誰がそれをやったのか6
誰がそれをやったのか6
上白沢慧音を選んだ場合2
「…それでも、私は真実を知りたいのです。」
決意を込めて先生に言う。私の言葉を聞いた先生は、涙でぐずぐずに濡れた顔を上げて言った。
「どんなことがあっても、それでも知りたいのか。」
「ええ、知りたいです。何もわからないのは嫌ですから。」
「分かった。」
そして先生は言った。
「実行犯は**、**…だ。」
村の中でブラブラとしていて、鼻つまみ者と噂されている名前が数個上がる。
「そいつらの評判は分かっているようだな。」
私の顔を見て先生は理解したようである。
「正直に言うとそいつらはあまり賢くない。いやむしろ馬鹿と言うべきかもしれない。
しかしそれでも、いや馬鹿だからこそ、あくまでもそいつらは大それたことはしない。
せいぜいが村の中で収まるような、その程度のことだ。」
少し先生の言葉が止まった。考え込むように、そして勢いをつけるように。
「そんな奴らが果たして、お前の家に火をつけるだろうか?放火は殺しや強盗と同じ重罪だ。
とてもあいつらではそんなことはできない。いやそれ以前に度胸がないと言うべきか…。
つまりこの事件には黒幕がいるんだ。」
「一体誰なんですか?その黒幕は!」
思わず先生に詰め寄ってしまう。
「私の一生を台無しにした、そいつは一体誰なんですか!」
「…霧雨、
魔理沙だ。」
先生はそう言った。しかし、何度も彼女に会ったことのある私としては、
そのようなことは信じられなかった。
あの明るい笑顔を見せる彼女がそんなことをするなんて、何かの間違いにしか思えなかった。
「嘘だ!何かの間違いじゃないですか?!」
反射的に先生に反論してしまう。
「お前は何も知らない…。あの女の何も知らないんだ。」
いつも穏やかな先生が、敵を睨みつけるような目で私を睨み付ける。
「よく思い出すんだ。あの女が何をしているかを。」
「何って…。ただの魔女ごっこじゃないんですか。親元から飛び出して、魔法の森で一人暮らしをしてるっていう。」
「そうだ、表向きはな…。だけれど、あいつはしょっちゅう家に帰ってるし、しかもそれほど親子仲は悪くないんだ。」
「そりゃ結構なことじゃないんですか。」
「…彼女の本当の仕事は、裏の番頭なんだ。」
裏の番頭などと言う、外界にいた時は中学校にでもいるような、
裏番長のようなそんな名前を聞き滑稽さが滲み出てくる。
「分かっていないな。ああ、それは仕方ないことなんだが。○○、お前はあまりにも霧雨を軽く見すぎている。
霧雨はこの里の大部分を握っている。主に流通という面でなのだが。
親父の方が遣り手というのもあるが、それを裏で支えているのは
魔理沙の方だ。
親父の方が表に出て行き商売をしていれば、娘の方は裏でトラブルを解決していく。
並み居る妖怪や異変を解決し、人外にも睨みを利かせることができる
魔理沙にかなう人物など、人里ではほぼいないだろう。」
息を整えた先生が手櫛で髪を直す。
「そして、ついに霧雨は米を握ろうとしている。お前たちが預けられなかった米倉、
霧雨はついにそこに入ってきた。そして見せしめのためにお前たちは潰された。
霧雨の元に降らないとどのような目にあうかと、そう脅しをかけるためにな。」
なんてことだ。先生に言われるまでは全く気付かなかった。
彼女にそんな裏があったなんて、私は想像もしていなかった。
「それだけじゃないんだ。」
先生は続ける。
「そして霧雨魔理沙はしたたかなんだ。あいつは裏の仕事は自分では証拠を残さないようにして、
実際の犯行は他の奴にやらせている。金で縛ったり、魔法で縛ったり、契約で縛ったり、
いろいろやり方はあるが、あの女は手持ちを持っている。」
恐らくそれは、金だけではなく人という意味もあるのだろう。
「そして今度もあの女は、直前にあいつらと会っていたんだ。
おそらく魔女の秘薬であいつらの意識を朦朧とさせたのだろう。
そして自分の店にある油を持ち出して暗示をかければ、見事鉄砲玉の出来上がりというわけだ。
だから私はお前の歴史を食べたんだ。これ以上霧雨に目をつけられないためにも。
お前の仲間はおそらく駄目だろう。こうなった以上、徹底的に向こうは
やってくるだろう。だからこそ…だからこそお前だけは守りたいんだ。」
先生が私の肩を掴み押し倒す。水の粒が上から落ちてきた。
「さあ、お前の歴史を食べよう。何も考えず、何もわからず、ただひたすらに私に溺れてくれ。ただの肉欲でいい。
最早私にはそれしかできないんだ。済まない、○○…。」
感想
最終更新:2019年01月23日 22:54