サバイブ ◆ZbL7QonnV



――イスペイルは科学者の悪意と怨念を基に発生した意識体である。
ル・コボルの欠片として戦う力を与えられてはいるが、イスペイルの本質は研究者だ。
未知なる技術の解析と研究にこそ、彼の真価は発揮されると言って良い。
この首輪が如何なる技術で作られた物かは知らないが、人の知識と技術で作られた物である事には変わりない。
それ相応の研究設備と首輪のサンプルさえあれば、必ずや首輪の解除を行えると言う自信があった。

「十六時間以内に二人の参加者を仕留める、か。
 ゲームの参加者が合計七十人で、殺害のノルマを課された参加者は八……いや、結果的には七人か。
 我々以外にも個別で呼び出されて、ノルマを課せられた人間が他に居なければの話だが。
 時間的、効率的な事を考えると、厳し過ぎるノルマである事は否めんな」

不機嫌な声で愚痴を零しながら、イスペイルは首輪の解析結果を検分する。
ヴァルシオーネRのコンピューターと首輪を接続端子で繋ぎ合わせて、爆破条件に抵触しない程度で解析を行おうとしたのだが――
なるほど、シャドウミラーの連中が余裕な態度を見せるだけはあって、それなりに厄介なプログラムのようだ。
少なくとも、ソフトウェアの方面から攻略するには、かなりの知識と設備が必要になる事は間違い無いだろう。

……だが、首輪の爆破コード。
殺害ノルマを課された七人のジョーカー。
イスペイル自身を含めた彼らの首輪に共通する、十六時間のタイムリミットで爆破されると言う条件に関しては別だ。
これについては、かなり有力な情報を知る事が出来た。
二人の参加者を仕留めると言う殺害ノルマをこなす他にも、どうやら爆破条件をクリアする方法は存在するらしい。

「……パスワードの入力。
 バトルロワイアルの支給機体である、以下に挙げられた機動兵器の“正式なパイロット名”を答えよ。
 全十問。七問以上の正解によって、首輪の爆破条件は解除される。一度答えた問題について、再回答を行う事は不可能。
 十問全てに正解した場合、スペシャルボーナスとして支給機体一つ、もしくは参加者一人の詳細情報を得る事が可能。
 なお、ジョーカーに課せられた爆破条件を解除する方法は、各人によって異なる事を追記する、か……」

エヴァンゲリオン初号機、ダンクーガ、ファフナー・マークゼクス、アクエリオン、アルトアイゼン・リーゼ、
ジャイアント・ロボ、グレートマジンガー、ZZガンダム、ウイングガンダムゼロカスタム、クロスボーンガンダムX3。

全く見覚えの無い機体名が羅列する様子を眺めながら、イスペイルは今後の方針を頭の中で纏める。
まず真っ先に優先するべきは、首輪の爆破条件を解く事だ。
二人の参加者を殺すか、それともパスワードの入力を行うか。
どちらにせよ、他の参加者との接触は避けられまい。
イスペイルは知らなくとも、他の参加者はパスワードの答えを知っている可能性が非常に高い。
人殺しを厭う気持ちなど、ル・コボルの欠片であるイスペイルには存在しない。
だが、首輪の爆破条件の事を考えると、考え無しに参加者を殺して回る事は避けた方が良さそうだ。

このバトルロワイアルに支給された機体とやらに、直接当たってみるのも手かもしれない。
自意識を持った機体であれば、機体自身の口からパイロット名を聞き出す事が出来る。
ログや設定を調べる事が出来れば、ユーザーネームを探り当てる事も不可能ではあるまい。
コンピューターが破壊されては、何の情報も引き出せなくなる。機体の壊し方についても、ある程度考慮した方が良いだろう。

……この会場内に存在する施設を調べてみるのはどうだろうか。
可能性は低いかもしれないが、シャドウミラーのデータベースにアクセスする事が出来れば、機体の情報を得る事も可能なはずだ。

「人と機体が集まりやすく、データベースのアクセス権を得られる可能性が高い、最も手近なエリア。目指すべきは、それだな。
 この位置からだと、A-1……もしくはG-2周辺の基地を目指すべきか。
 私と同じく、ジョーカーとして選ばれた参加者も施設に向かっているやもしれん。
 大規模な戦闘が発生しない内に急いだ方が良さそうだな……」

パスワードによる爆破条件の解除について、イスペイルに疑いを持つ気持ちは無かった。
解けないパズルを寄越されたと言う事は、まず無いと考えて良いからだ。

そしてイスペイルが“パスワード”の存在に気が付いたのは、かなり注意深く首輪を調べてみた結果の事だ。
おそらくジョーカーの中でも、このような抜け道が存在する事に気付いた者は多くあるまい。
血気に逸る若者や、怯えた表情を見せる子供。
この殺し合いと言う状況下で冷静さを保ち続けられる人間が多くないだろう事は、あの場に於ける反応を見れば充分であった。
あの場に呼び出された自分以外の七人――いや、今は六人か――の顔と声は記憶している。
自分が握っている解除条件に関する情報は、なんらかの交渉カードに使う事も不可能ではない。
命が助かる方法を増やせるとなれば、あの場に居た七人――また間違えた、六人だ――は恐らく耳を傾けてくれる余地はあるだろう。

「……生き残って見せるぞ、私は」

決意の呟きを洩らしながら、イスペイルは機体を目的地に向かわせる。

――生存。
ル・コボルの欠片から生れ落ち、いずれ消滅する事を宿命付けられたイスペイルの、それが生きる目的であった。
イスペイルは生きる為に抗い続ける。
このバトルロワイアルと言う状況に於いても、それは全く変わる事が無かった。





【イスペイル 搭乗機体:ヴァルシオーネR(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
パイロット状況:良好(いつまでも苛立ってはおられん……)
機体状況:良好
現在位置:D-7 南端部
第一行動方針:まずは生存する為にノルマ(ノーマル、アナザー、どちらでも可)を果たす
第二行動方針:出来れば乗り換える機体が欲しい
最終行動目標:自身の生還
備考:首輪の爆破解除条件(アナザー)に気付きました】

【一日目 7:30】


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最終更新:2010年01月20日 01:04