エルスバーグのパラドックス

エルスバーグ(Ellsberg, 1961)が提唱したパラドックスである。

これはアレのパラドックスと並んで、期待効用理論の反例として代表的なパラドックスである。
両パラドックスとも独立性公理から逸脱しており、期待効用理論が現実の意思決定を十分に反映したものではないことを示している。


彼の提示したパラドックスに従い、次のような状況を考えてみる。

「ある壺の中に計90個の玉が入っており、このうち赤玉が30個、黒玉と黄玉が計60個入っている。黒玉と黄玉の構成比率は分からない。この壺から玉をひとつ取り出すとする。」


〔問題1〕

 選択肢A P(赤玉)―――――――― 1万円      選択肢B P(黒玉)―――――――― 1万円
     1-P(黒玉or黄玉)――――― 0円             1-P(赤玉or黄玉)――――― 0円

問題1の場合、多くの人は選択肢BよりもAを選好する(A≻B)。


〔問題2〕

 選択肢C P(赤玉or黄玉)――――― 1万円      選択肢D P(黒玉or黄玉)―――― 1万円
      1-P(黒玉)―――――――― 0円           1-P(赤玉)――――――― 0円

問題2の場合、多くの人は選択肢CよりもDを選好する(D≻C)。


しかし、この選好の結果は、背反な事象の和事象の確立が各事象の確立の和に等しいという、確立の加法性を仮定する期待効用理論に明らかに矛盾する。
すなわち、問題1での選好(A≻B)は、赤玉を取り出す確率P(r)が黒玉を取り出す確率P(b)より高いこと(P(r)>P(b))を意味し、問題2での選好(D≻C)は、赤玉か黄玉を取り出す確率(P(r∪y))が黒玉か黄玉を取り出す確率(P(b∪y))よりも低いこと(P(r∪y)<P(b∪y))を意味している。rとy、bとyは互いに背反な事象なので、確立の加法性を仮定すると、P(r∪y)=P(r)+P(y)、P(b∪y)=P(b)+P(y)となる。
このことから、問題2での選好(D≻C)は、P(b)>P(r)を意味し、問題1での選好からの帰結P(r)>P(b)と明らかに矛盾する。

このエルスバーグのパラドックスは、期待効用理論における独立性公理からの逸脱を示していると解釈することができる。

このパラドックスの心理的原因として、意思決定者が曖昧さを避けようとする曖昧性忌避(ambiguity aversion)が考えられている。
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最終更新:2012年06月13日 17:17
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