東北大学SF研 読書部会
『マグロマル』 筒井康隆
著者紹介
つい最近ツイッターでまた問題発言をし、絶賛炎上中の日本SF御三家の一人。
代表作は『
時をかける少女』、『家族八景』、『日本以外全部沈没』など。
1934年大阪市の生まれ。一説には台風の大水でたらいに乗って流されてきたとも。1952年2月に関西芸術アカデミーに研究生として入学。同年4月、同志社大学文学部心理学科に入学、同志社小劇場に所属した。大学での学業の傍ら俳優活動に精を出し、学生演劇界では有名人であったという。在学中美学美術史学科に転じ、卒業後は展示装飾を手掛ける会社を経て独立、デザインスタジオ「ヌル・スタジオ」を設立。1959年12月に創刊された『SFマガジン』を読み衝撃を受け、1960年6月にボーナスをつぎ込み、父と弟3人の計5人でSF同人誌『NULL』を創刊。一家で同人誌を出している物珍しさが評判となり、たびたびメディアに取り上げられていた。この創刊号が運よく江戸川乱歩の目に留まり、乱歩主宰の雑誌『宝石』に転載される形で雑誌デビューを果たした。
作風は多岐にわたり、初期はナンセンス、ブラックユーモア、スラップスティック、パロディ、風刺などが多いが、次第に実験小説・純文学に挑戦するようになる。基本的に読む人を選ぶものが多いが、ハマると抜け出せなくなる。この人のすごいところは、『時かけ』のような爽やかジュブナイルから、ドギツいエログロナンセンスまで何でもこなすところだと思う。
登場人物と主な種族
サド・クロー(定九郎)
主人公。地球人(旧日本民族)のラビドレ語通訳。
セミパラチンスキイ
サドの同僚のラビドレ語通訳。
アボン・アボン族
牛頭人身で大柄な種族。何を言われても差別されたと受け取り、泣きわめく。
カリ・カピ族
エビ似の水上生活種族。いつもボートに乗っている。目が後ろ向きについていて、大きなハサミをオール代わりにして漕ぐ。
アチャール族
全身をサイボーグ化している。かつてアボン・アボン族の居住地を植民地としていた。
ガドガド族
口が丸い以外は人間と似ているが、20分ごとに食事をしないと死ぬ。オレ、メシクテクル
シェー族
自身の功績を自慢することが何よりの美徳。サユルケオンを排泄するコッピー族を使役し、暴利を得ているとされる。
作中用語紹介
ラビドレ語
星間協定に関する政治的専用語。難しい。
トペン
アヤム・リチャリチャをゴレンすること。
イカンテリ
各重力歩道を仕切る隔壁のこと。重力歩道は種族ごとに重力や空気の組成が調整されており、各イカンテリ間はスピーカーによって互いに通話可能である。
所感
この作品にはSF作品にありがちな用語(カタカナ言葉)が執拗なまでに多用されており、興味を惹く・用語を強く意識させる構造となっているが、作中ではその用語が何を指すのかほとんど明かされることがない上、最終的に展開された物語がすべて無意味なものであったというラストで締めくくられる。全く互いに無理解な異星人たちの会議を通して、地球における国連や国際協調の運動が、ほとんどの場合互いの無理解や、文化の違いを盾にした作為的な誤解などで進展していない現状(発表当時も今も)を皮肉っている。ほとんどの読者は作中の膨大な(無意味な)単語を覚えようとして必死に読むことであろうが、その努力は全て無駄で、初めから筒井の手の上で踊らされていたのである。してやられた、という感じがする。
ちなみに、この小説に出てきた用語の多くは、東南アジアの料理に元ネタがあるらしい。
下村
最終更新:2017年11月10日 01:42