東北大学SF研究会 翻訳部会(2018/10/11)
The Great Silence(邦題:大いなる沈黙)

著者紹介

テッド・チャン(Ted Chiang)
1967年アメリカ合衆国ニューヨーク州ポート・ジェファーソン生まれ。両親は中国系アメリカ人一世だが、本人は英語母語話者であり、中国語の読み書きはほとんど出来ないという。代表作に『バビロンの塔』『あなたの人生の物語』など。
寡作で知られる作家で、30年近い活動期間にも関わらず、発表した作品は15作に過ぎない。そのうえ作品はすべて中・短篇であり、長編はひとつも存在しない。テッド・チャンは「現代SF二巨頭」としてグレッグ・イーガンと並んで最も優れた作家として絶賛されているが、それは数少ない作品のすべてが圧倒的な完成度を誇るためである。(チャンに対する期待の高さは、チャンがある小説に解説文を寄せたというだけで話題になるほど)
全15作のうち、ヒューゴー賞・ネビュラ賞の受賞作は6作(うちダブルクラウン3作)で受賞率が4割を超えており、極めて異常な事態と言わざるを得ない。
今回扱う”The Great Silence”は、15年に発表された現状テッド・チャンの最新作にあたる作品である。(一応"Omphalas”、”Anxiety Is the Dizziness of Freedom”という作品の存在が公表されているが、これらは19年発売の単行本”Exhalation; Stories”にて発表される予定のため、本作が発表済みの最新作となる)


訳者解説

「絶滅寸前のオウム」と「アレシボ天文台」という、地理的に隣接しつつも全く共通点の見えない題材から、チャンは魔法のように鮮やかな筆致で、思いもよらない共通点を描き出してしまう。大変短い作品だが、チャンの醍醐味を味わうことの出来る傑作であると言える。
自らの滅亡を悟ったものが、科学的根拠と結びつけてそれを示唆する、という展開は某名作に共通するが、悟りと示唆のプロセスに焦点をあてた当該作とは異なり、本作ではその伝達のプロセスに焦点があてられる。
「ヨウムのアレックス」「オウムのコンタクトコール」「アレシボメッセージ」という科学的根拠から、チャンは「いい子でね。愛してる。」という言葉を導き出す。表では人間への諦観と慈愛を、裏では「静かにしないと、こうなるからね」という諫言を表した言葉だ。(訳者としては本来はばかるべき言動ではあるのだが、この一言こそ、SF史上最高のメッセージだと思う。)
作中で語り手のオウムは人間の想像力を讃えていたが、真に讃えられるべきは、我々のような凡百のそれではなく、チャン自身のそれであるべきだ。
最終更新:2018年10月11日 18:04