超高空攻撃の下 ◆06elPxNp8E



「どんな馬鹿だいったい!?」
 ルネは蒼く蠢くコクピット内で怒鳴る。
 足元へと突き立てた棍棒を握る手に思わず力が入った。
「オマエハメッチェノカワリニモナラン」
「ドメヲササナイトイツマデモギロチンノスズガナルゾ」
「ナンダ?…ヒトツノイノチノナカニ、フタツノイノチガアルトイウノカ? ナゼダ!」
「キコエルダロ? ギロチンノスズノネガサァ!」
 思わず力んだのは随伴機のパイロット達と呼べるかどうか分からない物達がやかましい、からでもなく。
「おちつけ、おちつけ、ハロども」
ソルダートJごっこに興じる男がうざったらしい、からでもなく。
「アレガシロイヤツナラココデクサレエンヲキッテヤル」
 極太の光が自機を掠めつつ地面へと突き刺さり、光が収まった後に巨大なガラスのお椀を作る。
 この、そう、親の敵といわんばかりに大地へと突き刺さる熱戦を避けるために、意識を空へと集中しているからである。
「うわっ!? くっ、このビームの威力。かなり高い所から撃っているぞ!」
 スラスターを噴射させ自機を狙う熱線を避けつつ叫ぶ。
 施設から出て十数分たったころにいきなり砲撃を受け、それ以降は回避に専念するほかはなかったが上空から自分達を
誰かが狙っていることは明白だ。熱戦は確実に自分達を標的とした敵が放っているに違いない。
 そう、敵だ。目に見えぬ透明人間のような存在ではあるが、コスプレやボールといったわけが分からぬ存在ではない敵が
空の果てにいるのだ。これでうざったらしい馬鹿どもの相手をしなくて済む。
 それだけを見えない敵に感謝しつつルネは反撃の手段を考える。
「さーて、どうやってぶん殴ろうか?」 
「君も落ち着くんだルネ・カーディフ・獅子王」
が、どうやらコスプレ馬鹿は臆病風に吹かれたらしい。仮面に隠されていない表情からは撃って出る意思が見受けられない。
「ハッ! びびってんのかい?」
「現実的ではないし、撃って出る意味も無い」
 口元がにやりと笑う。格好も合わせれば実に悪役らしい笑みだ。生理的嫌悪など今更抱くような生娘ではないが。
「いくらビーム兵器とはいえレーダーだってある。そうそうあたるものでもない」
「撃たれっぱなしは趣味じゃないんだよっ!」
 弱気としか言えない発言しかしない男に怒鳴りつつ、何度目か分からない砲撃を左方向へとステップすることで回避する。
「逃げ回れば死にはしない」
 男の方もムカつく位優雅に右方向へと回避する、
「オチツケコウチャ」
ように見えたがハロが適当なレバーか何かにでも当たったのか、あっさりと紅い機体はバランスを崩し前のめりに倒れた。
「何やって……!?」
 最後まで言うことができなかった。グランヴェールの回避しようとした先が光の柱によって包まれたからだ。
 そう、回避しようとした先だ。こけていなければグランヴェールはあっさり蒸発していただろう。
「…丸っこいのに感謝しなよユウキ・ジェグナン」
「……クゥッ!」
 悔しそうに呻きつつも機体をすぐさま立て直すのは腐ってもパイロットと言えるだろう。
 間抜けな格好や動作やボールに囲まれている状況からはあまりそうは見えないが。
「で、どうするだい? このままじゃ」
「すぐにこの場を離れよう。ビーム砲がオーバーヒートしたのか誘いなのかは分からないがこの場にいるよりはマシだ」
 あいかわらず弱気なことしか言わない。だからルネ・カーディフ・獅子王は見切りをつけた。
「なら勝手にやらせてもらう!!」
 機体を変形させシステムをオートパイロットへ、ソラへと向かうために送還システムを起動させる。
「ちょっ――――――て」
 重力とは逆方向へと引っ張られる感覚と共に音声が途切れる。が、意識まで途絶えるほど柔な鋼の体でもなければ獅子の精神でもない。
 なにより、ここで万が一にでも意識を失いでもすれば相手が打ってくるであろう次の手に対応できない。
 モニターに映る雲が途切れ、青空が黒く染まり掛けた時、一点の光が生まれた。
「来た!?」
 光は瞬きをするまもなく巨大となり、己へと踊りかかろうとする。
 その一撃はルネにとっては予測できたものである。故に対処しやすい。
 棍を通してルネの命令がダリア・オブ・ウェンズデイへと伝えられる。目に見えぬ力場が周囲へと展開され、
放たれるビームと展開された力場が衝突する。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
 力場とビームが衝突する衝撃なのか機体が大きく揺さぶられる。だがダリアはビームを切り裂き直進した。
 ルネは叫ぶ、叫び続ける。己と機体を鼓舞するように叫びをあげつづける。
 このまま上がってすぐにでもぶん殴ってやる。なにしろオートパイロットの状態では衛星に向かって真直ぐにしか進めないのだから。

「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ァガ!?」

 彼女の叫びは途中で途切れた。


◆◇◆◇◆


 羽佐間翔子は宇宙の人となっていた。
 周囲は黒と光り輝く星だけの世界――――――いや、彼女の眼下には先ほど飛び去った惑星が広がっていた。
 その惑星は、とても美しかった。外の世界がフェストゥムに支配されていると思えぬほどに。

「一騎くん達にも見せたいなぁ」

 そう呟き彼女は頭を振った。もはやその言葉が叶えられることはないし、その言葉を言う資格すら自分にはない。
 仲間を殺し、ただ誰か一人の命だけを願う自分には。
 翔子は眼下の地球へとツインバスターライフルを向ける。地上で発見した赤と花のロボットを撃墜するために。
 ゼロシステムのサポートにより敵を殲滅するための的確な戦法――――――大気圏を離脱し一方的な位置からの狙撃が提示され、
翔子はその指示通りに狙いをつける。その肉体は宇宙に昇ったさいの負荷により体のいたる箇所から内出血を起こしていたが、問題はなかった。
 彼女に備わった天才症候群は肉体の負荷を無視する、故にゼロシステムに振り回される負担も無視する。

 まずは第一射。ファーストターゲットを破壊。
 続いて第二射。セカンドターゲット及びサードターゲットの回避を確認、破壊失敗。

 初撃で敵機を撃破できないことまでは予想通りであり、ゼロシステムにとっては必要なことだ。
 相手の行動を予測することで対応した戦術を計算するゼロシステムがその機能をいかんなく発揮するためには相手の挙動を
覚えさせるのが最も効果的なのである。初撃、次撃を外そうとも最終的に敵機を撃破できれば問題ない。
 数度バスターライフルからビームを発射したところで赤い機体を破壊するための行動予測が完成した。
 自機と敵機の相対距離算出、敵機の運動性、回避パターン、着弾するまでの時間の予測、
ツインバスターライフルの分離、それらを終えたゼロは必殺の攻撃を放つ。
 赤と花の機体の間にバスターライフルを発射、続けて赤い機体の回避地点に二つ目のバスターライフルを発射。
 第一射により敵機の分断と誘導を確認、続けて第二射が演算された座標へと正確に突き刺さる。
 が、正確な一撃故に狙いが外れてしまったことを翔子は知った。
 どうやらこけてしまったことにより、赤い機体は着弾点から僅かにずれた位置に倒れ難を逃れたようだ。
 流石のゼロシステムとはいえ相手の凡ミスまで予測はできない。
 が、翔子はそんなことなど関係ないとばかりに銃爪を弾いた。
 照射されたビームが体勢を立て直す前に赤い機体を貫く、はずであった。が、再び一つにまとめられたツインバスターライフルは何故か沈黙していた。
 何故だろうか? 疑問に思う翔子はシステムをチェックし、疑問はあっさりと氷解した。ただ単純に連射により砲身が
熱せられてしまったためリミッターが働いたからである。
 それを確認した翔子は赤い機体の運の良さを恨みつつも、ゼロシステムの警告通りに眼下の敵に警戒する。なんらかの反撃があるかもしれない。
 予想通りとでも言えばいいのか、花型の機体が変形しこちらの方向へと突っ込んでくる。
 どうやら片方の機体はウイングゼロと同じく単独で大気圏離脱可能な機体なのだろう。
 だが、それでも自分の優位は変わらない。ゼロの予測では充分に撃ち落とすことは可能で、それができなくても離脱するための推力を奪えるはずだ。
 クールダウンしたツインバスターライフルを宇宙へと上がってくる敵機へと構える。

「堕ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 何度目かの銃爪を弾き、ツインバスターライフルから放たれる光が、漆黒の宇宙から蒼い海へと向かっていく。
 瞬きをする間もなく光が敵機を飲み込み、海へと突き刺さる。
 これでいい。これで敵は宇宙へと昇ってくることはできない。
 ゼロの言うプラネイトディフェンサーを展開した様子がない以上は撃墜できたか、熱に耐性のある装甲で防いだかのどちらかではあるが、
例え後者であっても機体がビームの圧力に耐え切れずに押されて地上へと落下するはずだ。
 そのことをゼロから伝えられると同時に、モニターにピンクの筐体が映った。

「アグッ!」

 機体に大きく衝撃が走る。


◆◇◆◇◆


 ユウキ・ジェグナンはG-3基地施設から離れ、南へとグランヴェールを疾走させていた。
 馬鹿だ。あの女は大馬鹿者だ。僚機を省みず単独で敵に突っ込むなど馬鹿がやることだ。
 他にも広大なソラにいる敵を探す当てはあるのか、ソラに出るまでに迎撃されたらどうするのか、敵が複数であった場合はどうするのか、
合流の手段は、敵のいる高度は、狙撃してくる敵機の性能予測は、そもそもソラでの体捌きの経験はあるのかといった問題などあげればキリがない。
「だが本当の大馬鹿者は俺だ!」
 操縦桿を握る手にさらに力が入る。
 そもそも己がヘマをし続けたが故に彼女に見切りをつけられたのだ。当然、信用などしてもらえるはずもない。
 ボールモドキドモにペースを乱され続け、肝心の初対面も心象が最悪な男など誰も当てになどしない。
 せめて冷静沈着な姿を見せることができさえすれば、援護の打ち合わせもできたはずだ。
「生きててくれよルネ・カーディフ・獅子王」
 こんなことで彼女を死なせとあればグラン・マやカーラに会わせる顔などない。なによりシャドウミラーを倒すことなどできないだろう。
 仲間を見捨てるような人間は仲間には決して恵まれはしないことは経験則でよく知っているからだ。
 自分に向かってさきほどの攻撃がないうちはルネも生きている。だから狙撃される危険を推してでもソラへと昇らなければいけない。
 やがて、黒い煙と共に自分の目指す先が見えてきた。モニターに表示される施設の映像が段々と大きくなっていく。
 彼はその光景を予想していたが故に絶望はしなかった。
 ソラから狙撃する相手がソラへと行く手段を潰さない理由はない。なにより相手の初撃がここに落ちたのは確認済みだった。
 現実としてグランヴェールは異世界ラ・ギアス以外の空は飛ぶことはできない。見事なまでにルネと分断されてしまった。
「だがシャトルがここにあるだけとは限らない」
 ひしゃげ、潰され、ばらばらとなり炎上する二機のシャトルを背にし、格納庫らしき方向へとグランヴェールを走らせる。
 G-3エリアへと撃ち込まれたビームは一射のみである。ならば破壊されたシャトルはここにある二機だけのはずだ。
 それにA-1にもシャトルはある。地図上では離れてはいるが、自分の予想が外れていなければそこへ行くまでに大きな時間はかからないはずだ。
 レプリ地球―――――ルネがここに来るまでに戦っていた惑星。そこには生命など存在しなかったが建築物などは地球のそれと同じものであったらしい。
 そのレプリ地球を作る技術さえあれば、いや、ちょっとした小惑星をテラフォーミングする技術でもあれば、用意されたMAP規模の世界を作り出すことなど造作もない。
 宇宙MAPのb-2に映る地球らしき惑星はきっとそれなのだろう。なにしろ宇宙ですら戦闘フィールドとしているぐらいだ。
 自分の見たものが虚構でもなければ説明がつかない。本物の宇宙人と日夜戦う自分にとっては、それが最も納得のいく仮定である。
「キタイハソノママ、パイロットハシンデモラウ」
 不吉なことを言ったハロは、分からなかったので適当なハロを殴りつつシャトルを捜す。
 敵機がどの程度の高度にいるのか、ルネがどこまで昇ったかは不明ではあるが、追いつくためにはシャトルが必要だ。

「間に合ってくれよ! ソラ!!」

 シャトルを探すために、ルネを追うためにユウキ・ジェグナンはグランヴェールをさらに加速させる。



【羽佐間翔子 搭乗機体:ウイングガンダムゼロカスタム(新機動戦記ガンダムW~ENDLESS WALTS~)】
 パイロット状況:急加速によるGの負担により体のいたるところに内出血あり
 機体状況:EN30%消費 ゼロシステム稼働中、正面衝突のダメージ
 現在位置:b-2 大気圏上空
 第一行動方針:敵を倒す
 第二行動方針:参加者の人数を減らす。
 第三行動方針:一騎、真矢、甲洋とは出来れば会いたくない。
 最終行動方針:一騎の生存】



【ルネ・カーディフ・獅子王 搭乗機体:ダリア・オブ・ウェンズデイ(ガン×ソード)
 パイロット状態:良好
 機体状態:EN20%消費、正面衝突のダメージ
 現在位置:b-2 大気圏上空
 第一行動方針:敵を倒す
 第二行動方針:基地周辺の探索
 第三行動方針:仲間を集め(タスク、ヴィレッタ、ギリアム優先)、脱出方法を模索
 最終行動方針:バトル・ロワイアルの破壊】

【ユウキ・ジェグナン 搭乗機体:グランヴェール(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)withハロ軍団
 パイロット状態:ソルダートJのコスプレ
 機体状態:良好、コクピット内がハロで埋め尽くされている
 現在位置:G-3 シャトル発着場
 第一行動方針:ルネを追うためにシャトルを確保しソラへと昇る(G-3に無い場合は東へと向かいA-1のシャトルを確保する)
 第二行動方針:仲間を集め(タスク、ヴィレッタ、ギリアム優先)、脱出方法を模索
 第三行動方針:なるべく基地は戦闘に巻き込ませたくない
 最終行動方針:打倒主催
 備考1:グランヴェールはハイ・ファミリア使用不可能。 紅茶セット一式を所持
 備考2:自分が立つ惑星がMAP規模程度しかない小惑星と認識。MAPの端と端は繋がっている、
     もとい小惑星とその周辺宙域のMAPを支給されたと認識】


【一日目 08:30】


 備考:G-3において表に野ざらしとなっているシャトルが二機破壊されました。
    予備のシャトルが残っているかどうかは以降の書き手さんに任せます。


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最終更新:2010年02月21日 17:50