『ガニメデの優しい巨人』(ジェイムズ・P・ホーガン著 池央耿訳 創元SF文庫 

1981年初版 原題:The Gentle Giants of Ganymede ,1978 ) 

05/06/10担当:¿?

1.著者&代表作について

省略

2.あらすじ


主人公ヴィクター・ハント博士とクリスチャン・ダンチェッカー教授が、木星の衛星ガニメデで、前作『星を継ぐもの』で残された謎、すなわち

  • ミネルヴァ原産の陸生動物はなぜ絶滅したのか

  • (これ自体仮定の上での謎ではありますが)ガニメアンはなぜ地球の漸新世の動植物をミネルヴァに運ぼうとしていたのか

  • この漸新世の動物は現在の地球動物の直系の先祖でありながら、なぜ現在の動物が持っていないある特殊な酵素を持っていたのか(この酵素はルナリアンであるチャーリーは持っていて、地球人は持っていない)

  • ガニメアンはどこへ行ってしまったのか(絶滅or移住)

等々について取り組んでいる時、宇宙船―シャピアロン号に乗った生きているガニメアンがガニメデに飛来した。彼らは2500万年前にミネルヴァを飛び立ち、相対論的時差のため、船内時間で20年、太陽系時間で2500万年(どちらも地球基準)の時をかけて現代に戻ってきたのだ。で、地球人との記念すべき(且つおそらくSF史上最も平和的な)ファースト・コンタクトを果たす。土星に行ったりいたずらしたり、謎の解明に一役買ったり地球に行ったり、研究したりTVを見たりと、いろいろやって彼らはあるかどうかもわからない“巨人の星”を目指して、再び宇宙へ飛び立つ。(この無謀とも言える決断を下したガニメアンの心情を慮って、ハント博士とダンチェッカー教授は畏敬の念と深い哀愁を抱くわけです)が、一応ジャイスターに向けてその旨を発信してみたところ、なんとたったの数時間で応答があったのだ!それも、先祖に当たるシャピアロン号のガニメアン達の帰還を歓迎する内容のもの。惜しいかな、シャピアロン号に知らせるには時既に遅く、地球人は無念の思いに駆られる・・・わけだが、もちろんこれは次回作への伏線であり、ここで終わられると読者としては非常に気になるわけであり、なるほどうまいなぁと思うわけである。

あらすじじゃないですか。すみません。



3. キャスト


Side地球人


  • ヴィクター・ハント       
原子物理学者…というよりは研究成果のまとめ役。なんというか要領がいい。が、今回はダンチェッカーにおいしいところはもっていかれた感が否めない。(まあ酵素とか遺伝子操作とか、専門的過ぎたんでしょうがないということにしておきます)たらし。

  • クリスチャン・ダンチェッカー  
生物学者。今作のホームズ君。結構感傷的。       

  • グレッグ・コールドウェル    
国連宇宙軍本部長。(人間観察が趣味と実益を兼ねていると思われます)

ハント達の上司。(彼は次回作で活躍します)

  • ゴードン・ストレル
J5の副官で正真正銘ガニメアンとのファースト・コンタクトを果たした人物。(という以外は特筆すべきことはないです)



Sideガニメアン


  • ガルース
シャピアロン号の船長、リーダー。みんなに信頼されている。(ゾラックも彼には敬語を使います)

  • シローヒン
女流科学者。「慎重に」が口癖(かも)。生物学も物理学も射程範囲(らしい)

  • ゾラック
単にシャピアロン号のコンピュータ、で片付けてしまうのは憚られる程、機能はもちろん人間的側面も多分に充実した人工知能。冗談言うし、いたずらもする。(これってどうなんですか)日本語訳から察するに、“彼”と認識しておく方がよいと思われる。

  • ログダー・ジャシレーン   
シャピアロン号の機関長。パイナップル大好き。



4.こーさつ


(前回のレジュメ担当者が作品の評判等々はやってくれたと了解することにして、作品そのものに的を絞ります。)

今作も謎解き&種明かしがメインです(が、ガニメアンが登場することによって、小難しいなんちゃって理論を抜きにしてもそれなりに面白い内容になっています)。先に述べた謎のほとんどが解明されます。言ってしまえば、ガニメアンの、ガニメアンによる、ガニメアンのための実験のために、地球生物はミネルヴァへ運ばれた。遺伝子暗号を組み換えられ、この組み換えDNAの複製を助けるためにあの酵素―実は人工物だった―が使われた。ガニメアンが姿を消した後、ミネルヴァ原産の陸生生物は地球生物に捕食され絶滅した。この遺伝子操作によって、元来の凶暴性や知性が更なる発達を約束され、地球人の先祖たるルナリアンが生まれた。ということになりますね。こう書くとガニメアンはかなり傲慢で自己中な人種に見えますが、彼らはちゃんと責任を取ります。地球を人類に明け渡し、存在自体が怪しいジャイスターを目指します。泣かせますね。確かにガニメアンは心優しい…というか非常に高潔な種族であると痛感させられます。まあ実験したのはコミュニケーションがぎりぎり取れない類人猿までですしね。(じゃあ言うなという突っ込みはスルーの方向でお願いします。こっちの方がジコチューですかすみません)ところで、本文に「地球人は遺伝子組み換えには及び腰である。」との記述があります。この作品が書かれた当時は、すでに遺伝子組み換えやクローンの可能性が現実味を帯び、バイオエシックスについての議論が始まっていたそうです。ホーガンがその世相を受けてこう記したのかはわかりませんが、科学技術の賛美者である彼が抵抗を示しているのですから、やはり生命の本質に手をつけることにはそれ相応の考慮が必要である、くらいには考えてもよいかもしれません。シャピアロン号のガニメアン達は、地球を去る時にクローン技術をプレゼントしてくれますが、もうジュラシック・パークもロスト・ワールドもばっちりO.K.!な感じですが、真っ先に飛びつきそうなダンチェッカー教授が何もしていないところを見ると、やはりいまひとつ抵抗があったのだと思われます。

今回は人類とガニメアンが出会うに際して、発掘されたガニメアン宇宙船で発見された通信機械と、相対論的時差という小道具を投入していますが(これに突っ込むのは無理なんで誰かやってください)、もう一つ忘れてはならないのが、シャピアロン号が自然減速でメインドライブを切ることができるようになったタイミングと、ハント達が通信機械を(そうとは知らずに)試運転してみようと思ったタイミングが一致したという偶然です。(もっと大きい偶然にまで突っ込むのは野暮です)ハント博士、“偶然の一致”ってあるんですよ。まあ、そこに必然を見出されて「運命だ!」なんて言わたら白けるっちゃ白けますが。(ありえませんけどね)



・・・小ネタ?


  • ガニメアンの寿命は軽く100年を超えると思われます。

  • ガニメアンのみなさん、名前はちゃんと呼ばせてるんですから、「ガニメアン」のままで通さずに、ガニメアン語での言い方教えて下さいよ。

  • 「悪魔の惑星」の地球人をシャピに呼んじゃうってちょっと慎重とは言いかねます。

  • J5には、数百人いるガニメアンの分の食料あったんですね。

  • シャピには食料はなくとも酒はあったんですね。



2018.11.25 Yahoo!ジオシティーズより移行
http://www.geocities.jp/tohoku_sf/dokushokai/ganymede.html
なお、内容は執筆当時を反映し古い情報に基づいていることがあります by ちゃあしう
最終更新:2019年03月26日 00:07