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「ズェア!」
「はあぁ!」

振り抜かれる鳴神と世界樹の剣が激しくぶつかり合う。
その衝撃だけで、スカイツリー近辺は次々に崩壊していった。
きらりんロボに蹂躙された観光地は、さらなる激闘により見る影もない凄惨な状況となっている。

だが諸悪の根源たる二人の剣士はそんなことを僅かたりとも気にしていない。
一言で言えば『滅』である。お互いに目の前の『悪』を滅ぼさなければ気が済まないし、それしか見えていない。
そもそも相手に集中し続けなくては、あっという間にやられてしまう危険性があるのだから、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。

「おのれぇ……!」

常に冷静であったハクメンは、苛立ちから徐々に意外と熱く激昂しやすい面を見せ始める。
この男、実は割と人の話を聞かない性格でもあり、これはネオクライシス帝国とのやりとりでもお解り頂けるだろう。
もはやこの戦いを第三者が止めることは不可能。止めようとする物好きもいないだろうが。

「ズェァ「くらえ!」ァァァアアァ!」

バックステップをしながら、ハクメンは似つかわしくない叫び声をあげる。
そう、彼は苛立っている。かつてない程に。

「どうしたんだい、さっきから躱してばかりじゃないか!」

理由は当然、目の前にいる『凶』ことレストである。
彼は対マーラ戦で見せたアビリティ『鋼身之構』を常時使用してハクメンと戦っているのだ。
このアビリティの効果はハイパーアーマー、格ゲーなどでも見かけることは多いだろう。
何をしても仰け反らない浮き上がらない、鋼の身体。
いやらしい能力だが、弱点として多段ヒットする攻撃をモロに全部くらう点などがある。
だが当然メリットもある。何をされようが怯まないということは、相手のコンボ攻撃を強引に止められるということになる。

ハクメンが一太刀を振るえば、それを受け止めてダメージを受けながらも前に出て肉薄できる。
ハクメンは中距離に対して絶大な制圧力を誇るが、その反面超近距離への対応できる技は少ない。

「無駄だ!」

思い通り、普段通りの戦いができないというのは非常に不快だ。
しかし元々ハクメンの強みはドライブ能力、当身技にある。レストの攻撃のほとんどは、ハクメンに届くことは無い。
それでいて尚、ハクメンが苛立つ理由は至って単純。

「無駄なのはそっちさ。この程度でここを退くわけにはいかない!」

攻撃を無効化され、反撃を受けても気にする素振りもなくゴリゴリと接近し続けてくるレスト。
この男、とにかく出鱈目に硬いのである。
もはや通常手段では測定不可能な防御力と体力に、錬成装備の防御と特性、エーテルリンクによる三竜とサクヤ分の追加補正。
全属性吸収に全異常無効、物理と無属性のみが通るが、その軽減率は半分の半分の半分、驚異の87.5%軽減。
そこに氷嵐の支配者の能力である氷河の再生が加わる。毎分最大体力の5%自動回復。
たった5%と思う人もいるだろうが、本家氷嵐の支配者が使うだけで邪魔なスキルなのだ。その支配者より遥かに硬い奴が使えばどうなるか。

「ズェアズェアズェアズェアズェアズェアァァァァ!!!」

玉を消費しての常人なら文句無く即死コースのコンボも潰され、再生しながら突っ込んでくる馬鹿みたいに硬い吹っ飛ばないサンドバッグ。
道を遮る障害物としては、これ以上邪魔なものはないだろう。
加えていまや『凶』認定の原因となったきらりの耐性まで引き継ぎ、致命的だったデバフにまで完全耐性ときてる。
これを真っ向から落とすとなると、ハイパーアーマー状態の時に超多段ヒットする広範囲無属性攻撃を延々当て続けるしかない。
宿敵のテルミにも同じ事が言えるのだが、所謂ゲージ技やそれによるコンボを使えないとハクメンの火力は大幅に下がってしまう。
コンボが繋がらないハクメン一人では、再生を上回る速度でこの防御を削り切ることはできない。

「く……はは、やっと捕まえた」
「ちぃ!?」

そしてハクメンのもう一つの弱点。基本の当身は投げ技には対応できない。

「ずぅぇりゃあああぁぁぁ!」
「がぁっ……!?」

剣を戻し、拳を伸ばしたレストはハクメンを初めて掴むことに成功する。
そこから繰り出されのは、担ぎ上げからの拳奥義、ジャンピングパワーボム。

勿論ハクメンは投げに警戒するし、投げに対する反撃手段も持っている。
しかしレストは威力はともかく所持している攻撃アビリティが豊富であり、また変則的な動きも含まれているのだ。
その全てに対応する当身を使いつつ投げを警戒するのは、ハクメンとて楽ではない。

「そこだっ!」

剣から拳、担ぎ上げからの叩きつけ、そこからさらに瞬きの間もなく武器は神の槍グングニルへと変わっている。

「……!」

「グランドインパクトッ!」

だが槍はハクメンに向けて放たれるのではなく、地面に叩きつけられた。
対ハザマ戦でも見せた、大地を揺るがしさらに吹き上がる衝撃で敵全体をカチ上げる大技だ。
しかしながらこれは本来はハンマーアビリティ。
変則的なのは武器とアビリティの関係にも当てはまり、使用武器で油断させつつ別種武器のアビリティを発動させることもできるのである。

「小細工をっ!」
「ぐぅ……!」

しかし今度はハクメンが読み勝った。
槍が地面を揺るがす前に既に空中に飛び立ち、衝撃波の範囲外から技の発動直後で硬直したレストに強烈な咢刀を叩きこむ。
本来ならばこのまま空中行動に移りたいが……

「羅閃ッ!」

即座に別アビリティでの反撃。
迂闊に欲張り攻め込めば、余計な攻撃を受けてしまう。
しかし攻め続けなければ、再生を許してしまう。

「く……」

ハクメンは表情こそ変えないが、『凶』に対して焦りを覚えていた。
相手は防御寄りの能力。先程は手痛い投げを受けたが、他の攻撃は躱すか掠める程度で済ませられている。
このまま戦っても自分が油断をし、『凶』の持つ高威力の技をまともに受けでもしない限り、敗けることはないだろう。
だがこの『凶』を滅せられるかと言えば非常に怪しい。
コンボが使えず硬すぎる挙句に再生。正直『悪滅』を直撃させても仕留めきれないかもしれない。
さらに全能力を解放すれば或いはだが、敵はこの『凶』だけではない。まだ複数体も残っているのだ。
悪魔将軍にも言われたが、まだここで余計な力を使うわけにはいかない。
しかしこのままずるずるとこの男を相手にしていたら、確実に大幅なタイムロスだ。他の『凶』を増長させる危険性もある。
素通りしようにも相手がこうも攻め込んできてはそれもできない。ハクメンはただ悩みながら、戦い続けた。

(くそ……厳しいなぁ、これ……)

だがハクメンが悩む以上に、接近戦を挑み続けるレストは悩んでいた。

ハクメンは知る由もないが、そもそもこの戦いは最初からハクメンの勝利が確定していたのだから。

確かにレストの硬度は異常であり、あのマーラすら攻撃力と防御力は自分以上だと称賛する程。
しかし同時にマーラは、スピードと持久力は自分に及ばないと評価している。
ハクメンに勝つことができないのも、ここに起因している。
スピード面、これは決してハクメンも優れているとはいいにくい。どころか単純な機動力ならレストが上回るだろう。
ここでいうスピードとは『技の速度』である。
ハクメンを倒すには、強大な一撃を叩き込む必要がある。体力を削ることはできるだろうが、ある程度負傷すればハクメンは退くだろう。
それでは時を斬られ、逃げられる。逃げらては、いつまたきらりが狙われるかわからない。
だがレストの必殺の一撃はいずれも範囲は正面扇型な上に僅かな溜めを要する。見てから当身余裕でしたな反応が可能なハクメンとは致命的に相性が悪い。

そして持久力。
今やデバフ耐性すら得て、正攻法での打破は不可能といっていいほどの防御力を得たレスト。
しかし彼にはデバフ耐性とは違う、仲間にも伝えていない本当の致命的な弱点が存在する。

攻撃のために剣を振り、拳で殴り、槍で突く。
防御のためにアビリティを使う、回復魔法を唱える。
自分のため、仲間のため、装備や料理を作る。
そのいずれの行為にも彼はルーンの力、所謂魔力を逐一消耗する。
そして消耗した魔力は、食事か大地の力の溢れた地で休息しなければ回復することはない。
どれだけ強くなろうが、ドラゴンハートの恩恵を受けようが、こればかりは変えられない生まれ持った体質。
魔力が尽きれば、もう剣の一振りもできない。完全な置物と化すのだ。
世界樹なら話は変わるが、今の戦場は焼け焦げ崩れ去り、大量のヨロイ達が散らばる自然とは無縁の地。
そしてハクメンを前に、僅か数秒にも満たないとはいえ食事という無防備な隙は許されるはずも無い。
加えて今はエーテルリンクの維持にも魔力を割いているため、時間経過と共に魔力は減り続ける。
対してハクメンの勾玉は、時間経過で上昇を続ける。

持久力の差は、あまりにも明らかだった。

(きらりとの連戦、それに鋼身之構とエーテルリンクの長時間維持、残り25%もないかな。この状況を僕一人でどうにかするのは……)

自身に残された魔力を考えながら、レストはひたすら攻め続ける。
それは即ちさらなる魔力の減少、いわば己の死に近づく行為だが、ハクメンに自身の体質と限界が近いことを悟られるわけにはいかない。

本来であれば、魔力が切れても耐久力は変わらない以上、それこそサンドバッグの様に殴られ続けるだろうが死にはしない。
ハクメンの秩序の力がどの程度のものなのか。それは詳しくはわからないが、ハクメンの反応から混沌に対しては絶対の力を持つのだろう。
魔力が空になればエーテルリンクは解ける。だが完全に制御可にしたきらりの力は果たして分離するのか?
そして秩序の力を抑え込むサクヤの光。こちらは確実に分離する。本人の同意もなくその身体を取り込んだのだから当たり前だ。
きらりの混沌が残ったままサクヤの光が離れる。それはつまり、ハクメンの秩序の特効を受けるということになる。

(ああ、くそ。結局僕は、一人じゃ何もできないままじゃないか。どれだけ強くなろうと穴が塞がりきらない)

「ズェ「無心剣ッ!」ッッ!?」
「はは、僕も当身技は持ってるんだ。今度はもっと確実に撃ち込む!」

ハクメンの攻撃を、当身のアビリティで防いで反撃するレスト。
表面で余裕を装い、互いが当身を警戒して殴り合いが少し減っても怪しまれないようにする、苦肉の策。
内心では、己の無力を呪う。

(いつしか人との繋がりを自ら捨てた僕が、今更になって……また誰かを欲するなんて、笑えないよ)

「ならば、これでどうだ?」
「くっ!?」

ハクメンの『椿祈』が当身を読み切り打ち込まれる。
コンボが繋がらないのならば、単発で大きく削りきるしかないだろう。

(いや、とっくに前からか。この殺し合いの世界において僕は確かに強者の部類だろうけど、誰かの力を借りなきゃ、勝てなかった)

かつての風鳴翼とぼのぼのとの戦いは、影薄がぼのぼのを倒してくれたのが大きい。
狂信者の大軍勢との戦い。メタられ、ダオスがいなければ取り巻きはともかくハザマと大和は倒せなかった。
地獄のようなマーラ戦。疲労していたとはいえ、真っ向勝負で敗北した。まどか達がいなければ、昇天コースだっただろう。
さっきのきらりとの戦いもそうだ。みんなの協力が無くては、魔雲天がいなければ救出は失敗していた。
そして今。セルとサクヤの力が無ければ、こうもハクメンと殴り合うことはできなかっただろう。

(一つの個が、修練の末、届きうる限界。それを卓越して個の極地に達せたとしても……個であることは変わらない)

「ズェアアァ!」
「はああぁぁ!」

(僕も、こいつも。守りは硬いが穴はある。あのベジータだってそうだった。誰にだって苦手とすることはある。一人じゃ、限界がある)

「ぬん!」
「くっ!」

至近距離からのハクメンの蹴りを受け止めながら、レストは結論に近づく。



(そう……忘れようとしていた。でもやっぱり人と人の繋がり、支えてくれる人は大切だなんだなぁ……)



ドラゴンハートの恩恵も受け、個の極地すら踏み越えた男は、同じく踏み越えた目の前の秩序を前にそれを悟るのであった。

(でも、駄目だ。大切だからこそ!こいつをみんなのところには行かせられない!ここで僕が食い止めないと!)

思い浮かぶ仲間の顔。
かつての仲間は大災害で人間も魔物もほとんどが死んでしまった。
紆余曲折を経た今の仲間も数をどんどんと減らし、ハクメンの侵攻を許せば確実に犠牲者は増える。

(今の僕一人じゃ、こいつを倒しきることはできない。でも、二人なら……)

(サクヤ……)






ーー


「ソウル?」
「はい、私やホルスさん……自分で言うのも変ですが、ある程度の地位にいる神々やドラゴンはみんな持っているんです」
「魂とは違うのかい?」
「そうですね、意思を司る非物質が魂で、力を司る半非物質がソウルと言えばいいのでしょうか?」
「なるほどね。それでそのソウルがどうかしたのかい?」
「……私たちは召喚されると、契約主が死ぬか契約を破棄するまで契約には逆らえません。
ですが本当に心から信頼できる人であれば、死後も力になろうと、己の力の結晶であるソウルを遺します」
「……死後も酷使するのは、あまり気持ちのいいものじゃないね」
「いえ、これは私たちの遺志でもありますし、誇りでもあります。
ホルスさんもよく、『ホルもいつかはソウルを遺す相手に会いたいホル。ホルは主人公タイプホルから、その人もきっと主人公になれるホル!』
とか言ってましたからね。主人公タイプというのがちょっとよくわかりませんが……
とにかく、私たちの自らの遺志で遺すのです。このソウルは、その信頼できる人と一体となって初めて真価を発揮します。
本来は特殊な器具を使いますが、レスト様ほどの遣い手ならば……」
「待ってくれサクヤ。それはつまり君が……」
「勿論、この身のままでお仕えしたいです。ですがこの世界は神々さえ容易に屠られる世界……」
「そんなこと、させやしない」
「ありがとうございます。ですがどうか憶えておいてください。ソウルを手にしたならば、解号はーー」



ーー

「……僕は、君の信用に足る主人であれたかい?」
「貴様、何を言っている?」
「お前に言ったんじゃないよ。ああ、本当に最後まで使いたくなかったよ忌々しいお面野郎め。
……でも、まだ残されてる大切なものを守るためだ。サクヤ、どうか許してくれ。そしてどうか、その力をッ!」

「『クロスオン』ッ!!!」
「ッ!?」

突如、『凶』が似つかわしくない眩い光を放つ光景に思わずハクメンは息を呑む。

「……ありがとう、サクヤ。この力で、君と僕とで、こいつを討つッ!」

そして光が晴れた。
光より現れた『凶』は……

主従の完成形とも言える、エーテルリンク以上の一心同体『ソウルアーマー』に身を包んでいた。

「…………『凶』なうえに『変質者』だったか。どこまでも救えんな」
「黙れぇ!?こうなるのは僕も予想外だよ!」

しかし何故かその格好はベースとなっているサクヤと同じミニスカートであった。
良心なのかスパッツは履いているがだったら背中のふりふりリボンもとってせめて男物の衣装で来いというのが、ハクメンの場違いで正直な感想であった。





「この程度、サクヤが受けた辱めに比べればなんともない!『彼女の』力をその身で受けろ!」
「!?」

しかしハクメンの意識はすぐさま死闘のものに引き戻される。
予想外の格好の変身を繰り出してきたが、予想外なのはその力もだ。
『凶』でありながら、まるで黒き闇の力を感じない。『凶』でありながら、強き光の加護を持っている。

「四神乱舞!」

レストが叫びサクヤの力を行使すると、周囲の魔力が騒めき始めた。
主従一体となったソウルアーマーは、ベースとなったモンスターのスキルとは同名でありながら、その力も大きく変化する。

「これは……!?」

ハクメンが驚くのは無理もないだろう。
周囲から闇の気配が次々に根絶されているのだから。
その身をソウルアーマーとさせたサクヤの闇を払う力はさらに強化され、周囲の魔力を闇以外の四属性に強制変換させるものとなっていた。

「何故だ、何故『凶』に光が加護を与える……!?」

そして闇以外の力が、光の名の下に吸い寄せられていく。
流石にハクメンも即座に身構える。この闇を排除した魔力の収束は、間違いなく予備動作だ。
そしておそらく、これは見てから当身余裕とはいかない。
当身やガードすら強引に貫通するような、度を超えた危険な一撃の気配。歴戦の勘が警鐘を鳴らし続けている。

「く、ら、え、ぇ……ッ!!!」

ミニスカートをはためかせながら、舞い踊るように動く『凶』
しかしハクメンはそれに動じることはない。動じてはいけない。この攻撃はマズイと、嫌でも感じ取ってしまう。


「彗光・四源の舞ッ!!!」


直後、これ以上ない程の暴力的な光を纏った拳がハクメンに迫る。

サクヤの能力であった四源の舞は闇以外の四属性が周囲に揃った時、その攻撃力を『5倍』にするというもの。
だがソウルアーマーとなり、彗光四源となった現在の攻撃上昇率は……


『40倍』である。


「ぐっ……!?」

しかしまさにハクメンに迫ろうとしたレストは、突如胸に内側から激痛が奔った感覚に襲われ、僅かにその体勢を崩した。

「ッ……!?ならば、こちらも終いにするまでだ!」

そしてハクメンはその隙を見逃さない。

繰り出されるは虚空陣奥義『悪滅』
投げさえも受けられる当身は、当然体勢を崩した拳も受けられる。
直後に放たれるは、何人も回避不能な絶大な攻撃の嵐。
発動すれば相手に待つのは『死』のみだ。



「ッ……はははは!この、程度か……!まどかのレーザーの方が、痛かったねぇ……!」

「く……!!!」

しかしここにきて、『悪滅』は初めて耐えきられた。
『悪滅』を受けた相手は死ぬ。
しかしそれは確定即死判定ではなく、常人なら何度も死ねる程の回避不能の超オーバーキルダメージを与えるからだ。
規格外の攻撃は、規格外の防御で耐えられたのだ。






防御越しに勿論『悪滅』は大きなダメージを与えている。
しかしハクメンは当初より『悪滅』でもこの『凶』を倒しきれない可能性は考慮していた。
だからこそ、ここは屈辱極まりないが驚きこそすれ予想の範囲内ではあり、即座に防御態勢に移ることができた。


「貴様はーー」


言い終える前に、ハクメンは彗光四源の一撃を受け、遥か彼方へと吹き飛んだ。






「げほげほっ……くそっ、体勢崩したうえに今のは入りが浅かった……!
あいつめ、最初から耐え切られるのわかって身構えてたな……」

咳き込み吐き出した血を拭いながら、しかしレストはようやく僅かばかりの安息の時を得た。
今の一撃ではあの侍は仕留めきれていないだろうが、少なくともある程度の傷は与えて遠方までは吹き飛んだ筈だ。
例えまた即座に攻め込んできても、数秒の余裕はあるだろう。その間に小鳥印の青汁でそれなりに消費した魔力は回復できる。

しかし。

この場からハクメンの脅威が去ったことは、彼により大きな絶望を与えることとなる。

「ーーッ!?」

流しこんでいた青汁を思わず噴き出しそうになるのを堪えて強引に飲み下す。
しかしそうすれば今度は吐き気に襲われる。
どうして今まで気がつかなかったのか?
答えはわかりきっている。ハクメンと自分の殺気のせいだ。

「なんだ、この禍々しさは……!?」

くしくもきらりの混沌を宿し、同時に闇の気配に敏感なサクヤと一体化した影響で、遠方のその気配は感じるなという方が無理なレベルだ。
先程の侍、ハクメン以上の威圧感と禍々しさを放つ何かがこの世界に存在する。
そしてそれは本来、存在してはならない。本能的にそう察してしまうほどの、形容し難い禍々しさ。

「サクヤ……?」

そしてもう一つ。
先程胸に奔った激痛。あれは攻撃を受けたのではない、内側からの痛み。
とっくにあらゆる異常を受け付けない身体だ、病気の筈がない。金属を練り込んだ料理も喰えるほどの悪食だ、食あたりでもない。
考えられるのは『彼女』の、サクヤの痛みだ。

「……」

レストがサクヤをソウルアーマー化させなかったのは、女装装備になるからでは勿論ない。
狂信者が考えるように、彼もまた心の何処かでサクヤの蘇生を考えていたのだ。
身体を取り込みある種の保存状態とすることで、いつか彼女の魂を見つけてあるべき身体に戻す。
完全な一心同体となってしまった今ではその方法ももう使えなくなってしまったが、レストは何故だか嫌な予感がして再びその禁術を唱える。

「ゲート、リジェクト」

勿論、既に都庁で二度に渡り失敗している術だ。魔力が減った今使っても絶対に失敗することはわかっている。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ……!!!」
「うっ!?」



数秒だけ開かれる、死後の国へのゲート。それが開かれた瞬間、苦悶の声と共に見知らぬ無数の手が伸ばされてきた。
そしてそれを掴んだり振り払うより先に、さらに奥から拡がってきた『影』によって腕は捕縛される。

「ッ!」

目の当たりにした瞬間、レストは即座に自分の意思でゲートを破壊する。
助けを求めるような存在を無碍にするのは心が痛んだが、あの『影』は解き放ってはいけないのだと本能が叫んだ。
僅かに吸い寄せられるほどの、取り込めば更に強くなれるかもしれない『影』の力。
だが身の程を弁えず大きな力を取り込み、肉体が耐えきれずに死んでいった哀れな老王をこの目で見たこともあるのだ。
今の『影』の力もその類。そしてそんな力が死後の世界に蔓延しているのだとしたら。

「はぁ……はぁ……前はあんな力はなかった……!
それに今の『影』はさっきから感じるこの禍々しい気配と同じだ……!」

全身から嫌な汗が止まらない。
紛れも無い恐怖。ハクメンを前にしても感じなかったそれを、確かに今感じていた。
死者を絡め取る影、そして遠方の気配。本来ならばこれらは繋がらない。
だが仲間たちと情報を共有し意見を交わした今なら話は変わる。

「ダオスさんの時空干渉すらまともに発動できない程、今の世界は歪められている。死後の世界なんて、特に干渉が難しい世界だ……
それをあの『影』は、意思を持って死者を襲っていた。『影』と同一の存在は確実に現世にいるのに、そんな真似ができるのは……
ああ、あの『影』が、この気配が、時空をそもそも歪めてる原因、大災害……『TC』なのか……」

思わず乾いた笑いすら漏れてしまうような、圧倒的に禍々しき力。
まだ世界全土は大災害に見舞われていない。それでいて死後の世界にすら干渉しているのだ。
大災害本体は死後の国を絡め取るどころか完膚なきまでに破壊し尽くすのは想像に容易い。

「魔物や妖精には自然を司る存在が多い。古龍ともなれば、自然災害の厳しさを具現化したような存在も多くいる……
どうして考えられなかったんだ。いわば『小さな大災害』、大災害の具現化だってありえない話じゃない……!」





『小さな大災害』
言わば意思を持つ災害。
それは今に限った話ではなく、それこそ世界樹の三竜やフォレストセルも当てはまる。
天災と称される古龍も生ける災害であり、ベジータやマーラといった存在もこれに含んでもいいだろう。

今まで見つかっていなかっただけで、『TC』を司る生物も存在していた。それだけのことなのだ。

「大災害が近づいて降臨したのか、あるいは目覚めたのか。それはわからないけど……
時間は刻一刻と迫っていて、あの『小さな大災害』すらどうにかできないようじゃ、本当の大災害は止められそうにないね……」

言わば片鱗であの力。片鱗でここまでの恐怖を感じるのだ。
大災害への恐怖もより大きくなったとしても誰も咎めることはできない。
心が折れそうになるほどのそれは、落胆の声と共に吐き出される。

(でも……僕も魔雲天さんと同じ様に諦めは悪い方なんだ)

しかし、こんな世界でも決して諦めずに戦う者はいた。
どんな絶望的状況でも彼は笑い、言葉通りにきらりを救い、支え、取り戻してみせた。

(一人では限界がある。そんな時は仲間に頼る。誰か支えて貰う。初歩的で当たり前だったことだけど……今こそ、これ以上にない大切なことだね)

震えはいつの間にか止まっていた。

(意思があるってことは生きているということ。それならば攻略の糸口、穴も もある筈だ。
そしてそれはきっと、本体の大災害の解決にも繋がるだろう。立ち止まらず、みんなにこれを伝えよう)

(それに、サクヤ。あの痛みは、君の魂が影に囚われたからなんだろう?駄目じゃないか、僕より先に君が闇に堕ちちゃ。
……今度は僕の番だ。君の魂は、必ず救い出してみせる)

遺された力と想いは無駄にできない。
これまでに倒れてしまった多くの存在のためにも、大災害は止めなくてはならない。
死後の世界の危機でもあるのならば、それは決して比喩や誇張でもない。

「なんてこった!騒がしいから何事かと思えば、こんなとこにヘルヘイムのオーバーロードがいやがるぞ!」


「なっ……」

「殺せ殺せ!なんとしてでも!」
「お、おい……でもあいつまさか、風鳴翼さえ倒したって奴じゃ?」
「構うもんか!よく見ろ、あいつは女装趣味の変態だ!」
「変態オーバーロードなんかより、俺らの方が背負ってるもんが大きいんだ!負けるわけがねぇ!」

だがいきなり響くハクメンのものではない、何者かの怒声。
それに続くように、次から次へと多くの怒声がレストを瞬く間に取り囲む。
その殺気は並々ならぬものであり、手には各々何かしらの武器を持っている。どえ考えても殺す気だろう。

「……狂信者?いやーー」
「死ねぇ!害獣がぁぁぁぁぁ!!!」

あまりの事態に、レストは彼らが狂信者なのではないかと考える。
しかしその答えを導き出すよりも、彼らがそれに応えるよりも、何よりも先に剣が振り下ろされる。

「ふざけているのかい?狂信者なら、こんな唯の鋼の剣なんかじゃ僕には1のダメージも入らないってわかってーー」

「ヘルヘイムのバケモンが!」
「世界はわたさねぇぞこの変態が!」
「俺、乳神様を助けて乳揉ませて貰うんだ!」

「ちょ、待ちなよーー」

振り下ろされた剣は一瞬で粉々に砕け散った。そしてそれを繰り出した男の腕も衝撃で同じく砕け散った。
男は絶叫した。だがその絶叫を搔き消し、別の人間達が連続で襲いかかってくる。
数の暴力が恐ろしいことは誰もが知っている。

だが彼らはハクメンと比べて……いや、これまで出会ってきた参加者誰と比べても、比べるのが失礼な程に、余りにも。

ーー弱かった。









「「「うぎゃああああぁぁぁぁ!?」」」

今度はしっかり絶叫が響く。
殴りかかった拳は潰れ、振りかぶった斧は砕けた刃が持ち主に突き刺さり、銃弾は跳ね返り別の人間を貫いた。

「少しは落ち着ーー」

「「「「「怯むな!なんとしてでもこいつを殺せ!」」」」」

雨あられと降り注ぐ様々な攻撃。
だがそのどれも弱く、致命傷どころか1のダメージも入りはしない。
代わりに無謀な突撃をしてくる人間に致命傷が跳ね返り、辺りにはあっという間に骸の山が出来上がった。

「う……強ぇ……!」

ようやく波がおさまる。
まだ何もしていない、喋れてもいない。それでいて自分の周りに死体が増えている。
とてつもない異常事態。ハクメンや大災害と比べればとるに足らない存在たち。そんな存在に、レストはある種の恐怖を感じ始めていた。

「少しは話を聞け!君らはっ……げほっ、何がーー」

「いや、効いてる!効いてるぞ!吐血したぞ!俺らの攻撃は効いているんだ!」
「なんでえ、オーバーロードっても大したことねえんだな!」
「おい、動画録れ!俺らの勇姿とこいつが惨く死ぬ様を残せれば、他の連中のヘルヘイム狩りの士気も高まるぞ!」
「安心しろ、最初からもう撮ってるよ!」
「カオスロワちゃんねるにも『変態オーバーロード狩り』でリアル配信してるぜ!」

にわかに盛り上がる人間達。
その異様な光景にレストはもはや口を開くことを辞めた。
力み、むせ混み、血を吐いたのは事実だ。しかしそれはハクメンの与えたダメージからであって、この様な有象無象からは一切のダメージは受けていない。

(こいつら、DMCの狂信者じゃない。余りにも弱すぎるしおめでた過ぎるし、何よりクラウザーさんの名を一言も口にしていない)
「おらぁ!」
(だけど、なんなんだ。これは?)
「いけいけいけぇぇぇ!」
(見ればわかるだろう?君らじゃ僕には勝てないどころか全くダメージを与えらない!慢心とかじゃなくて、これは事実だ!)
「へへ、秘蔵の岩鉄斬剣の出番だぜ!」
(武器も貧弱だ!最低限ダイヤやオリハルコン斬れるレベルを持ってきなよ!)
「見ろよ、オーバーロードの奴俺らにビビってるぞ!」
(……今更だけどモモ達、斬鉄剣折らずに僕にちゃんと突き立てられたんだよなぁ。黒子曰く一般人らしいけど、凄く頑張ってるじゃないか)
「戦車もオシャカにするスーパーバズーカだぜ!」
(それに対してこいつらは、ホントもう、なんなんだよ……)
「俺たちが、ヘルヘイムから世界を救うんだ!」
(ヘルヘイムに、オーバーロードか。僕はそれに勘違いされて襲われているのかな?)
「やれる!やれるんだ!」
(やれないよ。オーバーロードがどんなものか知らないけど、ここまでお粗末なレベルと装備に技術じゃあね)
「ウホッ!いい男の娘!」
(ヤらせないよ!)
「思い知れ、人類の力を!」
(……いつまで続けるつもりなんだろう?)

(普通、これだけ死体が積み重なったら、諦めるなり動揺するなり、せめて少しは作戦考えてからまた攻撃してくるだろう!?)

様々な武器を構え、言葉を吐いてきた人間達。
だが彼らは一人の例外もなく武器を完全に破壊され、反動で身体のどこかしらを吹き飛ばされながらそこら中に転がっていた。
相手は無抵抗なサンドバッグだ。それを一回殴っただけで殴った側が死ぬのだ。明らかに異常だ。
そしてそんな異常を目の当たりにしても何も変わらず攻め込んでくる人間は、もっと異常だ。

「ーー狂ってる」

レストはようやくその一言を口に出せた。





「いいぞ!この調子でーー」
「調子に乗るな」



突然の暴風が、群がっていた人間と骸の山を吹き飛ばす。発生源はレストであり、彼の表情は呆れの色が濃かった。

「いい加減に悟りなよ。その力じゃ僕は倒せない。これだけ犠牲者出してまだわからないのかい?」
「野郎、お前が同志たちを殺したんだろうが!」
「みんな、騙されるな!同志の死も私たちの攻撃も無駄じゃない!現に奴は傷つき血を吐いている!」
「今の風だって、俺らは耐えれた!生きてる!オーバーロードの攻撃だって耐えられんだ!」
「急に話かけてきたのは、分が悪いからなんとかこっちを騙そうって算段だ!このまま行けるぞ!」
「「「うおおおおおおぉぉぉ!!!!!」」」

「…………っ」

心底、絶句した。
そっちが身の程わきまえずに殴ってきて自滅したんだろう。
この傷は前の戦いの傷だ。
哀れすぎるから死なない程度の風を頑張って調整して出したんだよ。
少しは人の話を聞けよ。
言いたいことは山程あるが、もう何を言っても無駄だとこっちが悟ってしまった。
何がなんだかわからないが、この連中は狂信者以上に狂っていて、まともな会話すら成り立たない。
そのくせ脆すぎて何もしなくても勝手に死んでいく。狂信者の死が100歩譲ってクラウザーさんのためになってもこの連中の死はザ・犬死だ。

(昔、僕や魔物を迫害した人間と同レベルの話の聞かなさ具合だなこれ……。グランドインパクトで全員土に還してやりたいけど)
「みろ、図星でオーバーロードの奴だんまりだぜ!」
「変態オーバーロード、論破されるwwwも継続配信www」
(あーもう面倒だな!なんだよ動画だのネット配信だの!土に還したらそこも全国配信というか、既にこれだけ僕はやってないけど結果的に殺った光景も配信されてるのか!?しかもこの格好で!?)

呆れ哀れみ怒り。様々な感情が渦巻くが、ギリギリのラインで皆殺しは堪える。
これ以上、世界樹の悪評を加速させるわけにはいかないという判断だ。
これが全くの無駄な努力だと気がつくのはもう少し後の話。

(ここで僕が世界樹に戻れば、このめでたい連中は『僕がたまらず逃げた』って思って余計に調子に乗りそうなんだよなぁ……)

かといっていつまでも無駄な時間を費やせる程、暇ではない。最初から選択肢は一つしかない。

(ダオスさんすみません。僕じゃこいつら処理しきれないんで、後はお任せします。『小さな大災害』の情報持ち帰るんで許してくださいよ……)

心中で頼れる魔王に謝りながら、レストは帰還魔法で世界樹へと戻る。
新たな覚悟と新たな脅威の情報を持って。

「に、逃げやがった!?」
「いや、これは俺たちが優勢な証だ!このままヘルヘイムに乗り込むぞ!」

そして危惧した通り、世界樹をヘルヘイムと盲信した暴徒はより勢いづき、敵の本拠地を目指す。
沖縄の脅威も、後の大災害も知らず、自分たちこそがこの世界を救うのだと信じて疑わずに……

二日目・15時30分/東京・スカイツリー跡地】
【レスト@ルーンファクトリー4】
【状態】中ダメージ、中魔力消費、各種超耐性、ソウルアーマー・サクヤ、首輪解除
【装備】最大錬成世界樹ノ剣、最大錬成防具、草原のペンダント、グングニル
【道具】支給品一式、不明品、封じられた闇核、三竜の逆鱗、ニアラの逆鱗、竜殺剣『天羽々斬』、ファガンの卵 、小鳥印の青汁×沢山
【思考】
基本:サクヤのためにも、人間としてこの殺し合いを終わらせる
0:仲間たちにお面野郎(ハクメン)、死後世界にも干渉する小さな大災害(シャドウ)、そして暴徒の存在を伝える
1:影薄三人と同盟軍の味方と共に大災害回避の道を探る
2:サクヤの魂を救い出す
3:あわよくば竜と結婚できる世界を作りたい
4:天魔王軍DMC狂信者、拳王連合軍は絶対に許さない
※ブリーフ博士の技を覚え、首輪解除が可能となりました
※現時点で、フォレスト・セルとの長時間のリンクは不可能です
※竜殺剣は所持しているだけでも竜やそれに近い種族に特効性能を持ち、結界や再生などの特殊能力も無効化することができます
 テラカオス・ディーヴァや真竜などには特に高い効果を発揮します
 また巨大な外見に反してとても軽いため、小柄な少女でも振り回したり投擲することができます
※ゲートリジェクト(異空間移動)使用不可

※沖縄のシャドウの存在及び、シャドウによる死者スレへの攻撃を知りました。シャドウの存在はきらりも感知してる可能性が高いです
※ネット上に『変態オーバーロード』の一人として動画を晒されました




ーー







「……」

同じ頃。
吹き飛ばされたハクメンもまた、殺気が薄れたために沖縄の異変を感じ取っていた。
かつてない程の『凶』の気配。この気配の前では、先ほどの変質者の『凶』も本来追っていた少女の『凶』も可愛いものだと言えた。

「ち……」

ハクメンは、己の行動を悔いていた。
気配を感じるのは沖縄だ。大阪から東京に来て、また沖縄まで引き返す?なんと無駄な。
そして引き返している間に先ほどの『凶』達がより凶悪な存在になったら?
思うようにいかないのはさっきの戦いに限らず、もっと根本的な基本方針からだ。
『悪』を『滅』せない。なんということだろうか。
『悪滅』を耐えきられ、不完全と思われる一撃を受けかなりの距離を吹き飛ばされた。
『凶』に。それも女装趣味の。

「忌々しい…………しかしこの気配、この『凶』だけは、なんとしてでも滅さねばならない!」

想定外の痛手は受けたが、戦うぶんには支障はない。ハクメンは再び時を斬り沖縄へーー

「……」

行かなかった。
静かに刀を納めると、彼は頭をおさえる。

「だが、我では勝てぬか……」

それは悪を許さない絶対秩序の、初めての弱音ともとれた。

「少し、急き過ぎたか。あの『凶』すら滅せられずこのザマ……沖縄へ向かったとして、同じ過ちを繰り返すのみ……」

ハクメンにとって、『凶』を討ち漏らすことはあってはならないことだ。
先ほどの『凶』も、拠点は割れている。追えば追撃は十分できるだろう。

『……ありがとう、サクヤ。この力で、君と僕とで、こいつを討つッ!』

「……『凶』の言葉を考えることなど無意味だ」

だがハクメンには、その『凶』の言葉が特に強く残っていた。
君と僕とで。あの『凶』は最後に『一人』から『二人』で攻めてきた。
あの衣服や『彼女の力』と言ってのけた『凶』、そしてあの光の加護の強さ。
おそらくは、あの『凶』にとって大切な少女がいたのだろう。そしてそれはなんらかの理由で命を落とした。

「……ツバキ……」

自分にも、そんな存在はいたのだ。
とても、大切な。

「……ここは一度、拳王達と合流すべきか」

彼女は今はいない。だが代わりに仲間はいる。ハクメンは『凶』の討伐を踏み止まり、仲間との合流を優先した。

「一人で届かぬならば二人で、か……」

それでも駄目ならば、さらに多くの仲間と。
ハクメンは知る由もないが、忌み嫌う『凶』と同じ結論に達していた。

(そうだったな……)

そう、英雄と呼ばれた彼にもかつて仲間がいた。
痛み分けに終わった『凶』との戦いは、ハクメンにも大切なことを思い出させていた。

「……行くか」

ハクメンは立ち上がり、『凶』ではなく『仲間』の元へと歩みだす。
だがハクメンの行動はこれまでなかなかうまくいかず、大なり小なり何かしらの壁にぶつかってきた。
そういう星の元なのかもしれない。だから今回も、ぶつかってしまった。
それは『凶』との遭遇。

「……む?」
「ーー」
「なっ……!!??」

その『凶』と遭遇した瞬間、沖縄の『凶』に匹敵する恐怖をハクメンは感じた。
思わず反射的に飛びのいてしまう。認めたくないが、確かな恐怖がハクメンに逃げを選択させたのだ。

「し、死んでいるのか……?」

おそるおそると言った様子で、ハクメンは動かない『凶』に近寄る。
こいつのことだからどんな汚い手を考えるか、わからない。どれだけ警戒してもし足りないことはない。
ハクメンが見つけたのは、因縁ある『凶』、ハクメンの存在意義でもあった滅ぼすべき『凶』
ユウキ=テルミだった。
本来ならばかつてない死闘が繰り広げられたのだろうが。

『アヘェ……』

「うっ……!?ぐ、おおぉぉぉ……!!!?」

ハクメンはテルミの顔を見た瞬間に謎の幻聴を拾い、猛烈な吐き気に襲われた。

あいつは精神体だ。仮に死んでいてもそれは器だけかもしれない。だがこの顔は間違いなくあいつの顔で。

『アヘェ……』
「うっぷ……」

確認のために嫌々ながらテルミの遺体に近づくハクメン。
見た目も酷いが臭いも酷い。
何があったらこうなるのか?やはりこいつは別人なのではないか?
こんな蕩けきった幸せそうな表情のテルミなど、誰も見たことがないだろう。
感涙の痕跡、口からも多量の唾液の痕跡。だらしなく出されたままの舌。こんなだらしないテルミの顔も、誰も見たことがないだろう。
見ればなんだか両手もおかしい。何故か両手でピースサインを作っている。
何かを隠し持っているのかとその手を元に戻そうとしたが、頑なにピースは崩れなかった。

「…………どうやら先程の攻撃で視覚と嗅覚にもダメージを負ったらしい。そうに違いない。早く拳王達と合流せねば」

そしてテルミの尻が大変なことになっているのを目撃した瞬間、今度こそハクメンは逃げた。
自分に言い聞かせるように、時を斬るのも忘れて必死に走った。
あれは、テルミじゃない。
よく警戒してみれば周囲にテルミの気配を感じなくなっているが、きっと他の『凶』の気配に埋もれているのだ。
偉いことだ。これは早く新たな『凶』を狩らねば。
だからひとまず、あれだけ意気込んだけどテルミを滅するのは後だ。
そういうことにしよう。
これ以上やる事なす事全部裏目に出るのは御免被る。
沖縄の『凶』を滅する。これだけは成し遂げなくてはならない。
ハクメンはひたすらに駆け続けた。

二日目・15時30分/東京・???】
【ハクメン@BLAZBLUE】
【状態】中ダメージ、unlimitedモード 、吐き気及び若干混乱
【装備】斬魔・鳴神
【道具】支給品一式
【思考】基本:『悪』を全て滅する
0:拳王達との合流後、沖縄の『凶』への対抗策を考える
1:主催及び世界に災いをもたらす者を『刈り取る』
2:風鳴翼は滅する
3:東京の『凶』は警戒を続けるが後回し
4:あれはテルミではない……テルミではないんだ……
※unlimitedモードに入りました

※沖縄の『凶』(シャドウ)の気配を察知しました。能力から他の参加者よりも具体的な位置がわかります
※結界でシャドウが動けないことまでは知りません
最終更新:2018年03月05日 18:58