レジュメ「海の底」
by ~



1. 作者紹介

  • 有川浩
 高知県出身の女性作家。故郷を語らせるとうるさいプチ・ナショナリスト。2003年、「塩の街」で第10回電撃ゲーム小説大賞を受賞。「ライトノベル作家」を自称している。初期の作品はSF・ミリタリー要素が強い。その作風は「べた甘」とも称される。好き嫌いは人によってかなり分かれる。一般文芸の部門にも進出しており、「植物図鑑」で2010年度本屋大賞8位にランクインした。

2. 登場人物

  • 潜水艦サイド
    • 夏木大和  主人公。直情径行型。
    • 冬原春臣  夏木の相方。皮肉屋。本編では語られていないが、彼女持ち。
    • 川邊艦長  夏木・冬原の上官。レガリスに食われる。
    • 森尾望   ヒロイン。両親を事故で亡くしている。
    • 森尾翔   望の弟。心因性の失語症。
    • 遠藤圭介  嫌なガキ。望に歪んだ感情を抱いている。
    • 高津雅之  圭介の取り巻き。

  • 陸上サイド
    • 明石亨   神奈川県警の警部。不謹慎だが優秀。
    • 烏丸俊哉  警視庁のエリート。実力と自信が伴っている人。
    • 芹沢斉   海洋生物学者。レガリスおたく。

3. ストーリー

一日目、午前。

  • 潜水艦サイド
 巨大なザリガニが春の桜祭りで賑わう横須賀を襲撃。夏木らは艦長と共に逃げ遅れた子どもたちを助けるが、途中で川邊艦長が死亡してしまう。総監部に状況を報告したものの、責任問題を恐れた総監部は情報を秘匿。これに対して、二人は子どもたちを通じて情報をマスコミにリークする。

  • 陸上サイド
 レガリスの襲来に対して、ネットで情報を収集していた明石警部は独断で神奈川県警機動隊に出動を要請。横須賀に展開した県警機動隊は逃げ遅れた市民の避難誘導と救出に当たる。

一日目、午後。

  • 潜水艦サイド
 初めての食事。圭介が食事に文句をつけて糞ガキぶりを見せつける。さらに翔と喧嘩を起こす。この時、翔の失語症が発覚。

  • 陸上サイド
 有効な装備を持たない状況で県警機動隊は市民を救うために横須賀を駆け回る。管区機動隊や警視庁の増援も到着。レガリスの内陸進出を防ぐべく、ゴジラ以来の伝統である電磁柵を利用した防衛線も構築される。レガリスとの白兵戦は熾烈さを増すなかで、初めて重傷者が出る。
 幕僚団の一員として登場した烏丸が米軍による横須賀爆撃の情報を明石にリーク。明石は米軍の動向を探るために地元のミリオタ集団に協力を要請。

二日目。

  • 潜水艦サイド
 圭介の蔭口によって森尾姉弟の両親が事故死している事が判明。夏木と圭介の関係が決定的に悪化。一方で、圭介の取り巻きであった吉田茂久がやや夏木寄りになる。

  • 陸上サイド
 深海生物学者の芹沢が登場(残念ながらオキシジェン・デストロイヤー的なものは持っていない)。明石と烏丸のアドバイザーとなる。自衛隊は出動したものの武器使用を禁じられる。有効な対策を打ち出せない警察は電磁柵の設置や狙撃による各個撃破、餌の供給などで現状をしのぐ。

三日目。

  • 潜水艦サイド
 海自による「きりしお」救出が失敗し、艦内の雰囲気が沈む。そんな中で、弟を揶揄されたことから望が圭介と正面から対立。夏木との交流によって圭介との関係に疑問を持った茂久も圭介と決別する。
 夏木らとの対立によって孤立した圭介グループは民放に接触。独占取材と引換えに救助を要求する。

  • 陸上サイド
 芹沢の研究により巨大甲殻類が巨大化した「サガミ・レガリス」であることが判明。レガリスの学習能力によって、頼みの綱だった毒殺作戦も失敗し、いよいよ打つ手がなくなる。ミリオタ情報によれば、米軍の爆撃も近い。

四日目。

  • 潜水艦サイド
 圭介の密告により、夏木の行動が虐待事件として報道される。ミリオタ木下玲一により、子どもたちの歪んだ関係の原因が明らかにされる。

  • 陸上サイド
 警察、最後の警備活動。第一次防衛戦は崩壊し、機動隊はレガリスとの肉弾戦の後、自衛隊の構築した第二防衛戦まで撤退。機動隊の敗退により、自衛隊の出動が決定する。

五日目。

  • 潜水艦サイド
 圭介が翔を監禁し、混乱に乗じて脱出を図る。共謀したテレビ局のチャーター機に救出してもらおうとするが失敗。危うくレガリスに襲われるところだったが、夏木に救われる。
 圭介は過去を回想。自分の行動や望に対する感情を母親によってコントロールされていた事に気付き、精神的に母離れする。

  • 陸上サイド
 自衛隊に対して出動命令が下され、レガリス掃討のための準備が始まる。

最終日。――そして、

  • 陸上サイド
 自衛隊によるレガリス掃討戦。機動隊にとっては強敵だったレガリスも自衛隊の圧倒的な火力の前には為す術もなく、ただ駆除されていく。一方、大損害を出した警察機動隊はその光景をTVで見て、憤りつつも諦観を以て現状を受け入れる。

  • 潜水艦サイド
陸上におけるレガリス掃討作戦の後、「きりしお」に避難した子どもたちの救助が始まる。
救出後、艦内で自分を見つめ直した圭介は自分なりのけじめをつける。
 事件が終息した後、圭介は親元を離れて大学に進学。望との関係も修復する。そして、望は防衛省に入省し、夏木と再会を果たすのだった。

番外編 海の底・前夜祭

 武装集団による「きりしお」襲撃。すわ、テロかクーデターか。パニックに陥る艦内だが、実はこれ、隊員有志による対ゲリラ訓練だった。首謀者であった夏木と冬原は川邊艦長に大目玉をくらい、罰として腕立てを命ぜられる。そして、「海の底」冒頭へ――

4. ガジェットなど

  • レガリス
 横須賀を襲撃した体長1~3メートルの巨大な甲殻類。ちびっこエビラ。
 その実態は、富栄養状態で巨大化した深海生物「サガミ・レガリス」。
 学習能力が高い。真社会性を持ち、蜂や蟻のように女王を頂点とした群れを形成する。深海生物ではないが、実際に真社会性を持つエビがカリブ海で発見されたそうだ。

  • 機動隊
 神奈川県警に常設されている機動隊(序盤に出動していた部隊)の人数はおよそ500名。防弾盾や警棒、ガス弾などを装備していて人間相手にはほぼ無敵(ただ、作中では・・・)。
 現実世界における警察の最強組織であるため、フィクションではしばしば噛ませ犬的な役割を担うことが多い。弱点はデモ隊の投石と某国の武装工作員(RPG7には要注意)。

  • おやしお型潜水艦「きりしお」
 海上自衛隊が保有する潜水艦。乗員は70名。「きりしお」はおやしお型の11番艦という設定の架空艦。実際のおやしお型11番艦は「もちしお」。

  • 自衛隊の怪獣対策
防衛庁時代、自衛隊では怪獣が出現した場合を想定したシミュレーションが行われた。そのシミュレーションによれば、ゴジラのような怪獣であっても「有害鳥獣駆除」を名目にして武器の使用も可能との事。怪獣退治は防衛出動ではなく災害出動扱いになる。また、異星人の侵略に関してはこれから検討していくらしい。

5. 感想

 圧倒的に不利な条件での防衛戦が大好きなので、とても楽しく読む事が出来ました。とりあえず、自衛隊を早く出せと言いたい。あと、機動隊が格好よく描かれていて個人的には大満足です。
 夏木と望の関係なんておまけです。「海の底」は巨大甲殻類襲撃という未曽有の大災害に立ち向かう男たちの苦闘を描いた警察小説だと思うのですが、そこのところどう思いますか?

6. 作品リスト‐有川浩

 「塩の街」‐デビュー作。自衛隊三部作の陸自編。実質、空自のような。文明崩壊もの。
 「空の中」‐自衛隊三部作の二作目。空自編。今度は空飛ぶ怪獣だ。
 「海の底」‐自衛隊三部作の三作目。海自編。問題は機動隊が前面に出ているところ。
 「図書館戦争」シリーズ‐銃を持った司書さんの話。ミリタリーでラブコメ、らしい。
 その他、長編と短編集が多数。
最終更新:2010年06月30日 12:15