視覚を失ったものが眠りに落ちたとき、夢を【見る】ことはできるのか?
その答えは【場合による】といえよう。
夢とは脳内で行われる記憶の投影にすぎない。
つまり知らないものを夢に見ることはほぼありえない。
だから生まれついて視力を持たないものは何かを見た記憶がないため、夢の中でも盲目だ。音や匂いは夢で感じるかもしれないが、視界を得ることはない。
つまり後天的に視力を失ったものは夢を見ることはあり得る。手足を失ったものが幻肢痛に苛まれるように、脳の機能が生きていれば視力を失くしても夢を見る機能まで失うことはない。
つまり目暗のサーヴァントと目明のマスターが、互いの記憶を夢に見ることは十分にあり得る、ということだ。
……欠けた夢を、互いに見た。
復讐に生きようとし、最期まで貫くことができなかった愚かな復讐者の末路を見て、それに至る惨劇を聞いた。
『何故、あの男が死刑ではないのですか!四十六室にお目通りを!どうか!』
血を吐くような、命を賭しているのが分かる声が響く。
音だけが聞こえる……いや、感じるのはそれだけじゃない。
怒りだ。
臓腑を焼き尽くすほどの激しい怒りが胸の内で燃え上がる。
知らないけれど、識っている。
この怒りは大切なヒトを奪われたものだ。
断罪を。
悪なるものに正統なる裁きを。
どこまでも真っすぐな主張を男は口にし続けた。
けれどそれは叶わなかった。親友の仇は理を捻じ曲げる力があったから。
『もしも復讐に足る力を私や君が持つとして、それを我々は成すべきだろうか?』
『果たして彼女は……君に対して、復讐を望んでいるだろうか?』
愛する友を殺したことを許すこと、それを勧めるものがいた。
美しいことだ。善なることだ。
目が見えなくても、眩しくて直視しがたいものだ。
―――どの面下げて、こんな言葉を吐いたのか。面の皮の厚みがどれだけあればこんな台詞を口にできるのか。
自らの妻を殺しておいて、それに義憤を燃やす男に向かって、命乞いですらなく説法などと。
『我が妻の良友よ、何故そうも憤る?私の妻……歌匡ならば、私を許すぞ?』
夢だからだろう。視えないはずの男の脳裏に移った景色が投影された。
盲目の男の決して忘れない初めての景色は、悪意と愉悦に満ちた凶悪な微笑み……うず高く積もった腐肉のような厚い皮した醜悪な面相。
そして最期の景色は異能により獲得した視覚によって見えたもの。
『…ありがとう…狛村。檜佐木』
刃を交え、解りあった友の姿が目に映る。
美しいものだ。善なるものだ。
―――恥ずべき堕落、斬り捨てるべきものだ。
光を失くし、友も要らぬ。言の葉と知性ゆえに友を得たならそれも無用。
それ故に盲目の剣士は、復讐に邁進する理性なき獣へと墜ちるを望んだ。
そして獣へと墜ちゆく剣士も夢を見る。
穏やかに生きようとし、その平穏と愛する者の残り香を奪われた鮮烈なる復讐者の引き起こす惨劇を見た。
夢にまで見た世界は争いのない平和な日常。けれど男の過ごした現実はトラブルに満ちた急転直下の日々で。
殺し屋として生き、妻を愛し、妻を亡くした。
マフィアに形見を壊されたからマフィアを滅ぼした。
カモッラに住処を奪われ利用されたから、カモッラを殺した。
多くの敵を作って、そこから自由になるために多くの敵を殺して進んだ愚かな復讐者はついには聖杯戦争に流れ着く。
それが、盲目のサーヴァントが見た夢。
『やはり、世界は醜いな』
『当然の報いだ(Consequence)』
繋がった互いの心でサーヴァントがマスターに言葉を送る。
『私は君の復讐を肯定する』
自らの成せなかったことを成したマスターに、確かな敬意をこめてそう口にした。
『君の行動は殺戮だと咎めるものもいよう。憎しみだけで武器を振るう薄汚れた暴力だと。だが愛する者を奪われておいて、安寧に生きる邪悪に染まらなかった君に私は敬意を表する』
憧憬、それに近いものを抱いているのは嘘ではない。
『……されども、君は殺戮者だ。その罪を私は赦すことはできないだろう』
恨みはない。されど、平和のためなら滅すも已むなし。
そう考えているのもまた事実だ。
『だからこそ、私は君をマスターと呼ぶ。私が決して友情を抱かないだろう人物を、輩とする』
だが、今急いで消さねばならないモノではない。
男はソレに自らの不足を補う担い手を求めた。感情的に、されど無感情に武器を振るう殺し屋は秀でた剣士となろう。
『……言葉を交わした故に友を得て、堕落してしまったかつての私の二の轍を踏まないために。光だけでなく理性と言の葉も私は捨てる。復讐に邁進する剣となる。君が私という剣を振るうのだ。ババヤガー、
ジョン・ウィック。尊敬し嫌悪する、我がマスター』
復讐を成し遂げるべく邁進した善なるものであった。
触れる者の多くを傷つけ殺した悪なるものであった。
己の振るう刃が恐れをもたらすと知る戦士であった。
そうと知りながら暴力を振るい続ける咎人であった。
なればこそ
東仙要は、ジョン・ウィックをマスターと呼ぶことを選んだのだと告げ。
地獄のような戦場へ、微睡む夢から現へと二人で戻った。
◇
「……ぁあ。どこだろうな、ここは。天国か?それとも地獄か?」
ジョン・ウィックは目覚めてすぐに周囲を眺め、そうこぼした。
現在地は……上等なホテルのベッドの上だ。テレビのリモコンや避難経路の案内図などに書かれた文字から日本にいるのだと察しはつく。
遅れて自身の境遇についても認識が改竄されていくのを感じた。
妻を亡くして傷心旅行中のビジネスマン。聖杯戦争(ここ)でのジョナサン・ウィックは堅気らしい。
(ああ、それなら……確かに日本に来るかもな)
窓の外の景色に覚えはあるようなないような。
コンチネンタル・ホテルがある大阪に近い感じがする。関西圏だろうか。
あるいはヤクザの多いとかいう九州の方にも見える気も。
どちらにしろ、フランスのサクレ・クール寺院からは随分と遠くにきた。
(コウジに会いにいくつもりだったのかな、俺は。堅気の身でヤクザと友達なのかは分からないが)
いやアイツも堅気になってるかもしれないか、などと益体もないことを考えつつ。
所持品を漁り、コンディションを確かめる。
(傷は治ってるな。ケインに突かれた手も、撃たれた方も。恰好は…)
キングに卸してもらった防弾スーツにハンドガン。残弾もそれなり。
生憎とホテルの部屋に武器として持ち歩く価値がありそうなものはない。ペンでも電気スタンドでもドライヤーでも人は殺せるが、その程度ならいくらでも替えは効く。
それからスーツのポケットに、この地へのチケットが紛れ込んでいた。
黒い羽。
カラス?エトピリカ?
こんな超常に巻き込んでくれるならまさか悪魔や魔獣の類のものだろうか。
(……なんでこんなものが主席連合の決闘銃と一緒に保管されてたんだろうな)
裏社会を牛耳る組織の集合体である『主席連合』、その伝統である決闘に用いられた武装の付属品で聖杯戦争に招かれた。
陰謀なのか、あるいはこれも裏社会の伝統なのか。
銃の入った箱ごと渡された時は付属の羽は手入れにでも使うのか、単なる飾りかと気にも止めなかったが事ここに至っては無下に放ることもできない。
(となるとケインも来てるのか?いてほしいような、ほしくないような……)
自分と同じように決闘銃を渡された友人はどうしているだろう。
殺し合いに巻き込まれて、頼れる友人が共にいてほしいか、巻き込まれずいてほしいかは少々難題といえる。
(…まあ、少なくとも盲目のオトモダチはいるんだが)
いる。
夢に現れ、語り掛けてきた男。
復讐に生きようとした死神にして悪霊。
ジョン・ウィックが振るうべき刃、アヴェンジャーのサーヴァント。
東仙要は、目覚めた時から侍っていた。
「■■■■■…………」
腰から刀を提げている、それだけならば侍に見えなくもない。
だが顔を覆いつくす純白の仮面と漏れ出るうなり声が、それは人どころか獣に近しいものだと発していた。
復讐のため彼は死神のふりをし、虚へと堕ちた。
そして今度はアヴァンジャーであるためにバーサーカーとしての特徴を獲得している。もう二度と誰とも分かり合うつもりはない。
もはや彼はジョン・ウィックの持つ武器の一つであり、敵に食いつく獣でしかなかった。
「そういうの『問答無用』って日本じゃ言うんだっけ……ま、俺も帰りたいしな。そこまでは付き合うさ、アヴェンジャー」
彼らは復讐者だった。なぜなら愛する人がいたから。
彼らは平穏を愛する心があった。それでも結局は暴力装置だった。
だから彼らは手を取り歩み始める。
暴力を持って戦場を踏破し、愛すべき日常へと回帰するために。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
東仙要@BLEACH
【パラメーター】
筋力B 耐久C+ 敏捷B++ 魔力A 幸運E 宝具A
(狂化による上昇含む)
【属性】
秩序・狂
【クラススキル】
狂化:B
理性と引き換えにパラメーターを上昇させる。
最下級大虚(ギリアン)と同程度の知性、言語能力となっている。
ただしクラススキルであるとともに虚としての種族特性でもあるため、比較的制御が用意である。
復讐者:C
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
忘却補正:D-
時がどれほど流れようとも、彼の憎悪は決して晴れない。
たとえ、憎悪より素晴らしいものを知っていたとしても。
……友や部下との交わりに迎合し堕落したと自らについて感じているためか、ランクの低下が見られる。
自己回復(魔力):A
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
魔力が毎ターン回復する。虚の体質である超速再生が影響し、高ランクの回復量を誇る。マスターからの魔力が少なくとも影響は少ない。
【保有スキル】
死神:-(A)
広義における死神ではなく、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の守護を請け負う存在の名称。
悪霊及びそれに準ずる存在に対する攻撃判定にプラス補正を受ける。
一部隊を率いる長にまでなった彼は最高ランクで持ち得てもおかしくはないのだが、アヴェンジャーの場合、自らの行いで死神の座を降りているためこのスキルは失われている。
歪曲:A
本来呼び出したクラスが強制的に歪められ、別のクラスの特性を付加された証。
引き換えに、元のクラススキルのいずれかが低下している。
アヴェンジャーの忘却補正が低下しているのはこのスキルの影響も大いにある。
万能の願望機『崩玉』によって後天的に魂魄を改造された影響で獲得できたスキル。
虚:A+
尸魂界に行くことの出来なかった霊が何かを喪失した悪霊の成れの果て。
胸に穴が開き、その穴を埋めるために他者の魂を食らおうとする怪物である。
アヴェンジャーは虚に対処する死神だったのだが、復讐の力を得るために魂魄を改造されて虚へと転じた。
人為的に死神から虚へとなったものの中では希少な帰刃(レスレクシオン)という技法を身に着けた最上位の虚、あるいは破面である。
同ランクの頑健、変転の魔を内包し、魂食いによる恩恵が通常のサーヴァントより大きい。なお霊、魔性などの特性を獲得しており、それが強みにも弱みにもなり得る。
鬼道:D(A)
死神が自らの霊力と霊圧を用いて行使する術。
相手を直接攻撃する『破道』と防御・束縛・伝達などを行う『縛道』の二種類が存在する。
前述のとおり秀でた死神だったアヴェンジャーは高位でこのスキルを保持できるのだが、狂化の影響で詠唱破棄しての使用しかできない。故に低ランクとなっている。
心眼(偽):B-
直感・第六感による危険回避。視力を持たないアヴェンジャーのそれはまさしく心の眼で見る技法である。
視覚妨害への補正も内包するスキルであり、視覚を持たないアヴェンジャーにはその手の妨害は無意味といえる。
ただし盲目の状態で幾百年経験を積んできたため、宝具により視覚を取り戻すと視覚情報の処理を無意識に行ってしまうためマイナス補正がかかる。
【宝具】
『浅打(あさうち)』
ランク:E 種別:対霊宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:5
王族特務の零番隊、二枚屋王悦が死神となる者の魂を元に鍛え上げた刀。
全ての死神が持つ斬魄刀の原型。
これと寝食を共にし、己が霊力を込めることで各人の斬魄刀固有の能力を獲得、真名解放に至る。
虚を切り、浄化する刀であるため死霊特攻の概念を持つ。
アヴェンジャーの持つ浅打は人から継承したものであり、浅打そのものが王悦から譲られることを前提とした宝具である。そのためアヴェンジャーの消滅時に手にしている者がいれば浅打を継承することができる。
『鈴虫(すずむし)』
ランク:C 種別:対霊宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:10
斬魄刀の真名解放、その第一段階で始解と呼ばれる状態。
宝具、『浅打』は姿を変え、鍔に輪の付いた日本刀になる。
特殊な音を放ち敵を昏倒させるほか、大量の刃を放つ紅飛蝗という技も持つ。他者から継承した斬魄刀である故の二面性だろうか。
宝具の解放には真名の詠唱が必要だが、後述する卍解の習得者は解号を唱えなくとも始解ができるため常時発動型の宝具に近しい。
そのため狂化により言語を失っても発動可能である。
『鈴虫終式・閻魔蟋蟀(すずむしついしき・えんまこおろぎ)』
ランク:A 種別:対霊宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100
斬魄刀の真名解放、その第二段階で卍解と呼ばれる状態。
一定範囲を変形した斬魄刀でドーム状に覆い、範囲内の者の視覚、聴覚、嗅覚、霊圧知覚を奪う。サーヴァント化したことで霊圧知覚の定義域は広がり魔力、呪力、気などの力を感知する能力全般を対象とし無力化する。残るのは味覚と触覚のみ。
範囲内で鈴虫本体の柄を握るもののみが剥奪を免れる。
発動には真名の解放が必須であるため、狂化により言語を失ったアヴェンジャーは解号を唱えられずこの宝具を発動できない。
『狂枷蟋蟀(グリジャル・グリージョ)』
ランク:A 種別:対神宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
解号は”鈴虫百式”。死神を殺す、ゆえの対神宝具。
体を変形・変質させて虚へとより近づいた形態へと転ずる。
黒い体毛、羽、尾、角、新たな腕を生やした蠅のような外観で、視覚も獲得する。
鋼皮(イエロ)、響転(ソニード)といった虚の特徴を引き出しやすくなり、耐久と敏捷が1ランク向上するが、スキル:心眼(偽)のランクは1ランク低下する。
【weapon】
宝具『浅打』およびその解放
【人物背景】
一度は死神になりながら、復讐のために護廷十三隊を離反した男。
正義と平和を何より愛し、それゆえに悪を許すことができない二重の意味で盲目的な存在だった。
それでも最期に彼はきっと“星”を視た……そして今、そこから彼は目を逸らす。
【サーヴァントの願い】
藍染惣右介の望んだ、正しき世界を。そしてその世界にいてはならない魂に滅びを。
……なお、もしも彼が復讐の対象を前にしたならば、地獄に落とすどころか魂の滅却までも望むかもしれない。
【マスター】
ジョン・ウィック@ジョン・ウィック:コンセクエンス
【参加方法】
主席連合の決闘で用いた決闘銃に黒い羽が仕込まれていた。
【マスターとしての願い】
妻や友も含めて、失くしてしまった平穏で自由な生を取り戻す。
【weapon】
決闘に向かうジョンに仲間が持たせたハンドガン。
装填弾数28発、分解して近接武器としての使用も可。
外観は結婚式にも葬式にも出られる、男の一張羅に相応しいダークカラーのテーラースーツ。
ハンドガン程度なら何発食らっても大丈夫な優れもの。
【能力・技能】
秀でた暗殺者。言語、武術、銃器、運転技術、潜入術、脱出術など。
作中では拳銃や散弾銃などの銃器はもちろん、ナイフや斧、ヌンチャクなども用いた。
鉛筆一本で男を3人殺したとも噂され、武器は選ばないと言える。
【令呪】
左前腕部。
背中のタトゥーと同じ、『祈るように十字架を握る両腕』。
右腕で一画、左腕で二画、十字架で三画。
【人物背景】
ソビエトの生まれで旧名はジャルダニ・ジョヴォノヴィッチ。アメリカに移籍後はジョナサン・ウィック。
犯罪組織『ルスカ・ロマ』で殺しの技術を学び、暗殺者の互助組織『コンチネンタル・ホテル』に所属後、ロシアンマフィア『タラソフファミリー』の暗殺者として活躍。
ババヤガー、ブギーマンなどの異名を持つ裏社会で恐れられる暗殺者となる。
一人の女性を愛して妻に迎え裏社会を一度は抜け出す。しかし、その妻は逝去、彼女が遺した愛犬の命と自身の愛車をかつて仕えた『タラソフファミリー』に奪われ激昂。ファミリーを壊滅させて望まず裏社会に戻ることになる。
復讐の過程で懸けられた賞金目当ての殺し屋を退け、再び裏社会から抜け出すために組織との取り引きや駆け引きを繰り返し、友の屍も超える凄絶な戦いと殺戮の果てに自由を手に……サクレ・クール寺院での決闘の果てに、彼は聖杯に導かれた。
最終更新:2023年11月04日 22:23