東北大学SF研読書会

「図書館戦争」

1、 著者&著作紹介

 有川浩
 1972年生まれ、高知県出身。女性。2003年に『塩の街 wish on my precious』で第10回電撃小説大賞を受賞し、翌年に同作にてデビュー。2作目以降はハードカバーで出版という電撃文庫出身の作家の中でも特異な扱いを受けていたが、2006年に『図書館戦争』でブレイク。久しぶりにライトノベルを突破した作家が出たかと思ったら、直木賞作家桜庭一樹によっていささか存在が食われてしまった。自衛隊好き。

著作紹介

  • 自衛隊3部作
『塩の街 wish on my precious』(電撃文庫、2003年)―陸自編
 2007年に加筆と書き下ろし短編を加えてハードカバー化
『空の中』(メディアワークス、2004年)―空自編
海の底』(メディアワークス、2005年)―海自編
  • 図書館戦争シリーズ
『図書館戦争』(メディアワークス、2006年)
『図書館内乱』(メディアワークス、2006年)
『図書館危機』(メディアワークス、2007年)
『図書館革命』(メディアワークス、2007年)―完結編
『別冊図書館戦争Ⅰ』(メディアワークス、2008年)―後日談シリーズ
  • 非シリーズ物
『Sweet Blue Age』(角川書店、2006年)―青春をテーマにしたアンソロジー
角田光代、坂木司、桜庭一樹、日向蓬、三羽省吾、森見登美彦との共著。
  『クジラの彼』(角川書店、2007年)
  『レインツリーの国』(新潮社、2006年)
  『阪急電車』(幻冬舎、2008年)
  『フリーター、家を買う』(2007年、Web小説、単行本未収録)

2、 登場人物

笠原郁

一等図書士
熱血バカ。二代目熊殺し。末っ子で長女。蝶よ花よと育てる両親と弱肉強食の世界で生きる兄たちに囲まれて育った結果、本好きでかつ体力バカというギャップのありすぎる性格に成長してしまった。高校3年の秋に、良化機関の検閲に巻き込まれた所を救ってくれた王子様の姿に憧れて図書隊、特に防衛隊になることを決意。防衛部に入隊し、訓練の後、精鋭部隊である図書特殊部隊(ライブラリー・タスクフォース)に選抜される。体力は抜群だが、通常業務などの知識は最低クラス。

堂上篤

二等図書正 
怒れるチビ。初代熊殺し。防衛部・図書特殊部隊所属。郁、手塚、小牧を含めた堂上班の班長。業務・戦闘双方に優れた技量を発揮する。やや堅物で、常識や正論を重視する傾向があるが、本質的には郁と同じく「考える前に動く」人であり、普段の言動は過去を踏まえた自制心の賜物。その真面目さが祟って、玄田にいじられることが多い。郁は気付いていないが、堂上こそが彼女の憧れる王子様である。

小牧幹久

二等図書正
笑う正論。防衛部・図書特殊部隊に所属。堂上の同期で彼の補佐を勤める。他人にも自分にも常に正論を向けるが、決して石頭ではなく、むしろ他人の事情などを正確に把握している。

手塚光

一等図書士
頑な少年。防衛部・図書特殊部隊所属。父親は図書館協会で生粋のエリート。郁と同期だが、彼女よりもよっぽど優秀で、彼女が精鋭である図書特殊部隊に彼と共に配属されたことに不満を持っている。

柴崎麻子

一等図書士
情報屋。業務部・武蔵野第一図書館所属。郁のルームメイトで親友。かなりの情報通。

玄田竜介

三等図書監
喧嘩屋中年。防衛部・図書特殊部隊隊長。豪胆や大雑把のように見えるが、実際は周囲の状況や想定される結果を考察した上で、効率の良い作戦を立案している。

稲嶺和市

関東図書基地司令 特等図書監
   武蔵野第一図書館の図書隊のトップ。「日野の悪夢」で妻と右足を失い、車椅子生活をしている。

折口マキ

  出版社「世相社」の記者。堂上の知人。メディア良化法に反対の立場で、図書隊に協力している。

鳥羽 館長代理

  体の調子が悪く薬漬けだった館長が入院し、その後任として来た。図書隊をあまりよく思わない行政派の人間。

木原悠馬&吉川大河

  良化委員会以上の図書の制限を掲げる『子供の健全な成長を考える会』に反対する中学生。中学生とは思えぬ単語を使うのが木原、自分の意見をうまく言えない面倒くさがりが吉原。始めは花火を投げ入れるような単なる嫌がらせだったが、玄田の薫陶を受け、より大人の対抗策を持って彼らに反撃した。

3、 ストーリー

一、 図書館は資料収集の自由を有する。

  訓練から図書特殊部隊配属まで。
ドロップキックと腕ひしぎ。郁の防衛部志望動機。なんだかんだで郁は手塚と一緒に結局防衛部入り。

二、 図書館は資料提供の自由を有する。

    更なる訓練から館長代理の暗躍、ドンパチ、そして手塚の爆弾発言。
特殊部隊訓練と2代目熊殺し。図書業務と所在不明図書の発覚。館長代理の図書隠蔽疑惑。良化部隊の襲撃。辛うじて相手の思惑に気付いた柴崎。ひと段落の後の手塚の告白。

三、図書館は利用者の秘密を守る。

    通り魔殺人の被疑者の閲覧記録の提示を拒否してたたかれる図書館。
     青少年による通り魔殺人。例のごとく、メディア作品に責任転嫁。非公式に警察からの閲覧記録の提示要求と拒否。図書館バッシングと館長代理のアンケート。

四、図書館は全ての不当な検閲に反対する

  『子供の健全な成長を考える会』VS子供たち+図書館。
   都の規制強化政策と『子供たちの健全な成長を考える会』。中学生が『考える会』の会合にテロ。
   中学生、玄田の薫陶を受けて大人のケンカ開始。公開討論会。「異議ありっ!!」。討論会は図書館+子供側の勝利。

五、図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。

  私立図書館からの図書受け取りでの抗争と基地司令拉致。
   『日野の悪夢』の話、そして良化帰還の手先の襲撃。私立図書館『情報歴史資料館』の資料引取り時の攻防と図書館創設者の告別式後の稲嶺司令の拉致。司令の義足に仕込まれた発信機
により居場所発覚。図書隊の流儀により救出。堂上の過去話。

4、メディア化情報

   漫画誌2誌で別々に漫画化。LaLaでは2007年11月号から弓きいろが、月刊コミック電撃王では2008年1月号からふる鳥弥生がそれぞれ連載を開始した。また、2008年4月からアニメが放送中。

5、感想

   選考委員が本屋の店員という本屋大賞で5位に入っただけあって、書店員、ひいては本好きに人気が出そうな内容といえる。図書の出版制限による言論統制と、それに反対する人々と検閲機関との抗争といういかにも読書家が好きそうな構図が本屋大賞5位の鍵なのだろう。それに加えて、あとがきでも書いているようなドラマ風のベタな恋愛も一役買っていて、万人受けする作品になっている。
有川作品でSFが読みたければ自衛隊3部作、図書館戦争のようなベタなラブコメが気に入ったならば図書館戦争シリーズや『クジラの彼』を読んでみたらどうでしょうか。どれもハードカバーなのが難点ですが。
最終更新:2009年03月27日 13:41