私の石を受け継いで ◆VI1alFlf1E
別に、人を蔑む気持ちがあるわけではなかった。
完全なテッカマンとなるフォーマットの最終段階において、不適合と判断され排出されてしまったために『失敗作』の烙印を押され、
その結果人としてもテッカマンとしても中途半端な存在となってしまった自分が、どうしてそんな気持ちを持つことができようか。
細胞の連鎖崩壊を受け、ただ死を待つだけのこの身体。
こんな自分に比べれば、何の力も持たないただの人間のほうがどれだけ立派に生きていることか。
人に対する気持ちは蔑みなんかよりもむしろ、もはや取り返すことのできないものへの羨望といった側面のほうが強かった。
自分はあのラダムに支配された奴らとは違う。あいつらこそは、人をそういう対象としか見ていない。
しかし……それでも、こう思わざるを得なかった。
(ただの人間が……どうしてここまで!?)
膨大なエネルギーを持った黒い衝撃が、レイピア……相羽ミユキの駆るダイテツジンの巨大な右腕を破砕する。
機体のバランスが崩れて左に傾きかけるのをなんとか拙い知識を総動員して立て直そうとするが、
その隙を敵が見逃さないはずがなく矢継ぎ早に襲ってくる奔流に今度は左足が根元から吹き飛ばされる。
「きゃああっ!」
こうなってはその巨体を支えてくれるものは何一つなく、本来ならば仮想悪と戦うために作られたヒーローの機体は無様に地に堕ちるしかない。
スローモーな動きで崩れ落ちてゆくところを、しかしまだ相手は許してくれないらしい。
倒れようとしている方向から、また新たな衝撃の波。
それは胴体部にぶち当たり、貫通こそしなかったものの一気にダイテツジンの身体を押し上げ、無理矢理元の位置まで戻してくる。
さながらダウンは許さないとばかりに一方的に嬲られるボクサーのようだ。
ここに至り、ミユキは気づく。
相手は戦っているのではなく、この巨大なロボットを使って遊んでいるのだということに。
「ふん、そのようなものを持ち出せばわしに勝てるとでも思ったか。十傑集も舐められたものよ」
岩場の上に立ったまま一歩も動かず、その男は右手から左手から次々と黒き暴風を……否、衝撃を放ち続ける。
その姿に恥じぬ二つ名を持つその男は、衝撃のアルベルト。
世界征服を目論む秘密結社ビッグファイア――BF団の幹部、十傑集の一人であり、
彼のシンプルであるが故の強大な力はその中でも最強と呼ぶに相応しいものだった。
彼の右目はメカニックアイパッチなるもので覆われており、その奥にあるはずのものは存在しない。
かつて憎き仇敵に盟友と共に奪われたものであり、故に彼はそれを奪った男に借りを返さなければならない。
載宋……己が仇にして最大のライバル。
以前一度戦ったが、その時は邪魔が入り不完全燃焼で終わってしまった。
あの男があれで死んだとは考えられない。奴との決着は、まだついていない。
だからこそ自分は、元の世界に戻らなければならないのだ。
あのヴィンデル・マウザーなる男は言った。
意を尽くし、力を振るい、策謀を巡らし、信義を踏み躙り、己の全てを賭けて戦えと。
――よかろう、望むところだ。
奴らがそれを見たいのならば存分に見せてやるぞ。
だがそれは当然、己ら自身も勘定に含まれていることを覚悟していての発言であろうな。
その覚悟すらなくこの十傑集が一人、衝撃のアルベルトをこのような世界に閉じ込めたとあれば。
「その傲岸にして不遜な罪、百度死しても贖われないものと知れええええ!」
両手を突き合わせ、前方で醜態を晒すロボットにとどめを刺さんと威力、規模共に最大の衝撃を解き放つ。
それは余波だけで地面を抉り、大気を突き破り、容赦なく目標物を完全に破壊せんと奔ってゆく。
その威力は直撃すれば、中の搭乗者もろとも跡形もなく消し去るであろうことを容易に想像させた。
――しかし。
「――時空歪曲場(ディストーションフィールド)」
「!? なに!」
アルベルトは自分に残された左目が不良を起こしたかと疑った。
その何もかもを破壊するはずの衝撃の奔流が対象物に到達する直前、機体を包み込むようにして突如として結界がこの世に現出したのだ。
「……面白い!」
ここに来てアルベルトは笑う。
それが並大抵のものならば、なんら障害にはなりえない……薄いガラスを叩き割るようにして軽々と突破してみせよう。
だが、意地を見せるというのなら見せてみろ。この衝撃のアルベルトを楽しませてみせろ――!
やがてその結界と衝撃がぶつかり合い、蓄積され逃げ場を失ったエネルギーが無理矢理周辺に撒き散らされる。
こちらに慢心はなく、全身全霊を賭けた本気というわけではないが奴を倒すには十分すぎるほどの破壊力をもった一撃を放ったはずだ。
これで負けるはずがない。負ける、はずが……
「……馬鹿な」
驚愕に目を見開く。
己の放った衝撃波は徐々に威力を弱めながら左右に分裂していき、やがて方向を変えてそのまま直進し、消えていった。
対して結界のほうは未だ健在。まるでそれを誇るかのように展開し続けている。
この結果を見れば、勝敗は明らか。
完全な本気ではなかったなど、言い訳にはならない。こちらは何があろうと突き破るつもりで攻撃したのだから。
「なんとか……間に合ったみたい……」
目に見えるような明確な損傷はないものの、一つ一つが強力な上に数え切れないほどの数の衝撃に前後左右に振り回されて
気力、体力共に消耗したミユキが、弱々しい声を発した。
事前にマニュアルを読んではいたものの、実際動かすとなると勝手が違って時間がかかりすぎてしまった。
もう少し早くこれができていれば、戦局も変わっていたかもしれないが……それももう、今さら後悔しても仕方ない。
それでもギリギリのところで発生させることができた。
半分祈るような気持ちだったが、その強力な磁場はあの衝撃であろうとも関係なく全てを防いでくれた。
今はそれで良しとしよう。
(タカヤお兄ちゃん――)
まだ倒れてはいけないと念じつつも、目の前がぼやけてゆく。
やがてミユキはコックピットに突っ伏すと最愛の兄の姿を思い浮かべたまま、意識を遠ざけていった。
磁場フィールドを現出させた機体……ダイテツジンもまた、
アルベルトが驚きで攻撃を中断している間に今度こそ役目を終えたとばかりに結界を消失させ、力尽きる。
もはやもう一度フィールドを出すことも、動くことすらもままならないだろう。
「おのれ……」
倒れゆくロボットを見つめながら、衝撃のアルベルトは歯噛みする。
今もう一度攻撃することであの機体を破壊することは容易い。
だがそれは、自分が奴に負けた上に恥を上塗りするということになる。
中の搭乗者が今も生きているかは不明だが、ここにきて追い討ちをかける気にはどうしてもなれなかった。
「ちいぃ……もしも次同じようにやりおる時がくるならば、容赦はせんぞ」
悔しげに相手から顔を背けると、岩場を背もたれにして座り込んでいる、自分に支給された機体をじろりと睨む。
こんなものに乗らずとも十分に戦えるために放置していて、あとで自らこの手で破壊してやろうと思っていたものだが
あの搭乗者が仮に生きているとするならば、自分に一矢報いてみせた褒美としてこれをくれてやってもいい。
胸に獅子の紋章を象った、まるで目にバイザーでもつけているかのような機体。
命拾いをしたのは向こうだけでなく、こいつもか。
フン、と一度鼻を鳴らすと、アルベルトは岩場から飛び降りて次の獲物を探し求めんと歩き出す。
葉巻をポケットから取り出して口に咥えると、右手から軽い衝撃の風を巻き起こして火をつける。
やはりこんな時でも、それはいつもと変わらずうまかった。
【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日 搭乗機体・なし】
参戦時期:載宋と一度戦った直後くらい
パイロット状態:良好
現在地:D-7
1:参加者、ついで主催者を狩る
2:己の力を過信しすぎない
※名簿やマニュアルを見てません
※C-7岩場付近にダルタニアスを放置しています
【1日目 06:35】
◆
「おいっ、あんた大丈夫!?」
アルベルトが去り、十分ほど時間の経過した平地。
そこには至るところが破壊され、見るに耐えない姿となって横たわるダイテツジンともう一体、マシンといえるかどうかもわからない形状の機体があった。
見る人が見れば嫌悪感を催すかもしれない生物的なフォルム。
その最大の特徴は巨大な目の描かれたハート型の頭部だ。
その名をジンバ。れっきとしたオーバーマシンである。
その機体に乗って偶然この場を訪れたジロンは惨状に驚くと、とにかく中にいる人の安否を確認せんとマニュアルに書かれてあったジンバの能力を使用した。
最初に何度か練習してはいたものの、まさかこんなに早く実践する時がくるとは思わなかった。
オーバーマシンと名のつくものにはそれぞれ特殊な能力が付与されており、このジンバには『窃盗』というスキルがある。
これはジンバが距離や大小を問わず対象に向かって手を伸ばし、掴む仕草をするだけであらゆる物体を透過し、それを手中に収めることができる能力である。
とはいえそれも、どこに何があるか正確にわかった上でないとあまり意味をなさない。
この場合、目の前の機体のコックピットがどこにあるのかを把握していなければ、中の人を助け出すことはできない。
ジロンは己の勘に頼り、頭部か胸部あたりに狙いを絞って手探りで探し続け、ようやく目的にたどり着く。
それがわかればこっちのものだ。
ジンバの手の平からまるで磁力のようなエネルギーが発生し、軽く握るといつの間にかそこに確かな人の手ごたえを感じた。
ゆっくりとその手を広げると、年の頃はエルチと同じくらいだろうか、まだ少女と呼んでも差し支えない娘が目を閉じたまま倒れ伏している。
「ちょっと、しっかりしなさいって! ……ええい!」
なるべく平らな場所を選んで彼女を降ろすと、自分もまたジンバから飛び降りて駆け寄ってゆく。
近くまで来て見れば、本当にまだ顔に幼さの残る少女だ。
こんな娘が、あのマシンに乗ってボロボロになるなんて一体何が起こったのだろうか。
いや、そんなことは今はどうでもいい。
既に死んでいる可能性もあるが、生きているなら早く何とかしないと手遅れになるかもしれない。
まず息があるかどうかを調べて、息していないようならば気道を確保して――
「――あ……の……」
「!」
呼吸をしているかどうか、少女の口元へ耳を近づけようとしたところで、ジロンは彼女のか細くではあるがはっきりとした意志のある言葉を聞いた。
顔を離して見てみると、うっすらと目を開いてもいる。
だがあのロボットが転倒した時に頭でもぶつけたのだろうか、元々衰弱した身体に加えて意識が朦朧としていて、
それは最後の力を振り絞って声を発しているかのように見えた。
「これ……渡して……ください。タカヤ……お兄ちゃんに――」
小さく震えながら差し出してくるその右手には、何やらキラキラ光る結晶が握り締められていた。
こんな時でなければ金目のものとして素直に喜んでいるところだが……
「これがあれば……タカヤお兄ちゃんは戦える……だから、これを……」
少女……ミユキの持っているその結晶は兄、相羽タカヤのテッククリスタル。
これが自分の支給品の中に入っていたのは、運命か。それともあの主催者の悪戯心か。
どちらでもいい。大事なのは、兄はこれがなければテッカマンとして戦うことができないという事実だけだ。
自分のようにロボットに乗り込んで戦おうとするかもしれないが、不慣れな環境ではどうしても周りに遅れ、今の自分みたいにやられる可能性が高い。
この身体は、きっともう駄目だろう。どうせ残り少ない命。死ぬのが少し早いか遅いかの違いだけだ。
できれば自分の手で渡したかったが、これを誰かに引き継ぐことができれば、今は十分――
「ん~~~~……いやだ!」
その時丸顔の男性が何か言ってきた。
……最初、その言葉の意味がよくわからなかった。
「これが何なのかは知らないけどもね、君みたいな可愛い女の子がそんな今にも死にそうなこと言ってちゃダメダメ!
これは君が、君の手で、お兄ちゃんに届けなさい! こっちは断固として断らせていただきます!
それでもどうしても諦めるっていうんなら、俺はこのクリスタルをタカヤお兄ちゃんに渡さずにどこかに売っ払っちゃうぞ!?」
「…………」
この人は何を言っているのだろう。
普通、今生の頼みというのは誰でも聞いてくれるものじゃないのだろうか。
なんだか怒りのような恥ずかしさのような、そんな感情がない交ぜになったような気分だ。
ただ一つなんとなくわかるのは、この人は決して自分の頼み……いや、甘えを聞いてくれないってこと。
「俺はジロン・アモス。その道中なら、一緒に付き合ってあげるからさ!」
こんな時に太陽のような笑顔でそう言ってくるジロンに対して、ミユキはどのように反応を返せばいいのかわからなかった。
【ジロン・アモス@戦闘メカザブングル 搭乗機体・ジンバ】
参戦時期:原作終了後
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在地:C-7
1:目の前の少女を元気付ける
2:とりあえず彼女の意識がはっきりするまでこの場で休む
3:ティンプと決着をつける
※ダルタニアスの存在に気づいてません
【テッカマンレイピア(相羽ミユキ)@テッカマンブレード 搭乗機体・なし】
参戦時期:ラダムから脱走した直後
パイロット状態:衰弱、混乱
現在地:C-7
1:どうしたらいいのかわからない
2:タカヤ(Dボウイ)にテッククリスタルを渡したい
※C-7にダイテツジンが大破した状態で横たわってます
※ダルタニアスの存在に気づいてません
【1日目 06:50】
最終更新:2010年01月17日 18:31