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126 :団子と嘘と子キツネ ◆v8ylbfYcWg :2008/09/03(水) 01:38:07 ID:FzNNuZ1E

一台のバスが停留所を後にした。ポツンと、一人の男が停留所に降り立つ
地味なワイシャツに地味なジーンズとマッチしたとても地味な男――森下隆也は小さく停留所の看板に振り向く
「高杜市……ねぇ」
人知れず森下はそう言って小さな溜息を漏らした。彼がこの辺鄙な町に来た目的は一つ
別居している妻の慧との再会、及び息子の誠二との1年ぶりの対面だ。仕事が多忙すぎた為、住居地は分かっていながら殆ど会えなかったのだ

町へと向かう坂道をとぼとぼと歩きながら、森下は周りの情景――街路樹に目を奪われる
ここに向かう前のバスで呼んだガイドブック――にはこう書いてあった。緑地に恵まれ、自然と触れ合える町と
この町には来たのは、慧と誠二と1年前に新しい住宅地の様子見に来て以来だったが、なるほど、ここは良い町だ
都会に仕事の為に長らく暮らしている森下には、いっそう高杜市の環境が良きものに思えてきた。やはり引越ししたのは正解だったのかもしれん

ふと、誠二の為に何か買ってやりたいなと、森下は思った。何しろ1年ぶりの再会なのだ
手ぶらでは少々味気ないというか、1年も離れていた誠二に申し訳ない。ここから慧と誠二の住む住宅街からは結構遠い
ふと立ち止まり、高森は片手間のハンドバックから例のガイドブックを取り出す。執筆者の名が少々変わっており、森下は妙にそれが可笑しかった
ここから北にいくと湾岸に出て、南にいくと駅とショッピングモールに出るらしい。と……ふと高森の目にあるスポットが映りこんだ

この先、住宅街に向かう途中に、高見神社なる神社があるらしい。丁度高見山――のふもとに、慧と誠二の住む住宅街がある
元々高見山の近くは豊かな森々が軒を連ねており、その土地を利用し、住宅街が建設されたという
山が近いだけあり、非常に自然が近い。森下が高杜市に住宅を構える理由はそこにもあった
誠二は元々喘息ぎみで、都会に住むには少々厳しいのだ。それに高杜市には一般知名度の高い学校もある。迷う理由は無かった

「山を登った先にあるのか・・・少々しんどいな」
ガイドブックをしまい、苦笑気味に森下はそう呟き、また歩き出した。無論目的地は高見山、及び高見神社である
日々、様々な業務の為に都会をくまなく歩き回る森下にとってそこまで行くにはさして苦労は無かった
が、意外にも高見神社まで向かう階段がなかなか険しく、喫煙者でもある森下には苦行となった
息を尽かし足腰を無理やり奮わせながら、どうにか高見神社の境内まで辿りつく

「つ・・・着いた・・・」
両手を両膝に乗せて弾んだ息を整えながら、森下は周りの景色に目を移す
――美しい。なるほど、ガイドブックにも掲載されるほどだ。高杜市を一瞥できるその光景は、森下はただただ感嘆するばかりだった
と、ここに来た理由を忘れる所だった。誠二に団子を買う為にここまで来たのだ。ガイドブックによれば、神主夫妻が絶賛するほどの美味らしい
それはおそらく誇張だろうが、それほど美味しい物ならお土産として買っても良いだろう

――実は長らく誠二と会ってない為、誠二が何を好むか分からないのは内緒だ。森下は正直、誠二と会うのは少し緊張するのだ
と、言うもの突然仕事に休みが出来た(ネガティブな意味ではない)為、今回の高杜市帰郷は慧と誠二には全く教えてない為だ
それに突然訪れた方が、ちょっとしたサプライズになるだろうという森下の少々身勝手な考えのせいもある

例のだんごはというと、ご神木が奉られている近くの小さな屋台で売られているらしい
さっそく森下はその屋台まで向かった。店には様々な種類の絵馬と、八方系の形をしたおみくじが置かれていた
立て札にはそれぞれ絵馬とおみくじと、名物の団子である高見団子の値段が書かれている

300円か、まぁそんな物かな。ハンドバックから財布を取り出し、小銭を漁る。と、ふとした緩みから100円玉が転がってしまった
森下は慌てて転がっていく100円玉を追いかけた。が、無常にも100円玉は鏡内に上がる際の階段に落ちてしまった
自らの運の無さに森下は大きく溜息をついた。もう一度買わなければ・・・と思い振り向いた矢先、

「久しぶりね」

そこには黒髪をなびかせ、ピンと張り詰めた表情の――

「・・・慧」




続く・・・かも?

 >>76-77さんの設定を借用しました、すみません



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最終更新:2008年09月07日 01:08