242 :団子と嘘と子キツネ ◆v8ylbfYcWg :2008/09/07(日) 00:51:17 ID:0dKAl97k

2話

意外な人物の登場に、森下はしばし言葉を忘れた。というか絶句だ。まさかこんな場所で、慧と出会うとは夢にも思わなかった
何か会話の、会話の糸口を探さねば。森下は今まで呆けていた脳細胞を必死に回しはじめ――たが
「お久しぶり、ってさっき聞こえなかった? ごめんね、驚かせちゃって」
黒髪をなびかせながら、慧は仏頂面のまま声だけ申し訳無さそうに言った。その姿はとてもラフだ

上は涼しそうな絵柄のTシャツに、下はライトブルーのジーンズ。もうすぐ30代だが、体のスタイルは全く崩れていない
と・・・・・・森下は久々に再会した妻を視線で一瞥した。慧は森下を見つめてじっと動かない
二人の間に奇妙な雰囲気が流れ、それが数十秒続いた後、森下は俯いたまま、慧に答えた
「いや、俺こそ突然尋ねてきてスマン。連絡くらい入れればよかったな」

慧は小さく首を横に振った。どこか陰りがあるのは気のせいだろうか・・・・・・恐らく
「ううん。・・・・・・でも本当に突然だね。まさか・・・・・・」
そう言うと慧はにやりと、悪戯っぽく笑みを浮かべた。その慧の表情に、森下は苦笑を浮かべた
「相変わらずだな、君は」
「あなたほどでも」

境内を出て、階段を下りながら森下は慧の近況報告を聞いた。電話や手紙で幾度か連絡しあったが、直で聞くのは本当に久しぶりだ
確か――いかん、思い出せない。森下は自分の記憶力の無さが憎い
慧は淡々と、先ほどの笑みを浮かべて、時折森下が自分の話を聞いているかを確認しながら近況報告をした
誠二が学校の交通安全週間の絵画大会で金賞を取った事、高杜駅のモールで映画館がオープンした事、住宅街に有名なカフェが移転した――
と、ふと森下は慧の話をさえぎった。慧が不思議そうな表情を浮かべた

「詳しい近況を教えてくれて有難う。それで……君は高見神社で何をしてたのかな?」
んーと、慧は人差し指を唇に当てて、考えるそぶりを見せる。その仕草に森下は妙に懐かしい気分を感じた
「別になーんも。ちょっと涼みに来たのだよ。今日はバイトも無いしね」

「……バイト? それは聞いてないな」
森下がすこし眉を潜める。電話や手紙でバイトの話は聞いた事が無い。ここは聞いておくべきだろう
「それで、どんなバイトをしているんだい? スーパーとかか?」

丁度二人が階段を降り終えた瞬間、ふわりと慧が振り返った。爽やかなリンスの匂いが森下の嗅覚をよぎる
「秘密。いつか教えてあげるよ、いつかね」
人差し指に唇を当てたまま、慧はそう答えた。その慧の表情に、思わず森下は呆れて良いやら苦笑して良いやら迷った
けれど――けれどその反面、慧の様子が変わっていない事に安心した。この人を食ったような性格に、森下は惹かれたのだ

「誠二はまだ小学校から帰ってこないから、ちょっと二人でこの辺周ろうよ。どうせ暇でしょ?」
住宅街に向かう街路樹を歩きながら、前方を歩く慧が、森下の方にちらりと顔を向けて聞いた
そうだなぁと腕を組み、森下は考える。二人でゆったり話せる場所――と考えても、自分では思い浮かばない
と言うか、1年前に来ただけでこの辺の地理には殆ど無知に等しい。だからどうするかと言うと

「すまないが君に一任するよ。詳しいんだろう?」
出来るだけ柔和な感じでそう聞くと、慧はくるりと右手首を回転させ、敬礼した
「了解。……でさ、その何というか、柔和な笑みって奴? 隆也君には似合わないよ、ぶっちゃけ」
慧の言葉に、森下はむっとした。途端、慧はニヤニヤする、そしてこう続けた
「そうそう、いつも真面目な顔の方が、隆也君らしいよ」

「それで何処に行くんだ? 俺としては少し小腹が空いたので……」
森下が慧に、多少不満げにそう聞いた。途方も無く歩いて既に30分ほど経っている
慧は悠々と歩いているが、森下の体力は実の所、底を尽きそうだった。足腰も軽くフラフラだ
確かこっちの方面は住宅街だったな。そんな中でも、森下は周辺の景色を眺める。数々の木々を挟んで、カラフルな住宅が軒を連ねる
その中で一際目立つ建物が、森下の視界に映った。茶色と灰色のシックな色に反して、デフォルメされた巨大なキツネのイラストが書かれている
「あ、ごめんごめん、ほら、そこだよ」

慧が立ち止まり、どこかを指差した。森下がその指の指す方へと視線を向ける
「そこが、私の言った住宅街に越してきたカフェ――リトルフォックスだよ」
「ほぉ・・・・・・」
慧が指差した先には――そのキツネのイラストが書かれた奇抜な建物が、細長い木々を挟んで蒼然としていた












キャラ紹介

森下隆也 
  • 173cm・31歳 
  • 髪型も身なりも地味な男。また、自己主張をあまりしないが、言うべき時には言うタイプ
  • 慧とは結婚して5年目。慧の性格には時折困惑するものの上手くサポート出来る為、険悪な仲になった事は無い

森下慧
  • 166cm・29歳
  • 黒髪ロング(仕事時にはポニーテール)で、ラフな服装を好む
  • 飄々としていて、尚且つ発言や行動がどことなく読めない不思議な性格。だが不思議な事に隆也とは阿吽の関係

森下誠二
  • 154cm・9歳
  • 高森学園初等部に通う小学4年生。特異科目は美術・苦手な科目は国語
  • 隆也と同じくどことなく地味な少年。友達間では無口と言われているが、自己主張が苦手なだけである

高杜学園初等部の設定を使わせていただきました。なるたけ矛盾が出ないようにしますね
また、新キャラが出るたびに、紹介させていただきます


244 : ◆v8ylbfYcWg :2008/09/07(日) 00:56:34 ID:0dKAl97k
   ってごめんなさいоrz
   結婚して5年目じゃ誠二の歳に矛盾が出ますね
   結婚して10年めに修正しておきます





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最終更新:2008年09月08日 00:05