大秘宝Tapir改予告編

公開日 2022/9/12

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません

 テイパア王国――22年前、勇者アレンが悪魔の拠点から持ち帰ったとされる宝玉「大秘宝Tapir」の強大な力により、大きな発展を遂げた国である。虹色に輝くこの大秘宝の持つ魔力は大地に恵みを与え、災害を防いでいると語り継がれている。王国は技術者たちの努力によって完成した制御装置でこの力を安定させることに成功し、王国民たちは平和で豊かな生活を謳歌していた。そう、あの日までは。

 ある夜、城壁近くに黒いローブを羽織った数人の人物が集まった。夜で暗かったことや、長年の平和に慣れてしまっていたことから、この集団に気づく者はいなかった。
「偵察担当によれば、ここからなら守りの薄いところを突けるらしい」
 集団の先頭に立つ人物が話を始める。この人物がリーダー格なのだろう。
「僕の合図と同時に一斉攻撃して突入。皆には守備隊を足止めしてほしい。その間に僕が大秘宝を取ってくる」
 話を終えると、突如その人物の手から紫の光が伸びた。光が剣のような形を取ると、その腕を城壁に向かって振りかざした。光の剣は轟音と共に城壁をえぐり、人が出入りできるだけの穴を開けた。
「今だ! 突撃!」
「うとぴあ様に続くぞ!」
 リーダー格の人物――うとぴあの合図と共に、黒いローブの集団が城壁の内側へと突入した。

 遅れて出動した守備隊が黒いローブの集団と戦う中、うとぴあは城の内部への侵入に成功していた。
「……あっちか」
 何かを感覚で察知し、城の中を進んでいった。道中鉢合わせした警備兵が抵抗したが、高い戦闘力を持つうとぴあの前では無力だった。やがて彼は、他とは明らかに雰囲気が異なる頑丈な鉄の扉にたどり着いた。
「感じる。大秘宝はこの奥にある」
 うとぴあは両手を前方に構えて自身の魔力を集めると、それを扉に向かって撃ち込んだ。分厚い鉄の扉もこのパワーに耐えることはできず、中心部がへこんだ直後、部屋の内側へ向かって吹き飛んでしまった。
「さて、後は大秘宝を持ち帰るだけ……」
「待て!」
 突然の声に驚いたうとぴあは歩みを止めた。彼の前には、カラスのようなマークがついた黒いマントを羽織った男が立っていた。
「誰だ?」
「僕はヒガシ。この大秘宝Tapirの守護と管理を任されている」
 うとぴあの問いに、ヒガシはそう答えた。ヒガシの背後には、虹色に輝く卵型の宝玉――すなわち大秘宝Tapirが安置されている。大秘宝からは数本のケーブルが部屋の壁や床に向かって伸びていた。
「悪魔なんかに、この大秘宝を奪われるわけにはいかない」
「大秘宝Tapirはもっと神聖に扱わないといけない。そんな風に機械に繋ぐような奴らのところにあっちゃいけないんだよ」
 うとぴあはヒガシを睨みながら、右手に光の剣を発生させた。
「やっぱり戦うことになるか」
 ヒガシは腰から短剣を取り出し、うとぴあに向けた。
「抵抗しなければ痛い目に遭うこともないのに……ハアッ!」
 そうつぶやいた後、うとぴあはヒガシに向かって斬りかかっていった。ヒガシは短剣ひとつでそれを迎え撃つ。大秘宝Tapirを賭けた一騎打ちが始まった。

 2人の戦いは激しく、部屋にはいくつのも斬撃の跡が残り、大秘宝と繋がっていたケーブルもほとんどが切断されてしまった。
「はあ……はあ……」
 ヒガシのマントはボロボロになり、息も荒い。対するうとぴあは、まだまだ体力に余裕がありそうだ。
「意外と強かったが、これで終わりだ」
 ヒガシに近づいたうとぴあは、光の剣を彼の胸に突き刺した。
「ウッ……がはっ」
 攻撃が急所に直撃したヒガシは、血を吐いてその場に倒れた。
「大秘宝は返してもらおう」
「ま……て……」
 ヒガシは最期の力を振り絞って抵抗を試みるが、大秘宝に手を伸ばすうとぴあを止めることはできなかった。
 大秘宝を持ったうとぴあは部屋を立ち去った。この後、防衛隊と戦っていた集団も撤退していった。

 翌日、テイパア王国では昨夜の襲撃事件が一大ニュースとなっていた。特に、国に恵みを与えていた大秘宝Tapirを奪われたという情報は、国民に大きな不安を与えていた。
 王室では、ヤマト国王とウィークエンド大臣が今後の対応について話していた。
「ヤマト国王、このままではこの国は……」
「わかっている。この国には大秘宝Tapirが必要だ。すぐに奪還のための部隊を出す必要がある」
 大秘宝が必要だと語るヤマト国王の表情は険しい。
「防衛隊から部隊を編成しますか? しかし守護者のヒガシ氏が倒されたとなると……」
 防衛隊はテイパア王国の主要戦力であるため、ウィークエンド大臣が真っ先に提案するのも当然である。しかし、防衛隊は昨夜の襲撃で消耗しているうえ、ヤマト国王からすれば戦力に不安があるようだった。
「いや、防衛隊ではダメだ。彼らに頼もう」
「彼ら……クリスタルファミリーですか?」
「そうだ。すぐに連絡を!」
「はっ!」
 指示を受けたウィークエンド大臣は王室を飛び出していった。

 テイパア王国の城の地下、そこに特殊部隊「クリスタルファミリー」の拠点がある。略してクリファミと呼ばれる彼らは普段から訓練や専用武器などの開発を行っている他、密かに諜報活動を行っているとの噂もある。そのクリファミの拠点に、王国の伝令係が到着した。
「国王様より命令です。クリスタルファミリーの代表は至急王室に来るように」
「うぬん……了解!」
 伝令係に反応したのはクリファミのリーダーであるクリスタルペンギン、通称クリペンである。
ケロッキー、芋、命令が来た。行くぞ」
 クリペンは立ち上がり、同行させる部下2人を呼んだ。
「ういうい」
 先に返事をしたのはケロッキー、クリファミの中でも様々な技能を持つ特殊隊員である。
「芋って言うなー」
 自身の呼ばれ方に文句を言いながら答えたのは長宗我部宮内少輔秦元親、通称は元親だがクリペンをはじめとした一部メンバーからは芋と呼ばれることがある。
 クリペン、ケロッキー、元親の3人はヤマト国王の元へ向かった。

 ヤマト国王は、自分の前に並んだケロッキー達を見つめながら口を開いた。
「昨夜の襲撃は悪魔の集団によるものだとわかった。これからクリスタルファミリーには悪魔たちの拠点を攻撃し、奪われた大秘宝Tapirを取り返してきてほしい」
「場所はわかっているのですか?」
 悪魔の拠点を攻撃するという難しい任務を与えられたが、クリペンは怯むことなく詳細の確認を始めた。
「我が国付近の森の奥にある砦のような建物、そこが拠点である可能性が高い」
「なるほど。ゴルモ・フォートか……」
 ヤマト国王の言葉を聞いて、ケロッキーはそうつぶやいた。テイパア王国の近くには大きめの森が存在し、確かにその奥地に砦と呼べるような建物があるのだ。クリファミは過去にこの砦の周辺を調査したことがあり、ゴルモ・フォートという名前はその際につけられたものだ。ゴルモというのは現地にかつて存在したとされる国の名前からとられている。
「クリスタルペンギン、できそうか?」
「はい。2日ほどいただければ出撃できるかと」
「では、頼むぞ!」
 こうして、クリスタルファミリーによる悪魔の拠点への攻撃に向けた準備が開始された。特殊隊員であるケロッキーは持っていく道具の選定を始め、元親は戦闘時に最大限の力を発揮できるよう、様々な魔法の慣らし運転を行っている。そしてリーダーであるクリスタルペンギンは、他のメンバーを招集するとともに武器商人への依頼も行った。戦いに向けて準備が進む。

 これから戦いに赴くクリスタルファミリーには多くの困難が立ちはだかる。
「んぷぷぷぷ、きんもぉおおおお」
 ――それは、森に潜む異形の怪物かもしれない。
「なんだこれは、次元の裂け目か?」
 ――それは、より危険な戦場の入り口かもしれない。
「余のかに回避の前では無力」
 ――それは、手強い悪魔たちとの直接対決かもしれない。
 そして、戦いの中で大秘宝Tapirに隠された力が明らかになっていく。
「そうだ、俺は22年前、アレンと一緒にここで戦っていた」
「こちらにはエクソシストサーベルもある。諦めろ、大魔王トモユキ!」
「いやもう僕は不死身だ」

 クリスタルファミリーは無事に大秘宝Tapirを奪還し、帰還することができるのか?
わずかな設定資料から10年越しに書き直されるTapir公式小説『大秘宝Tapir改』順次公開予定!

本編第一章に続く

最終更新:2022年09月12日 17:08