canestro.
in a rainy day
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tfei
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不覚だったよ。
傘を忘れたわけじゃないんだ。今日の予報では雨は降らないはずだったけど、それでも私は常日頃から折り畳み傘を持つようにしてたからね。だから問題は傘のあるなしなんかじゃなくて、しばらく使ってなかったその傘が、知らず知らずのうちに使い物にならなくなってたってことなんだ。
結果的には同じことだよね。はっきり言えば、今の私には傘がないワケで。
身体が濡れるのは別にいい。制服だって乾かせばいいしね。ひょっとしたら明日までには乾かないかもしれないけど、その時は久々にカッターシャツを着ていくよ。
荷物はあきらめた。どうせあと半年しか使わないテキストばっかりだからね。一応乾かしはするけど、きっちり元通りにはならないよ。それでもいいや。
傘を忘れたわけじゃないんだ。今日の予報では雨は降らないはずだったけど、それでも私は常日頃から折り畳み傘を持つようにしてたからね。だから問題は傘のあるなしなんかじゃなくて、しばらく使ってなかったその傘が、知らず知らずのうちに使い物にならなくなってたってことなんだ。
結果的には同じことだよね。はっきり言えば、今の私には傘がないワケで。
身体が濡れるのは別にいい。制服だって乾かせばいいしね。ひょっとしたら明日までには乾かないかもしれないけど、その時は久々にカッターシャツを着ていくよ。
荷物はあきらめた。どうせあと半年しか使わないテキストばっかりだからね。一応乾かしはするけど、きっちり元通りにはならないよ。それでもいいや。
じゃあ問題なんて何もない、はずだったんだ。
猫を拾ったんだ。
黒猫。まだちっちゃくて、なんとなく、ただの親猫とは雰囲気が違う。こりゃ仔猫だよ。
黒猫が前を横切ると不幸になるなんて迷信は、私は信じないね。私が現実主義者[リアリスト]だからだけじゃないし、イギリスじゃ黒猫が前を横切ると幸福が訪れる、っていう話を知っていたからでもない。理由は簡単、猫に対してあまりに失礼と思わない?何なら猫の立場に立って考えてみればいいよ。
私は15歳にして、猫と遊んだことがないんだ。犬なら3歳か4歳くらいの頃に遊んだことがあるけどさ。偶然かもしれないけど、私は今日、初めて猫に触った。
たとえ黒猫でも、漫画か何かで読んだような気持ち悪いイメージよりも先に、“可愛い”と感じたのは、黒猫が不吉っていう話が単なる思い込みで、要は気の持ちようだって気付いたからだと思う。
黒猫。まだちっちゃくて、なんとなく、ただの親猫とは雰囲気が違う。こりゃ仔猫だよ。
黒猫が前を横切ると不幸になるなんて迷信は、私は信じないね。私が現実主義者[リアリスト]だからだけじゃないし、イギリスじゃ黒猫が前を横切ると幸福が訪れる、っていう話を知っていたからでもない。理由は簡単、猫に対してあまりに失礼と思わない?何なら猫の立場に立って考えてみればいいよ。
私は15歳にして、猫と遊んだことがないんだ。犬なら3歳か4歳くらいの頃に遊んだことがあるけどさ。偶然かもしれないけど、私は今日、初めて猫に触った。
たとえ黒猫でも、漫画か何かで読んだような気持ち悪いイメージよりも先に、“可愛い”と感じたのは、黒猫が不吉っていう話が単なる思い込みで、要は気の持ちようだって気付いたからだと思う。
相変わらず雨は降り続いてた。私がこの猫を拾った時だって、雨は降っていたけれど。
段ボール箱に入れられていたわけじゃなかったよ。でも首輪は着けてるし。本当は人間なんかに懐かないはずのこの猫が、見ず知らずの私の胸に飛び込んできた時に思ったね。この猫は見捨てらんないよ。胸がないなんて言わないでよね。
ただの住宅街の片隅なのに、なんでこの猫は行き場ひとつ見出せないんだろう。単に猫がバカなのか、人間が家なんか建てちゃったから?どっちにしろこの仔猫は見捨てられないね。決して私はお人よしじゃないけど、ここで仔猫を棄てられるような女じゃないよ。
そりゃあ、ここで仔猫を逃がしたって、この仔猫はたぶん死なないだろうさ。この雨だってただの夕立なんだから。きっと今までだってそうしてきたはずだし、そうじゃなきゃ、この仔猫は独りでここまで生き延びられてないね。
でもこの仔猫は棄てられない。なんで棄てられないかなんてどうだっていいよ。
でもこの仔猫は棄てられない。なんで棄てられないかなんてどうだっていいよ。
私は、携帯を持ってなかったんだ。持つ癖があるかないかじゃなくて、単純に携帯を持ってないんだ。行動範囲が半径3キロメートル以内に収まる生活で、なんで携帯電話が必要になると思う?クラスメートたちが携帯電話を持つ理由が未だに分からないね。
それともコンビニの、今時は少なくなった公衆電話からかければ良かったかな。でも誰に?
お父さんなら間違いなく迎えに来てくれるけど、でも猫まで連れて帰れる保証はないよ。それは厭[いや]だ。
お父さんなら間違いなく迎えに来てくれるけど、でも猫まで連れて帰れる保証はないよ。それは厭[いや]だ。
仕方ない。近くのコンビニで傘を買おう。私自身じゃなくて、この猫のためにね。
コンビニの中だけはまさに異空間。雨風[あめかぜ]を避けられたし、天候に関係なくアルバイトは働いてた、いつだって店内にはチャラチャラしたBGMが流れ続けてる。まるでコンビニだけが“夕立”って言葉を知らなかったみたいだ。ひょっとしたら、私が今日その言葉を教えてしまったのかもしれない。
店員さんが私のことを迷惑そうな目で見てた。困るのは分かるんだけど、それならこの仔猫はどうすればいいんだろう。出来ればそれも、一緒に教えてほしかった。
いい時代になったかどうかは分からないけれど、今に限って言えば、500円で傘が買える日本に生まれたことに感謝しなきゃいけないと思う。私はずぶ濡れだったのに傘を差した。どんなにおかしいかなんて考えたくない。
右腕にはボストンバック、手には傘。左腕には黒猫を抱えた、小学生みたいな中学生。それが私で、その他はない。雨の日の奇妙なオブジェってだけだった。
結局私は、また今までと同じように独り宛てもなく彷徨[さまよ]い歩くしかなかった。行き場がないのは猫だけじゃないんだ。それは私自身も同じことで、私はこんな状況になって初めて自分が孤独だってことを――そして知らなければ幸せでいられたってことを、知った。
私は手近な公園に逃げ込んだ。一軒家が3軒か4軒は建てられそうなくらい大きな公園だったけど、この大雨の中で遊んでる物好きな子供なんていやしない。
4つあるベンチの上には屋根があった。しばらくは息を抜いて休めるだろうね。でもいつか、私はこの雨に打たれながら帰ることになるんだよ。雨はやみそうにない。それは向こうの、真っ黒で薄気味悪い空を見れば分かったんだ。
「あんたはさぁ」何となく、私は問いかけた。「どこから来たの?」
仔猫は、にゃあ、と一言答えた。一体どこから来たと言ったんだろう。
「どこに帰ればいいのかな、私は」
そんな答えを猫が知ってるはずない。仔猫はぷいっとそっぽを向いてしまった。
私は仔猫から手を離した。でも猫はこの雨の中へ走り出していくこともなく、ベンチの上に寝っ転がる私の上に居場所を見つけ、くるっと丸くなってた。
温かくない。お互い様かな。仔猫はふかふかの毛ににたっぷりと雨水を含んでたから、出来れば私にはまとわりつかないで欲しかったんだけど、きっと頼んだって聞いてくれないよ。
孤独な者どうしが集まったって、それはあくまでも孤独だって――私はまた知らなくても良かったことを知ってしまったんだ。
仔猫は、にゃあ、と一言答えた。一体どこから来たと言ったんだろう。
「どこに帰ればいいのかな、私は」
そんな答えを猫が知ってるはずない。仔猫はぷいっとそっぽを向いてしまった。
私は仔猫から手を離した。でも猫はこの雨の中へ走り出していくこともなく、ベンチの上に寝っ転がる私の上に居場所を見つけ、くるっと丸くなってた。
温かくない。お互い様かな。仔猫はふかふかの毛ににたっぷりと雨水を含んでたから、出来れば私にはまとわりつかないで欲しかったんだけど、きっと頼んだって聞いてくれないよ。
孤独な者どうしが集まったって、それはあくまでも孤独だって――私はまた知らなくても良かったことを知ってしまったんだ。
雨は止まない。もういいや、帰ろう。どっちにしたって、ずぶ濡れになって帰ることには変わりないんだ。猫なんて知らない。
そう思った瞬間、仔猫は私のお腹の上から飛び降りた。仔猫はひと目だけ私を見てから、私がまばたきする間に、草むらの中に去ってしまった。
そう思った瞬間、仔猫は私のお腹の上から飛び降りた。仔猫はひと目だけ私を見てから、私がまばたきする間に、草むらの中に去ってしまった。
あの猫は一体何だったんだろう?私には分からないけど、何かが引っかかるんだよ。あれは本当に猫だったのかな?それとも、猫の形っていうだけで、また何か全然別のモノだったのかな。
知ったことじゃないや。それこそ私には分からないし。
結局、私はずぶ濡れにもかかわらず、傘を片手に自宅に帰り着いた。シャワーはもちろん浴びたけれど、降り続く雨の痕を私の身体から流し去ることは、とうとうできなかった。
より堅い文体で描いた、原型・酷肖
in a rainy dayのあとがき?
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