266 :団子と嘘と子キツネ ◆v8ylbfYcWg :2008/09/07(日) 23:47:19 ID:0dKAl97k

3話

慧に腕を引っ張られながら森下が店内に入ると、小洒落たBGMと明るい雰囲気の店内が二人を迎え入れた
客らしき人物は、今の所森下と慧だけの様だ。複数並んでいる白色のテーブルとイスが、窓の日光に照らされ美しいコントラストを作り出す
正面にはカウンターがあり、茶色のビンテージ物を思わせるイスが六つ並んでいる。と、森下はふと目を細めた
そのイスの一つに、おそらくエプロンをつけた…・・・筋骨隆々としたスキンヘッドの男が座っている。黙々とこちらに背中を向け、何かしている

おしゃれな店内に反して……と言えば失礼だが、そのスキンヘッドの醸しだつ雰囲気は、具体的には表現できないが確実に浮いていた
森下はどうしようか、横にいる慧に聞こうとした、が
「おーいこんちゃん! 今日もお仕事お疲れさん!」
気づけば慧が、手を振りながらスキンヘッドへと歩いていくではないか。森下は軽く驚く。眉が上がるくらいには

慧の呼びかけに、スキンヘッドは大きな図体でゆっくりと振り返った。図体と見合う、かなりの強面だ
「……いらっしゃいませ」
腹から搾るような渋い声で、スキンヘッドがそう言ってイスから立ち上がる。どうやらコップを拭いていた様だ
かなり丁寧に拭かれていたらしく、きらりとコップのふちが光る。スキンヘッドが座っていた席に慧が座る
森下ははっとすると早足で、慧の隣に座った。スキンヘッドがカウンターの中に入り、黙々とコーヒーを焚き始める

「あれ、そういやヘレンは買い物?」
慧がカウンターの中のスキンヘッドに向かい、気さくな口調で話しかける。慧の様子に、森下は若干訝しげな表情で
「君、彼と知り合いなのかい?」
と小声で聞いた。慧は少しだけ森下の方に体を向けると、左手でバスガイドのような仕草を作り
「彼は近藤君。ここのアルバイトしてるの。近藤君の入れる珈琲とか紅茶ってすっごく美味しいんだよ」

満面の笑顔で慧はスキンヘッドの――この店のアルバイトである近藤を紹介した
近藤は森下に小さく会釈をし、森下も会釈し返す。二人のやり取りに、慧はニヤニヤし、ふと思い出した様に
「あ、そうそう、でヘレンは何時帰ってくるの?」
と言った。近藤はグラスを洗いながら、視線を慧に向けずに返答する

「多分もうすぐですよ。今向かってると思います」
「ただいまー! っと、おー慧、昨日ぶりじゃーん」
突然、入り口のドアを豪快に開ける音がして森下が振り返る。
そこには、長身で金髪のショートカットである、聡明な顔の美女がスーパーの袋を両手で持って立っていた
美女は一息つくと、袋を持ったまま店内に入ってきた。そのまま近藤がいるカウンターの中まで進み、慧と森下をちらりと一瞥する


「近藤、後は私がやっとくから、店の前の花壇を見てくれるかな」
美女が近藤に向かいそう言うと、近藤は無言で頷き、カウンターの中から出て行った。その際にスコップの入ったバケツと、じょうろを手に持って
非常に手際よく、美女が背後の小型冷蔵庫にスーパーで買ってきたであろう食材を収納し、戸棚に近藤の拭いていた幾つかのグラスをしまう
その様子を眺めながら、森下は慧に目線を向ける。じっと正面を見据えている慧の横顔はどことなく幼く感じる

「お待たせー。じゃ、慧はいつもので良い? それで……」
美女が森下に視線を合わせる。その表情にはどことなく悪戯っ子のようなものを感じる
森下は美女の視線に少しどぎまぎし、小さく俯いて注文した
「俺は……ブラックコーヒーを頼む」

「はいは~い。っつってももう出来てるんだけどね。はいどーぞ」
コトンと、森下の前に湯気を立てている珈琲が置かれた。近藤が先ほど焚いたコーヒー豆の香ばしい匂いが堪らない
森下はひとまず珈琲に口を付けて一口飲んでみる。瞬間、森下の口の中を、なんとも言えない深みと旨みがあふれ出す
「・・…・旨い。その……旨い」

「でしょー? 自慢じゃないけど、うちのカフェの珈琲はこの辺のカフェでは一番旨いと思うわ」
「それ、自慢になってるよ」
慧がそう突っ込むと、美女はあ、そっかと右手を額に当ててけらけらと笑った。慧もつられた様にくすくす笑い出す
と、美女が次は森下の方に顔を向ける。森下は目が合う事に少し照れながらも、美女の顔を観察してみた
顔のパーツ一つ一つが外国人のようだ。鼻は高く、目がライトブルーというか、蒼い。案外本当に外国人なのかもしれない

「そんなに見つめられると惚れるよ? 嘘だけど」
美女がにやりとしながら、森下に言った。森下は何処となく恥ずかしくなり、慧の方に顔を背ける
慧はというと、何処吹く風と言った具合で、「いつもの」カプチーノをちょこちょこと飲んでいる

しばらく森下と慧はそれぞれの飲物を堪能した。美人は二人をちょくちょく眺めながら、洗物をしている
「ご馳走様~。やっぱり美味しいね。ここの珈琲」
慧がティーカップの中をスプーンでなぞりながら、淡々と言った

「そう褒めてもただにはならないって。諦めな~」
美女が洗った皿を拭きながら慧に返答すると、慧は無表情で
「まぁ、私がココしか喫茶店を知らないからなんだけどね」
と答えた。美女は慧の返答にくくっと苦笑した。森下は二人の会話を聞きながら、心がホッと安らいでいるのを感じた

ふと、森下は右腕の腕時計を覗き見た。気づけた30分近く居たようだ。慧もカウンター上部に掛けられた掛け時計を見、
「じゃ、そろそろ帰るね。この人を案内しないといけないし」
と、申し訳無さそうに美女に言った。続けて後ろのジーンズに入った財布を取り出そうとする
「良いよ、慧。俺が払っておく」
慧が財布を取り出そうとするを見て、森下はそれを制しハンドバックを漁る

「あ~今日の所はいいよ。慧の旦那さんの初来店記念ってことで。でも次からは払ってもらうからね」
美女が両手を振りながら、笑顔でそう言った。慧と森下は顔を見合わせる。
「ホント今日は良いって。良いから恩を受けときな。あたしが親切にするなんてめったにないんだからさ」

「じゃ、恩を受けとこうかな。ご馳走様、ヘレン」
慧が微笑んでそう言うと、美女も口元をニヤリとして返す。ちょっとした癖のようだ
「すまない、おいしかったよ、とても」
森下が小さく例をすると、美女も小さく礼を返す

ふと、美女が思い出したように、指を鳴らした。二人が美女に顔を合わせる
「あ、そうそう、自己紹介を忘れてたね。あたしの名前はヘレン・フォックススター
 この「リトルフォックス」のマスター……ってとこかな」









268 : ◆v8ylbfYcWg :2008/09/07(日) 23:50:41 ID:0dKAl97k
 上のフォックスカフェの設定です

 リトルフォックスカフェ
 高杜市の南に位置する住宅街で、1年前に都内から引っ越してきて以来、店を構える奇抜な外見のカフェ
 マスターのヘレンの温かな人柄と、本格的な焙煎豆を使用した珈琲や現地直輸入の紅茶の旨さにリピーターが多い
 また、アルバイトの近藤君はその外見とは裏腹に穏やかな人で、様々な質問にも丁寧に答えてくれるとおば様に評判

 ちなみにヘレンの機嫌が良い時には、隠しメニューが出るらしい

近藤
  • 名前不明
  • リトルフォックスで働く男。スキンヘッドかつマッチョ
  • 寡黙で黙々と仕事をこなす。動植物にはとっても優しい
  • 仕事が非常に丁寧でかつ。そつなくこなす為、ヘレンに全面的に信用されている

ヘレン・フォックススター
  • リトルフォックスのマスター
  • 年々不明の金髪美女。国籍はアメリカ(本人談)
  • あっけらかんとしていて大雑把な性格。それゆえに裏表がなく、誰とでも仲良くなれる人懐っこい性格
  • 慧とは数ヶ月前に、高杜モールでちょっとした件以来、友人同士になった
  • 近藤とはバイト以上従業員未満の関係らしい(本人談)

 今後は皆さんの物語の中で使ってもらっても構いません
 ヘレンや近藤ももちろん





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月11日 18:00