憶を反芻していた少年は、どこか気怠げで妖艶さを帯びた声をかけられ、顔を上げた。
ウェーブの掛かった髪に、深いスリットの入った濃い青のドレスを纏う美しい女性が目の前に立っていた。
そこで初めて少年――碇シンジは己が先程とは違う場所にいることを理解する。
先刻は一つのホールに数十人はいただろうか。それほどの人数を収めて余りあるスペースだったが、今いるここはそれほど広くない。
せいぜい学校の教室ほどの大きさで、照明がついているだけの飾り気の無い空間だった。そこに自分を含めて九人の人間がいる。
「え、ここは?」
「さっきの話を聞いてなかったかしら? あなた達に殺し合いをしてもらうって」
戸惑うシンジに先程の女性が笑みを浮かべながら答えになっていない返答をよこした。
殺し合い……そうだ、あの男もそういっていた。
じゃあどうしろっていうんだ、ここで、この人達と、殺し合えって……?
「あら、そんな顔しないで。まだゲームはスタートではないわ。機動兵器に乗って戦ってもらうと言っていたじゃない。
まずはその兵器の受け渡しをしなきゃね。それから戦場となる場所へ転移してもらうわ」
「待て。お前はあのヴィンデルとかいうやつの仲間なのか!?」
そう言って割って入ってきた少年はシンジと同年代くらいだろうか。
だが表情はきつく、目の前の女性に向かって鋭い視線を叩きつけるその容貌は、クラスの同級生には見られないものだった。
シンジならばすくみあがってしまうであろう怒りを含んだ問いにも女性は全く動じず、自分の首のあたりを指差す。
そこには何もない。
首がどうかしたのか。
自分の首には、金属の輪が――、
「――!!」
「首輪がない……!」
「そうよ、張五飛。私はレモン・ブロウニング。シャドウミラーの一員。よろしくね」
「貴様!」
レモンと名乗った女性以外の、この部屋にいる全ての人間が息を飲んだ。
一番近い位置にいるのはシンジと、そしてウーフェイと呼ばれた少年だ。
掴みかかろうとすれば可能な距離。だがそれをしない。
格闘技の経験など皆無なシンジならばともかく、見るからに鍛えていそうな体つきのウーフェイですらも。
ユーゼスという仮面の男が首輪を爆破された様、そしてロム・ストールと名乗った男が瞬間移動させられた様を誰もが見た。
迂闊に反抗するのは得策でないと思うのは無理からぬことだろう。
「さて……おめでとうと言わせていただくわ。あなた達はラッキーよ」
「何だと……!?」
この状況のどこがラッキーなのか。
今にも掴みかからんばかりのウーフェイ以外にも気色ばんだ何人かがレモンを睨んだ。
それをどうということもなく受け流し、涼し気な笑みすら浮かべて彼女は言葉を続ける。
「あなたたちには特別に強力な機体を支給してあげる。もっともタダではないのだけれど」
「目的は何?」
「目的……とはどういう意味かしら? 強力な機体があればあなた達にもいいことじゃない?」
「そうじゃない、私達を殺し合わせるその意味について聞いているのよ」
切れ長の眼を持ち、背の高い妙齢の女性だった。
気怠げで退廃的なレモンとは違う、飾り気の少ない凛とした雰囲気を持っている。
言われてみればもっともな話だ。
そもそも何が目的でこんなことをするのか。
聞きたいことは山ほどある。
「知ってどうするのかしら。あなた達にとって今一番大切なことは『殺さなければ殺される』という、ただそれだけのことよ」
「そうやって生き残っても助かるという保証はどこにもないんじゃないかしら?」
「保証が欲しいの? 私が保証すると言ったところで信用するとは思えないけれど。
それにそんなものは殆ど意味がないことよ。どうせ一人を除けば皆死ぬ運命なのだから」
ふう、とレモンは物憂げに息をついた。
その長い睫毛を伏せながら、紅を引いたなまめかしい唇から紡ぎだされた言葉。
それはさほど大きな声でないにも関わらず、シンジをはじめとしたここにいる人間たちの心臓に突き刺さるように刻まれた。
「――死にたくなければ殺しなさい。あなた達にはそれしかないの」
ドクン。
空気が止まったかのような静寂。
レモンの視線が部屋にいる全ての人間にゆっくりと、順番に注がれた。
そしてシンジの番。
それは冷たく、重く、そしてどこか悲しげだった……気がした。
「私達の目的はこの殺し合いを最後まで完遂することよ。つまりあなた達を最後の一人まであなた達の手で殺させること。
生き残った者には多額の報酬、絶大な力、死者の蘇生……大抵の願いを叶えてあげることができるわ。
私達にはそれだけの力があるのだから。質問の答えは以上でよろしいかしら?」
「なぜ……そんなことをさせる必要が?」
「そこまで答える義務はないわね。さてと、そろそろ話を勧めないとアクセル達にお説教されちゃうわ」
そういいながらレモンはクスリと笑い、こちらに背を向けて数歩ほどシンジ達から距離を取る。
そしてクルリと振り向いて高らかに宣告するように言った。
「あなた達の役割はジョーカー、つまり他とは違う鬼札。強力な機体を支給される代わりにある役割を担ってもらうわ。
放送二回、つまり16時間で二人ほど殺してもらいます。できなければ自分の命で償ってもらう。この意味が解るかしら?」
「爆破するということ……!」
「そのとおりよヴィレッタ・バディム。皆、ああいったところで状況を素直に飲み込んではくれないでしょうしね。
まず、あなた達が手本を見せて欲しいのよ。スムーズにこのゲームを進行させるために、あなた達の手で誰かを殺すことでね……」
そうすることで皆がこのバトルロワイアルの本質を理解してくれることでしょう、とレモンはこともなげに言い放った。
この手で誰かを殺す……?
何言ってるんだ……ありえない……そんなバカな……。
そんなことが出来る……わけが……。
だが混乱の渦中に陥っていくシンジの思考にはお構いなしで説明は続いていく。
「無事にノルマを果たして生き残ることができたら、その後は自由に行動してくれて構わないわ。
これからあなた達に支給する強力な機体はこの場において大きなアドバンテージとなりうるから、生き残る確率、すなわち優勝の確率も大きくなる。
そちらにとっても悪い話じゃあないでしょう?」
誰も何も答えない。
重い沈黙が人工的な光に包まれた空間を支配している。
理解、状況把握、打算、混乱が全員の心の中で渦巻いて、結果として誰もが迂闊な言葉を発することができないでいた。
「ああ、肝心なことを忘れていたわ。ノルマにはあなた方は含まれない。ターゲットは
その他のプレイヤーよ。
つまりこの場にいるメンツで同士討ちしても意味はないから注意してね」
レモンはそれからここに居る全員の名前を読み上げていく。
碇シンジ、そしてヴィレッタと呼ばれた女性や、五飛という少年も。
さらにイスペイル、春日井甲洋、テッカマンランス、アギーハ、レイ・ザ・バレル……。
この場の一人ひとりに対して確認するように、そしてお互いを確認させるように、レモンは名前を呼ぶたびにその人間に視線を向けていく。
イスペイルはおよそ人間とは思えない、ロボットのような風貌だった。
春日井甲洋はクセッ毛の、シンジより少し年上らしき少年。無表情。いや、無反応と言った方が正確か。
テッカマンランス。引き締まった体つきで西洋系の男だ。軍人か警察のような職業がいかにも似合う。
アギーハ。いかにも気の強そうな女性で、何も言わずとも不服そうな怒りが顔に出ている。
レイ・ザ・バレル。金髪で、男から見ても整っている顔立ち。表情に僅かながら不快感を表すものの、大きな感情の揺らぎは見られない。
「理解できたかしら? あなた達に拒否権はないわ。
もっともそんなもの、ここに呼ばれた人間たちには初めから何一つとしてありはしないのだけど」
レモンの理不尽な宣告に対して誰もが怒りを覚えているのだろう。
だが、何を言ったところで無駄なことだ。少なくとも今は。
だから何も言わない。
「さてテッカマンランス。ミスターモロトフと読んだ方がいいかしらね」
レモンは懐から手のひらよりやや大きい、奇妙な形の宝石を取り出した。
それを見た途端、モロトフと呼ばれた男は身を乗り出すようにしてそれを凝視する。
今にも飛びかかって奪い取らんばかりだが、流石にここまできて実際に行動に移すようなことはしない。
その先一秒後の未来がどんなことになるのかは想像するまでもないからだ。
「それは……!」
「そう、あなたのテッククリスタル。機体の他にあなたにはこれも使わせてあげる。はい、どうぞ」
余りにも無造作にレモンは宝石を放り投げた。
慌てて両手を差し出して受け取るモロトフ。
放り投げた当人は、大の男が慌てふためくその様子に失笑を隠そうともしない。
どう足掻こうが反抗できないと考えているのだろう。
だがその宝石を拾い上げたモロトフは憎悪を込めた笑みを顔に張り付かせている。
笑みが意味する感情はシンジにも理解できた。それは……殺意だ。
「バカめ! テックセッタ――――――――――――ッ!!!!」
眩い光が生まれた。
部屋全体の色を塗り替えるほどの光量の中心はモロトフと呼ばれた男だった。
その異常現象に対して、誰もがそこから後ずさって距離を取る。
光の中心に人影があった。眩しさに眼を細めながらも観察すると、それが鎧を纏ったようなヒトの形に変化していく。
「な……!」
「フハハハハハハハ、テッカマンランス見参! 変身してしまえばチャチな爆弾などでは傷ひとつ付かぬわ!」
光が消えた。
かつてヒトが存在していた場所に立つのは、甲冑を纏った騎士に似た異形だった。
手があって、脚がある。二本の脚で立っている。
それでも、ヒトの形をしていながら、それはヒトとはかけ離れている。
アレは人間ではなく、まさに異形だ。
直感的に拒否感を抱く、人間とは違う何か。
しかしシンジは見た。
それを前にしてもレモンは全く動じていない。
「馬鹿な女よ。この私を捕らえた罪、侮った罪、辱しめた罪、貴様の断末魔で償ってもらおう!!」
ずん、ずんと怪物が近付いていく。
レモンを見下ろし、腕を伸ばせば細く白い首がその手にかかる距離。
そして躊躇うこと無く掴み、へし折ろうとする。
その時だ。
艶のある唇が小さく動いたのは。
「――――馬鹿はあなたよ」
ばぁん。
くぐもった破裂音が発生した。
音と同時に鎧の異形がぶるりと揺れる。
態勢が崩れて、そのままズタ袋が叩きつけられるように床へ倒れ伏した。
「え……!?」
驚きを示すその声はシンジが発したものだろうか。
それとも別の誰かだったろうか?
一つ言えるのは、誰もがこの異常を把握できていなかったということだけだ。
悠然と微笑む一人の女を除いては。
レモン・ブロウニングを除いては。
「確かにテッカマンの力は凄まじいわ。人間大の大きさに超音速の機動力、反応弾にすら耐える装甲、数え上げればキリがないくらいにね。
でも私達シャドウミラーはそのテッカマンを生きたまま拉致してくることができる。そういう力を持っているの。
生きたまま連れ去ってくるのは殺すことよりもずっと難しいのよ?」
つまりこの女はこう言いたいのだ。
どう足掻こうとも、歯向かうだけ無駄なのだと。
「そんなことに考えも及ばない……力に溺れるだけの男なんてどのみち途中で脱落するでしょうね。
ここで死んでも大勢に影響はないでしょう。けれど、あなた達は違うはずよ。期待しているわ」
変身が解け、異形はヒトの死体となって部屋の床に放置されている。
頭ががバックリと柘榴のように割り開かれ、血の赤と頭蓋の白がミックスされて元の形が分からない。
血の生臭さと脂のべたつきが空気に溶け込んで部屋中の全てにまとわりついてくるような感覚があった。
だがレモンはそれを無視する。
この部屋の出口を指差して、用意してある機体に乗り込むように指示した。拒否権はないと、無言のうちにそう言いながら。
やがて一人がゆっくりと一歩を踏み出した。
そのままふらふらと扉の方へと向かう。
一人、そしてまた一人と扉の向こう側へ消えていく。
その誰もが望んで従ってなどいない。
逆らえないから、少なくとも今は逆らわない。
ある者は絶望に染まった顔で、ある者はレモンを怒りに燃える目で睨み付けて。
ある者はうっすらと笑みを浮かべながら、ある者は何らかの覚悟を刻みこんだ顔で。
そうして、やがて部屋には一人の女だけが残った。
「――ブラスター化したテッカマンもいることだし、仕込みは上々……かしらね。
閉じた世界の混沌から何が生まれるのか……研究者としては興味深いのだけれども……」
ふう、と物憂げなため息を置き土産にして最後の一人が部屋を去る。
生命のあるモノはそこにはもう誰もいなくなった。
【テッカマンランス@宇宙の騎士テッカマンブレード 死亡】
◇ ◇ ◇
「システムLIOH……ダイレクトモーションリンク……なるほど、如何にも俺向きの機体だ」
コクピット内で少年は呟く。
パイロットはシートに座らずアームで保持され直立し、球状コクピット内の動きをセンサーによりリアルタイムでスキャンし機体動作へ反映させている。
その動きがそのまま機体の動作に反映されるがゆえに操縦には卓越した身体能力が必要となり、ダメージが痛みとなってフィードバックされるというリスクもある。
さらにパイロットの潜在能力を強制的に引き上げて操縦させるという過酷な仕様、そしてそうでなくては歩くことすらできぬピーキーな調整。
「強くなくては操る資格はないということか……気に入ったぞ、大雷凰!」
ゼロシステムに触れた経験、そして常に研鑽を心掛ける自分にとってはまさしく己を試すにふさわしい。
全ては強くあらんがため。
心も、肉体も、魂も、弱くあることなど許されない。
正義は常に強くあらねば意味を成さないからだ。
力に屈する正義は、その時点で正義などではない。
「二人……ならば殺し合いに乗る、弱き者を傷つける邪悪を俺は討つ!
このふざけた戦いで悪意を振りまくのであれば、例え同じジョーカーであろうとも叩き潰すまでだ!」
張五飛は力には屈しない。
どんな強大な力が立ちはだかろうとも己は曲げない。
そうでなければガンダムのパイロットである資格などない。
「正義は……俺が決める!!」
【張五飛 搭乗機体:大雷凰(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:G-4 河口付近
第一行動方針:悪意を振りまく敵を討つ
最終行動目標:シャドウミラーの野望を砕く】
◇ ◇ ◇
ヴィンデル・マウザーが生きており、シャドウミラーが復活していた。
それはヴィレッタ・バディムの心に衝撃を生むのに充分すぎるほどの事実であった。
アクセル・アルマーが、アインストらしき不可解な力によってアルフィミィとともに生存していたことは知っている。
だが、組織の復活に執着するような素振りは見せていなかったはずだ。
「ラミアが知ったらどう思うでしょうね……」
かの組織によって作られた美しき人造人間のことを考える。
紆余曲折を経て組織から抜け出し、今は地球の平和を守らんとする同志となった彼女はここに呼ばれていない。
生みの親であるレモン・ブロウニングや上官であるアクセルには、その関係以上の感情を抱いていたように思う。
そんな彼らが殺戮の宴を催すなどと知ったらどうなるだろう。
自分の意志で、自ら定めた己の使命のために戦えるだろうか?
答えはおそらく、イエスだ。
彼女はもはや作られた存在ではなく、自らの道を歩き始めたれっきとした人間なのだから。
そしてそれはヴィレッタ自身にも当てはまることだ。
作られた存在――だが、そこに確固たる意志があるならば人間と何が違う。
イングラム・プリスケンの遺志を継ぎ、リュウセイらSRXチームとともに闘いながら、同時に彼らを見守っていくことが己に課した使命。
未だにバルマー帝国やゲストこと監察軍の脅威は無くなったわけではない。
いつ、地球が本格的な侵略に晒されるか分からないのだ。
まだヴィレッタにはやるべきことが山ほどある。イングラム亡き今、それを果たすのは自分しかいないのだから。
「アギーハ、ウェンドロ……彼らも生きていた……? 死者の蘇生……いえ、まさか、そんな……でもウォーダン・ユミルまでいる。
ギリアムにタスク……ギリアムなら、もしかしたら……」
名簿を眺め、知った名前をチェックしながら思考をまとめていく。
無為な血を流すなどできることならばしたくはない。
ギリアムなどの味方を集め、この陰謀に楔を撃ち込むことが出来るならばそうしたいところだ。
だがヴィレッタは強力な機体を与えられ生存確率が上がったのと引換に、制限時間内に誰かを殺さなくてはならない立場にある。
本意ではない。だがそれもやむなしとあらば汚れ仕事は昔からお手の物だ。覚悟はすでにできている。
だが今は性急に事を進める時ではないだろう。
いきなり拉致されて状況を把握出来ていない者も多くいると思われる。
友好的に接触して情報を引き出すか、仮初めの味方として引き入れるという手段も考慮すべきだ。
この場でおそらく最もシャドウミラーに詳しいと思われ、しかも信用に足る人物であるギリアムを捜索するにしても有用な駒となりうる。
「それにしても……これってデザインどうにかならなかったのかしら」
ヴィレッタに支給された機体は強力だが制御が難しい代物だった。
エネルギーの出力調整に精微を極めたコントロールを必要とするそれは、パイロットの皮膚感覚を利用し、微妙な感覚を頼りに出力を制御する。
そのためには皮膚に直接機器を触れさせる必要があり、なおかつ受信状態を少しでも良くするためにそれを露出させておくのが望ましい。
結果としてパイロットの皮膚に貼り付けた機器を露出、すなわちパイロットは機器となるコスチュームだけを身につけた極めて裸に近い状態で操縦することになる。
DFCスーツと名付けられた、水着とボンデージ衣装を足して二で割ったような制御機器を装着した姿があった。
スレンダーですらりと伸びた四肢。
女性らしい胸や腰の膨らみのラインが余す所無くさらけ出され、肢体を締め付けるスーツの黒が純白の肌を際立たせていた。
【ヴィレッタ・バディム 搭乗機体:ガルムレイド・ブレイズ(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:DFCスーツ着用、ちょっと恥ずかしい
機体状況:良好
現在位置:D-1 海岸
第一行動方針:ギリアムを探し、シャドウミラーについての情報を得る。
第二行動方針:出来る限り戦闘は避け、情報を集める。戦いが不可避であれば容赦はしない。
第一行動方針:ノルマのために誰かを殺害することも考えておく。
最終行動目標:生き残って元の世界へ帰還する】
※参戦時期はOG外伝終了後。
◇ ◇ ◇
「ええい、どうなっておるのだ! 開発者を呼べ!」
人間離れした、まるで髑髏を模した仮面をつけたような容貌がこの男の素顔だ。
とりあえず男とは呼んだが、彼には性別など関係がない。
巨大すぎるほど巨大な、大いなる意識の集合体から生まれたその欠片がイスペイルと呼ばれる彼の正体なのだから。
ここに呼ばれた生命体は大半が地球人か、それに似た系列の人類だと考えられる。
そいつらを殺す事には別段抵抗はない。
シャドウミラーと名乗る人間たちは、勝ち残れば莫大な報酬を与えると言ったが、彼らの使う未知の技術を己の力にできるならそれも悪くないと考えていた。
イスペイルの意識の本質は研究者だ。
長年、クリスタルハートの解析に努めてきたのは伊達ではない。
では早速、与えられた強力な機体とやらの性能を把握しようとマニュアルを熟読する。
まず接近戦用の実体剣ディバインアーム。
振り回すには手ごろな上に切れ味も悪くはなさそうだ。
次に長距離狙撃用のビーム兵器であるクロスマッシャー。
射程距離はかなりのものだ。充分な威力も併せ持っており、主力兵装として活躍してくれるだろう。
遠近両距離に対応できる武装はもちろん、人工筋肉による柔軟な動作は接近戦において大きなアドバンテージとなる。
機動性も悪くはない。
なるほど、強力な機体というのは嘘ではないようだ。
だが、ひとつ。
ひとつだけこのマシンには欠点がある。
ここまで完成度の高いものに仕上げておきながら、なぜ最後でこのようにするのか。
研究者肌のイスペイルは、まるで丁寧に組み上げたパズルの最後の1ピースを台無しにされたように苛立ってしまっていた。
「装甲が薄すぎる! 接近戦におけるモーションを邪魔しない程度でももっと厚く出来るだろう!
いや、いっそがっちりと防御を固めてその分火力を充実させればいいものを!
何故だ! この機体を作った技術者は何故――――」
技術者、もしくは研究者というものは多かれ少なかれ己の拘りを捨てられぬ人種である。
誰もが生きていく為にやりすごす些細な疑問も突き詰め、研鑚し、真実の一端へと昇華させる。
ゆえに一旦疑問というものが芽生えてしまうと、それを捨て置く事が難しい。
むしろ捨て置くようでは研究者にはなれないのだ。
「――こんな、人間の女のような体つきのロボットを作ったのだ!?」
まさか娘の我が侭だったなどという答えには辿り着けるはずもない。
イスペイルに支給された機体の名は、ヴァルシオーネRといった。
【イスペイル 搭乗機体:ヴァルシオーネR(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:イライラ
機体状況:良好
現在位置:D-7
第一行動方針:まずは生存する為にノルマを果たす
第二行動方針:出来れば乗り換える機体が欲しい
最終行動目標:自身の生還】
◇ ◇ ◇
「俺が……守るんだ」
春日井甲洋。
本来は心穏やかで優しい少年だった。
助けを求める声があればそれに応えようと手をさしのべる。
誰もがそんな彼を慕った。
けれど。
何よりも大事だった、恋心を抱いた少女を守ることができなかった。
「翔子……」
羽佐間翔子。
病弱で、いつも何に対しても申し訳なさそうにしていた。
好きだったけれど、その子が本当は誰に恋していたかわかっていた。
だから彼女が喜べるように、笑っていられるように、身を引いた。
なのに――、
「一騎……総士……」
あいつらは守れなかった。
それどころかその死に様を否定した。
翔子が、どんな気持ちで島を守ろうとしたのか理解しようともしなかった。
誰も守ろうとしないなら自分でやるしかない。
「俺が……守るんだ……」
黄金の瞳。
表情のない貌。
フェストゥムに取り込まれた証。
できなかったことをやろうとした。
そうすることで、できなくて失ったことを償えると信じた。
その結果。
自我をなくして完全に取り込まれる直前に、春日井甲洋は召喚された。
「誰を……守るんだっけ……?」
とても悲しいことがあった。
なぜ悲しかったのか。
思い出せない。
誰を思って泣いたのか。
何を思って償おうとしたのか。
何も感じない。
戦うことだけを命じられ、疑うことすらできないこの有様で。
――春日井甲洋は悲しみの乙女を駆り、定かならぬ何かを求めて戦場をさ迷う。
【春日井甲洋 搭乗機体:バルゴラ・グローリー(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:同化により記憶及び思考能力低下(敵を見つけ次第攻撃に入ります)
機体状況:良好
現在位置:a-1 コロニー周辺
第一行動方針:見敵必殺
最終行動目標:守るんだ……】
※フェストゥムに同化された直後から参戦です。
◇ ◇ ◇
無限に広がる大宇宙。
数多の星々の輝きを切り裂くようにして、一迅の矢となった白い機体が虚空を駆け抜ける。
自由の名を冠する鋼鉄の流星、ストライクフリーダム。
操るは銀河を股にかける秩序の担い手。ゾヴォークの女将軍アギーハだ。
「ウチのダーリンはいないかぁ。まあむしろよかったけど。
でもよりによって唯一の知り合いがあのいけすかないウェンドロ坊やとか勘弁して欲しいねえ」
実の兄であるメキボスへの対応を見ても分かるとおり、上司とはいえあの男に温情など期待できない。
隙を見せれば後ろから撃たれる。いや、はじめから自分以外の全てを駒としてしか見ないだろう。
そんな人間にわざわざ付き従う義理はどこにもない。
もとより部下としての義理はお釣りが来るほどに果たした。
この命すら捨てて、だ。
ゾヴォークのアギーハはあの戦いで地球人に敗れ、討ち死にした。
「……でもあたしはこの通り生きている」
死者蘇生。
そういえばあのレモンという女がそんなことを言っていたような気がする。
そんな馬鹿なことを……と普段の彼女なら一笑に付すところだ。
だが今はそうやって否定する材料が見当たらない。この自分自身の存在が何よりの肯定材料なのだ。
「さぁて、どうしたもんか」
16時間で二人殺す。それ自体に抵抗はない。
だがヴィンデルたちの言いなりになるのも面白くない。
仮にも監察軍の将校たる自分が地球人ごときに――という思いもある。
奴等が蘇生技術を持っている事についても現段階では半信半疑だ。
「でもまあ死んだらダーリンにまた会える可能性がゼロになっちゃうしねえ……」
あの戦いで恋人のシカログがどうなったのかは覚えていない。
苛烈な激戦のさなかで確かめる術などありはしなかった。
だが、まだ生きていてくれたなら。死んだとしても自分のように生き返ることが可能なら。
「まずは1つずつかたずけるとするかねえ……」
目の前のノルマが現在の最優先事項だ。
できなければ確実な死。
蘇生云々に関係なく、まずこの問題をどうにかしないことには始まらない。
考えることはそれが終わってからでもできる。だから考えない。
代わりにまずはこの機体に慣れてから、誰かを二人殺すための戦略を考えるのだ。
【アギーハ 搭乗機体:ストライクフリーダムミーティア(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:c-1 宇宙空間
第一行動方針:敵を捜して、発見次第撃破。ノルマをこなす。
第二行動方針:ノルマをクリアしたら今後の戦略を練る。
最終行動目標:生き残り、シカログと再会する】
※OGs死亡直後からの参戦です。
◇ ◇ ◇
レイ・ザ・バレルはクローン人間である。
その大本は同じくクローンであるラウ・ル・クルーゼだ。
クローンのクローンを創る実験。それは何のために?
理由などない。ただ、出来るかどうか試された。
たったそれだけの理由でレイという男はこの世に誕生させられた。
生まれてしまったからには生きなければならない。
そして本能だけで生きる動物ではない人間であるからには、例えクローンであろうとも
生きる理由というものが必要なのだ。
戯れ同然に産み落とされたという現実は常にこの男を苦しめ続けてきた。
ならばせめてこんな悲しみを作り出す世界を変えるためにこの生命を使おうとして、その妨げになるものは切り捨ててきた。
それらを切り捨てることは、結局は己の抱く悲しみを他の誰かに同じ分だけ増やすことだと最後の最後まで気付かずに。
「人は自分の意志で変わることも生き抜くこともできる……か」
崩れゆく要塞メサイアの内部で聞いた、キラ・ヤマトの言葉だ。
母と呼んだタリアに抱きしめられ、レイ・ザ・バレルの短い生涯はそこで終わりを告げるはずだった。
自分は変わるにも生き抜くにも全てが遅すぎたと諦めながら、爆炎の中に消えて行くはずだった。
「ならば今ここで、まだ俺が生きているのは、俺に変われということなのか? キラ・ヤマト……」
キラ・ヤマトはこうも言った。
レイ・ザ・バレルの生命はレイ自身のものであると。
ラウ・ル・クルーゼなどではない。ギルバート・デュランダルでもない。
他でもない自分自身のものであると。
「いいだろう……変わってやるさ」
あの炎の中で、レイを縛る全てのしがらみは焼き尽くされた。
自身の夢と明日を託したデュランダルを他の誰でもない自分のこの手で撃った。
かつて己の全てを捧げた、新しい世界を創り上げるという夢そのものでもあったギルバート・デュランダルを否定したのだ。
全てを賭けた夢を自身で否定したというのならば、今ここで生き延びた自分は抜け殻でしかないのか。
違う。
引換にして得たものがあった。
レイはそれを決して忘れない。
今まで決して呼ばなかった、呼べなかった母という存在。
そう呼んだレイをタリアは抱きしめてくれた。
戯れに生み出されたと思っていた自分自身の生命の意味。
誰からも望まれなかったのではない。
己を望み、愛してくれた人間がいた。
うわべだけの言葉ではない温もりが、レイの最も奥深くにある最も脆い部分を撃ちぬいた。
「俺は……俺のために生きる」
誰かに夢を託すとか、明日を託すとか、そんなものはもう要らない。
寿命が短いことも何もかも、結局は己自身の生命の意味を自分で決めることすらできない弱さへの言い訳にすぎなかった。
そんなものを全て取り払ったときに残ったもの。
それはとても単純なこと。
「生きていたいんだ……死にたくないんだ……! だから……戦うんだっ……!!」
己に言い聞かせるように唱える。
歯を食いしばって、前を見据えて。
あのぬくもりが幻想だと、思い込みだと笑うのならば笑わせておけばいい。
己にとっての真実こそが己にとっての絶対だ。
この単純な生への渇望を否定できるものならしてみるがいい。
レイ・ザ・バレルはただ叫び、戦うだけだ。
――生きていたいと、叫び続けるだけだ。
【レイ・ザ・バレル 搭乗機体:R-GUNリヴァーレ(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:A-4 草原
第一行動方針:生き残るために戦う
最終行動目標:優勝狙い】
※メサイア爆発直後から参戦です。
◇ ◇ ◇
夢を見ていた。
とても、とても辛いことがあったことは覚えている。
生きていても辛いことばっかりだ。
どこへ逃げてもそうだったし、立ち向かってみてもさらに辛いことにぶつかるだけだった。
今もそうだ。
殺すなんてごめんだ。
殺されるのはいやだけど、自分がそうするくらいなら死んだ方がいい。
僕は生きていないほうがいいんだ。
だって、友達を殺したから。
トウジを傷つけてしまった。
とりかえしのつかないこと。
一度は全部投げ出してしまおうかとも思った。
悩んで、そしてけじめだけはつけるつもりでもう一度戻った。
そしてさらに取り返しのつかない罪を犯した。
「なのに……」
コックピットはエントリープラグに瓜二つだった。
エヴァと同じようにコントロールできる。
LCLは注入されていない。それがなくても動くように設計されているようだった。
「なんで……?」
シンジの瞳は驚愕の感情によって見開かれていた。
七十人の名前が記された名簿は、強く握り締められ皺がよっている。
自分の名前があった。
その他はシンジと同じくここに連れ去られた者たちの名前だろう。
テッカマンランスや五飛なども見つけたが、その驚きはそれらのどれによるものでもない。
その名前からシンジは目を逸らすことができないでいた。
しばらくして、ようやく肺から全ての空気を搾り出すように声を吐く。
「カヲル君…………!!」
この手で殺した『トモダチ』。
【碇シンジ 搭乗機体:第14使徒ゼルエル(新世紀エヴァンゲリオン)
パイロット状況:混乱
機体状況:良好
現在位置:D-4 海底
第一行動方針:カヲル君……!?
最終行動目標:???】
※カヲル殺害後から参戦です。
【ジョーカーのルール】
※第二放送が行われる16時間後までに二人の参加者を殺さなければ自身の首輪が爆発する。
※時間内に殺害できればその後の行動は自由。
※ジョーカーである七人の誰かを同じジョーカーが殺害しても、ノルマの数にはカウントされない。
【一日目 7:00】
最終更新:2010年01月17日 19:15