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例えば混沌を形を現すとしたら、フォルカの前に広がっている光景がそうだ。
食い散らかされた食物や酒が容器ごと散乱している。
人々は、汚れることさえ気にせずにその上に突っ伏しており、
彼らの口臭と周囲の嘔吐物が交じり合って、部外者ならば鼻を覆ってしまう程の劇臭を放っていた。

「ここが始まりの場所か」

宴会後の惨状に不釣合いな神々しさを放つ龍を見据え、フォルカは呟いた。
龍の前に立っていた人影が全て崩れ落ち、残った一人が何か言葉を発しているのを感じる。
嫌な予感がし、フォルカは男の背後まで駆け寄った。





「くくく・・・・・・いい夢を見るがいい。もう二度と覚めない夢を・・・・・・」
「何をしている?」

男の傍まで近寄ると、その場が明らかに他と違う異臭を放っていることに気づく。
彼の傍に倒れている人間だけが、原型を留めない程バラバラに切り刻まれていた。
フォルカは拳を震わせながら、男を睨み付ける。

「おや? まだ参加者が残っていたのか。
 仕方ない神龍よ、先に願いを・・・・・・」
「させるか!」

男が言葉を発する前に、フォルカの回し蹴りが宙を切る。
が、男はしゃがんで振り返り様にボディーブローを放った。

「が!?」
「何者かは知らないが、お前は眠っていればいい。
 どうせ幸せな夢を見ていられるのは今だけ。
 目覚めた時は悲しい現実なのだからな」

神速の一撃にフォルカは顔を歪める。
胃の内容物が逆流するが、何とか堪えて男に向き直った。
そして男の言葉で確信する。 この者こそ全ての元凶なのだと。

「貴様が・・・・・・貴様が俺たちの世界の殺し合いの黒幕か!」
「ほう、その首輪、まさかあの世界から来たのか!
 いや何回目の世界かな? 8期の世界はたくさん作ったから一々覚えていられなくてね」
「なんだと?」

何回目。
いくつもの殺し合いの世界、その言葉に、幾多の次元を巡った記憶が再び蘇る。
フォルカの予想が正しければ、この男は龍に願うはずだ。
新しい殺し合いの世界を作るという最低最悪の願いを。
命の価値が認められなくなる世界の創造、フォルカはそれが許せなかった。
だからフォルカは神龍を見つめる。

「神龍! お前が神を名乗るなら答えてくれ!」
「貴様何を!」

フォルカの叫びに男は危険を感じたのか、
彼に向かって剣で斬りつける。
だが刃はフォルカの肉体を通ることなく、彼の闘気で粉砕された。

「これまでこの男によって作られた世界を!」
「ぐはっ!?」

そのまま裏拳で殴り飛ばし

「救ってくれ!」

願った。
今までのように孤高の英雄になりたいという独善的な物ではなく、
純粋に殺し合いの被害者全ての救済を求めていた。


『良かろう。
 だが、既に滅びた世界までは叶わぬ』

神龍から告げられた言葉が胸を刺す。
生命を奪われつくされ、消滅してしまった世界は元に戻ることはない。

「構わん・・・・・・さあ願いを叶えてくれ!」
『承知した』

声とともに、神龍は太陽のような輝きを発して消えていく。
同時にフォルカの首を縛っていた首輪も消滅した。
拘束する物が無い以上、殺し合いを続ける必要も無い。
これで自分がいた世界も救われる。
これ以上悲しみを生まれることは無いと思うと、何故か胸が心地よくなった。



「貴様!」

ふと振り向くと、殴り飛ばした方角から男が形相を変えて飛んできた。
余裕を笑みは何処かに消え、全身から禍々しいオーラを放っている。

(この力、ノアとは真逆の物!?
 まさかこの男の正体は・・・・・・!)

男は巨大な体躯へと姿を変え、オーラの形が固定され始めると、
全身を伝う赤いラインが浮き彫りになる。
例えるならば、ウルトラマンノアを黒く塗り替えた闇の巨人。

(ダークザギ!)

かつてスペースビーストを駆逐するために作られたノアの模造品であったが、
歪んだ自我に目覚めて悪魔へと変貌してしまった、人造巨人の姿であった。

『このまま神龍の願いで8期の世界へと飛ぶ予定だったが仕方ない。
 こうなれば貴様を始末して別の7期のパラレルワールドへと跳躍してやる』

フォルカを見下ろし、ダークザギは不敵に微笑む。
テラカオスバトルロワイアル7期、それは神龍の願いによる人々の救済であった。
そこに目をつけたダークザギは、名も無き男に憑依してテラカオスバトルロワイアル8期の世界を作る。
そして並行世界転移装置で別の7期の世界に転移し、同じ願いで新たな8期の世界を作り出す。
後はそれを繰り返すことで、彼は様々な殺し合いの世界を生み出していたのだ。



「ダークザギ、お前だけは許さん!」

フォルカは体内のノアに語りかけ、融合していたノアと意識を同調させる。
すると彼の肉体も巨大化を始め、光がウルトラマンの形を作り出す。
シルエットはダークザギと瓜二つであったが、最大の違いは背中のウルティメイトイージスだ。
ダークザギとは対象的に、神々しい光を放っている。

『ノア! まさかここで貴様に会えるとはな!』

ノアを一瞥したダークザギは歓喜しながらノアに殴りかかる。
その拳には漆黒の炎が纏わりついており、周囲の温度が急上昇しているのがわかる。

『ノア・インフェルノ!』

フォルカとノアの叫びが重なり、ノアの腕にも赤い炎が宿る。
1兆度の拳がぶつかり合って、両者に熱波の余波が浴びせられる。

(む?)

確かに手応えはあるのだが、フォルカはその感覚に違和感を感じた。
ノア・インフェルノにしては威力が弱すぎる。
以前のダークザギとの戦いでは、ワンパンで彼を大気圏外まで殴り飛ばしたはずだ。

(ならば!)

これ以上宴会場で戦うと被害が出るため、ノアはダークザギを蹴り飛ばす。
ダークザギは宙を舞ったものの、空中で受身をとって海辺に綺麗に着地した。

『どうしたノア、その程度か』
(いかん、明らかにノアの力が弱まっている!)

フォルカはバトルロワイアル最中にノアの力を使いすぎていた。
バルサンから並行世界を救い、ネオ・グランゾンとも戦っていたのだから、
その消耗は計り知れないものであった。
今のノアの力は、ノアの姿をギリギリ維持できる所まで減っていたのだ。

(ウルティメイトイージスに蓄えられた力を考慮しても究極技は使えないか・・・・・・)
『何処を見ているノア!』

ダークザギは腕からザギ・スパークを出す。
襲い掛かる闇の刃をノア・スパークで迎撃するが、
光の刃は貫かれ、ノアの肉体を闇が次々と切り裂いた。

『ならばこれはどうだ!』

科せられたハンデを気にしつつも、ノアは攻撃に転換する。
両腕から重力破壊光線『グラビティ・ノア』出してダークザギを押し潰そうと試みる。
しかしザギ・リフレクションによって、それは容易に防がれてしまった。
円形のバリアを解いたダークザギは、ザギ・ブリザードをノアに浴びせかけた。

『くっ!』

暗黒波動の雪嵐はノアから熱を奪っていく。
ノアの全身を覆う氷は、エナジーコアの光さえ閉じ込めていく。
やがて動かなくなったノアに向かって、幾多の隕石群が降り注いだ。
バラバラになっていくノアを見て、ダークザギは鼻を鳴らす。


『俺はここだ!』

ザギ・ギャラクシーにより砕かれた氷像は、まるで何も存在していなかったかのように消滅した。
代わりにダークザギの真横からノアが肘鉄を放つ。
ノア・ミラージュの幻影で撹乱を行い、ノア・エルボーを喰らわせる。
そしてそこからノア・スパークを打ち込めば、かなりのダメージが期待できるはずだ。

『クク、甘い!』

ノアが殴ろうとしたダークザギもまた、幻影であった。
空ぶって戸惑ったノアの背後からダークザギがザギ・パンチで殴りかかる。

『ぐぅ!』

ザギ・ミラージュにより逆に痛手を負ってしまったノアに、ダークザギはグラビティ・ザギを放つ。
超重力光線に押し潰され、ノアを支えていた地面が凹んでいく。

『どうしたノア? 俺を追い詰めた貴様の力はその程度のものだったのか?』
(このままでは不味い!)

重力に耐えながらもノアは、仰向けに姿勢を変える。
そしてダークザギに向かってノア・シュートを撃ち込んだ。
爆発音がなったと同時に自身を拘束していた重力波が弱まり、
その隙にノアは何度もノア・シュートを放った。

『調子に乗るな』

ダークザギの声とともに土煙の中から赤黒い色の光線が放たれ、ノアのいた地面に大きな穴が空いた。
辛うじてノアは光線をかわしたものの、既に立っているのがやっとのところだ。


『ククク・・・・・・やはり素晴らしいぞカオスの力は!』
『カオスの力・・・・・・?』

無様だと評したノアに、ダークザギは高笑いした。
かつて自分を圧倒的な力で追い詰めていたウルトラマンノアが、
今では逆に追い詰められているのだ。

『そうだカオスだ!
 貴様に敗れた俺は、奇跡的にテラカオスバトルロワイアルの世界に流れ着いていた。
 そこで見つけたのだ! 様々な人間が己の欲望のために殺し合う姿を!
 殺したいから殺す! 守るために殺す! 大切な人を殺されたから殺す!
 負の感情が充満した世界は、俺の力の源である"闇"を蓄えるには最適な環境だったよ』

『それが殺し合いの世界を作る理由か・・・・・・』
『こうしていくつかの世界は俺の目論見通り滅び、そのエネルギーは俺の血肉となって生き続けている。
 俺はついに貴様を超える力を手に入れたのだ!』

高らかにノアに勝利宣言をするダークザギ。
ノアが肉体は既にボロボロで、気を抜いたら変身が解けてしまいそうだ。
だがその内で、フォルカ、そしてノアは激情に揺さぶられていた。

ウルトラマンノアは、正義の化身だ。
太古より全宇宙の平和を守り続ける伝説の存在であり、
他のウルトラマンからさえ超人を比喩される程である。
そして彼が選んだフォルカ・アルバーグという男、彼もまた平和を守ることを誓った修羅だ。
歩んできた道のりはノアのそれと比べるまでも無い。
だがその志は、ノアに引けを取らない。

『そんなことのために・・・・・・』

ノアの言葉はフォルカの言葉。
フォルカはノアの代弁者であり、ノアの意思はフォルカの意思でもある。
自分を支える両足に力を込めて、力の限り叫ぶ。

『そんなことのためにあんな世界を生み出したのか!』

右足を踏み出し、拳を前に突き出した。
そして跳躍し、ダークザギに向かって飛び蹴りを放つ。
次々と放たれる拳の嵐、その構えは間違いなく機神拳のものであった。

『だからどうした!』
『多くの命が失われたんだぞ!
 多くの人々が悲しんだんだぞ!』

ダークザギは、後退しながらも拳の隙間を掻い潜って回避する。
反撃を加えようとしても、当たるのは目に見えているため、ダークザギはバックステップで距離を取った。

『貴様のせいで!』


締めの延髄蹴りがダークザギのわき腹に突き刺さり、苦悶の声を上げながら海に叩き込まれた。
しかしダークザギはすぐに立ち上がり、ノアに向かってライトニング・ザギを発射する。

『ライトニング・ノア!』

幾重に重ねられた超絶光子プラズマと赤黒い閃光がぶつかりあい、
激しい火花を発して押し合った。

『だがまだ弱い!』

ダークザギの光線が勢いをますと、ノアのプラズマは急激に押し戻される。
そしてライトニング・ザギがノアに直撃した。

『まだだ!』

爆炎の中からノアが姿を現した。
前面にノア・リフレクションを張りながらダークザギに接近する。
ダークザギは何度もザギ・シュートを撃ち込むが、それらは全てバリアによって弾かれる。
本来ならば光線さえ反射してしまうのだが、力が弱っている今でも身を守れるのだから
ダークザギにはどの道面倒な物であろう。

(この距離ならば・・・・・・)

ノアはバリアを解き、手の平に光の力を込める。
だがその腕から放たれるのはノア・シュートでもライトニング・ノアでもない。

『ノア・ウェーブ!』
『何!? その技は・・・・・・』

次の瞬間、光がダークザギを包み込んだ。
電撃でも全てを滅する破壊光線でも無い優しい光だった。
しかしそれはダークザギを確実に苦しめていた。

『力が・・・・・・カオスが抜けていくだと!?』

浄化の光がダークザギから闇を奪っていく。
本来のダークザギならば、この程度はダメージにすらならないであろう。
ノア・ウェーブは癒しの技であるからだ。


-くっ!信長様ーーーっ!!!-

                           -この……殺人鬼め……-

           -畜生-

               -ミクトラン!!あんたやっぱり!!-

   -コア損傷……発射に影響無し、エネルギーシフト続行。
    ……防衛続行不可能。次善、敵殲滅。周囲考慮、攻撃範囲の一点集中。
    ……対象を自分に変更。自爆による殲滅が最善-

-……ごめんよ。
 あの連中に君が惨たらしく殺されるくらいなら……せめて自分の手で安らかに眠らせたかった。
 君一人守る力を持たない僕を……どうか許してくれ……
 僕もすぐにそっちにいくから……-

                  -おおお前たちがいるからああああ俺ばぐぶっ……!?-

               -ごめん……私……アンタを……-

                       -ハクおねえちゃんなんで・・・・・・?-
                       -どうしてあんたがそっちにいるのよ、ハク!-

 -てめぇらみてぇな、変態がいるからおじいちゃん死んじまったじゃねぇかッ!!
  やっぱり変態っているッ!! DNAがッッッ!!! なんちゃらだッッッ!!!-

-犠牲はもう……たくさんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!-




          -こんなセカイなんて……消えちゃえ-

        -じゃあ俺の番でもおかしくはないよな、ハルヒ-



『なんだ? この声は!?』
『わからないのか?
 その力は殺し合いで散っていった者達の物だ!
 大切な人を救えず、彼らと日常に戻れなかった無念の想いだ!
 ノアの力は彼らでさえ救ってみせる!』
『馬鹿な! こんなことがあって溜まるものか!』

ダークザギに取り付いていた闇が、怨念が浄化されていく。
やがて悲鳴が安堵の声に変わり、ダークザギから闇が払われた。
光の中から禍々しい覇気が消えうせたダークザギの姿が現れる。

そしてノアは右手首に左拳を打ちつけるように腕を組み、ライトニング・ノア発射の構えを取る。
ダークザギもライトニング・ザギの発射姿勢に入り、双方から光が放たれた。
二つの必殺光線はぶつかり合ったところで膠着状態になって互いの体力を削り合う。
しかしノアは決して引くことはない。
例えこの肉体が消えてしまったとしても、悪という存在を許すことはしない。

『守るべき者の為に・・・・・・我らは、阿修羅の道を往く!
 ノアよ、あなたが望むというならばその力、全て俺に預けて欲しい!』

フォルカも決して引きはしない。
修羅の命など安い物、それがフォルカ自身に対する命の価値の一つの答えであった。
だが、その拳は人々を守る盾となり、悪を砕く正義の鉄槌へと変えることができるのだ。
ならば彼にできることはただ一つしか考えられなかった。

『俺は・・・・・・俺は修羅だ! 闘って生きる! それが修羅だ!』

七色の光にフォルカの闘気が交じり合い、やがて双覇竜を形作っていく。
プラズマはライトニング・ザギを蹂躙し、ダークザギに向かって喰らいかかった。

『俺はまたノアに! ノアに負けるというのかぁぁぁぁぁ!?』

ライトニング・ノアがダークザギを飲み込んでいく。
同時にノアも、光の奔流に包まれて、粒子となって消えていく。




(ショウコ・・・・・・俺は・・・・・・)

光が消え去った後には、二体の巨人はもう存在していなかった。


【ダークザギ@ULTRA N PROJECT 消滅】
【ウルトラマンノア@ULTRA N PROJECT 消滅】
フォルカ・アルバーグ@スーパーロボット大戦シリーズ 消滅】





「ふわぁ・・・・・・よう寝たでー」

人ごみの中から大柄な女性が目を覚ます。
宴会から大分時間が経過したためか、周囲の異臭はそれほど気にならない様子だ。
日光を浴びながら、女性は大きく背伸びをする。
彼女以外に目覚めている者達もおり、何人かは後片付けで忙しなく動いている。

「アッコさんアッコさん大変www」
「なんや朝っぱらから騒々しい」

すると彼女には見慣れた短パンの男が現れた。
彼は神龍の立っていたところを指差しながら、説明を始める。

「それが神龍消えているwww」
「なんやて!?」

話と聞くと、彼女は神龍のいた所をキョロキョロした。
そして男の説明が事実だと理解すると、怒りの形相を浮かべて暴れ始める。

「ちょwww勝手にドラゴンボール使われてるwww」
「どこの誰や! ウチに何の断りも無く使ったアホは! お前か!?」
「違います!」
「じゃあお前か!?」

女性は視界に入る人間全ての胸倉を掴んでドラゴンボールのことを尋ねていく。
しかし彼女達が真実を知ることは決して無いであろう。
発見された謎の惨殺死体を蘇生させても、彼らの記憶にノアとダークザギの戦いが残っているはずもない。

当のフォルカ・アルバーグという男はもう存在しない。
余りにも長くノアと融合していたため、彼はノアと離れられなくなっていた。
そしてダークザギとの戦いで、完全に力を使い果たして消滅したのだ。
フォルカ・アルバーグとウルトラマンノア、確かに彼らは英雄となれたであろう。
しかしその事実を知る者は、この世界にも、元の世界にも存在しない。

神夜達との因縁はどうなった?
シュウコ・アズマの行方は?
この結末に満足しているのか?

彼にはまだ遣り残したことがあるであろうが、それを確かめる術も無く世界は続いていく。
だが大切な人を失った人も、やがてはその悲しみを乗り越えていくであろう。
そこにはノアの力が介入する意味は無いのだ。
神様が何もしなくても、世界は回り続けることができるのだから。



【テラカオスバトルロワイアル8@テラカオスバトルロワイアル 完】





【小話~それから~】






「・・・・・・というお話だったのさ」
「ねえねえママー、もうおしまいなの?」

金髪の少年・・・・・・年齢はまだ5,6歳程度だろうか、
は顔を見上げて背後の女性に話し掛ける。
女性は白い髪を揺らしながらも、少年に向かって優しく答えた。

「ええ、目立ちたがり屋の光の巨人さんの話はここでおしまい」

絵本を閉じた女性は少年の頭を撫でながら、すぐ横の本棚へと手を伸ばす。

「次はどの絵本がいいかな・・・・・・あら?」

選別していた手を止めてみると、膝の上の子供がいつのまにかに寝息を立てていることに気づいた。
女性は持っていた本を戻し、少年を抱きしめて子守唄を歌い始める。

「木々の~ざわめき~
 空見上げ~て風と歩く道~♪」

記憶の片隅に残っていたメロディを思い出しながら、口ずさむ。
決してうまいとは言えないが、彼女の歌声は少年を笑顔にへと変えていった。

「おやすみなさい~
 すべてを受け止めて~空と海のあいだ~」

今頃楽しい夢の中へと旅立っているのであろう、
少年の涎を吹いてあげながら、女性は微笑んだ。
そして自分自身も瞼を閉じ、夢の世界へと誘われていく。

(旅立ちなさい~
 すべてを許し合う~愛の夢の中)

目に映るのは既に捨ててしまった過去の人々。
だけどとても大切だった人々。
いないはずの彼らは、優しく自分に手招きをしてくれる。
そしてみんなで歌を歌い始める。
自分にそんな資格は無いはずなのに、今でもたまに、彼らに誘われるのだ。

次に目覚める時、自分はきっと泣いている。
本当に酷い女だと、自分で自分を責めている。
でもそんな自分をあの人は優しく受け止めてくれるであろう。
愛する男の笑顔を思い出すながら、彼女は意識を手放した。
最終更新:2011年08月13日 00:38