混沌の宴――テラカオスバトルロワイアル七期・
四日目・6時/東京都
本来ならもう朝日が見えるはずの時刻。
だが辺りは暗いままだった。
ほぼ全ての生物が生きていくうえで必要となる太陽がこの世界にはもう存在しないのだから当然だ。
その太陽はいまや闇に飲まれ、一体の怪物となって暴れていた。
全てを燃やす
焔の男、昏き海淵に潜む禍の神、悪名高き醜くも哀れな女、かつて勇者と呼ばれた男。
太陽をも吸収した四つの魂の集合体はまさしく破壊の化身。
そしてそれを正面から相手にする男もまた常軌を逸した力の持ち主であるといえる。
飛び交う常人には理解不能、理不尽な攻撃の嵐。
かつてこの新惑星を襲った大災害に匹敵する程の戦い。
隠れても、大地からの灼熱に焼かれ、海からの洪水に飲まれ、空からの雷に貫かれる。
逃げても、ただ男がぐっとガッツポーズをとるだけで殺されてしまう。
人々はこの戦いに、新惑星の、自分達の終焉を嫌でも感じ取った。
今、東京都には故・細川幽斎の策略により新惑星の全ての住人が集められている。
この混沌とした世界で争いのない地域は存在しなかった。
集められた人々全員が、何かしらの戦いを目撃している。いまさらちょっとやそっとでは驚かない。
その人々を以ってしても、怪物同士のこの戦いは空前絶後、未曾有の災いだった。
奇跡的に生存していた香川県の住民でさえもが言う。
この激しい戦いでも東京都は壊れない。けど四国だったらもう軽く1000000回は跡形も無く消し飛んでいると。
人々は逃げ惑うなか、異常に頑丈な東京都に感謝した。
「せめてもの償いに君達の首輪を外すのも私だ」
そう言いながら東京都を完徹で走り回った謎の男の手により、人々のほとんどは『首輪』の脅威から解放された。
しかし彼らはカオスロワからは解放されていない。
元の世界に帰る方法を見つけてこそ真のゴール、解放。
これだけの人数、首輪も無くなったのだから時間をかければいつかきっと、この混沌の世界からは脱出できる。
最後の障害となる、この恐ろしい怪物さえいなければ。
もう少しで平穏な時が戻ってくる……そう信じていた人々は絶望した。
「……っっ!?」
そんな時。
怪物の一方――クライシス皇帝の体に穴が開いた。
拮抗していたはずなのに、どうしてだと皇帝は僅かに考える。
同時にそれは隙となってしまい、相手――終焉をもたらす者の追撃を許してしまった。
あとは建物が瓦解するかの如く、皇帝の体は灼熱に焼かれ、灰も残らなかった。
【クライシス皇帝@仮面ライダーBLACKRX】 死亡
皇帝は知らなかった。いや恐らく現在生存している者に知るものはいない。
終焉をもたらす者の一部、昏き海淵の禍神は人々の恐怖を糧に無限に成長を続ける。その溜めた力を解き放ち、皇帝を討った。
人々が絶望すれば
強くなる。その強くなった怪物を見て再び絶望する。これも無限の連鎖。
「ふはぁぁ……皇帝、死んだ……次は……全て燃えろおおぉぉぉおおぉぉ!!!」
怨敵であったクライシス皇帝が死ねば、次の具体的な標的はもういなくなる。
元々高い再生能力、持久力をもつこの怪物は、人気者といわず全ての存在を焼き尽くすだろう。
逃げろと人々は叫ぶ。どこに? 逃げ場など、最初からありはしない。
誰か助けてくれと人々は切に願う。誰に? もはやこの世界に神も主催者もいない。
「が!?」「ご苦労様、それじゃあ頂きます。邪魔なDECO部分は生ごみとして異次元に捨てとくわ」
そんな極限状態の彼らにとって。
空から急降下して怪物を捕らえたその人物は。
少なからず傷を負っていた怪物を容赦なく刻み、喰らったその人物は。
輝く髪と翼、美しき顔と肉体をもつその人物は、まさに天使…いや、救世の神に見えた。
【終焉をもたらす者@カオスロワ】 聖杯に吸収
「ああ、女神様!」
あの恐ろしい怪物を葬ってくれた神を、人々は次々に讃える。
自分達の祈りが通じた。これで家族の待つ世界に帰れる。無事に結婚式ができそうだ。
見知らぬ者どうしも手を取り合い、喜びを分かち合う。
長い長い悪夢もようやく終るのだ……
「貴方達……弱そうだけど塵も積もればなんとやらよね。その魂、頂くわ」
「えっ…………?」
勿論そんなわけがなかった。これは悪夢ではない。悪夢のような現実なのだから。
「う、うわああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふふっ、いただきっ !?」
ギィンと金属音を響かせ、捕食者――聖杯がどこからともなく飛んできた真紅の槍を弾く。
人々は何が何やらわからないが、とにかく聖杯の注意がそれたことは理解し、一目散に逃げ出した。
聖杯もそれを見逃す。飛んできた槍の正体を知り、ほくそ笑む。
無力な一般人を何人吸収しようがたかが知れている。
そんなものよりも、目の前の獲物達が大事だ。
「あら、【英雄】のマスター、朝から随分なご挨拶ね。朝はおはようでしょう?
それとようこそ、聖杯戦争の優勝者【探索者】
おめでとうと言いたいところだけど、優勝したからどうこうなるって話でもないの。
聖杯を、この私を『手にして初めて』願いは叶うわ」
笑みを崩さず、聖杯は眼前で身構える最後の『マスター』と『サーヴァント』、その仲間達を見つめる。
聖杯戦争で脱落せずに最後まで立っていた【探索者】射命丸文、黒桐幹也。
まさかの無職が響き脱落こそしたものの立ってはいる【英雄】レミリア・スカーレット、孫悟空。
そして聖杯の完全なる完成の最後の一欠である幹也を守るように立ち塞がる両儀式。
傍らには、奇跡的に生存し続けるこの混沌世界の象徴の融合体、タィケボロが。
さらには英雄の息子、孫悟飯も控えている。
「……」
レミリアは無言のまま神の槍を構えなおす。
先ほども聖杯に投げつけた、紅い槍だ。
「ふぅん、その程度の槍で私を打ち負かせるつもりかしら? 今の私はほぼ完全体。
もうわかっているだろうけど、私の体はイナバ製。たとえ100本投げようが傷はつかないわよ。
その前に、貴方達は何が起こったかも理解する前に私に『喰われ』るわ。そして私はついに完全に完成する!
これが最後の魂! 『世界』(ザ・ワールド)!!!」
キ ン グ ・ ク リ ム ゾ ン ッ ! ! !
「なにっ!?」
聖杯は確かに時を止めたはずだった。止めて探索者のサーヴァントを刺し貫くつもりだった。
だが、時が止まらない。止められない。
僅かに焦る聖杯だが、浅黒い肌の変態の姿を見て笑みを崩す。
「貴方の仕業ね……?」
「我がスタンド『キング・クリムゾン』の能力で止められた時間を飛ばした。貴様のスタンドは通用せんぞ。
優勝をしても願いが叶わず、聖杯自らが優勝者の命を不意討ちで狙うとはな……
これが聖杯戦争の真実か? 生き残れる者はいないただ無意味な殺し合いを続けただけなのか?
私は、俺達は、そんな無意味な戦いに巻き込まれ、無意味に殺され続けたというのか……!?」
スタンドを呼び出し、両手にモンスターボールを握り締め、タィケボロは憤る。
この長き戦いの日々で、タケシと
ディアボロという存在は果たしてどれだけの死を体験してきただろう?
その理由、真実を知ることが彼らの戦いであった。だが現実は……
「あら、意味ならあるわよタィケボロ。
貴方達はね、殺し合いの促進剤。無限に湧き上がる貴方達はどこかで必ず巻き添えで死ぬわ。
純粋無垢な、血を見たことがない子供でもいつか貴方達を殺す。つまりは殺人を経験する。
それが積もるとね、感覚は麻痺するの。どんな聖人でも殺人への躊躇がなくなるわ。
そしてそれは加速する。自分が生き残るためなら誰でも殺すようになる。
聖杯戦争参加者全員が手を取り合って仲良しこよしなんて、馬鹿馬鹿しいし、甘いわ。
愚かな【釣人】は、自分は殺すのも殺されるのも
ごめんだと言っていた。
それじゃいつまでも私が完成しないじゃない。だからちょっと背を押して、そしたら貴方達にあっさり殺されて……」
言葉を続ける聖杯を、タィケボロはただ睨み、歯を軋ませる。
その音は、彼の後ろからも響く。【釣人】襲撃が仕組まれたものだと理解した幹也達のものだ。
何故、あの時突然彼らは攻めてきて、ああも必死だったのか……全ては、聖杯の仕業。
「あら、怒っているの?
でも貴方達、反撃したわよね? それなのに、どうして?」
「……決まっているでしょう! 私達はこれ以上犠牲者を出さずに生還するために……」
「ほら、それ。結局は貴方達も自分の願望のために、『自分が生き残る』願望を叶えるために人を殺す。
そして願望とは、欲望と同じ。自分の望み。
あの釣人は『海を守る』欲望を叶えるために貴方達を襲った。
他のサーヴァントも……いや、全参加者に言えることね。皆自分の欲望を叶えるために人を殺す。
『復讐』『快楽』『正義』『力試し』『自己防衛』『奉仕』『征服』『衝動』……
どんな理由でも人を殺すことに変わりは無い。
この聖杯戦争、残っているのは貴方達だけ。他はみーんな私の中。死んだの。それだけみんな欲望まみれ。
一部には私自ら手を下したサーヴァントもいるけどね。
それも欲望。私の欲望。私は完全なる聖杯になるという欲望のために貴方達を殺すわ。
さあ、綺麗事は言わないで。武器を構えている以上、貴方達はこの私に戦いを挑む気でいる。
貴方達の願いは、欲望はなに? 私を手にすることが出来れば、それは叶うわよ?」
聖杯が、動く。
圧倒的な存在を前に、されど退かない聖杯戦争の生き残り達。
「願い……それはこの戦いの終わりです」
「私達は、誰も死なない、死なせません!」
「そのためにお前が障害となるなら、誰になんと言われようと斬るだけだ」
「オラ達は、つええ奴らと戦うことだった。けど今は、皆が死なねえことだ!」
「このふざけた世界の、私の運命を覆す! それだけが願いだ!」
「……社長が死んでしまった今では、聖杯戦争に関する全ての真実は猫箱の中かもしれない。
でも、仮にもイナバ製のあなたが無差別殺戮をしているのを黙って見ているわけにはいかない。
私は決めたの。社長の想いを、イナバを継ぐことを。
イナバは100人のっても大丈夫な安心と信頼の物置のブランド。生物兵器製作所じゃないわ。
聖杯を無くす……それが今の私の望みよ」
「あっははははははは! いいわ、全員の願い、理解したわ。
でもそれは叶わない! 全員、この場で私に吸収されるんだからね!」
笑い、翼を広げ、鎌を構えて。
元
イナバ物置が、イナバ製作所の社員達に襲いかかった。
◆
「真神槍『イナバ・ザ・グングニル』!!」
「っと……!」
レミリアの本気の真紅の槍が聖杯の頬を掠め、切傷をつくる。
その槍は、今までの槍とは比較にならないほどの力を秘めていた。そう、100人貫いても大丈夫なほどの。
この事態には聖杯も驚いていた。
初期の自分ならともかく、理論上は完成していて、その防御力はイナバ物置をも凌駕したはずなのに。
これが、イナバの力を受け継いだということなのだろうか。
これが、イナバの意思だとでもいうのだろうか。
油断した、聖杯は唇を噛みながら初撃をくらった左肩を押さえる。
よく耳にする故事に『矛盾』の話がある。
全ての盾を貫く矛と、全ての矛を防ぐ盾を売る商人がいたが、そんなものは同時には存在しえないというお話。
今の状況はそれに近かった。
最強のイナバの体と最強のイナバの槍、そのぶつかり合い。
本来ありえないはずのその戦いは、痛みわけで終る。
聖杯の体に傷ができれば、槍もまたひしゃげる。
だがレミリアの神槍は数本折れたところで、次の瞬間には新たなものを構えられる。
くらい続けるのは、聖杯が不利であった。
「――そこか!」
「く! 甘いわね!」
だが槍にばかり注意し続けるわけにもいかない。
隙を見せれば、銀のナイフが自分を殺しにくる。
式の直死の魔眼はあらゆるものを殺す。この能力の前にはさすがのイナバも大丈夫とは断言できない。
無数に吸収した魂で自分の本体を覆い隠し、不測の事態に備えてはいるが、全て殺されないとも断言できない。
まったくもって厄介極まりない能力だ。
「ちぃ……!」
「させません!」
翼で暴風を起こして厄介な一撃を放つ二人を吹き飛ばそうと試みる。
だが文に完全に同質の風をぶつけられ、即座に相殺されてしまう。
体へのダメージにはならないものの、攻撃の妨害はかなり厄介である。
再びの暴風、体勢を崩せばすぐさま槍とナイフがやってくる。
たった三人で、よくここまで戦えるものだ。聖杯は素直に感服した。
そこからいくらか離れた場所に、幹也と悟空をかくまうタィケボロと悟飯の姿があった。
レミリア達の希望により、戦えない彼らは戦いの中心部から離されたのだ。
特に幹也は万が一殺害された場合、聖杯がさらに手に負えなくなってしまうのもある。
探索者と英雄は歯噛みする。戦う力のない、戦う力を失ってしまった自分を呪った。
だが今行ったところで、足手まといにしかならないのは明白。
彼らはただ少女らが無事でいることを祈るしかない。
「ふふ……なるほど、一応生き残ってきただけの力は持っているのね。
鎌だけで楽に殺せると思った私を許して頂戴?
おわびに、私の力の片鱗を見せてあげる……『従順なる焼玉葱(カオスフレア)』」
「っ! 吸血鬼、烏天狗! かわせ!」
そんな祈りを掻き消さんとばかりに、聖杯はついにその力を解放し始める。
先程吸収したばかりの終焉をもたらす者の一部、焼玉葱の能力……
それは特別な能力も追加効果もない、シンプルなもの。
しかしそれ故に強い。ただ――
「燃えなさい」
――視界に入るもの全てを焼き尽くすだけの、無慈悲な焔。
「冬の嵐!」
「なっ……」
その無慈悲な焔は、猛ると同時に凍りついた。
焔が凍るその現象に、聖杯もレミリア達も驚きを隠せない。
「大丈夫かいお嬢さ「へ、変態だ――――!」いや私は変態でもハゲでもなくガラハドという者だ」
ボブスレーの先頭に全裸で仁王立ちしていた男の姿に思わず本音がでてしまったが、直後に理解する。
この男の手に握られている氷の剣が凍結の原因、つまりは自分達を助けてくれたのだということに。
「ごめんなさいね……あなた達も、味方と思っていいのかしら?」
「うむ」
「我々は焼玉葱討伐隊! 殿、今の攻撃は……」
「ああ間違いない。憎き焼玉葱のものだ。しかし、あの姿は……」
「痴女か。そんなものよりユリアのフィギュアとチュッチュしたい」
「そんな……永沢君が女の子だったなんて……」
「あややややや……お話がよく見えませんが、おそらくはお探しの人も聖杯の中に……」
「なんと!?」
騒がしい一団は焼玉葱討伐隊の面々だった。
隊員の一人、スタンが乗っていた三輪車の影響でここまでろくに人に会えなかった彼ら。
だが先刻三輪車が大破し、同時に逃げ惑う人々とも出くわして現在に至る。
そして全裸騎士、ガラハドが持っているのは対炎最強を自負するアイスソード。
これも三輪車とボブスレーで動き回っている最中、無事に取り戻すことができた。
「あら、食事が増えたみたいね」
「そんなに喰いたいか。ならば喰わしてやろう。究極の料理を!
運命両断剣・ツインブレードッ!」
焼玉葱討伐隊においておそらく最強であろう山岡士郎の必殺剣が放たれる。
凍りついた焔を粉々にしていくその様を見て、聖杯は本能的にそれを回避した。
あれもヤバイ。グングニルに匹敵する危険な技……そんな感じがしたのだ。
おそらくそれは正しい。再生するデビルガンダムを一太刀で塵にするのだから。
注意が、ツインブレードに向きすぎていた。
「――もらった!」
「!? しまった!」
いつの間に、などとは言わない。目を離したからこうなった。
自分の背後に式がまわりこみ、そのナイフで一点を狙っている。
「くっ『従順なる「させん!」「やらせん!」「許さん!」
迎撃発動しようとした焼玉葱の能力。
しかしボブスレーを華麗に操る信成、小塚、高橋のトライアングルアタックにより発動段階で凍結されてしまう。
凍りついた右腕、迎撃不可能。迫る式、反撃不可能。
「くっ! 焼玉葱射出!」
「な……」
聖杯がとった外道手段。
それは焼玉葱、永沢君男を囮として発射し、その反動で回避するというものであった。
射出された玉葱もまた危険な存在であると察知した式は、僅かな迷いの後に魔眼でそれを先に殺す。
【永沢君男@永沢君】 死亡
聖杯は舌打ちをする。焼玉葱は魂ごと切り裂かれた。再吸収はできない。
だが問題はない。どの道討伐隊がいたのでは、焼玉葱の能力は満足に使えないのだから。
「やったのか……あの焼玉葱を……」
「今のやつか? 確かに斬った」
「永沢君……ごめんよ……」
「謝るなよ偽善者ぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐあっ……!?」
「みんな!?」
だから、次の瞬間には反撃に出ていた。
さっきまでと決定的に違うのは聖杯の大きさ。
巨大化した状態で、感傷に浸る焼玉葱討伐隊の面々も式もまとめて蹴り飛ばす。
単純に質量が増えただけでその破壊力は跳ね上がり、聖杯の脚にも骨を砕く感触が伝わった。
「あは、あはははは! 今のはかなり焦ったわ!
認めてあげる、遊び半分で勝てる相手ではないってこと。
だから、全力で殺してあげる! 『混沌の財宝(ゲートオブテラカオス)』」
巨大化した聖杯がそう呟くと同時に、その背後の空間が軋んだ。
直後に現れる、伝説の武器の数々。
その中には武器の他にも実に様々なものが含まれている。
ネギ、ハンバーガー、チキン、胡桃などの食べ物。
対人用ではなかったであろう釣竿や銛、座布団。
普通に切れ味鋭そうな金の剣と銀のナイフ。
卑猥な形の槍に光を纏った硬球。
東京タワーの形をしたミサイルに首輪のようななにか。
その他諸々、とにかく実に多種多様。
それだけの種類と数がある中、共通事項もあった。
それは、いずれ劣らぬ圧倒的な破壊力を持っているということ。
それが、一斉に降り注ぐ。
「く……!」
レミリアと文も負けじとグングニルを飛ばし、風で射出された武器の軌道をずらす。
だが、それでどうにかできるのは100が限界。
大きさも重さも速度も何もかも違う無数の飛び道具には、どう頑張っても対処しきれない。
―――――ぉぉぉ!
「ん?」
――――おぉぉぉ!
―――おおぉぉぉ!
――おおおぉぉぉ!
―おおおおぉぉぉ!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「うおおおおおおアアアアアあああああああああああああああああああああ!!!!」
「この戯けが!」
「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぁああああああああああああああ!!!!」
「ぅぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁ!!!!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
後に人々は口々に語る。
たった一言でいえば、
地獄絵図だったね。
いや、全裸の巨大美少女が降臨したのも驚いたけど。
無数の食べ物やら剣やらが飛び出したのも怖かったけど。
鼓膜を破って三半規管までデストロイしかねないあの絶叫を。
空を半裸の筋肉男が覆ったあの光景を、俺達は魂魄百万回生まれ変わっても忘れないだろう、と。
そんな光景をつくりあげた男達は、ひとしきり叫んで満足したのか、ピタリと揃って静かになった。
直後
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
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「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
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「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
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「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
「流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣! 流影陣!」
それはそれはおぞましい光景。全員が全員同じ台詞を喋り、同じ盾っぽいなにかを張り巡らせたのだから。
辺りはしばらく「うるせえ!!!!」コールと何かしらが反射される音、そして絶叫が支配した。
「っ……この耳を劈くような叫び声、そしてあの姿は師範以外にありえないわね……」
「そ……そうですね……すごい漢です」
「傷に響くから大声は止めてもらいたいんだが……」
げんなりとした表情で少女達は耳からの出血も忘れ空を見る。
見れば、絶叫の主――不破刃が聖杯の混沌の財宝全てを反射している。
十中八九師範は自分達を助けてくれたのだろうけども……
正直、混沌の財宝を何発かくらったほうがましだったかもしれないとも思うのであった。
「ぐっ……取り込んだ昏き海淵の禍神が泣き叫んでいる……!
そう、これが不破流忍術 二百五十六式多元有情破顔流影陣……
混沌の財宝をひとつ残らず跳ね返すなんて狂ってるわ……!」
「貴様もな……貴様の死に場所はここで十分だろうよ」
「くぅ!?」
聖杯の足に何者かが一撃をくわえる。
もはや確認するまでもない。やかましい忍者がこの場所に来ているのだ。
相方の汚い忍者――ストライダー飛竜が来ていないわけがない。
それにしてもこのストライダー、関節部分を的確に斬りつけてきてやはり汚い。
「不破や飛竜だけなはずなかろう! わしらもおるぞ! わしが! わしが小牟じゃ!」
「別に名乗りでる必要はないだろうに……」
気がつけば、もう一方の足にも銃撃を受けている。
これも確認するまでもない。森羅のエージェント――有栖零児と小牟だ。
――次から次に小賢しい……!
「あ、あらいいのかしら忍者達?
私
みたいなか弱い女の子を相手にする前に、まずは世界征服を企んでる新生鷹の爪やクライシス帝国を……」
「連中の残党はすでに一人残らず締め上げた。
新生鷹の爪首領レオナルドはすでに死んでいる。
クライシス皇帝がお前を狙わないとは考えにくい。この騒ぎでいないところを見るとすでに討ち死にだろうよ。
そして貴様はさっき、あの主催者を取り込んだと発言している。一番先に消して問題ない」
底冷えするような声で告げ、飛竜は腕も休めずに聖杯への攻撃を続ける。
忍者のターゲットは完全に聖杯に絞られている。
これには聖杯も冷や汗を流さざるを得ない。
取り込んだ主催者の記憶に忍者の恐怖がしっかりと残っていたのもあるが、何しろ敵数が多い。
巨大化すれば混沌の財宝の有効範囲も拡がるのだが、流影陣が邪魔だ。
しかし素早い身のこなしを得意とするこいつらに大振りの近接格闘は通用しない。
だからといって通常の人間サイズになれば、レミリアや式の一撃を受けた場合のリスクが高くなる。
「久しぶりね、聖杯……気分はどう?」
「っ! 貴方は……!」
後ろから響く声、衝撃に聖杯は露骨に嫌な表情を浮かべた。
首だけを後ろに向かせると、その場所にはやはり光り輝くデコ――
峰岸あやのがいた。
「そう……貴方が私の正体をばらしまくっていたのね……!」
「そうよ。いきなり光太郎さん達を惨殺した外道女ってね。話を聞いてくれたほとんどの人が協力してくれたわ。
光太郎さんの今までの実績があってこそよ。あとは皆で装備を整えた。あんたを確実に倒すために。
でもまさかあんたの正体が聖杯だったなんてのには驚いたけどね……」
「ふふ……ぬかったわね。でも貴方、ここまで私に接近してきて逃げられるとでも思ってる?」
「あら、あんたこそ自分のわき腹に刺さっているものが見えないのかしら?」
「なっ……そんな、馬鹿な!?」
見下ろしたわき腹、やや後ろの部分。
そこにあやのはいた。手に何かを握っていて、それが聖杯の中に突き刺さっている。
そう、イナバの体が傷つけられていたのだ。
「これ、とある建物に突き刺さっていてね。なんでもマサムネって神様の刀らしいわよ。
私みたいな小娘でも、相手の防御力に関係なく一定のダメージを与えられるっていうね!」
あやのがマサムネを引き抜き、再び聖杯を斬りつける。
巨体の聖杯には微々たるかすり傷だが、傷がついてしまっているのは事実。これ以上好きにはやらせない。
「ああ、私なんかより飛竜さんの方に気をつけた方がいいわよ? PKデコフラッシュΩ!」
「うおっ、まぶしっ!」
あやのは光の目くらましで距離をとる。逃げたか、と聖杯は彼女の警告してきた自分の足をふと見る。
そして絶句した。自分の片足膝関節がごっそりと『削り』とられていたのだから。
「ど……どうして私の体が! いや、それ以前に痛みなんて……!」
「飛竜さんが持ってるのは
エクスカリパーって剣らしいわよ。なんでもどんな使い手も1ダメージしか与えられないっていう。
マサムネの方がずっと強力なんだけど、私に譲ってくれたのよ。意外と優しいわよね」
「……アマがプロの剣を使ってもどうにもならんからだ」
その言葉を聞き、聖杯はたまらず空へと一度逃れる。
エクスカリパーは逆に言えばどんな相手にも1のダメージを与えられる剣。
莫大な体力をもつ聖杯からすれば1も0もほぼ同義。蚊に刺された程にも感じない無痛。
では何故聖杯の足はこれほどのダメージを負ったのか?
答えは簡単、まさに削り取ったのだ。僅か数分の間に何百何千何万と飛竜は斬り付けていたのだ。
もう一方の足も気づけば抉られている。エージェントの二人が使っていた銃弾も似たようなものだったらしい。
「こ、この化物! 『黒隕石の騎士剣嵐(ブラック・ロック・トルネード)』」
「むっ!?」
飛び上がった聖杯は辺り構わずに二つのサーヴァントの力を最大解放する。
体への負担を気にしている場合ではない。やらねば、やられる。
無数の隕石と暴風。倒せるとまではいかなくても、さすがの忍者達も無傷では済まないだろう。
こうなったら空から攻撃を仕掛けるしかない。
忍者や吸血鬼、烏天狗などの一部は空を飛べるが、飛びながら十分に戦えるのはおそらく後者のみ。
戦いの基本に返る。各個撃破。これに限る。
聖杯の常識からも外れた相手ともなれば、必勝法はこれしか思いつかなかった。
高空で【科学者】と【協力者】の力を使って傷を癒しつつ、攻撃の手段を考える。
流影陣が健在な限り、形ある飛び道具はほぼ無効化されてしまう。
ならば、取り込んだ誰かの魔法を使うまで。
「何がいいかしら。今は太陽がないから光系の魔法で……あれはなに?」
ふと見上げた空。雲より上、視界は良好なはず。
しかし聖杯の目はそれを捉えていた。豆粒のような何かを。
「ルガールさん、タクアンさん! 今です!」
「任せろ!」
「だな!」
ああ……また常識はずれなやつらがいた。
聖杯は他人事のようにそう思ってしまった。
なんで翼も持たないただの人間がこんなところまで?
そんな細かいことを気にしている場合ではないと、聖杯はすぐさま構えを整える。
「この私をさらに上空から狙うって言うの? 面白いわやってみなさい!
いくら技が強力でも、所詮はサッカーボールでしょう!?」
聖杯は豆粒――随分前から宇宙空間まで飛び出し、落ちながらボールをパスしあっていた三人に叫ぶ。
言わずもがな、超次元サッカー伝道師鬼道有人と、彼から危険なドリブル技を習ったタクアン和尚とルガール・バーンシュタインだ。
聖杯は、港区を滅ぼした程度のシュートなら問題ないと踏んでいた。
ボールさえ失えば、彼らは恰好の獲物になる。だから耐えてから喰ってやろうと思った。
「いくぞ! 地上のみんなは逃げてくれ!」
「必殺!」
「「「ネオ・ギャラクシー!」」」
「 」
聖杯は後悔した。
異常なほど鍛え抜かれた足を持つ三人が蹴り飛ばしたのは、サッカーボールではなかったのだ。
「こ、こ の ロ リ コ ン が あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! 」
目玉…否、『目球』だった。生け捕りにされていたバックベアードだった。
凄まじい勢いでロリコンロリコンいいながら迫ってくる巨大な単眼の化物……これは精神的ダメージも非常に大きい。
そして勿論、物理的なダメージも尋常ではない。
なにしろ『つかうと地球があぶない!』技なのだから。
(そんな技、小中学生に教えないでよ……)
言っても今更どうにもならないことを思いつつ、聖杯は顔面に目球をモロにくらい
その勢いのまま地上へと墜落していった。
◆ ◆
「ゲホッ……どいつも、こいつもふざけた技を……!」
地面に数メートル埋まる羽目になったものの、聖杯は傷らしい傷は負っていなかった。
そこはイナバの力といったところである。
しかし強烈な落下衝撃までは無効化しきれず、全身に痺れが残っている。
どんなに硬い物質でも、衝撃自体は伝わってしまう。それはイナバも逆らえない。
「でも…もうベアードは爆散した! あんなふざけた技は二度と使えないわ!
それよりも……嫌な予感がする……」
聖杯は敏感にそれを感じ取っていた。
地上に、自分のまわりに誰もいなくなっているのだ。
今の衝撃波で全員吹き飛んだ? まさか。
聖杯はすでに理解していた。これは、生き残った参加者達による人海戦術、包囲網。入れ替わり立ち回り連続の攻撃。
あやのがどれだけの参加者に聖杯の本性を明かしたかは不明だが
おそらく各グループごとに、準備が出来次第、あるいはみつけ次第聖杯への攻撃を開始する手はずだったのだろう。
大規模な戦いがおきれば、焼玉葱討伐隊のように話を聞いていなくても加勢してくる連中がさらに増える。
この新惑星、無力な人々も多いが、同時に力ある者も多いのは確かである。
では、打ち合わせもしていない飛び入り助っ人を巻き込んでトンデモシュートを使用するだろうか?
飛竜を除けばほとんどが無駄な殺人を嫌っている。巻き添えは極力さけるだろう。
知らぬ者には知っている者が教えれば回避できるかもしれない。
だがそれにしても妙だった。
もう自分が落ちてきたのだから、なにかしらの再攻撃があるはずだ。
特にあのストライダーなら落ちてる段階で切り刻んでくることぐらいはしそうだった。
それなのに、一向に攻撃の気配が無かった。
考えられるのは、倒しきれないと判断しての戦略的撤退。
それもない。
全員から、この場で倒すという気迫が感じられた。
「…………」
それとは別に、もう一つの可能性があった。
なければおかしい次の攻撃。
今、まさにその用意がされているとしたら?
物陰からの銃撃?
負ってもせいぜいかすり傷。
さっきのエクスカリパーやマサムネを忍者らしく、『なげる』?
確かに結構なダメージはもらうかもしれないが、致命傷にはならない。
そもそも数多の魂を吸収した自分が、イナバ製の自分が負けることなどありえない。
厄介な魔眼もグングニルも、接近を許さなければ問題ない。
脅威となりそうなものはある程度接近されない限り全て問題ない。
周りに接近している者は誰もいない。
あやののステルス能力は少々厄介だが、【暗殺者】の能力を使えば対抗できる。
「そういえば【狙撃手】……あれぐらいの能力があれば遠距離からでも私を狙えるわね……っ!?」
最後に思いついたのは狙撃。
なんとなしに振り向いた遥か後方に、見知らぬ塔が建っていた。
その頂上に、人影が見えた。
◆ ◆ ◆
「っ! 気づかれた!?」
「落ち着くべき。聖杯がこっちに来ても守ってやる。
攻撃の反動で吹き飛ばされそうになっても支えてやる。だからお前全力でチャージしてていいぞ」
「封印がとけられた!」
かつてなんたら条例と呼ばれていた瓦礫が積み重なってできた塔の頂上で、軽く言葉をかわす二人。
両腕を前に構え、聖杯を狙う砲撃手――藤原妹紅と、その後ろで妹紅を支える騎士――ブロントさんだ。
聖杯の直感は半分当たっていた。違うのは、『狙撃』ではなく『砲撃』だということ。
一度展開した全力の弾幕を、圧縮して両手で数えられるまでに減らす。
その圧縮体を、さらにひとつの弾に圧縮。
「まだだ……もう少し……」
限界までに詰め込み、威力をさらに高める。
もともと高エネルギーのそれを、強引に圧縮しているため体にかかる負担も大きい。
熱で皮膚は焼け、腕は悲鳴をあげている。それでもまだ続ける。
「あ、あの二人まさか……!?」
身の危険を感じ、聖杯は再び空へと飛び上がろうとする。
しかし先程の衝撃により、翼はしびれて思い通りに動かせない。
「くっ!?」
「今だ!」
「フジヤマヴォルケイノスターバスタアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!」
けたたましい爆音と共に砲撃される、限界まで圧縮されてなお巨大な爆炎熱弾。
解き放たれたそれの速度は、どのサーヴァントの力を使ってもかわすことは不可能。
元から防御貫通、さらには確実に聖杯を貫くために攻撃範囲を狭めて一点集中した特別型。
聖杯のまわりから人が消えたのは、この高熱の余波から逃れるためだった。
焼玉葱を温存しておけば――――
「や……やった……」
支えられたおかげもあり吹き飛ばされることはなかったが、妹紅の両腕はしばらく使い物にならないだろう。
それでも彼女はその痛みを気にすることなく笑みを浮かべた。
勝った――
「…………ちぃ!」
そう告げようとした瞬間、自分を支えてくれていたブロントさんが舌打つ。
そしてすぐにその理由がわかった。爆炎の中で――聖杯はまだ立っている。
「そんな! あれでもまだ威力が足りなかったっていうの!?」
「俺が行く! あとでケアルを奢ってやるから少し待っとくべき!」
◆ ◆ ◆ ◆
「かっ……! ぐ……ぅぅぅ! こ、この程度で…………っ!」
聖杯はまだ倒れていなかった。
胸部に風穴が開き、左腕を失い、翼も2対までに減らされてしまっているが、立っていた。
回避不可能と悟った聖杯は、【英雄】の力、かめはめ波で相殺していたのだ。
元の威力では勝っているとはいえ、まったく溜めのない状態ではフルチャージされた攻撃には敵わない。
しかし英雄の代名詞である技は、死を回避するには十分な働きをした。
「大丈夫……この程度……ま、まだピンチのうちにも入らないわ……
今の攻撃も一発が限界のはず……両腕を持ってかれた時の方がずっとピンチよ……
と、とにかく回復を……『深淵への供物(アンスピーカブル・ヒール)』」
とはいえ満身創痍なのは確か。
今度は【主催者】の能力である超回復で体勢を立て直す。
「光太郎を汚い不意討ちで殺した聖杯が忍者なのは確定的に明らか。
なので俺がとどめにズタズタにしてもどこもおかしくはないな!」
「この……!」
しかし、回復の暇を与えてはならないのが聖杯に挑む者達の絶対条件。
時間差で次から次へと畳み掛けなければ、聖杯は倒せない。
聖杯の眼前には、天使の翼により急接近してくるブロントさんの姿が。
「でも無駄よ、貴方の剣は防御貫通能力は付加されていない! ハエのように叩き潰してあげる!」
「ラグナ、エリス、力を貸すべき!」
『卍解! 大紅蓮氷輪丸!』
「っ!?」
突如辺りに吹き荒れる氷嵐。剣から発せられた声が刀を解放する。
剣と刀の二刀流となり、剣から放たれる魔力を受け紫色となった氷の翼を纏い突進してくるブロントさん。
しかし聖杯はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「あ……
ああああぁぁぁぁあああああっっっ! か、体が……私の体が……!」
温度差。
それも急激なものとなると、ものにヒビが入り、割れる。
日常でもたまに経験する時があるだろう。
それがまさに、聖杯の体にも起きていた。
いかに頑強なイナバ製とはいえ、超灼熱直後に絶対零度を浴びせられれば、ヒビが入る。
そして、ヒビの入ったものは、そこから徐々に壊れていくのが常だ。
「氷と闇は似たようなもの、お前に凍てつく闇の冷たさを教えてやろう」
「くっ……私は聖杯、誰にも壊せはしない! 『超鋼鉄魔法(アストロン)』」
ヒビの入ったイナバはもはや鉄壁とは言えない。
取り込んだ『ああああ』の無敵魔法を使わなければ、安心ができなかった。
だが、戦いの場で安心できる時などない。
「ただの鉄の塊が、黄金の鉄の塊でできたナイトに勝てるはずがない! インビンシブル!」
「!!!?」
まさか、自身も無敵魔法を使って突っ込んでくるなど、誰に予測できようか。
最終更新:2011年01月18日 00:41