バッドラックは突然に ◆ZbL7QonnV.


「……無人、か」

D-6エリア南部の町に、男の声が響き渡る。
眼帯と銜え葉巻が特徴的なその男は、誇り高きBF団十傑集の一人、衝撃のアルベルトに他ならない。
彼はC-7エリアにて戦闘を行った後、比較的近辺に存在していた施設を目指していた。
シャドウミラーと名乗った組織が何者であるのかは知らない。
だが、衝撃のアルベルトは、あくまでBF団に忠誠を捧げた戦士である。
自分の命が握られているからとはいえ、偉大なるビッグ・ファイア以外の命令に従うような真似は、彼のプライドを逆撫でする結果となっ

ていた。
だが、現状のアルベルトに打つ手は無い。自分の身に生じている異常事態を、BF団に伝える手段が無いからだ。
たとえ通信機が無かったとしても、アルベルトは愛娘であるサニー・ザ・マジシャンと精神的な繋がりを持っている。
彼女を通じて事態の報告を行う事さえ出来れば、こんな下らない殺し合いを続ける必要は無くなる。
シャドウミラーと言う組織が如何ほどの力を持っているのかは知らないが、無名の組織如きがBF団に勝ると言う道理はあるまい。
BF団との連絡を付けさえ出来れば、後はもうシャドウミラーとやらの命令に従う必要も無くなる。
あのヴィンデルとか言う男を抹殺して、組織を壊滅状態に追い込む事は余裕で可能なはずであるからだ。
そうする事が出来ないのは、どうやったのかサニーとの精神的な繋がりを絶ち切られているが故の事であった。

(テレパシーのジャミングか? まったく、姑息な真似をする連中よ)

……おそらくは、サニーを通じて混世魔王・樊瑞にも、アルベルトの身に異常が生じた事は伝わっている事だろう。
詳しい事情はわからずとも、何らかの異常事態が生じた事はBF団側も理解しているはずだ。
通信装置の一つでも調達して、自分の状況を外部に知らせる事が出来れば、あの気に入らない連中を即刻片付る事が出来る。
そう思って、アルベルトは雪原を突っ切り町に向かった訳だが――

「……それにしても、えらく前時代的な街並みよ。今時、発電施設とは。シズマドライブが全く見当たらん」


無人の町を調べた結果は、アルベルトの頭に疑問を植え付けるだけであった。
シズマドライブ。アルベルトが元居た世界で使われている、完全リサイクル可能で無公害なエネルギー。
全世界で標準的に使われているはずのそれが、この町では全く見当たらない。
いや、それだけではない。
BF団と連絡を行うべく探し求めていた通信機は見当たらず、これまた時代遅れの電話機があるばかり。
その電話にしても回線は途絶えており、全く使い物にならない状態となっていた。
そもそも、これだけ大きな町がゴーストタウン化している事がおかしい。
生活の痕跡自体は存在するのだ。
まるで住人だけが一瞬で消えてしまったかのように、生き物の姿だけが見当たらなくなっている。

……戦士としての経験と直感が告げている。
この町は……いや、この“世界”は、どこかおかしい……。

「……ちっ」

苛立たしげに舌打ちを鳴らして、アルベルトは考えを止める。
どうでもいい、詮無き事だ。
道路の真ん中に立ちながら、アルベルトは名簿を広げて目を通す。
名簿に記された参加者の名前を確認するが、この殺し合いに招かれたBF団の人間は自分だけ。
おまけに参加者の中には国際警察機構の九大天王である、静かなる中条も招かれているらしい。
生涯の宿敵である神行太保・戴宗でない事だけは残念だが、九大天王の一人を仕留める機会が訪れたと考えるなら、今の状況は悪くない。
つまらない思索に時間を取られるくらいなら、この強敵を倒す為に全力を注ぎ込むべきだ。
それでこそ、BF団十傑集! それでこそ、衝撃のアルベルト!

「ご期待下さい、我等が偉大なるビッグ・ファイア。目障りな国際警察機構の九大天王は、この私が必ず始末してご覧に入れましょう」

得体の知れない不安を振り切って、アルベルトは雪原の町を後にする。

だが――







「ん……?」

……町を抜けて、しばらくの事である。
雪原を走り続ける彼の耳は、不気味な轟きを感じ取っていた。
ひどく、嫌な予感がする。
このままでは、なにか拙い事が起こってしまいそうな。
命の危険は感じない。
だが、これは……いったい、何の予感だ?

……アルベルトは知らない事だが、今と時を同じくしてD-6エリアでは激しい戦いが繰り広げられていた。
カナード・パルスと、アナベル・ガトーの戦いが、大きな山を隔てた向こう側で行われていたのだ。
両者の戦いは熾烈を極めて、そして攻撃の余波によって雪崩が引き起こされるに至った。

もう、お分かりの事だろう。
アルベルトの感じた不安が、何を感じ取っての事だったのかは。

ズズ、ン…………!

轟き渡る、低い音。
ゆっくりと山の上に視線を向けてみると、なにか真っ白い奔流が勢いを付けて落ちて来る様子が目に見えた。
……いや、持って回った言い方は止めよう。
雪崩、だ。
大量の雪が山頂から滑り落ちて来ている……!

「なぁ…………!?」

運悪く山の麓を走っていたアルベルトにとっては、不運の極みと言うしかなかった。

大量の雪が――
轟音と共に押し寄せて――――!







……まあ結論から言うと、アルベルトは生きていた。
自然の猛威は恐るべきものだが、十傑集たる者、雪如きに押し潰されて死んだとあっては末代までの恥だ。
超人的な身体能力と、衝撃波を自在に操る力によって、アルベルトは無事に雪崩をやり過ごしていた。

ああ、いや……無事と言ったら、少し語弊があるかもしれない……。

「……………………ぶあーーーーーーーっくしょい!!!!!」

……びしょ濡れであった。
雪解けの水が凍り付き、アルベルトの身体を凍えさせていた。
BF団十傑集であるアルベルトは、雪崩に殺されると言う事は無かった。
それどころか、怪我を負う事すら全く無かった。
それは、確かに驚くべき事である。

だが、この状況を見ては決して無事に済んだとは言えまい。
いくら超人的な身体能力を持つとはいえ、アルベルトも人の子である。
極寒の雪原で氷漬けになっていたら、まず間違い無く凍死してしまう事だろう。

「さ……寒い! 寒いぞ! 何故だ……何故急に雪崩など……!? い、いや、今は暖を取る事が先決……!
 そ、そうだ……! さっきの町になら風呂が……!」

ガチガチと凍えた身体を震わせながら、アルベルトは元来た道を引き返して行く。

……風呂だ。
今はとにかく、熱い風呂に入りたい。





【衝撃のアルベルト 搭乗機体:なし
 パイロット状態:めっちゃ寒い……!
 現在地:D-6 山麓(南側)
 第一行動方針:風呂だ、風呂!
 第二行動方針:静かなる中条を抹殺する
 最終行動方針:参加者、次いで主催者を狩る
 備考:サニーとのテレパシーは途絶えています】

【一日目 8:30】


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最終更新:2010年01月22日 23:11